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あなたが松宮園生さんですか?
調査書に「気の弱そうなメタボ男性」って書いてありますが、なるほど、
そんな感じだ。
え? いや、こっちの話です。
気にしないでください。
ま、とにかく、おはようございます。
今日一日、松宮さんの特訓を担当いたしますノエル肝川といいます。
いえいえ、両親ともにベタな日本人です。
本名は肝川紀夫というんですけど、自分で勝手にノエルにしちゃいました。
この顔でノエルです。はっはっは。
自分で言ってりゃ世話ないですね。
よろしくお願いします。
さっそく、特訓を始めますよ。
本日の課題は、ターゲットを絞ることです。
ダーゲットを絞るのは、マーケティングの鉄則、基礎の基礎です。
ではターゲットを決めましょう。
そうですね、誰にしましょうか。
お。
いま横断歩道をこっちに渡ってくる大男が見えますか?
はい、目つきの悪いあの人。
ゴルゴ13を下品にしたような感じの。
あの人を食育してみましょう。
ああいうタイプは、ぜったいに、食生活が乱れていますよ。
肉ばかり食べてる。
野菜とか、全粒粉のパンとか、玄米とか雑穀なんかは食べていません。
いただきます、ごちそうさまも言わないかもしれない。
家族団らん、明るい食卓、とも無縁でしょう。
地産地消に気をつかう、なんてこともなさそうです。
栄養学も、きっと知らないな。
つまり、明らかに食育の対象です。
では、レッツ食育。
行ってきてください。
なに尻ごみしているんですか?
顔が青いですよ。
食育、食育。
怖がっていてはだめです。
同じ人間、話せば分かります。
間違ったことを言うわけではないんですから。
さ、行った行った。
さっさと行けっつーに!
◆◆◆
松宮さん、あんたね、殴られたくらいで逃げてきてどうするんですか。
ちゃんと話をしましたか?
おどおどして声をかけても、聞いてもらえませんよ。
自分の食育には、自信を持たなきゃ。
食育に自信を持つ、これ、食育セールスの鉄則です。
なにをもごもご行ってるんですか、松宮さん?
ああ、歯が折れたわけね。
いいじゃないですか、死ななかったんだから。
労災認定も出るみたいだし。
どすこい、どすこい。
じゃなかった。
どんまい、どんまい。
でもね、食育に自信があるからって、トークのテクニックで食育しようとしてはいけません。
話術とか話法ではないんです。
ハートです、ハート。
心があれば、必ず思いは届きます。
食という漢字は、人を良くするって書くんですよ。
「身土不二」とも言うでしょう?
「医食同源」とも言いますよね?
だから、心です。
食育の心は、石塚左玄。
というわけで松宮さん。
もう一度、同じあの男性にチャレンジしてきてください。
あの人の粗暴な食生活を、松宮さんのハートで改善しましょう。
レッツ食育です。
ほら、姿が見えるうちに早く追いかけないと、行方がわからなくなってしまいますよ。
必要ならノエルのヌンチャク、貸しますから。
さ、行った行った。
さっさと行けっつーに!
◆◆◆
あ、いたいた。
松宮さん、探しましたよ。
こんなところで倒れていたんですか。
情けないですねえ。
ハエがたかっていますよ。
どこか腐敗でもしてるんですか?
服装、ぼろぼろですね。
でもそのほうが、松宮さんの顔には似合ってるかな。
はっはっは。
おやおや、財布もなくなったんですか。
情けないですねえ。
被害総額は500円くらいですか?
え、左の耳が聞こえない?
いいじゃないですか。
労災でますよ。
食育するのに、左の耳はとくに重要じゃありませんし。
それはともかく、あの男性にしっかり食育を語ることができましたか?
言うだけじゃだめです。
納得させないと。
なので、あのゴルゴ13がどこまで食育を理解したか、テストしてみましょう。
マジですかって?
そりゃ、マジですよ。
これが、テスト用紙です。
全部で100問あります。
50問が選択式、50問が記述式です。
1時間半くらいあれば、書ききれるでしょう。
今晩、あの男性を訪問して、テスト受けてもらってください。
大丈夫です。
話せば分かる。問答無用。…ちがうか。
居場所が分からない?
そんな「できない言いわけ」は許しません。
大丈夫です。
あの男性の居場所は、人口衛星を使ってちゃんと突き止めてありますから。
じゃ、夜になるまで休憩しましょう。
ノエル、優しい。
◆◆◆
松宮さん、日も暮れたし、そろそろテスト、やりましょか。
じゃあ、これ持って。
問題用紙と筆記用具です。
それからこれは、さっきの男性が住んでいるところの地図です。
がんばって行ってきてください。
レッツ食育。
大丈夫。
食育の心は必ず通じます。
食料自給率を上げる第1歩。
嫌がってどうするんですか。
だらしない。
食べる前に「いただきます」というのはどういう意味か知っていますか?
「命をいただきます」
という意味なんですよ。
あ、この場面でそれを言ったら、シャレにならないか。
ノエル、失敗。
はっはっは。
ま、とにかく行ってきてください。
あの男性が80点以上とれたら、松宮さんの特訓は修了です。
80点とれなかったらどうするかって?
とれるまで繰り返し、あの男性を食育してもらいます。
さ、行った行った。
さっさと行けっつーに!
★★★
松宮園生です。
「もしもし、ハロー。これは松宮さん?」
「そうですが」
「あたしはジェフリー・ダニエルズ社の
リチャード・フォースバーグといいます」
「ジェフリー・ダニエルズ? 聞いたことがあるような、ないような…」
「はい。外資系の人材紹介会社です」
「へー、外資系ね。で、人材紹介会社が僕に何の用ですか」
「あたしたちの調べでは、松宮さんは偉そうにフリーランスなどとうそぶいておられるけれども、稼ぎが悪くていつも貧乏しているそうね。ですから、あたしの考えではあなたはそろそろサラリーマンに戻ってはどうかしら」
「し、失敬な。大きなお世話です」
「まあ落ち着いて聞いてくださいな。貧乏な松宮さんにぴったりの会社があるんです」
「興味ないですね。僕はもうサラリーマンを辞めたんです」
「そう…。食育関係の会社が、役員を募集してるんですよ。役員給与、弾むって言ってるし」
「えっ?」
「話だけでも聞いてほしかったんだけど。残念ね。ではごきげんよう」
「ちょ、ちょっと待って」
「何?」
「い、いやその。話を聞くだけなら、聞いてみてもいいかなと、思ったので…」
「そう? 感心な心がけね。さっそくと言っては急だけど、明後日の12時に、目黒に来てくださらない? サンマでもご馳走しましょう」
「は?」
「目黒はサンマが名物なのよ」
◆◆◆
「あたしがリチャード・フォースバーグです。はじめまして、松宮貧乏さん」
「はじめまして。でも貧乏は余計だよ。『松宮貧乏』というのが名前だと思われちゃうじゃん。…それにしてもあんた、日本語うまいね」
「あたし、奥さん日本人なんです」
「なるほど。だからときどき女言葉になってるのか」
「しかし意外ね」
「何がですか」
「もう少し、イケメンを想像していたものですから」
「お、大きなお世話です」
「今回ご紹介したいのは、『株式会社 食育』というところなんだけど」
「はあ」
「食育をしている会社なんですって」
「はあ。そりゃまあ、そういう会社名だったら、そうなんじゃないですか」
「その会社、日本の食育を海外に伝える事業をこれから始めるそうです。で、人材を探してるってわけ」
「なるほど。それでアメリカから帰ってきたドロンパな僕に白羽の矢が当たったわけですか」
「ドロンパ?」
「オバケのQ太郎という昔のマンガにそういうキャラがあってね」
「ま、ドロンパとやらはどうでもいいんだけど…。というわけで松宮さん。ホントはもう少しイケメンがいいんですけど、この際、松宮さんでもいいです。…面接してみません?」
「えっ、もう面接?」
「ええ。じつは『株式会社 食育』のオフィスはすぐそこにあるんです」
「そ、そうなんですか」
「あたしはここで松宮さんの帰りを待っています。今から、行ってきて頂戴」
「今から行くの? ひとりで?」
「松宮さんが来ることは伝えてあります。なにか不都合でもあるかしら?」
「あ、いや、サンマ、いつ食べるのかな、と思って…」
◆◆◆
「わが社へようこそ。あなたが松宮さんですか。わたくし、『株式会社 食育』の人事担当役員、上野と申します」
「あ、ども。松宮です」
「しかし意外ですね」
「何がですか」
「もう少し高そうな服を着ている人を想像していたものですから」
「お、大きなお世話です」
「さて松宮さん。わが社は食育をする会社でして」
「はあ」
「日本の食育は世界でもユニークなものだと聞いております。たしか松宮さんのサイトにもそう書いてありましたね(※)」
「はあ」
(※)http://www.shokuiku-pro.com/modules/tinyd1/index.php?id=1
「そのユニークな日本の食育を、世界に広める事業を始めようと考えております。松宮さんも、ない知恵をふりしぼり、微力を尽くしていただきたい」
「はあ。なんかムカつくんだけど、その言い方」
「何かおっしゃいましたか?」
「いえ、ひとり言です」
「さっそくですが、入社試験をいたします」
「入社試験?」
「そうです。わが社はスピードが命でしてね。すぐに試験を受けていただきます」
「そんなこと、聞いてないすよ。それに、誰も入社したいなんて言ってないのに、試験ですか?」
「またまた、ご冗談を。まあいいでしょう。よくある話です。ではさっそく試験です」
「いや、だから、誰も入社したいなんて言ってないっつーに」
「(無視して)おーい、金谷部長。試験を始めるぞー」
「どもども松宮さん、はじめまして。お名前はかねがね承っております。人事部の金谷です。本日はよろしくお願いします」
「はじめまして。あのー、いきなり試験というのはちょっと」
「心の準備がまだ、とか言うんですか? 松宮さんともあろう人が、もう。なにを僕の彼女みたいなセリフを言ってるんですか」
「は?」
「(赤面しながら)ささ、試験を始めましょう。しかし意外ですね」
「何がですか」
「もう少し、腹回りの小さい人を想像していたものですから」
◆◆◆
「では松宮さん。ここにいる金谷君と、わたくし上野が、これから松宮さんを試験いたします」
「はあ」
「まず第1問。日本の食料自給率はどのくらいでしたっけ?」
「なんだそんなことですか。日本の食料自給率はカロリーベースで4割、金額ベースだと7割です」
「もう1回言っていただけますか?」
「日本の食料自給率はカロリーベースで4割、金額ベースだと7割です」
「ではその言葉を、逆から言ってください」
「は?」
「ですからその文章を、後ろから言ってください」
「後ろから言うんですか?」
「そうです」
「えっと、すでりわ…とだすべ…くがんき…。言えるわけないじゃないですか」
「うーん、こんな簡単なのを逆から言えないようだと、戦力とは言えませんなあ」
「そんなの、食育と関係ないでしょう。あんたは言えるんですか?」
「ええ、言えますよ。すでりわななとだすーべくがんき、りわんよですーべーりろかはつりうきゅじうりょくしょのんほに」
「わ、言えた! なんなんだこの人」
「わが社の社員はみな、こうですよ。ほれ、金谷君、言ってごらん」
「はいっ。すでりわななとだすーべくがんき、りわんよですーべーりろかはつりうきゅじうりょくしょのんほに」
「わ、言えた! お、おかしいよ、この会社」
◆◆◆
「いよいよ最後の1問です」
「まだ2問目じゃねーかよ。もう最後なんですか」
「2問もあればじゅうぶんです。…では松宮さん。ここにカルタの読み札があります。すべて裏返しになっています。この中から1枚、引いてください」
「手品でもするんですか?」
「まあ、とにかく引いて」
「はあ」
「ではその読み札を表にして。そこに書いてある句を読んでください」
「読むんですか。えっと…、日本人いつの間にやらコメ忘れ」
「もう1回、読んでください」
「日本人いつの間にやらコメ忘れ」
「では問題です。この句はどこが作ったものでしょうか」
「は?」
「この句を作った団体を当ててください。これは利き酒ならぬ利きカルタと呼ばれているゲームです」
「そんなの分んねえよ」
「そうですか、分からないんですか。ふぅ」
「何だよ、その馬鹿にしたような溜息は」
「(無視して)金谷君。答えてみてくれ」
「はいっ。その句はxx農政局が作ったものです」
「正解。ほらね、松宮さん」
「何がほらねだよ。こんな試験やってられるか。いやいややらされて、それで不愉快にされちゃあ、たまんねえよ。もう帰る」
「この結果じゃ、しかたありませんね。金谷君、エレベーターまで送ってあげなさい」
「いらねーよ! てか、ここ1階なんだけど」
◆◆◆
「お帰りなさい、松宮さん。いかがでしたか」
「何してんすか、リチャード?」
「お約束のサンマを焼いていますが、何か?」
「駅前で? てか、どこからその七輪を持ってきたんだよ」
「で、面接はいかがでしたか」
「あの会社、おかしいすよ。人を馬鹿にしやがって」
「さてはコテンチンにやられましたね?」
「笑いごとじゃねえっつーに。てか、それを言うならコテンパンでしょ」
「笑ってはいません。あたし、松宮さんだったら、ぜったい簡単にクリアできると踏んだんですけど」
「それってどういうことだよ。あの会社、いつもあんな面接をするってことか?」
「そう。いつもああなの。なので、たまには落ちる人がいます」
「たまにはって。じゃあほとんどは合格してんのかい!」
お疲れさんでした。
★★★
松宮園生です。
こんな求人広告がありました。
<株式会社 食育>
気のいい仲間と楽しく食育しませんか。
勤務地:東京
仕事内容:食育
給与:応相談
賞与:あり
昇給:あり
で、応募してみたらあっさりと採用されました。
◆◆◆
「今日から戦力に加わる松宮君だ。松宮君、簡単に自己紹介を」
「松宮です。趣味は市民農園。彼女いません。よろしくお願いします!」
「パチパチパチパチ(拍手の音)」
「松宮君のデスクはそこだ。期待しているよ、頑張ってくれたまえ」
「はい、頑張ります」
「課長」
「なんだね」
「で、僕は何をすればよろしいのですか」
「食育だよ」
「はあ?」
「わが社は食育をする会社だからね」
「それは分かってますけど…」
「じゃあ早速、食育をしたまえ。そうだな、今日は代々木公園あたりで食育をしてくれるかな。庶務課で必要な資材を出してもらいなさい」
「はあ…」
◆◆◆
「あのう。庶務課はこちらですか」
「そうですよ」
「営業1課の松宮です。今日から社員になりました。さっそく代々木公園あたりで食育をしてこいと言われまして」
「じゃあ、この書類を書いてくれる? 代々木公園だなんて、寒いのに大変ね」
「あのー。『使用目的』の欄には何を書けば…」
「何でもいいのよ。ま、『食育』か『営業』って書く人が多いかな」
「じゃあ、『食育』って書いときます」
「じゃ、これ持ってって」
「これは?」
「道具カバンよ。行ってらっしゃい」
「カバンのなかには何が入っいるんですか?」
「食育の道具に決まってるじゃない」
「へ?」
「でも今は開けちゃだめ。酸化しちゃうから。現場で開けるのよ」
「酸化するんですか?」
「酸化しないのもあるけど、新人さんには酸化するほうを持ってもらうことになっているの。ほら、ぼさっとしてないで、さっさと行きなさい」
◆◆◆
「松宮君。ちょっと」
「なんでしょう、課長」
「きみねえ。食育の道具を酸化させたそうじゃないか」
「はあ、すみません」
「困るんだよ。道具は貴重品なんだからね。今度やったら給料下げるよ。これだから大学出のボンボンは困る」
「あのー」
「何だね」
「酸化しちゃったんで分からなかったんですが、あれは何だったんですか?」
「食育の道具だよ」
「いや、ですから具体的には何だったんでしょうか?」
「何を寝ぼけたことを言ってるんだ。食育の道具といったら、他になにがあるんだ。そんなことより、今日はちゃんと食育してきてくれよ」
「食育をしてこいと言われてもですね、課長、具体的に何をしたらいいんですか?」
「あのね。きみはトイレにいったら何をする?」
「それは…用を足します」
「そうだろう。それと同じだよ。食育をするといったら、食育をする以外にないだろう。さ、僕も忙しいんだ。さっさと行ってきてくれ」
◆◆◆
「松宮君。ちょっと」
「なんでしょう、課長」
「代々木公園できみが子どもたちを集めて紙芝居をしていたというのは本当かね」
「ええ、そうですが」
「何か勘違いをしていないか?」
「は?」
「そんなことをして、会社の売上は上がるのかね?」
「上がりませんが…。しかし食育をしてこいと言われたものですから…」
「あのねえ。これだから大学出のボンボンは困る。いいかね、われわれはボランティアをしているんじゃないんだ。稼いでナンボだろう」
「はあ」
「今日はちゃんと業績をたててくれよ。給料泥棒と言われたくなかったらな。さあ、行った行った」
◆◆◆
「松宮君。ちょっと」
「はあ」
「会議室で2人で話をしよう」
「はあ」
「この1ヶ月間、きみの仕事ぶりを見させてもらったがね。きみはあまり食育に向いておらんのじゃないかと思うのだが」
「はあ」
「営業成績もきみが最低だ。こんな社員は初めてだよ」
「しかし、単に食育をしてこいと言われましてもですね…」
「言い訳なんか聞きたくないんだ。きみのおかげで僕も社長からこっぴどく叱られたよ」
「いや、そう言われましても…」
「きみは食育には向いておらんよ。ほかにもっと、きみが活躍できる職場があると思うんだよね」
「く、クビということですか?」
「まあ、そういうことかな。残念だが、われわれも稼げない社員を飼っておくほどの余裕はないんでね」
◆◆◆
クビになってトボトボと歩く帰り道。
書店に立ち寄って転職情報誌を立ち読みしたら、こんな募集が載っていました。
<株式会社 身土不二>
あなたの力で、日本人の心、「身土不二」を推進しましょう!
勤務地:東京
仕事内容:身土不二
給与:応相談
賞与:あり
昇給:あり
★★★
松宮園生です。
「あなたの毎日の生活習慣を入力してください。
管理栄養士があなたの食事をアドバイスします」
最近、インターネットを使ったこういうサービスを
どきどき見かけるようになりました。
以前からあるにはあったのですが、この数年で増えた
ように思います。
先日、僕のところにもある会社からメールが来ました。
「松宮先生。当社の自慢の新サービスです。
最新のアメリカ栄養学を使い、管理栄養士の佐久間象子さんが監修しています。
ログインIDとパスワードを差し上げますので、お試しに無料でやってみていただけませんか。
本来は有料ですが、今月いっぱい無料お試し期間です」
もらったログインIDは
「doburoku」
パスワードは
「gyakugire」
でした。
サイトにアクセスしてログインすると、まずは生活習慣の入力です。
こんな質問に答えていくわけです。
「年齢と性別をお答えください」
ニューハーフの人とかは、どうするんだろうな?
「身長は何キロメートルですか」
は? キロメートルで計算するの?
「体重は何トンですか」
キログラムじゃなくて、トンかよ。
あ、そうか。
佐久間象子が監修すると、こういう単位になるんだ…。
とにかく、身長・体重を入れるということは、BMIを自動計算するということだな。
「BMIを入力してください」
自分で計算するんかい!
「では、あなたの日々の食事について質問します。朝食は週に何回食べていますか。ジュースやゼリーなどで済ませた場合は0.4回としてカウントしてください」
なんじゃその質問は!
ややこしいぞ!
0.5でもややこしいのに、0.4かよ!
計算メンドーなので、週2回って答えとこう。
「食事はじゅうぶん規則的ですか」
あんまり規則的じゃないけど、21世紀の働くオニイサンとしては平均的かなあ。
はい、って答えておこう。
「腹8分目ですか」
決めれるわけ、ねーだろが!
そういうときもあるし、そうじゃなくて満腹のときもあんだよ!
…はい、にしとこう。
「食材はできるだけ有機野菜や全粒粉などにこだわり、農薬を恐れていますか」
なんじゃそのヘンな日本語は!
有機野菜や全粒粉にこだわってるけど、農薬を気にしていない場合はどう答えりゃいいんだよ!
「朝食の主食はご飯ですかパンですか、半々くらいですか」
半々くらいかなあ。
「ご飯は玄米ですか、白米ですか」
玄米を食え、って言いたいんだろ。
「甘い缶コーヒーや缶ジュースのような、糖分の多い飲みものを週3本以上飲んでいますか」
3という数字にどんな意味があるのか分からないけど、いいえ、にしとこう。
冬は寒いから飲まないけど、夏だと缶ジュースはけっこう飲むかもな。
「揚げものや油の使用量の多い料理は週2回以下ですか」
知るかい!
だからその2とか3とかは何の意味があるんだよ?
数えたことなんてねえよ。
…うざいので、何となく適当に「はい」、にしとこうか。
「お菓子類のような甘いものを食べるのは、週に4回以下程度ですか」
なんだよその、「以下程度」つうのはよ!
以下ってこと?
程度ってこと?
妙な日本語はやめてほしいな。
…こんなことでムカついていてはいけませんね。
「いいえ」、にしておきます。
「今日は飲みすぎたなと思うことが月に2回以上ありますか」
ふつか酔いの頻度を聞いてるわけだな。
月に2回くらいは、あるかもな。
「手のひらサイズの小鉢または小皿に換算して、毎日5鉢(5皿)の野菜を食べていますか」
なんじゃそりゃ!
そんな複雑な日本語はやめてくれよ!
ファイブ・ア・デイみたいなことを言いたいんだろうけどさ。
「毎日200グラム以上の果物を食べていますか。ただし可食部のほかに種や皮もカウントします」
200グラムあるかどうか、毎日測れっつうんかい!
「味の濃い味噌汁を残さず最後まで飲むことが癖になっていますか」
ねえ、それって「癖」なの?
味の濃い薄いはどやって決めればいいんだよ?
「麺類を食べるか麺類以外のものを食べるかという選択肢が与えられた場合、7割以上の確率で麺類を選びますか」
法律の条文じゃないんだからよ、もっと分かりやすい日本語にできねーの?
確率なんて分かるかっつーの!
…ま、たいがい麺類を選んでいるけどさ。
「濃いめの乳製品を摂取したあと、しっかり日光浴をしなきゃ、と思っていますか」
はあ?
そんなん、意識したことなんかあるかい!
そりゃ、カルシウムをとったら日光浴してビタミンDをとりなさいとは言われるけれども…。
「トーストを食べるとき、ついついマーガリンをたっぷり塗ることが癖になっていますか」
だからよ、それって「癖」かい!
「大豆・豆腐・豆製品を1日に1回以上程度食べますか。味噌や醤油はカウントしないでください」
だからその「以上程度」ってなんだよ!
以上ってこと?
程度ってこと?
と、ブツブツ文句を言っているうちに、質問が終わりました。
全体的にほんと、不自然な日本語が多い。
やってるほうが恥ずかしいぞ。
画面の下にはこう書いてありました。
「質問は以上です。下のバナーをクリックしてください」
下のバナーにはこう書いてありました。
「食事アドバイスへ、レッツゴー」
クリックすると、エラーメッセージが出ました。
「あなたのBMIの計算は間違っています。正しい数値を入力してください」
テメーが自動計算しろよ!
◆◆◆
こんな判定が出ました。
BMIはギリギリ普通です。食事に気をつけ、これ以上太らないようにしましょう。
朝食の回数が少ないですね。いけません。朝食を週に5回以上摂るようにしましょう。
規則的な食事の心がけは立派です。その調子、その調子。
腹8分目を心がけるようにしましょう。
有機や全粒粉にこだわっているのは立派です。今後は地産地消にもこだわるようにしましょう。
朝食にパンも勿論よいですが、日本人はご飯をもっと食べましょう。
白米より玄米のほうが栄養があります。よく噛んで食べましょう。
糖分の多い飲みものは意外に糖分が多いです。今後も気をつけましょう。
揚げものや油の使用料の多い料理は控えめにしているようですね。その調子、その調子。
お菓子類のような甘いものは控えめにしましょう。
お酒はほどほどにしましょう。適量であれば、体によいとされています。
野菜はしっかり摂れているようです。その調子、その調子。
果物は足りないようです。季節のフルーツをおいしく食べましょう。
塩分に気をつけて、味噌汁は薄味のものを飲むようにしましょう。
炭水化物の摂りすぎはよくありません。麺類ばかり食べず、バランス良い食事を心がけましょう。
乳製品を摂ると同時に、日光を浴びましょう。ただし日焼けには気をつけましょう。
マーガリンにはトランス脂肪酸が入っています。なるべく控えましょう。
大豆食品はしっかり摂れているようです。その調子、その調子。
「そのまんまじゃん」
僕はあきれてつぶやきました。
書いてあることはいちいちごもっともなんだけど。
もしかしてこれ、質問の答え方と関係なしに、ほぼ同じようなコメントが出るんじゃ…。
画面の下のほうに、こう書かれていました。
「そんなあなたのためのお勧め商品です。果物少なめのあなたは、積極的にビタミンCを摂取しましょう」
で、ビタミンCのサプリメントの写真が掲載されています。
クリックしたら、買えるようになっているみたいでした。
いろんなサービスを経験している目の肥えた21世紀の人たちが、こんな昭和型サービス、買うのかなあ?
<おすすめサービス>
マイマネージャー
講師をしている方、教室を開いている方のための「専属マネージャー」サービス。
ギャラの交渉や生徒募集はマネージャーにお任せ!
http://mymanager.seesaa.net/
松宮園生です。
(前回のあらすじ)
1991年にロバート・ローゼン博士が
「ヘルシーカンパニー」
という本を出したのも影響し、アメリカの会社ではワークサイト・ヘルス・プロモーションが盛んに行われています。
(前回→)http://www.shokuiku-pro.com/production/2009/10/post_86.html
◆◆◆
若いの、よぉく聞くのじゃ。
健康というのは自分で管理するものじゃよ。
わざわざ会社がお金を出して社員の健康管理をするのはおかしいのじゃ。
…と、僕も数年前まではそう思っていました。
そんな僕が考えを改めたのは、とあるアメリカのコンサルタント会社が作った極秘資料を買ってからです。
その極秘資料にはこんなことが書いてありました。
◆◆◆
いやっほう!
みんな元気かい?
今日はバック・ジャウアーお兄さんと一緒にワークサイト・ヘルス・プロモーションのお勉強だよ。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションって何のことか分かるかな?
そう。会社がお金を出して、社員のために行う健康管理のことだね。
たとえば、社員食堂のメニューをヘルシーなものに変えるとか。
社内に簡単なスポーツジムを置き、社員は無料で使えるようにするとか。
社員を集めて、食や健康についてのセミナーを開くとか。
そういうのを、ワークサイト・ヘルス・プロモーションって呼ぶんだよ。
社員食堂やスポーツジムやセミナーにはお金がかかるよね。
それを会社が負担するというわけさ。
社員は、無料。
嬉しいね。
イェイ。
でも会社だって慈善事業をやってるわけじゃあ、ないんだよ。
何の見返りもなしにワークサイト・ヘルス・プロモーションをしてると思ったら、大間違いのコンコンチキ。
会社がわざわざワークサイト・ヘルス・プロモーションにお金を払うのには、ちゃあんと理由があるのさ。
どんな理由かな?
きみには分かるかな?
答は、こうだ。
じつは、ワークサイト・ヘルス・プロモーションをすると、会社の業績があがるんだよ。
要するに、儲かる。
なんで儲かるんだって?
「風が吹けば桶屋が儲かる」って、言うよね。
風が吹くと、砂が舞い、目に入る。
↓
砂が目に入ると、失明する人が増える。
↓
失明する人が増えると、琵琶法師みたいになる人が増え、みんな三味線を買う。
↓
三味線が売れると、ネコが減る。
なぜかって?
昔の三味線はね、ネコの皮で作られていたからなんだ。
ネコ好きには辛い話だね。
↓
で、ネコが減ると、ネズミが増える
↓
ネズミは桶をかじる
↓
だから、新しい桶が飛ぶように売れ、桶屋が儲かる
なるほど!
だから「風が吹けば桶屋が儲かる」んだ。
感心して思わず膝をたたいちゃうよね。
それと同じで、ワークサイト・ヘルス・プロモーションをすると、会社が儲かる。
どういうことかな?
ワークサイト・ヘルス・プロモーションをする。
↓
社員が健康になる
↓
よく働くようになる
↓
会社が儲かる
こういうわけさ!
イェイ。
思わず膝をたたいちゃうよね。
「本当かなー。本当に儲かるのかなー。なんか怪しいぞー」
そこのきみ。
疑ってるね?
バック・ジャウアーお兄さんは嘘はつかないよ。
それでは証拠をお目にかけよう。
会社が社員の健康管理のためにお金を使ったら、会社の業績はどのくらいアップするのかな。
それをみんなで調べよう、ということになり、1990年代に、アメリカで実験が行われたんだ。
* キャタピラー
* シグナ保険
* ファニイ・メイ
* クアーズ
といった名だたる企業が、その実験に参加したんだよ。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションをやって、会社の業績がどうなるか、見てみたんだ。
その結果、こんなことが分かったのさ。
「会社が社員の健康管理のためにお金を使ったら、使ったお金の4倍、業績がアップする」
言い換えたら、
「ワークサイト・ヘルス・プロモーションは、使ったお金の4倍、儲かる」
というわけなんだ。
なるほど!
そうだったのか!
思わず膝をたたいちゃうよね。
イェイ。
4倍儲かるんだったら、やらないほうがおかしいよね。
だって会社は儲かり、社員は健康になるんだからね。
みんなハッピー!
だから、アメリカの会社は、せっせとワークサイト・ヘルス・プロモーションに励んでいるんだよ。
では今日のまとめだ。
ポイントは2つだよ。
ひとつ。
会社が社員の健康管理のためにお金を使うことを、何と言うんだったかな?
そう、ワークサイト・ヘルス・プロモーションというんだったね。
もうひとつ。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションは、儲かるのかな?
そう、使ったお金の4倍儲かるんだったね。
イェイ。
みんな、分かったかな?
じゃあ、今日はここまでだ。
また会おう。
バック・ジャウアーお兄さんの、「みんなで楽しくヘルシーカンパニー」でした。
バハハーイ!
◆◆◆
アメリカのコンサルタント会社から入手した極秘資料には、いくつか死語を混ぜながら、そう書いてあったのです。
その内容に衝撃を受けた僕は、それまでの
「健康というのは自分で管理するものじゃよ。
わざわざ会社がお金を出して社員の健康管理をするのはおかしいのじゃ」
という考えを改めました。
さて、1990年代に行われた実験ですが、実際にはどんなことを計測して、どうやって「4倍」という数字を出したのでしょうか?
これを説明するには
「社員1人あたりの機会費用」
「アブセンティーイズム」
「プレゼンティーイズム」
という概念についてまず説明する必要がありますが、専門的になるので、別の機会に譲ることにします。