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松宮園生です。
(前回のあらすじ)
1991年にロバート・ローゼン博士が
「ヘルシーカンパニー」
という本を出したのも影響し、アメリカの会社ではワークサイト・ヘルス・プロモーションが盛んに行われています。
(前回→)http://www.shokuiku-pro.com/production/2009/10/post_86.html
◆◆◆
若いの、よぉく聞くのじゃ。
健康というのは自分で管理するものじゃよ。
わざわざ会社がお金を出して社員の健康管理をするのはおかしいのじゃ。
…と、僕も数年前まではそう思っていました。
そんな僕が考えを改めたのは、とあるアメリカのコンサルタント会社が作った極秘資料を買ってからです。
その極秘資料にはこんなことが書いてありました。
◆◆◆
いやっほう!
みんな元気かい?
今日はバック・ジャウアーお兄さんと一緒にワークサイト・ヘルス・プロモーションのお勉強だよ。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションって何のことか分かるかな?
そう。会社がお金を出して、社員のために行う健康管理のことだね。
たとえば、社員食堂のメニューをヘルシーなものに変えるとか。
社内に簡単なスポーツジムを置き、社員は無料で使えるようにするとか。
社員を集めて、食や健康についてのセミナーを開くとか。
そういうのを、ワークサイト・ヘルス・プロモーションって呼ぶんだよ。
社員食堂やスポーツジムやセミナーにはお金がかかるよね。
それを会社が負担するというわけさ。
社員は、無料。
嬉しいね。
イェイ。
でも会社だって慈善事業をやってるわけじゃあ、ないんだよ。
何の見返りもなしにワークサイト・ヘルス・プロモーションをしてると思ったら、大間違いのコンコンチキ。
会社がわざわざワークサイト・ヘルス・プロモーションにお金を払うのには、ちゃあんと理由があるのさ。
どんな理由かな?
きみには分かるかな?
答は、こうだ。
じつは、ワークサイト・ヘルス・プロモーションをすると、会社の業績があがるんだよ。
要するに、儲かる。
なんで儲かるんだって?
「風が吹けば桶屋が儲かる」って、言うよね。
風が吹くと、砂が舞い、目に入る。
↓
砂が目に入ると、失明する人が増える。
↓
失明する人が増えると、琵琶法師みたいになる人が増え、みんな三味線を買う。
↓
三味線が売れると、ネコが減る。
なぜかって?
昔の三味線はね、ネコの皮で作られていたからなんだ。
ネコ好きには辛い話だね。
↓
で、ネコが減ると、ネズミが増える
↓
ネズミは桶をかじる
↓
だから、新しい桶が飛ぶように売れ、桶屋が儲かる
なるほど!
だから「風が吹けば桶屋が儲かる」んだ。
感心して思わず膝をたたいちゃうよね。
それと同じで、ワークサイト・ヘルス・プロモーションをすると、会社が儲かる。
どういうことかな?
ワークサイト・ヘルス・プロモーションをする。
↓
社員が健康になる
↓
よく働くようになる
↓
会社が儲かる
こういうわけさ!
イェイ。
思わず膝をたたいちゃうよね。
「本当かなー。本当に儲かるのかなー。なんか怪しいぞー」
そこのきみ。
疑ってるね?
バック・ジャウアーお兄さんは嘘はつかないよ。
それでは証拠をお目にかけよう。
会社が社員の健康管理のためにお金を使ったら、会社の業績はどのくらいアップするのかな。
それをみんなで調べよう、ということになり、1990年代に、アメリカで実験が行われたんだ。
* キャタピラー
* シグナ保険
* ファニイ・メイ
* クアーズ
といった名だたる企業が、その実験に参加したんだよ。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションをやって、会社の業績がどうなるか、見てみたんだ。
その結果、こんなことが分かったのさ。
「会社が社員の健康管理のためにお金を使ったら、使ったお金の4倍、業績がアップする」
言い換えたら、
「ワークサイト・ヘルス・プロモーションは、使ったお金の4倍、儲かる」
というわけなんだ。
なるほど!
そうだったのか!
思わず膝をたたいちゃうよね。
イェイ。
4倍儲かるんだったら、やらないほうがおかしいよね。
だって会社は儲かり、社員は健康になるんだからね。
みんなハッピー!
だから、アメリカの会社は、せっせとワークサイト・ヘルス・プロモーションに励んでいるんだよ。
では今日のまとめだ。
ポイントは2つだよ。
ひとつ。
会社が社員の健康管理のためにお金を使うことを、何と言うんだったかな?
そう、ワークサイト・ヘルス・プロモーションというんだったね。
もうひとつ。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションは、儲かるのかな?
そう、使ったお金の4倍儲かるんだったね。
イェイ。
みんな、分かったかな?
じゃあ、今日はここまでだ。
また会おう。
バック・ジャウアーお兄さんの、「みんなで楽しくヘルシーカンパニー」でした。
バハハーイ!
◆◆◆
アメリカのコンサルタント会社から入手した極秘資料には、いくつか死語を混ぜながら、そう書いてあったのです。
その内容に衝撃を受けた僕は、それまでの
「健康というのは自分で管理するものじゃよ。
わざわざ会社がお金を出して社員の健康管理をするのはおかしいのじゃ」
という考えを改めました。
さて、1990年代に行われた実験ですが、実際にはどんなことを計測して、どうやって「4倍」という数字を出したのでしょうか?
これを説明するには
「社員1人あたりの機会費用」
「アブセンティーイズム」
「プレゼンティーイズム」
という概念についてまず説明する必要がありますが、専門的になるので、別の機会に譲ることにします。
松宮園生です。
(前回のあらすじ)
人間の健康維持に欠かせないミネラルのひとつ、カリウム。
そのカリウムは、もとをただせばカナダの地下1000メートル
深くに眠る巨大なカリウム鉱脈から来ているものだった。
流しの料理人ラザフォードは、そのカリウム採掘キャンプにある
レストランで働きはじめる。
そこにはなんと
「オーガニックは御法度」
という不思議なルールがあった…。
(前回) カリウムの世界 上巻
http://www.shokuiku-pro.com/production/2009/10/post_89.html
◆◆◆
ラザフォードの話によれば…。
カリウムの採掘キャンプはちょっとした地下都市のようになっています。
商店街のようなところもあり、ラザフォードのレストランもそこにあります。
キャンプとはいいながら、普通に商品を売ったり買ったりの「経済活動」が行われていました。
ちなみに使われている通貨はカナダドルです。
カナダドルは、貿易にたずさわる日本人のあいだでは
「キャンドル」
と呼ばれています。
俗称ですね。
アメリカのドルのことを米ドル(ベイドル)と呼んだりするのと同じです。
ろうそくの「キャンドル」とはイントネーションが違っていまして、
ろうそくのほうは「キャン」のところにアクセントを置きます。
これに対し、カナダドルのほうはどこにもアクセントを置かず、平坦な口調で発音します。
カリウムのキャンプ一帯はトンネル状の坑道で結ばれ、人々はクルマで移動しています。
複雑に繋がったり延びたりしている坑道の随所に、採掘マン(文法的に正しくは採掘メン)が住居を構えていました。
キャンプ全体の人口は2200人だったそうです。
地下1000メートルですから、太陽に縁のないところです。
最近は少しずつ光ファイバーによる採光システムが導入されつつあるようですが、ラザフォードがいたころは普通の電灯が坑道や商店街を照らしていました。
坑道のところどころに
「もっと光を」
というスプレーの落書きがありましたが、これはゲーテの最期の言葉を借用したものです。
地下は温度の高いところでもあります。
通常、地面を100メートル掘るごとに摂氏で3度、熱くなるそうです。1000メートルの深さにあるカリウム・キャンプは、60度ちかい温度になります。
ですのでエアコンは思い切り動いていますし、地上の空気を取り入れるための空気循環システムもフル稼働です。
圧力の問題も無視できません。
地下に降りれば降りるほど気圧が上がります。
まあこれは人間のほうが慣れるしかないのですが。
エレベーターなどは昇降スピードが速すぎないように配慮されていますし、わざと乗り換えを多くしています。
気圧の変化に体を慣らすためです。
圧力で怖いのは気圧よりも地面そのものの重さです。
もの凄い重量がかかっていますので、いつ坑道が潰れてぺしゃんこになるか分かりません。潰れるのは一瞬です。
坑道が潰れなくても、温泉やら天然ガスなんかが突然噴き出したら、これもキャンプ滅亡です。
だれひとり助からないでしょう。
ま、場所がら温泉だの天然ガスだのが出る確率はゼロに近いですが。
そんなところでラザフォードはレストランを開いていたのでした。
◆◆◆
カリウムは農作物の成長に欠かせない要素ですし、クドイですけど人間のカラダにとっても不可欠なものです。
しかしそれとは別に、工業用原料としてのカリウム需要というのがありまして、世界各地の工場で塩化カリウムが大量に消費されています。
錫(すず)や金のようなミネラルは(こいつらもミネラルの仲間です)、単独で存在しているケースがほとんどです。
「水酸化錫」
みたいなもの(化合物)はめったにありません。
「塩化金」
に至っては、まず皆無です。皆無どころか、作ろうとしてもなかなか作れません。
逆にカリウムとかナトリウムとかは、ほとんどの場合、
「塩化ナトリウム(食塩のこと)」
「水酸化カリウム」
みたいに、化合物として存在しています。
錫や金と正反対で、単独で存在することはまずありません。
つまり、カリウム鉱脈と言っているのは、単独のカリウムが固まっているのではなく、
「○○化カリウム」
という形(化合物)で固まっているのです。
地下1000メートルの採掘キャンプで掘り出された「○○化カリウム」は、そのまま地上に運ばれ、精製されます。
「精製」とは、いろんなものが混ざっているカリウム鉱石から、混じりけ無しの純粋な
「塩化カリウム」
や
「水酸化カリウム」
などを取り出すことです。
このときうまく精製できたものは、工業用原料になります。
じゅうぶんに精製できず、混ぜ物が残ってしまったものは肥料の材料になるのです。
◆◆◆
「そこまでは分かったよ」僕は言いました。「で、オーガニック御法度の話はどうなったの。なんで地下都市ではオーガニックが禁止されてるわけ?」「慌てんなよ」ラザフォードはまたコーヒーをおかわりしました。「その話をするためにだな、あらかじめ塩化カリウムの精製の話をしとかなくちゃいかんのだ」
というわけで、オーガニック御法度の話は次回に持ち越しです。
みなさんごめんなさい。
(以下次号)
★★★
松宮園生です。
流しの料理人をしている友人のラザフォードが、
あるときこんなことを言いました。
「なあマツミヤ。お前、カリウムのキャンプって知ってるか?」
「は? カリウムのキャンプ?」
「カリウムだよ。原子番号19」
正確にいうと、ラザフォードは「カリウム」とは言わず
「ポタシアム」と発音しました。
potassium
カリウムは、英語では「ポタシアム」と言います。
(カリウムという言い方は、ラテン語だそうです)
食育の講座とかに参加すると、管理栄養士さんあたりがこんな話をします。
「野菜を食べましょう。野菜にはカリウムがたくさん。カリウムは適度な血圧を保つのに重要なミネラルです」
就農準備セミナーなんかに参加すると、農協の営農指導員さんとかがこんな話をします。
「農作物を育てるのにふつうは肥料を使います。肥料に欠かせない成分はチッソリンサンカリ。この呪文、暗記しましょう。チッソリンサンカリ。さあ、みんなで…チッソリンサンカリ。もう一度…チッソリンサンカリ」
この呪文は、農作物の生育に不可欠な3要素、
窒素
リン
カリウム
のことを表しています。
つまり、カリウムを含む肥料で野菜が育ち、その野菜を皆さんが食べてカリウムを摂取し、血圧をコントロールしているわけです。
「で、カリウムのキャンプって、何なんだよ?」
「おれはカリウムのキャンプで働いたことがあってな」ラザフォードは言いました。「地下にあるキャンプだ。炭鉱みたいなところを想像してくれたらいい。炭鉱では石炭を掘るが、カリウムのキャンプではカリウムを掘る」
「ふうん。そんな仕事もしてたんだな、あんた」
「そうじゃない。カリウムのキャンプで、料理人をしていたのさ」
◆◆◆
カリウムは鉱物資源です。金の鉱脈が地中に埋まっているように、カリウムの鉱脈も地中に埋まっています。小さな鉱脈は世界各地にあるようですが、カリウムの巨大鉱脈を持つ国は、世界に3ヶ国しかないそうです。
先ほど書いたように、皆さんの体内のカリウムは野菜などを食べることで摂取するわけですが、野菜に与えられる肥料にカリウムが含まれています。
肥料に含まれるカリウムはどこから来るかというと、これらの鉱脈から来ています。
このカリウ鉱脈ですが、掘るのがすごく大変です。
鉱脈は地下1000メートルのところにあるのです。
そこまで掘らなければなりません。
掘ったら温泉のように沸き上がってくる、というのでもありません。
まず地下1000メートルまで掘り下げたあと、そこではじめて「カリウムの採掘」が始まるわけです。
たいへんな仕事だ。
でも人間はそれをやっちゃいました。
カナダ中部にサスカチュワン州というところがあります。
人口密度の希薄な州です。
そのサスカチュワン州の、とある、地平線に囲まれた荒野。
まわりに何もないところにポツンと、3階建てのビルディングがありました。
見かけはなんの変哲もない建物です。
そこが、地下1000メートルのカリウム鉱脈につながる入口でした。
なんの変哲もないビルディングに入ると、なんの変哲もないエレベーターがあります。
ただのエレベーターじゃないのが分かるのは、
* 乗る前にヘルメットを渡されるとき
* 目的階(=行き先)のボタンを押そうとすると、「B39」なんてとんでもない数字が表示されるとき
さすがにそのときは、ここが鉱山の入口なのだと実感するそうです。
地下深く行くために、エレベーターを何回か乗り換えるそうです。
気圧の問題もあるので、人間が潜水病にならないよう、エレベーターの下降や上昇はゆっくりと行われます。
そうして3時間もたったと思われるころ、地下1000メートルに到着します。
地下1000メートルは、本来はものすごく暑い。
摂氏60度にもなります。
なので強烈なクーラーが働いています。
そのおかげで、地上の涼しい夏くらいの暑さに抑えられています。
クーラーの稼働エネルギーはすべて地熱でまかなっています。
地下1000メートルは、舗装された坑道(トンネル)が巨大なアリの巣のように何キロもつづく世界になっています。
坑道は不必要に長いわけではありません。かつてはカリウム鉱石の採掘現場だったのが、採掘が進むにつれて奥へ奥へと延びていったものです。
それがいまでは、何キロにもなっているわけです。
◆◆◆
「行ってみてびっくりしたことに」コーヒーをすすりながら、ラザフォードは言いました。「カリウムのキャンプは、立派な町だった。2200人の住民がいる町だよ」
「地下都市ってこと?」
「地下1000メートルのところにある地下都市だ。カリウムを掘る人間と、その家族が住んでる。インフラもちゃんとしてたぜ。ケーブルテレビも見れたし、インターネットもできた。携帯電話も通じる。銀行もあればバーもある。セブンイレブンとマクドナルドがある。さすがに学校はないが、病院はある。で、おれは
その町にあるレストランでシェフをやってた。普通にお金をもらって営業するレストランだ。味がよければ繁盛するし、まずくて客足が遠のけば、廃業というわけよ」
「すげえな」僕はいいました。「で、そこにはどのくらいいたの?」
「3か月ごとに2週間ほど、休暇で地上に出るんだが、そんな感じで2年くらい、いたかな」
「よく続いたねえ」
「給料がいいからな。都会のサラリーマンなみの給料がもらえて、加えてレストランの利益の半分をもらった」
「なるほど」
「でもな、お前は食育オタクらしいから教えてやるけどな」ラザフォードは意地悪そうな目になって言いました。「カリウムの世界では、オーガニックは御法度なんだぜ」
「オーガニックが御法度?」
「そのとおり。オーガニックは御法度なんだ」
ラザフォードはそう言い、立ち上がりました。
「オーガニックは御法度なんだ」
「意味わかんねえ。どういうことなんだよ?」
僕の質問には答えず、ラザフォードは言いました。「ちょっと手洗いに行ってくる。続きはそのあとだ」
(以下次号)
★★★
松宮園生です。
(前回のあらすじ)
アメリカでは、「ヘルシーカンパニー」になるために、
多くの会社が「ワークサイト・ヘルス・プロモーション」に
取り組んでいます。
そのための専門家もいます。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションというのは、
* 会社が
* 社員のために
* お金を使って
* 健康増進プログラムを実行する
ことです。
1991年にロバート・ローゼン博士が
「ヘルシーカンパニー」
という本を出したのも影響し、アメリカの会社ではこのワークサイト・ヘルス・プロモーションが盛んに行われています。
(前回→)http://www.shokuiku-pro.com/production/2009/10/post_88.html
◆◆◆
ただし。
いくら社員に健康になってほしいからと言って、大事なお金をやみくもに使うわけにはいきません。
社員の健康増進のために、いくら使うのか。
どのように使うのか(何を買うのか)。
難しい問題です。
とくにアメリカは昔から株主が強い国でありまして。
会社運営(経営)の下手くそな社長さんは、株主からクビにされたり、訴訟されたりします。
ですので、会社の社長さんは、株主のご機嫌を損ねないように必死で頑張るのです。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションで社員の健康増進に会社が協力するのも大事なのですが、株主が納得することも重視されています。
で、あるとき株主総会でワークサイト・ヘルス・プロモーションがやり玉にあがったとしましょう。
こういう質疑応答がなされます。
株主 「社長さん。わが社はワークサイト・ヘルス・プロモーションにお金をいくら使ってるんですか?」
社長 「株主様。わが社は50万ドル(だいたい5000万円くらいの感覚です)使っております」
株主 「50万ドルも! なぜそんなに使うのですか?」
社長 「いやその、社員が喜ぶからと思ってなんとなく…」
株主 「具体的には、何に使ったのですか?」
社長 「ええと、社員食堂を改善して、社内にスポーツジムを作りました」
株主 「なぜ、社員食堂を改善したのですか?」
社長 「いやその、社員が喜ぶかと思ってなんとなく…」
株主 「なぜスポーツジムを作ったのですか?」
社長 「いやその、社員に運動不足の解消になるかと思ってなんとなく…」
株主 「社長さん。われわれ株主は、50万ドル使ったことを責めているのではありません。会社のために有効に使っていただければよいのです。有効ならもっと使ってもよろしい」
社長 「はあ」
株主 「で、ワークサイト・ヘルス・プロモーションに使った50万ドルは、会社のために有効でしたか?」
社長 「いやあの、たぶん有効だったとは思うんですが、よく分かりません…」
株主 「ふーん。『たぶん』とか『なんとなく』というセリフが多いですね。50万ドルものお金を、あなたは『なんとなく』使うのですか?」
社長 「いやあの、その、はらほれひれはれ(←死語)」
株主 「ビジネスに50万ドル使うとき、あなたは『なんとなく』使いますか?」
社長 「いえ、あの、それは真剣に検討して使いますが…」
株主 「ワークサイト・ヘルス・プロモーションをスタートするとき、事前に真剣に検討しましたか?」
社長 「いやあの、ええ、まあ、そのつもりですが…」
株主 「じゃあ教えてください。どういう検討のしかたをしたんですか?」
社長 「そ、それはその…」
株主 「検討してませんね。で、50万ドル使ってみて、どうなんですか。来年はもっと使うつもりですか。それとも来年は減らすつもりですか?」
社長 「いやその、よく分かりません。部下に聞かないと…」
株主 「あなたは社長でしょ。株主の大切なお金を預かり、給料をもらって会社運営をしているわけですよね。あなたは会社のお金を『よく分からずに』『なんとなく』使っているのですか?」
社長 「ご、ごめんなさーい」
株主 「(ため息をつきて)社長。あなたには失望しました。あなたを解任します」
↑
と、こういうことも起きるわけです。
つまり、ワークサイト・ヘルス・プロモーションを実行する会社の社長さんは、厳しい株主の前で、
* なぜこの金額を使ったのか
* なぜこの使い方をしたのか
* その結果、どのように会社のためになったのか
* 来年は予算を増額すべきなのか減額すべきなのか
を、理路整然と、納得がいくように分かりやすく説明しなくてはならないのです。
◆◆◆
さて、実際の社長さんはバカではありませんので、株主からこういう質問が出るだろうことはたいがい予想しています。
あらかじめ回答を用意しておこうと考えます。
そこで、上に書いたのと同じ質問を、ワークサイト・ヘルス・プロモーションを管轄している部長さんにぶつけるわけです。
社長 「おい部長。なんでわが社はワークサイト・ヘルス・プロモーションに50万ドルを使う必要があったのか、説明しろ」
部長 「それがその、なんとなくそのくらい使わないといけない気がしまして…」
社長 「なんとなく、だと? ばかもん。それでも部長か。で、どうなんだ。来年はもっと使うべきなのか、減らすべきなのか」
部長 「それは…。社長に決めていただこうと思ってたんですが…」
社長 「ばかもん。ワシに判断できるわけがないだろ。50万ドル使って、会社の業績は変わったのか」
部長 「いやその、業績につなげるようなことは考えていませんでしたので…」
社長 「それじゃあ、株主総会でワシは吊るしあげを食らうぞ。部長。おまえはクヒだ」
↑
と、こういうことにもなるわけです。
さて、こうなることを恐れた部長さんは、社長室に呼ばれる前に、あらかじめ部下の社員に同じ質問をぶつけます。
部長 「おい松宮君。なんでわが社はワークサイト・ヘルス・プロモーションに50万ドル使うことにしたんだっけ?」
社員 「えっと、社員食堂の専門会社と、スポーツジムの会社に見積もりをもらって、それを足し算したら50万ドルでした」
部長 「えっ。じゃあ、相手の会社の言いなりか?」
社員 「ええまあ、そうです。だって高いのか安いのか分からなかったんですもん」
部長 「ううむ。で、どうなんだ。50万ドル使ってみて、社内は何か変わったか?」
社員 「さあ、どうでしょうか。調べてみますか?」
部長 「至急、調べてくれ」
社員 「調べ方はどうしたらいいですか? てゆーか、何を調べますか? 部長。教えてください」
部長 「そんなもの、オレも知らん。何か考えろ。で、来年はいくらの予算を申請したらいいんだ?」
社員 「そんなの、平社員の僕に分かるわけないじゃないですか。部長が決めてくださいよ」
部長 「なんでもかんでもオレにかぶせるな。自分で考えろ」
社員 「そんなの、分かりませーん!」
部長 「松宮、おまえは左遷だ」
社員 「いいんですか、部長。僕を左遷したら、この仕事の続きは誰がやるんですか。部長が自分でやるんですか」
部長 「(ハンカチの端をくわえて)きーっ!」
↑
中間管理職の悲哀でした。
◆◆◆
日本でも社員の健康増進のためにいろいろな工夫をする会社はありますが、
* なぜこの金額を使ったのか
* なぜこの使い方をしたのか
* その結果、どのように会社のためになったのか
* 来年は予算を増額すべきなのか減額すべきなのか
こうしたことをキチンと説明できる状態で実行している会社は、はたしていくつあるでしょうか?
大事なお金を使うわけですから、
「よく分からないけど、なんとなく社員のためになりそうだから、いいじゃん」
では、ダメなのです。
アメリカのワークサイト・ヘルス・プロモーション業界は、早くからこの問題に直面していました。
「どういうふうに、いくら使ったら、どのように会社のためになるのか」
というテーマの実験や研究が、数多く行われました。
この実験や研究については、次号でお話します。
(以下次号)
松宮園生です。
「ワークサイト・ヘルス・プロモーション」
という言葉を聞いたことありますか?
(ある人は少ないと思うけど)
ワークサイトは「職場」
ヘルスは「健康」
プロモーションは「促進」
を意味しています。
つまり、ワークサイト・ヘルス・プロモーションを直訳すると
「職場での健康促進」
という意味になります。
ここでいう「健康増進」とは、体の健康、メンタルな健康、両方を意味してます。
「しょ、職場での健康増進だあ? 職場は仕事をするところだろーが。健康になる場所じゃねえ。健康増進活動やりたかったら、放課後か週末にだな、各自で好きなだけやればいいじゃん。会社はそんなこと、面倒見ねえよ。幼稚園じゃねえんだから」
という考え方もあります。
(かつては僕もそういう考えの持ち主でした)
しかし一方で、
* 働きすぎの社員が突然倒れたり、
* うつ病になる社員が増えたり
しているのも確かです。
放っておくと社員やその家族から訴えられたりします。
不健康な社員が多いと、たぶん会社の士気のためにもよくないでしょう。
だから社員の健康増進活動を会社としても応援するべきだ。
そう考える会社もあります。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションとは職場での健康増進活動のことを言うわけですが、具体的には何をするのでしょうか?
具体的には
■いまいちダサい社員食堂。メニューなんかもチャーシューメンとかカツカレーとかハンバーグ定食とか、「とってもヘルシーよン」とは言いがたい中身だった
りする社員食堂。それを、もちっとこう、21世紀っぽくキレイで洗練された感じにして、メニューも
「たっぷりキノコの黒ガーリックソテー」
とか
「10種類の秋野菜のグリル。レモン汁を絞って」
とか
なんかそういう、ヘルシーな聞こえのするものに替える。
(ビミョーに腹の立つネーミングだったりするけど)
■社内であまり使用されていない会議室とかあったら、そこに気軽なエクササイズ機械を何台か入れたりして、社員が好きなときに体を動かせるようにする。可能なら更衣室を、さらに可能ならシャワー設備を置く。
むろん、料金はタダ。
■忙しい会社員が、忙しいなかでもひと工夫すればできる運動とか、栄養バランスのよい食事をとるためのレストランの選び方、みたいなことを学ぶ「社内健康セミナー」を定期的に、頻繁に開く。
■食育のイベントを開催する。社員を対象に行ったり、社員の家族にも来てもらって行ったりする。
…こういうことを、「計画的に」するわけです。
個人が自分で食事に気をつかったり近所のジムに行ったり本を買って食育の勉強をしたりするのは、ワークサイト・ヘルス・プロモーションとは言いません。
それは単に個人の健康管理です。
じゃなくて、会社が社員のためにわざわざお金を使い、社員がヘルシーになれる仕事環境を作ってあげることをワークサイト・ヘルス・プロモーションと言います。
◆◆◆
ワークサイト・ヘルス・プロモーションという言葉が存在していることからお分かりのように、アメリカの会社ではこのワークサイト・ヘルス・プロモーションが盛んに行われています。
言い換えると、会社が社員の健康増進のためにわざわざお金を出すことが盛んに行われています。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションの専門家もアメリカには大勢います。
専門家は何をするかというと、
「ワークサイト・ヘルス・プロモーションのプログラム作り」
をします。
会社の社長さんが
「わが社もワークサイト・ヘルス・プロモーションちうのをやってみるべ」
と思ったときに、
「ほんで、何をするべ? 何をどんな手順でやればいいべや? お金はいくら払うべや? 誰に払うべ?」
という問いに答えるのが、専門家の仕事です。
専門家は会社の規模や業態などを考慮しながら、ワークサイト・ヘルス・プロモーションの年間計画を立てます。
* いつ、社員食堂をリニューアルするか
* どのように社員食堂をリニューアルするか
* いつ、エクササイズ・ルームを作るか
* どのようなエクササイズ・ルームにするか
* どんなセミナーをどんなタイミングで開くか
* どんな食育イベントをどんな頻度で開催するのか
…といったことを計画します。
そのうえで、全部でお金がいくらかかるかを計算します。
計算するわけだけど、エクササイズ・マシンのメーカーなどを相手にちゃんと値引き交渉なんかもやる。
で、そのプログラムを社長に説明し、お金がいくらかかるのかも説明し、社長がウンといったら実行に移ります。
やってみると思いどおりいかないこともあります。
* せっかくお金をかけて社員食堂を変身させたのに、社員があまり利用してくれない。
* せっかくお金をかけてエクササイズ・ルームを作ったのに、社員があまり利用してくれない。
* セミナーを開いたのに、聞きにくる人がまばら。
* 食育イベントをしたのに、参加者がまばら。
…こうした問題を解決し、社員をヨイショして参加者を増やすのも専門家の仕事です。
◆◆◆
なぜアメリカではワークサイト・ヘルス・プロモーションが盛んなのでしょうか?
ときは1991年。
湾岸戦争があった年です。
心理学者のロバート・H・ローゼン博士が
「ヘルシーカンパニー」
という本を出しました。
この本にはこういうことが書いてあります。
* 社員の健康増進は、会社の経営の重要なファクターであるぞよ。
* 社員がその活力をいかに発揮するかで、会社の業績が違ってくるぞよ。
* ストレスの少ない職場づくりをせんとあかんぞよ。
* 社員が健康でいたいと思うのを、会社は応援せんとあかんぞよ。
* 社員の健康のために努力した会社は、報われるぞよ。
日本の諺でいうと、
「情けは人のためならず」
てな感じ。
社員の幸せのためにワークサイト・ヘルス・プロモーションをするわけだけど、結果として会社の業績も上がり、社長さんの株も赤丸急上昇!
人のためにやったけど、自分のためにもなった。
よかったよかった。
こんな感じです。
社員の健康増進に会社がわざわざお金を出すことが、実は会社のためにもなる。
要は、儲かる。
これは画期的な考え方でした。
「ヘルシーカンパニー」は話題になり、会社の社長さんたちのバイブルにもなりました。
そんなわけで、アメリカはワークサイト・ヘルス・プロモーション王国になっているのです。
(以下次号)