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後半です。
お手数でも、必ず前半(12月15日アップ)をお読みに
なってから、続きをお読みくださいまし!
◆◆◆
人々の不満がついに爆発します。
イル16世が30歳のとき(=ピエールも30歳)、政治犯を
閉じ込めていたシャルル牢獄を市民が襲撃しました。
革命の始まりです。
政治犯を解放した市民軍は、今度は王都プリウスに
進軍します。
大勢の国民が武器をもって合流し、プリウス郊外で
政府軍と激突。
プリウス市民も革命軍に参加し、政府軍はこっぱみじんに
打ち破られます。
革命軍は宮廷を占拠。
イル16世もマリー・パトリシアも捕えられてしまいました。
捕えられたとき、イル16世は中国から伝わった餃子の64個目を食べていたとされ、マリー・パトリシアは若い貴族を裸にして手錠をかけようとしていたと言われています。
しかしこれは、あくまでうわさです。
ピエールの屋敷にも革命軍がやってきました。
ピエールは抵抗せずに降伏。
革命軍は彼を、彼自身の屋敷の地下牢に閉じ込めました。
そこへ、捕えられたイル16世も移送されてやってきました。
2人は向かい合った牢屋に幽閉されました。
移送されてきたときのイル16世は、狂乱状態だったといいます。
食べていた餃子はとりあげられ、そのあと何も食べない(食べさせてもらえない)まま、移送されてきたのでした。
ピエールの知る限り、眠っているときを除いて、イル16世が10分以上「なにも口にしていない」状態だったことはありせんでした。
そんな国王が、革命軍につかまり、ピエールの屋敷に移送されるまでのあいだ、なにも食べものを与えられなかったということです。
それが、狂乱状態の原因でした。
ピエールの自伝によると、
「食物を与えられなかった陛下の目は、アヘン中毒者の禁断症状そのものだった。陛下は宇宙全体を呪いの言葉で埋め尽くすかのような叫び声をあげ、あまりの異常さに革命兵士のなかには嘔吐する者までいた」
そうです。
地下牢に入ってからも、国王の狂乱状態は続きました。
食事は1日に2度、粗末なものを与えられるだけです。
それでも食べているあいだはおとなしくなるのですが、食べ終わると「腹が減った」「腹が減った」と暴れはじめます。
しかし国王に忠実なピエールは、万一のときの備えをしていました。
王のための美味な保存食を、あらかじめ屋敷の地下に蓄えてあったのです。
自分自身が囚人であるために、その保存食を国王に渡すのが難しかったのですが、あるときチャンスが到来しました。
彼らを監禁している革命兵士のなかに、容姿端麗なピエールに恋をする男がいました(ピエールも男です。念のため)。
ピエールはその兵士をたらしこむことに成功しました。
兵士に命じて、保存食がイル16世のところに運ばれるようにこっそり仕組んだのです。
王は与えられた食べものをがつがつと口にほうりこみます。
その動きは飢餓の子どもそのものでしたが、王の体型じたいは飢餓の逆で、とんでもなくメタボでありました。
◆◆◆
国王の裁判が行われました。
狂乱するのを避けるため、国王には特例で食事が与えられ、彼は食べながら裁判を受けました。
死刑の判決がでました。
死刑の判決が出たというのに、国王はなんの反応もしませんでした。
ひたすら食べ続け、いまここで何が起きているのかをまるで理解していないようでした。
マリア・パトリシアも死刑の判決を受けました。
彼女はイル16世の処刑の前日に、ギロチンの露と消えました。
彼女は巨大な刃が落ちてくる直前まで、
「なんで自分がこんな目に遭わなければならないのか」
と怒鳴りつづけたそうです。
翌日はいよいよ、イル16世の死刑執行の日でした。
その日の早朝。
牢番の長(おさ)がやってきて言いました。
「イル16世陛下。陛下の処刑は1時間後に行われます。最後のときを安らかなお気持ちでお過ごしなさいますよう」
食事が支給されました。
最後の食事というわけです。
食べはじめたイル16世を尻目に、牢番の長(おさ)は部下の牢番たちともども、静かに立ち去りました。
向かい合った牢屋にいるピエールは、泣きながら国王に声をかけました。
この25年間のお礼と、自分も遠からずあの世に参ります、あの世でまたお会いしましょう、ということを言いたかったのですが、うまく話すことができませんでした。
嗚咽がでるばかりでした。
すると、それまで「最後の食事」をしていたイル16世の動きが、はたと止まりました。
彼の眼が宙をあらぬようにみつめ、顔がゆがみはじめます。
やがて、口がヘビのように大きく開かれ、数秒後、あの
「ずずずず、ずずずず」
という音がピエールの耳に届いたのでした。
23年前の、あの音…。
ピエールはその場にへたりこみました。
「ずずずず、ずずずず」
は続きます。
ほどなく、イル16世の口から黒いぶよぶよした塊が、ゆっくりと吐きだされてきました。
「ずずずず、ずずずず」
吐きだされた黒い「何か」が地面でとぐろを巻いています。
いつまでもいつまでも吐きだされてきます。
その量は、イル16世の体の大きさを超えていました。
なんと、その塊には「目のようなもの」がありました。
「目のようなもの」は、格子のすきまからピエールをまっすぐ見据えます。
凍りつくピエール。
やがてその黒い塊は、
「ずずずず、ずずずず」
という音を相変わらずたてながら格子をすりぬけて牢屋を出てきました。
こっちに来る!
ピエールはそう思いましたが、体を動かすことができません。
しかし黒い塊は方向を変え、
「ずずずず、ずずずず」
と地下のさらに深い闇へと消えていきました。
しばらくして、牢番が数人やってきました。
「時間です、陛下。刑場にお連れせねばなりません」
それまで口をぽかんと開けていたイル16世が、目をまるくして突然こんなことを言いました。
「ど、どうして僕はここにいるの? ここはどこ? 母上はどこ?」
その声や話し方は、30男のものではありませんでした。
子どもの言葉遣いです。
「なんでこんな暗い所にいるの? そなたたちは誰? ピエールはどこ? かくれんぼはどうなったの? ピエールは?」
「陛下! かくれんぼは終わりました。ピエールはここでございます」
ピエールは叫びました。
しかしイル16世はピエールを見て言いました。
「おまえはピエールじゃない。おまえは大人じゃないか。ピエールはどこ? ピエール! いたたたた。痛い、痛い!」
突然、腹部に手をあててうずくまります。
彼は、涙をポロポロこぼしながら、か細い声で、痛い、痛い、ピエール助けてと訴え続けます。
牢番の長(おさ)が決然と言いました。
「陛下、覚悟をお決めください。仮病を使おうとも、もはや逃れるすべはございませんぞ」
部下の牢番たちが、腹痛で動けないイル16世の肥満した体を牢から引きずり出し、ピエールの前から連れ去っていきました。
国王のすすり泣く声が、いつまでも残りました。
ピエールが親友イル16世の姿を見たのは、それが最後でした。
◆◆◆
ピエールはその後、裁判を受けましたが、死刑をまぬがれ、国のはずれにある小さな家に監禁されました。
政治に関わっていなかったことが、彼の命を救ったようです。
監禁された家で、彼は33歳のときに病死しました。
彼の死因については、とくに怪しい点はなかったとされています。
ピエールの自伝の原本は、プリウス博物館に展示されています。
自伝の最後に「得体のしれない黒い塊」のイラストが描かれており、このイラストが見えるように展示されています。
博物館員の説明によると、ピエール本人が描いたのではなく、腕のよい画家に描かせたものだそうです。
リアルな不気味さとあまりの迫力に、気分を悪くする人も少なくないとのこと。
You Tube にそのイラストが出ているといううわさも聞きましたが、まだ見つかっていません。
(「ビッグイーター」 完)
松宮園生です。
今回と次回は今までとちょっと毛色の
違う話です。
◆◆◆
イボンヌ朝最後の王、イル16世。
彼は非常な大食漢(大食い)としても
知られています。
そもそもイボンヌ朝は豪華絢爛を
きわめた王朝でした。
歴代の王のもと、毎晩、宮廷で
酒池肉林がくりひろげられました。
食文化も発達し、大食いであることは
自慢できることでもあったようです。
なかでもイル16世の食欲は群を
ぬいていました。
ピエールという男がいます。
イル16世と同年同日に生まれたということもあり、5歳のときに遊び相手としてイル16世に仕えることになりました。
どうして貴族でも裕福な商家でもなく「平民」の生まれであったピエールが、イル16世の遊び相手に選ばれたのかはよくわかりません。
しかし彼は生涯の友としてつねにイル16世のそばにいたようです。
イル16世から絶大な信頼を得ていましたが、決して政治にかかわることはありませんでした。
そのピエールの自伝を読んでいたら、不思議なことが書かれていたのでご紹介します。
イル16世は子どものころ、食が細かったそうです。
ほとんどの料理には手をつけずに残してしまいますし、味に工夫をこらした甘いお菓子にもあまり興味を示しませんでした。
宮廷での毎晩の宴会も、彼にとっては苦痛でしかありませんでした。
当然、当時の宮廷人とは思えないほど痩せていました。
王と妃は王子のことをたいへん心配しました。
ところがある日を境に、それが一変します。
イル16世(当時はイル王子)が7歳のとき、2人は貴族の子弟数人を交え、宮殿の広大な庭でかくれんぼをしていました。
貴族の子弟の1人が鬼(探す役)で、王子とピエールは連れだって花壇の裏に隠れました。
ピエールがふと振り向くと、今の今まで一緒にいた王子がいなくなっています。
ピエールは王子を探し始めました。
すると、別の花壇のかげから
「ずずずず、ずずずず」
という音がします。
本能的に危険を感じたピエールは、音をたてないようにこっそり、音のするほうに這っていきました。
花壇の隙間から奥をのぞきこんだピエールは、息をのみました。
王子が気を失って倒れています。
そこに得体の知れない黒いぶよぶよの塊が、覆いかぶさっていました。
王子よりも大きな、黒い塊です。
王子の口は大きく開かれています。
黒い塊は、王子の口から体内に入ろうとしているのでした。
「ずずずず、ずずずず」
という音は、その音だったのです。
ピエールは震えが止まらなくなりました。
やがて黒いぶよぶよは、王子の体に完全に入ってしまいます。
あんな大きなものが入ったにも関わらず、不思議なことに王子の体型は変わりませんでした。
王子は目をさまし、何事もなかったかのように平然と起き上がりました。
「腹が減ったな」
王子はつぶやきます。
腹が減った、という言葉を王子が口にしたのは、おそらくこれが人生の最初でしょう。
彼はかくれんぼのことなどすっかり忘れた風情で、宮殿のほうに歩きだしました。
◆◆◆
王子が変貌したのはそれからでした。
それまで食が細かったのが、とつぜん食欲の権化にようになりました。
出された料理を次から次へと平らげ、とどまるところを知らなかったのです。
急激な変化に周囲は驚き、医者の診察まで受けましたが特に変わったことはありませんでした。
それまで食の細さを心配していた王も王妃も、今度は王子の異常な食欲を心配するようになります。
王子は眠っているとき以外は、ほとんど絶え間なく食べ続けました。
宮廷での宴会でも、人々が目をみはるような食べっぷりでした。
当然、みるみる太りました。
当時の宮廷人は、宴会で美食を追及するために大食いをしていました。
大食いなのはイル16世だけではなかったのです。
大食いを続けるために、
「食べては吐き、吐いては食べる」
ということをするのが普通でした。
王子も食べたり吐いたりを繰り返すようになります。
吐いてはいますが、それでも体は太ります。
ピエールは引き続き、王子の遊び相手として仕えています。
あのとき花壇で目撃したことを、彼は誰にも言いませんでした。
怖くて言えなかったのです。
王子にも。
10年が過ぎました。
17歳になったとき(=ピエールも17歳)、王子は結婚をしました。
相手は隣国からやってきた、1歳年上の美女、マリー・パトリシアです。
王子の結婚をきっかけに、ピエールは王都プリウスの一角に大きな屋敷を与えられ、そこに住みながら宮殿に通うようになりました。
それまでピエールは宮廷の外に出ることがまったくありませんでした。
5歳のときに宮仕えを始めて以来、一度も出たことがなかったのです。
外に出てみて、ピエールは驚きました。
あれほど豪華絢爛な宮廷の様子に比べ、プリウスの市民のなんと貧しいことか。
王侯貴族や一部の恵まれた商人をのぞけば、そこにあるのは貧窮でした。
人々はボロ雑巾を身にまとい、今日の食べ物を求めて市内を徘徊していました。
イボンヌ王朝に対する無言の怨嗟の声も、ピエールには聞こえてくるように感じました。
数ヶ月後、父王が亡くなりました。
王子は即位してイル16世になります。
王となった彼は、ますます食べるようになりました。
国家予算を使って食べるわけですから、生半可なものではありません。
来る日も来る日も豪勢な宴会をもよおし、食べては吐き、食べては吐きを繰り返しました。
国の政治は臣下に任せ、自分は食べること以外にあまり関心を示さないようになります。
妃のマリー・パトリシアは食べてばかりの夫を軽蔑しはじめます。
さっさと寝室を別々にし、美しい宝石と、高額な衣装と、イケメン貴族との浮気にうつつを抜かすようになりました。
民衆の間でが貧困と食料不足が広がっているという話を聞いたときに
「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」
というセリフを彼女が言ったという話は有名です。
本当に彼女が言ったのかどうかは分かりませんが、このセリフがプリウス市民のあいだにうわさとして伝わると、市民はますますイボンヌ王朝を憎悪するようになりました。
(以下次号)
松宮園生です。
* 日本に食品を輸出したいアメリカ企業
* アメリカから食品を輸入したい日本企業
この両者の仲介をするのが僕の仕事です。
さて貿易って異なる国どうしの取引なわけで、
使う言葉が違いますよね。
ですので、コミュニケーションはいつも面倒です。
でも、そのほかにもいろいろヤヤコシイことがあります。
何がいちばんヤヤコシイかというと、買い手と売り手が何千キロも離れていることです。
そのせいでいろんな手間が生じます。
たとえば…。
◆◆◆
日本のテケテケ食品株式会社がアメリカのグーフィー食品株式会社に電話をしたとしましょう。
「グーフィー食品のギークです」
「ギークさん? こちらテケテケ食品の高橋です。おたくのドライフルーツを1000ケース買いたいんだけど、いくら?」
「2万ドルです」
「もう少しまかりませんか」
「では 1万9000ドルでいかがですか」
「よござんす。それでよろしく」
「お買い上げありがとうございます」
数日たちました。
「もしもし。テケテケ食品の高橋ですけど」
「グーフィー食品のギークです。先日はお買い上げありがとうございます」
「何言ってるんですか。待てど暮らせど荷物が来ないじゃないですか」
「ご注文の品はわが社の倉庫にちゃんと置いてありますよ。テケテケマークを貼ってありますから、すぐに分かります。いつでも引き取りに来てください」
「は? 引き取りに行かなくちゃいけないんですか? 運んできてくれるものだとばかり思ってました」
「おやおや。引き取りに来られるものだとばかり思ってました」
「あははは」
「あははは」
2人は親友になりました。
友情はいいけど、問題が残ります。
要は、売り買いするだけじゃなくて「品物を運ぶ」ことを考えなくちゃいけないわけです。
誰がどうやって運ぶのか。
これを決めないと、いつまでも「あははは」と笑い続けなくてはいけません。
「ではこうしましょう」ギーク氏が言いました。「わたしのほうで運送会社に電話しておきます」
「よろしくお願いします。ではさようなら」
「さようなら」
数分後、今度はギーク氏が高橋氏に電話をかけます。
「ハロー。グーフィー食品のギークです。高橋さんはいらっしゃいますか」
「高橋です」
「さっきはどうも」
「どうも」
「あのう。運送会社を手配すると言いましたが、で、どこに運ぶように運送会社に言えばいいですか?」
「あっ、うっかりしてましたね。あははは」
「あははは」
「えっと、ウチは千葉県袖ケ浦市にありますので、そのへんまでもってきてください」
「分かりました。そのように言います。さようなら」
「さようなら」
◆◆◆
「もしもし。テケテケ食品の高橋です」
「グーフィー食品のギークです。品物は届きましたか」
「何言ってるんですか。待てど暮らせど来ませんよ」
「それはお気の毒です。それが何か?」
「どうなっているんですか」
「どうなっているかと聞かれても…。先日運送会社が来まして、品物を引き取っていきましたよ」
「しかし現実に荷物が来ていないんです」
「それって悪いのは運送会社ですよね」
「それはそうですが、おたくから運送会社に文句を言ってくださいよ」
「えっ。おたくから言ってくださいよ」
「なんですと! そういえば、いざというときにどちらが運送会社に文句を言うのか決めてませんでしたね」
「そうですね。あははは」
「あははは」
2人の友情はさらに深まりました。
「じゃあ、こないだはギークさんに運送会社に電話してもらったので、今度はわたし、高橋のほうから運送会社に連絡することにします」
「よろしくお願いします、高橋さん。ではさようなら」
「さようなら」
で、高橋氏が運送会社に電話をかけます。
「もしもし。シロイヌ運送です」
「テケテケ食品の高橋といいます。アメリカのグーフィー食品にドライフルーツを1000ケース注文しました。それが運ばれてくるはずなんですが、どうなっていますか?」
「少々お待ちください。…ああ、それでしたら、ロサンゼルスの港に置き去りにされていますね」
「えっ、どういうことですか?」
「荷物が大きすぎて、コンテナに入らなかったのです」
「そ、そんな…」
「おまけに、置き去りにされた荷物を誰も面倒みないので、ロサンゼルスの港湾当局がカンカンに怒ってて、犯人には保管料金を払わせるからな! とすごい剣幕です」
「じゃあすぐ保管料金を払ってください」
「それはテケテケ食品さんに請求すればいいですか?」
「ウチが払うわけないでしょう。知りませんよ」
「知らない? でしたら、わたしどもも手の打ちようがありません。わたしどもが払う筋合いのものではないですから」
「コンテナに入らなかったのはグーフィー食品さんの手落ちです。グーフィー食品に請求してください」
「わかりました。少々お待ちください」
「シロイヌ運送の小早川といいます。高橋さんはいらっしゃいますか」
「高橋です」
「グーフィー食品に問い合わせましたが、保管料金を払うつもりはないそうです」
「なんですと? あなたはそれですごすごと引き下がってきたわけですか?」
「当然です。この問題はテケテケ食品さんとグーフィー食品さんの問題です。わたしどもの問題ではありません」
「わかりました。ではわたしのほうでグーフィー食品と話します。いずれにせよ、保管料金はさっさと払って請求書をグーフィー食品に送ってください」
「それはできません。グーフィー食品が払ってくれるというまで、わたしどもは何もできません」
「むむむ…」
で、高橋氏はふたたびグーフィー食品に電話をします。
「もしもし。テケテケ食品の高橋です」
「グーフィー食品のギークです]
「困るじゃないですか。運送会社に聞いてみたら、荷物はロサンゼルスの港に置きっぱなしだそうです」
「その話はシロイヌ運送さんから聞きました。保管料金を払えと言われましたよ。断りましたが」
「なんで断るんですか。支払ってください。そして早く荷物をコンテナに積んでください」
「それは運送会社の仕事じゃありませんか」
「それはそうですが、困ります。責任のなすりあいをしてたら、いつまでたっても荷物はロサンゼルスに置き去りじゃないですか」
「置き去りですね。まいりました」
「こういう場合、どっちに責任があるかを決めておけばよかったですね」
「ほんとですね。あははは」
「あははは」
「…あ、ロサンゼルスの港湾当局から電話が入っています。そのままお待ちいただけますか?」
「分かりました」
↓
1分たちました。
↓
「お待たせしました」とギークが電話口で言いました。「大変なことになりました。ロサンゼルスで暴風雨があって、おたくの荷物が海に流されてしまったそうです」
「ええっ!」
◆◆◆
テケテケ食品の高橋氏。
注文したドライフルーツ1000ケースを受けとることができるのか?
次号、乞うご期待!
(以下次号)
松宮園生です。
日本を見習い食育立国を標榜(ひょうぼう)する
ザイオン共和国のサラリーマン生活を見てみましょう。
(ザイオン共和国についてはここをクリック)
ある日のこと。
会社で課長に呼ばれました。
「何でしょう」
「松宮君は朝ごはんを食べているかね」
「もちろん食べてます。早寝早起き朝ごはん、モーフィアス大統領の命令ですからね」
「嘘をつくな」課長が机をドンと叩きました。「食べてないだろ。ネタはあがってるんだぞ。お前のやってることはすべてまるっとお見通しだ」
「それ、『トリック』で主人公の山田奈緒子が言うセリフじゃないですか」
「馬鹿もん。そんなことを言ってるんじゃない。なぜ朝ごはんを食べないのだ」
「ど、どうして僕が朝ごはんを食べていないことが分かるんですか」
「これを見ろ」
「何ですか、この紙」
「よく読め」
「はあ。えっと、社員の朝ごはん摂取状況に関する内部調査? あ、僕の名前が出てる」
「お前はこの1ヶ月、朝ごはんを2回しか食っとらんな」
「はあ。実はそうですが。何で分かったんですか」
「それは言えん。ていうか、わたしも知らん」
「まさか盗聴とか」
「だからそんなことは知らんよ。問題なのは、松宮君、ザイオン共和国の国民であるきみが、朝ごはんを食べてないということだ」
「はあ」
「モーフィアス大統領もたいへん心配しておられる」
「はあ」
「とはいえ、大統領も、無理やり朝ごはんを国民に強制するつもりはないそうだ。ちゃんと納得したうえで、心から喜んで食べてほしいとおっしゃった」
「それはどういうことで…」
「これから食事指導を受けたまえ」
「食事指導?」
「食事指導を受けて、朝ごはんの大切さを学んでこい」
「今からですか?」
「今からだ。嫌がると給料下げるぞ」
「し、しかしこれから打ち合わせがあるんですけど」
「キャンセルしたまえ!」
◆◆◆
「あーめんどくせー。朝ごはんが大切だなんて耳にタコができるほど聞いてるよ。おれに朝ごはんを食べさせたかったらだな、キャメロン・ディアスみたいな女の子が『園生さん、朝ごはん食べてね。はい口をあけて。あーん』って言ってくれれば食うんだよ。こんな音楽室みたいな部屋で食事指導を受けるなんて、やってられっかよ。早く終わらせて帰ろ。あ、誰か来た」
「松宮園生さんですね。わたしが管理栄養士の佐久間象子です。モーフィアス大統領に招かれ、日本から来ました」
「ども」
「それだけではありません。わたしは管理栄養士であると同時に、栄養教諭の免許をもっており、フードコーディネーターの資格も持っています」
「はあ。すごいですね」
「それだけではありません。食育必死講座1級でもありますし、食育プリーチャーの資格も取っています」
「はあ。なんかよく分かりませんけど、すごいですね」
「それだけではありません。食育推進士試験はムラサキ合格しています」
「ムラサキ合格」
「ムラサキ合格が最上位です。次がキイロ合格。その次がアオ合格です」
「はあ」
「それだけではありません。炭水化物のソムリエでもあり、日本カルパッチョ協会認定カルパッチョ講師の免状も持っているのです」
「はあ」
「そんなわたしですけど、なにか?」
「は?」
「ですから、そんなわたしですけど、なにか?」
「いや、なにかと言われても…」
「あなた、松宮さんとおっしゃいましたね。このわたしをご指名で、相談ごとがあっていらっしゃったんでしょ? 相談ごととはなんですか?」
「いやあの。指名した記憶はなくて、それに相談ごともあるわけじゃなくて、ていうか、会社からここに来いって言われてやってきたんですけど」
「まあ」
「食事指導を受けろと上司に言われまして、しかたなく…」
「あらまあ。自主性のない方ねえ、あなた。人に言われていやいや食事指導を受けても、効果はありませんよ」
「そうスよね。自主性がないと効果でないスよね。よく分かりました。では帰って自主性をきたえて、また出直してきます。今日はもう失礼します。ごきげんよう」
「待ちなさい」
「はあ?」
「逃げようたって、そうはいきませんよ。わたしが帰っていいと言うまで帰れないのはご存知? ドアの向こうにはガードマンが控えています。食育ガードマン協議会の認定ガードマンです」
「なんですか、その食育ガードマンって」
「食事指導中によこしまな思いを抱くメタボ男性から、かよわい管理栄養士を守るためのガードマンです。とにかく、あなたは逃げられません。まだ帰るのは早いのです。言っときますが、逃げられないからって、わたしを襲ったら直ちにガードマンが入ってきますからね」
「この人を襲いたいと思う男は、この世にはいないと思うけど…」
「なにか言いましたか」
「いえいえ、独り言です」
「ではまず、レッスンのプログラムを説明します」
「レッスン?」
「まず、歌を暗唱してもらいます」
「う、歌?」
「歌です。わたし佐久間象子が作詞作曲した世紀の名曲『朝食賛歌』。これを完璧にマスターしてもらいます。次に、この歌には振付がありますから、振付もマスターしてもらいます」
「な、なんでまたそんなことを…」
「今までの平均で言うと、歌と振付をマスターするのに、たぶん6時間くらいは七転八倒するでしょうね。わたしのレッスンは厳しいから」
「ろ、6時間? 七転八倒?」
「そう。これを 6-7-8 の法則といいます」
「はあ?」
「わたしの『朝食賛歌』を歌いこなすには羞恥心を消さないといけません。『大の大人がなんでこんなレトロなこっぱずかしい歌を歌わなくちゃいけないんだ』と思っているうちは、絶対に歌いこなせません。羞恥心を捨て去り、心から歌詞とメロディに身を任せるのです」
「はあ?」
「羞恥心があったら食育なんてできません。食育標語を作ったり、食育カルタを作ったり、食育紙芝居を作ったりするのに、羞恥心は邪魔です。いまが21世紀であることを、忘れなくてはならないんですよ」
「とほほ…」(←死語)
「この『朝食賛歌』をマスターしたら、とてもすがすがしい気持ちになりますよ。他人にも地球にもやさしい人間になれるんですよ。そのあと、作文を書いてもらいます」
「作文?」
「作文を書いてもらいます。朝ごはんを毎日食べるために、あなたは今日からどんな工夫をしようと思いますか。2000字程度で書いてもらいます」
「2000字も!」
「100点満点です。80点以上とれたら、今日は帰っていいですよ」
「と、とれなかったらどうなるのですか?」
「映画を見てもらいます。日本の農林水産省が作った『めざましごはんのススメ』です(※)。優香さんが出てるから、あなたみたいな即物的な人でも楽しめますよ。そのあとまた、同じ作文を書いてもらいます。この繰り返し」
「はらほれひれはれ…」(←死語)
(※)http://www.maff.go.jp/j/soushoku/kakou/mezamasi/about.html
◆◆◆
ドアが開き、女性が2名、男性が1名、入ってきました。
女性のうち1人は、ピアノの前に座りました。
あとの2人(男女)は、佐久間象子の両側に立ちました。
背筋がピンとしており、タイツをはいています。
「わたし佐久間象子が作詞作曲した世紀の名曲『朝食賛歌』。今から歌と振付のお手本を見せますからね。よく見て、よく聞くのですよ、松宮さん。一緒にすがすがしい気持ちになりましょう」
ピアノの鍵盤が叩かれ、『朝食賛歌』の歌と踊りが始まりました。
ほどなく、あまりの恥ずかしさに耐えかねた松宮園生は「やめてくれ。助けてくれ」と叫びながらドアを何度もたたきはじめます。
ドアはびくともしません。
『朝食賛歌』がサビの部分に入ると、松宮園生は七転八倒し、泣きだし、失禁し、気絶してしまいました。
曲が終わりました。
すがすがしい表情でたたずむピアニストと2名のダンサー。
湯気をたて、床に横たわりピクピクうごめく肉塊となった松宮園生を見下ろしながら、佐久間象子は悪態をつきました。
「そりゃわたしの作った『朝食賛歌』はアンタみたいなやつからみりゃ恥ずかしい歌かもしれないけどさ、ここまでひどい反応されたら、ムカつくわね。あんたたち、こいつをやっておしまい!」
やっておしまい、って、ど、どうなるの?
松宮園生です。
こんなメールをもらいました。
◆◆◆
はじめまして。
松宮先生の
「21世紀神様の悩み」
というシリーズが気に入っています。
神様と悪魔というテーマに触発されてこんな文章を書いてみました。
よかったら採用してください。
↓↓↓
神様と悪魔が、人間世界をあいだにはさんで食育チェスを始めました。
(先手)神様: 天地を創造し、大地にブロッコリー、カリフラワー、ホウレンソウなどの野菜を繁殖させ、人間が健康に長生きできるよう取りはからう(ただし、勢いあまって O-157 まで作ってしまった)。
(後手)悪魔: アイスクリームを作りだし、「トッピングにチョコレートはいかがですか?」というセリフを考えだす。人間の男は「チョコレート、いいねえ」といい、女はついでにコーラを注文し、2人とも体重が3キロ増えた。微笑む悪魔。
(先手)神様: 人間の男女がこれ以上太らないようにヨーグルトを創造し、アイスクリームの代わりに食べなさいと人間に命令する。
(後手)悪魔: ヨーグルトに味付けをするため、小麦から薄力粉を、サトウキビから砂糖を作りだし、両者を混ぜ合わせたものを人間に教える。女性さらに太る。
(先手)神様: 健康のためにもっとサラダを食べなさい、と人間に命令する。
(後手)悪魔: サラダにかけるサザンアイランド・ドレッシングと、脂のしみこんだクルトンを作りだす。人間の男女はさらにベルトを緩める。
(先手)神様: 人間がヘルシーなオイルを使うことを期待して、オリーブオイルをもたらす。
(後手)悪魔: 魚のフライと鶏のカラアゲを作りだす。人間はさらに太り、コレステロール値が上がる。
(先手)神様: 人間が体重を落とせるように、ジョギングシューズを創造する。
(後手)悪魔: ケーブルテレビと、チャンネルを変えるのにわざわざ動かなくていいようにリモコン作りだす。人間はテレビに夢中になり、体重増える。
(先手)神様: 脂肪分が低く栄養の豊富なジャガイモを人間にもたらす。
(後手)悪魔: ジャガイモをジャンクフードのポテトチップスに変貌させ、人間に教え込む。
(先手)神様: 「牛肉は食べたきゃ食べてもいいが、健康のために赤身のところだけを食べなさい」と人間に教える。
(後手)悪魔: マク○○○ドを作りだし、ハンバーガーの形で赤身の肉を人間に食べさせる。さらに「ポテトも一緒にいかがですか?」「Lサイズにしませんか?」というセリフも作りだす。生活習慣病がはびこる。
(先手)神様: 溜息をつき、食事指導プログラムや運動プログラムの作り方を人間に教え込む。
(後手)悪魔: 松宮園生にブログを書かせる。チェックメイト。
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なんで最後に松宮やねん!