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マツミヤ倶楽部

2007.07.24 22:43

浮気農家 vs 高校教師


チーフの松宮園生です。

浮気農家のジョン・ソイビーンを覚えていますか?
(関連記事、以下を参照)
男のイヤリング
突撃トウモロコシ
ある食育夫婦の悲劇

そのジョンの話です。

トウモロコシがバカ売れして小遣いを貯めたジョン・ソイビーンの楽しみは、リノというカジノの街に遊びに行くことでした。
アメリカでカジノというと、ネバダ州にあるラスベガスが有名ですね。
リノは同じくネバダ州にあり、ラスベガスよりひと回り小さな街です。

ジョン・ソイビーンに言わせると、
「カジノは銀行と一緒。負けたときは、預金したと思えばいい。また引き出せる」
だそうです。
ただし、銀行とカジノには唯一相違点があり、それは
「銀行は残高さえあればいつでも引き出せるが、カジノはそうではない」

ジョン・ソイビーンがカジノに行くことは奥さんには内緒です。
なぜ内緒なのかはよく分かりません。
理由を聞いても教えてくれないので。

さて、リノ行きの飛行機にジョンが乗ったときのこと…。

機内でジョンの隣に座っていたのは、映画「ジュラシック・パーク」に出てくる数学者とよく似た風貌をしている男でした。
むろん、ジョンとは初対面です。

その男、窓側に座っていたのですが、外の景色を見るのにも飽き、機内誌を読むのにも飽き、音楽を聴くのにも飽き、いささか退屈を覚えていました。
何度もあくびをしたあと、彼は隣のジョンに話しかけました。
「やあ。僕はゲイリー。サンフランシスコで高校教師をしている」
「ジョンでござる。職業は農家でござる」
2人は握手をしました。

「さっそくなんだが」高校教師のゲイリーは言いました。「あんた、ゲームは好きかい?」
「ゲームにもよるでござるが」
「そうか」とゲイリー。「こんなのはどうだい。クイズをするんだ。まず僕があんたにクイズを出す。あんたが答えられなかったら、あんたは僕に5ドル(約600円)払う。で、次にあんたが僕にクイズを出す。僕が正解できなかったら、あんたは僕から5ドル受け取る」

しかし高校教師とクイズ合戦をして勝てるとは思えなかったため、ジョンは丁重にその申し出を断りました。

「そっか、じゃあ、いいや」
ゲイリーは気にしたふうもなく、会話はそこで途切れました。
彼は窓の外を眺めたり、さっき読み終えた機内誌をまたパラパラめくったりしました。

それでも退屈を紛らわすことができません。
耐えられなくなった高校教師は、再びジョンに話しかけました。
「なあジョン。こんなのはどうだい。まず僕があんたにクイズを出す。あんたが答えられなかったら、あんたは僕に5ドル(約600円)払う。で、次にあんたが僕にクイズを出す。僕が正解できなかったら、あんたは僕から50ドル受け取る。つまり10倍だ」

今度はジョンも申し出を受けました。

「オーケー。じゃあ僕からクイズだ」高校教師は言いました。「地球と月との距離は何マイルある?」

ジョンは即座に財布を開き、5ドル札をゲイリーに手渡しました。
ゲイリーは上機嫌でそれを受けとり、自分の財布におさめました。
「じゃ、あんたの番だよ、ジョン」

ジョンは少し考えて、それから言いました。
「まっすぐだと何でもないが、斜めにすると恐ろしくカッコ良くなる農作物は、何でござろう?」

高校教師の顔から、うすら笑いが消えました。
彼は長いこと考えこんだあげく、カバンからノート型パソコンを引っ張り出してエクセルで何やら計算を始めました。
それでも答が出ないので、今度はウィキペディアを懸命に検索し始めました。

リノに近づいたため着陸態勢に入るというアナウンスがあり、高校教師はパソコンを閉じなくてはなりませんでした。
彼は飛行機が着陸するまで必死に考え続けましたが、答が出ません。
「降参だ、くそっ」ゲイリーは悔しそうに言い、財布から50ドル札を1枚取り出し、ジョンに手渡しました。

飛行機は無事にリノ空港に到着し、乗客たちはシートベルトを外して立ち上がりました。
ジョンも、受けとった50ドルを財布にしまうと、立ちあがりました。

「ちょっと待った」高校教師は言いました。「それはないだろう。あんたのクイズの答は何なんだ?」

ジョン・ソイビーンは振り返り、少しのあいだ考えました。
それから静かに財布を開き、5ドルを取り出し、高校教師に手渡しました。

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2007.07.23 22:18

食育三国志 外伝3


チーフの松宮園生です。

前回までのあらすじ)
食育の講座を受講しようと思い、あちこちに
資料請求をした小判大介君。
その後、山のように資料が届き、勧誘電話も
じゃんじゃんかかってきました。
気分転換に街に出ると、なんと食育講座のキャッチセールスにつかまってしまう…。
そのセールスレディは、小判君の高校の同級生でした。

◆◆◆

地味な竹村さんに連れてこられた部屋は、教室に使われているところのようでした。
3人がけのテーブルがいくつも並び、正面には教壇と、ホワイトボード。

しかし小判君は見逃しませんでした。
教室の壁に
「受講生勧誘成績一覧表」
と書かれた巨大な模造紙が貼られていたのです。
講師の名前が並んでいて、棒グラフになってて。
竹村先生の、長くもなく短くもない棒が…。

もう1つ、小判君が見逃さなかったことがあります。
教室の壁のあちこちに、さりげなく、
「食育するぞ」
「食育するぞ」
という標語が貼られていたのです。

「修行するぞ」
「修行するぞ」
というキャッチコピー(?)の新興宗教が、たしかあったよな…。

小判君の背後で、ドアの閉まる音がしました。
ギクッとして振り返ると、地味な竹村さんが、教室のドアに鍵をかけていました。
「ちょちょ、ちょっと」
小判君が文句を言おうとすると、地味な竹村さんは「しー、静かに」と鋭く言い、壁際にある社内電話の受話器をとりあげました。

「竹村です。レベル2、完了です」

なんだよレベル2って…。
誰に何を報告してんだ?

地味な竹村さんは、受話器をおくとニッコリ向き直りました。
「安心して。鍵をかけたのは、小判さん、あなたを守るためだから」
「は? 何が攻めてくるわけ?」
「あなた、食育★★講座に資料請求したでしょ。あいつらがね、あなたをここから連れ出そうと狙っているのよ。でも心配はいりません。結界を張ってあるし、食育▽△アカデミーを受講すれば、あなたの食育は安心だから」

は? 結界?

ところが突然、教室の電灯が点滅しはじめました。
同時に、壁際の社内電話が鳴りました。
地味な竹村さんは、受話器をとる余裕がなかったのでしょうか、スピーカーフォンのボタンを押しました。
「緊急事態だ」電話のむこうで男性が言いました。
「ど、どうしました?」と竹村さん。
「食育バリヤーを破られた。知っている食育講座のなかで、あのバリヤーを破れるところはないはずなのだか…」
「食育★★講座のやつらじゃないんですか?」
「たぶん違うと思う。食育★★講座だったら、かんたんに撃退できるんだが…」
「なんとか持ちこたえてください。私のほうは、もう少しで契約できるところなんですから」

契約すんのか、小判君。
つーか、そのバリヤーってなんだ?

しかしそんなことを考える間もなく、地味な竹村さんが鍵をかけたはずのドアが、静かに開きました。
電灯が点滅しているのでよく見えませんが、小太りのオバチャンが、そこに立っていました。
手に合鍵らしきものを持っています。

「小判君、探したわよ」オバチャンが、穏やかな声で言いました。「さあ行きましょう」

地味な竹村さんが小判君の襟首をつかみました。
「あんた誰。他人の獲物を取ろうなんて、そうはいかないよ。この人はウチと契約するんだから。ウチの講座を受けて食育するんだからね」
「食育ふぜいが大きな口をたたくんでない」オバチャンは自分も負けずに小判君の襟首をつかみました。「もらっていくからね」
「渡すもんですか」
双方が、小判君の襟首を引っ張りはじめました。

「ギャー」小判君がお約束の悲鳴をあげています。
しかし無残な綱引きは小判君の悲鳴などおかまいなしに続きました。
テーブルや椅子が次々に倒れました。
しかし綱引きはやみません。

最後に勝ったのは小太りオバチャンのほうでした。
地味な竹村さんは床にうずくまっています。
その姿を一瞥すると、小太りオバチャンは小判君の襟首をつかんだまま、のっしのっしと教室を去っていきました。
気絶している小判君は、そのままずるずると引きずられていきました。

今度はどこに連れていかれるのか、小判君?
そして、このオバチャンは何者?

(以下次号)

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2007.07.22 18:06

21世紀神様の悩み その1


プロダクション・チーフの松宮園生です。

地球の人口は20世紀以降、大幅に増えました。
人口が増えると、当然、死亡する人数も増えます。
これは神様にとって頭の痛い問題でした。

まず、天国に行くのか地獄に行くのかを「審判」しなくてはいけませんが、その審判が長蛇の列で忙しくてしかたがありません。
次に、天国の人口も増えますし、地獄の人口も増えます。

人口増加に悩む神様に対し、アメリカ人のマクガバンという人が、自分が生前にものした5000ページもの分厚い報告書を献上しました。
人間世界では「マクガバン・レポート」と呼ばれているものです。
1977年に、マクガバン上院議員がアメリカ議会で発表した、アメリカ人の生活習慣病について調べた報告書のことです。

神様はこのレポートを読んでびっくり仰天。
というのは、人間世界がいかにおかしなことになっているかがその報告書に書いてあったからです。

かたや、毎日の食料にも事欠く国で苦しんでいる人々がいるかと思えば、
かたや、アメリカや日本のような国では、飽食のあまり人々がメタボになっている。

けしからん。
神様は急遽、地獄をもうひとつ増やすことにしました。
名づけて「メタボ地獄」。
親からもらった大事な体なのに、運動不足と飽食にまみれてダメにした罪。
そんな罪人が行くところです。

そこはメタボな人の集まりでした。
メタボな人でひしめきあっているので、不快指数がたいへん高い状態になっています。
メタボ地獄には人語を話すカエルがたくさんいて、毎晩、
「お前の母ちゃん出不精」
「お前の父ちゃんメタボ」
と鳴き続けます。
それに呼応して別の種類のカエルが子どもの泣き声で、
「うちの母ちゃんは出不精なんかじゃないもん」
「うちの父ちゃんはメタボなんかじゃないもん」
と鳴き続けます。
自分のせいで子どもが苛められるのを聞き、罪人たちは涙を流すのです。

しかし地獄を増やすことだけが神様の意図ではありません。
よいことをした人には、よい報いがあるべきです。

人間世界も、メタボが増えるのを黙認していたわけではありません。
アメリカではフード・ピラミッドというものができ、日本では食事バランスガイドというものができました。
アメリカでは「ヘルシーピープル」という総合健康政策が打ちたてられ、日本でも「健康日本21」という総合健康政策が計画されました。
「食育基本法」という法律が日本で誕生しました。
その後すぐに、「食育白書」という本がこれも日本で発行されました。
日本ではさらに、特定保健指導という仕組みが始まろうとしています。
(この一連のストーリーは書くと長くなるのでここでは省略)

人間がこうした努力をしていることを知った神様は、多少感心しまして、人間にご褒美を与えることにしました。
すなわち、メタボ罪人に新しい地獄を用意した代わりに、親からもらった体を大事にして天寿をまっとうした人間には新しい天国を用意することとしました。

名づけて、「ヘルス天国」。

「お、お待ちください」天使があわてて言いました。「その名前では誤解を招いてしまします」

「おおそうか。それもそうだな」
そう考えなおした神様は、「ヘルス天国」という名前をやっぱり却下し、「ウエルネス天国」という名前に変えました。
(神様のネーミングセンスを問うのはやめましょう)

そこはウエルネスな人の集まりでした。
たとえば、雑誌「ターザン」を読む人だけが集まった世界を想像してみてください。
なんか、そういう雰囲気のところです。
よく分かんないけど。

で、「メタボ地獄」「ウエルネス天国」が開店して徐々に賑わいだしたころ…

(以下次号)

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2007.07.20 12:29

あの店はどこへ?

チーフの松宮園生です。
アメリカに住んでいますが、やっぱり日本がいいので早く帰国したい
と思っております。

たまに一時帰国したときの楽しみといえば、
昔よく行ったウマイ店で懐かしい味を堪能することです。
でも、無くなってしまった店もありまして。

つーか、無くなってしまった店をいくらほめちぎって紹介したところで、
誰も喜ばないよね。
でも、書きたいので書きます。日米両方で。

<第3位>
東京は中野区沼袋(←ほとんど誰も知らないマイナーな地名ですね)。
名前は忘れましたが、美人夫婦が経営している洋食屋がありました。
(美人夫婦って、ダンナも美人ということか?)
ランチメニューの「白身魚のムニエル」がたいへん僕の口にあったみたいで。
数年のあいだ、ほぼ1日おきに通っておりました。
でも当時の僕は、
「この白身魚、なんて魚?」
という質問をしない人間だったのが悔やまれます。
(しかも写真、赤身だし)

いまはありません。
けっこう人気があったと思うんだけど、なにがどういう星のめぐりになったのか、ある夏の日、美人夫婦は行先も告げずにどこかへ引っ越ししてしまいました。

<第2位>
ロサンゼルスのビバセンの近く。
ビバセンというのは、「ビバリーヒルズ・センター」というショッピングモールを縮めた呼び方です。
地元の日本人がそう呼んでいます。
初めて聞いた時、
「ビバ専」ってなんだ? そういう性的趣向があるのか?
と、いらぬ想像を膨らませたものです。
そのビバセンのちかくにフレンチ風ベトナム料理の店がありました。
いや待てよ、ベトナム風フレンチだったかな?
気軽に行けて、ベトナム料理にしてはちょっと辛めだったところが僕のツボにハマっていたんですけどねー。
ロサンゼルスに行くときは必ず寄ったものですが…
しかし気に入っているのに、名前が思い出せません。

いまはありません。
ちなみに、この店はニューヨークのミッドタウンに姉妹店があり、姉妹店はいまでも営業しています。
(ちなみに、僕はニューヨーク店でデートの待ち合わせをすっぽかされた過去があります)
ニューヨーク店は残っているのに、なぜかロサンゼルス店だけが、なくなってしまいました。

<第1位>
東京は内幸町(新橋の近く)。
オヤヂサラリーマンの湯気たちこめる繁華街のはずれ(←なんかヤな表現だな)、
日比谷通りと外堀通りが交差する近くに、「旭王」というラーメン屋がありました。
僕にとっては、東京でいちばんウマいラーメン屋でした。
となりに古本屋がありました。
その古本屋で50円払ってテキトーな文庫本を買い、となりの「旭王」でその本を読みながら醤油ラーメンをすするのが楽しみでした。
あの濃厚な醤油のスープを飲み続けるために、僕は普段、ストイックに減塩生活をしてました。
ときどき気分転換で塩ラーメンをすすりましたが、塩ラーメンは軽めのスープだったために、コシのある麺の味わいがダイレクトに感じられ、それはそれで非常によかった。

いまはありません。
こないだ帰国したときに、成田空港から「旭王」に直行したのに、忽然となくなっていました。
オヤヂサラリーマンの湯気だけがたちこめていました。
廃業したのでしょうか。
どこか世界の片隅で営業しているのでしょうか?

<番外編>
シアトルの隣町ベルビュー。
ここに目下絶好調のイチローが住んでいるというウワサですが、会ったことはありません。
その、ベルビューという町のショッピングモールに「ニュージェイクス」というシーフードの店があります。
店じたいは今もありまして。
定番のクラムチャウダーはシアトルのクラムチャウダーコンテストでたまに優勝する程度には飲める。
ここのメニューに、昔は「ノースウェスト・シチュー」というのがあって、要はブイヤーベースなんですけど、かなり旨かった。
旨かったのダ。
そのシチューがあるために通っていたのですが…。

いま、そのメニューはありません。
しばらく通うのを忘れてて先日ひさしぶりに行ったら、シチューがメニューから消えておりましたよ。

◆◆◆

松宮園生が通い始めた店は無くなる。

そんなみょーなウワサが流れないように、毎日ぴくぴく、おとおと生きております。

「旭王」の行方を知っている方がいたら、ぜひご一報ください。

(今回はここまで)

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2007.07.19 11:22

アゴヒゲ その1


チーフの松宮園生です。

僕がテケテケ商事を退職して自分の事務所を構えたばかりのある日、アゴヒゲにスーツ姿のオジサンが事務所にやってきました。

オジサンは言いました。
「あんた、独立したのに仕事がなくてヒーヒー言ってるそうじゃないか。情けないのお。じつはオレもそうなんだ。そこでどうだろう、情けない駄目ビジネスマンどうしで組まないか。一緒に傷をなめあおう」

「ししし失礼な」僕は憤激のあまりどもってしまいました。「ここここう見えても、ししし仕事が山積みなんだぞ。ああああまりに忙しくてでででデートもできないくらいなんだぞ」
「それはあんたに相手も金もないからでしょ」アゴヒゲは落ち着いて言いました。「さっきから電話だって鳴らないじゃないか」
「そそそれはだ、さささサイレントモードにしてるからなんだぞ」

すると、電話が鳴りました。

「あはは。何がサイレントモードだ」
「ななな何を。ででで電話が鳴らないと言って笑ったのはそそそそっちだ。電話が鳴ったからぼぼぼ僕の勝ちだぞ」

なにが勝ちなんだか。

しかし久しぶりに鳴った電話は母親からで、
「さみだらのはさご漬けがうまくできたからお前にも送る」
という平和な内容でした。

アゴヒゲがニヤニヤしながら言います。
「なんだあんた、ママに仕送りしてもらってるんかい」
「ちちち、ちがわい(←死語)」
「まあいいさ。いろんな親子がいるからな。でもあんた、母親のことをマミーと呼ぶのはやめといたほうがいいよ」

呼んでません。

アゴヒゲは憐れむような目をして言いました。
「オレはあんたを助けたいんだ。あんたはオレの若いころにそっくりなんでねえ」
「おおお、大きなお世話だい」

しかしアゴヒゲは聞こえないフリをして
「そうかそうか。喜んでくれてオレも嬉しいよ。ではお近づきの印だ」
そう言って、彼は本を一冊、取り出しました。

「食育バンザイ」
そんな題名の本でした。
表紙の写真のなかでは、たすきをかけたオバチャンたちが、たわわに実った田んぼのまわりに集まってバンザイをしています。

「定価3000円だが、著者割引で2500円にしてやる。よかったなあ、あんた」
「に、2500円?」
「あんたね。まともな人間で21世紀に生きてるんだったら、チザイにはちゃんと金を払うもんだぜ」
「ち、チザイ?」
「知的財産のことだよ。とにかく2500円だ。もうあんたに渡すつもりで、ほーら見ろ、サインもしてあるよ」

アゴヒゲが本のカバーをめくると、なんだか安っぽい字で
「松宮園生くんへ。アゴヒゲより」
と書いてありました。

僕から受けとった(奪いとった)3000円を財布にしまいながら、アゴヒゲは言いました。
「いまお釣りがなくてな。明日渡すから勘弁な」
「あ、明日?」
しかしアゴヒゲはまたもや聞こえないフリをして「それにしてもこの本、ぜんぜん売れなくてなあ。役に立たない内容らしいんだ」

役に立たないのに、それ、チザイなのか?

「でも金は返さんぞ」アゴヒゲは言いました。「その代わり、あんたとは仲良くしてやるよ。コンサルタント料金も格安にしておこう。月20万円でいいよ。よかったなあ、あんた」
「ひー」
「契約書も用意しておいたんだ。ほーら見ろ、サインもしておいた」
「ひー」(←ベタな叫び)

さすがに月20万円のコンサルタントは断りました。

不満そうに立ちあがりながら、アゴヒゲは言いました。「ふーんあんた、それでオレから逃げることができたと思うなよ。あんたのマミーの作った、アミダラ姫をはさんだ漬物とやらが届いたころに、また来るよ。じゃな」

だからマミーじゃない、っつーに。

アゴヒゲが去って呆然としていると、またドアが開きました。
アゴヒゲでした。
「ひとつ聞くのを忘れていたよ」アゴヒゲは言いました。「このへんにさ、カモっつーか、あんたみたいな食育好きの駄目ビジネスマン、ほかにいない?」

(以下次号)

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