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松宮園生です。
(豚インフルエンザの感染爆発は心配です。
感染といえば、昔こういうのを書いたことがあるので、アップします)
↓↓↓
20XX年。
「ファラオB型」と呼ばれるウィルスが蔓延しました。
このウィルスに感染すると、外国産の果物や野菜、大豆や小麦やトウモロコシに対してアレルギー体質になるのです。
その症状は花粉症のひどいのに似ていました。
死ぬことはありませんでしたが、涙は溢れるわ鼻水は止まらないわクシャミは次々と出るわで、その状態が数日続くのです。
たまったものではありません。
有効な治療法もなく、何千万という日本人がファラオB型に侵されていきました。
感染した人は、国産のものしか食べられなくなります。
なので、このウィルスは別名
「地産地消ウィルス」とか
「自給率ウィルス」
とか呼ばれました。
それから2年の月日が流れました…。
◆◆◆
サトミ51は、食育系の殺し屋です。
食育なのに殺し屋という、なんとなく矛盾した存在です。
ニキータ検定1級の持ち主です。
ちなみに、オカマです。
(サトミ51については→ 「食育コウモリに明日はあるか」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/11/post_83.html)
そのサトミ51のところに、健康省からメールが来ました。
こんな文面です。
↓
サトミ51先生
いつもお世話になりありがとうございます。
さっそくながら、食育業界ナンバーワンの仕事人、サトミ51先生を見込んで、お願いがございます。
じつは地産地消ウイルスのワクチンを完成させました。
これで大勢の方が鼻水やクシャミの苦しみから解放されます。
地産地消ウイルス、ファラオB型の感染爆発から早2年。
大勢の国民がバナナやパイナップルやグレープフルーツを食べる楽しみを奪われ、
ワカモレ(アボカドにタマネギとかパクチーとかを加え、すりつぶしてペースト状にしたもの。旨いよ!)も味わうことを許されず、
それどころかうどんも食べられず(うどん粉は大部分が輸入です)、
醤油もなかなか使えない(醤油を作るための大豆は、大部分が輸入)。
需要に供給が追いつかなかった国産の食料はドーンと値上がりし、国民のエンゲル係数は50パーセントを超えました。
50パーセントですぞ。
給料の半分が食費に消えるのです。
そんな国民生活を立て直すべく、われわれ健康省はエリート科学者を動員し、日夜ワクチン開発に取り組んでまいりました。
試行錯誤を果てしなく繰り返す毎日。
気の遠くなるような努力を重ねてまいりました。
それが、ついに完成したのです。
ワクチンができました!
これで国民は救われます。
救われるのは日本国民だけではありません。
長年の顧客だった日本人が食料を買わなくなったために、収入が減り、生活に苦しんでいる農家が、世界各地にいます。
彼らの生活も、これで立ち直るでしょう。
国民の健康を守ることがわれわれ健康省の使命です。
国民の半分がウィルスに感染している状況を、黙って見ているわけにはいかんのです。
「こんなに感染爆発しているのに、健康省は何をしているんだ」
「国民の病気を治すのが健康省じゃないのか」
「ワクチン開発にいつまでかかっているんだ。税金は有効に使え」
毎日何万という怒りの電話を頂戴しています。
そんな日々でしたから、ようやくワクチンが完成したとき、われわれは嬉しいというよりも正直ホッといたしました。
ところがです。
やっとこさ完成したワクチンが、なんと、盗まれてしまいました。
犯人の目星はついています。
農務省です。
国民に国産品を食べさせたい、食料自給率を上げて農家の機嫌を取りたい農務省にとって、この地産地消ウィルスは渡りに船です。
奴ら、ウイルスが広がってしめしめと思っているに違いありません。
ウィルスじたい、農務省がひそかに開発したのではないかと我々は疑っており、独自の捜査を進めています。
ですから、奴ら農務省から見たら、我々のワクチンは邪魔なのです。
これまでも、ワクチン開発中に農務省からの妨害工作は何度もありました。
妨害工作のおかげで、女性スキャンダルが発覚して辞職した健康官僚や健康族議員が何人いたことか。
その農務省が、ワクチンを盗んだ犯人です。
長々とすいませんでした。
サトミ51先生にお願いというのは、盗まれたワクチンを取り返して欲しいのです。
手段は問いません。
ややこしいことが起きたら、国家権力でもみ消しますので、ご安心ください。
サトミ51先生の過去の犯罪記録も消去するよう、関係各所と摂取中です。
それから報酬ですが、空欄の小切手をお送りいたしますので、お好きな金額を書き込んでください。
あっでも、いちおう、健康省の食育予算を越えない金額でお願いいたします。
(健康省の食育予算を知りたい人はこちら→ 「食育三国志 その2」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2009/02/2_37.html)
◆◆◆
そのメールから数時間後、今度は農務省から手紙が送られてきました。
こんな内容でした。
↓
親愛なるサトミ51様。
あなた様の日頃のご活躍、遠くから応援してます。
松宮園生との死闘は圧巻でしたね。
さて、健康省があなた様に接触しているという情報を入手しましたので、わたくしたち農務省も対抗上、このお手紙を差し上げました。
あの方たちがあなた様に何を吹き込もうとしているのかは分かりませんけど、相手にしちゃいけませんよ。
わたくしたち農務省は、被害妄想の強い健康省から不当な攻撃を幾度となく受けているんです。
ほんと、酷いんですよ。
(1)あの方たちは、「農務省がファラオB型ウィルスを開発して撒き散らした」と主張してます。
でもそれは間違ってます。
濡れ衣です。
わたくしたちはそんなことしてません。
(2)あの方たちはワクチンを開発してるそうですけど、それを農務省が妨害していると主張してます。
これも全く嘘っぱちです。
(3)被害妄想の激しい健康省は、攻撃は最大の防御とばかりに、わたくしたち農務省を攻撃してるんです。
攻撃のおかげで金銭スキャンダルが発覚して辞職した農務官僚や農務族議員が何人も出ちゃって。
何度も言っちゃいますけど、ひどいのは健康省なんですよ。
(4)最近、あの方たちはワクチンを完成させたと主張してます。
ところが、そのワクチンを見せろと言ったら、なくなったって言うんですよ。
しかも、わたくしたち農務省が盗んだと主張しています。
マジでとんでもない話です。
盗むなんて、そんな行為をわたくしたちがするはずがありません。
濡れ衣もいいところです。
てゆうか、健康省は本当にワクチンを完成させたのでしょうか?
怪しいものです。
そんな状況ですので、どうぞ健康省のゴタクには耳を傾けませんよう、お気をつけくださいな。
ちなみに、地産地消ウィルスのために世の中はだいぶ変わりましたけど、悪いことばかりじゃありません。
まず、ぶっちゃけ日本の農業は立ち直りましたし。
農家の収入が増え、専業農家が増え、耕作放棄地は減りました。
次に、国民の食生活が質素な昔の日本スタイルに戻りましたので、メタボが減りましたよ。
メタボが減ったんですから、健康省だって嬉しいはずですね。
そりゃ確かに、国産食料品の価格は上がりました。
けど、その代わりメタボが減り生活習慣病が減るんだから、医療費負担も減るじゃんね。
だから、あの方たちがファラオB型を目の敵にしているのは、おかしいんです。
(ファラオB型を支持しているからって、わたくしたちがウィルスをばらまいたという噂は根も葉もありませんけど)
それとも健康省は、食料品の価格を下げるほうを優先して、医療費を増やしたいとでも言いたいのかしら?
へんな人たち。
長々と書いてしまい、ごめんなさいね。
なにとぞ、あの方たちの世迷いごとを真に受けたりなさいませんよう、お気をつけなさいませ。
それでもあなた様がどうしてもあの方たちの味方をなさるというのでしたら、しかたありません。
わたくしたちも農務省の食育予算を使って対抗しちゃいますからね。
(農務省の巨額な食育予算を知りたい方は→「食育三国志 その4」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2009/02/4_28.html)
あなた様は腕の立つ仕事人かもしれませんけど、こっちが雇った用心棒もなかなかのものですよ。
警告の意味で、その人の名刺を、同封しておきます。
あなた様がよく考えて行動してくれたら嬉しいなあって、思ってます。
わたしたちは、平和を強く望んでいますから。
かしこ
◆◆◆
サトミ51が手紙を読み終わって封筒の中をのぞき込むと、たしかに名刺が入っていました。
名刺にはこう書いてありました。
「わが食育の拳は岩をも砕く! 佐久間象子(剛腕の管理栄養士)」
<参考書籍>
平成20年版 食育白書
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4903729427
松宮園生です。
アメリカに住んでいたころの話です。
世界最大の自然食品店ホールフーズ・マーケット。
そのホールフーズ・マーケットをうろうろしてたら、
日系人とおぼしい初老の女性に日本語で声をかけられました。
「あなた、日本から来た日本のかたね?」
「そうですが」
「ああやっぱり」女性は言いました。「ああやっぱり日本人。
その心を閉ざしたような歩き方。母音の発音が下手そうな口元。
屈託だらけのあごの形。…日本人ねえ」
「そうですか」僕はムッとして言いました。「ところで何か御用ですか」
「何でもないのよ。あなたが息子に少し似てらっしゃるからついつい見とれちゃったの」
「そうですか」僕は冷たく言いました。「ではごきげんよう」
惣菜売場でまたこの女性と会いました。
「ここの惣菜、おいしいのよねえ」女性は言いました。「コーシャ・フードはお好き?」
機嫌が直っていたので、僕はふつうに返事をしました。「わりと食べますね」
コーシャ・フードというのは、ユダヤ教の戒律にもとづいて作られている食品のことです。
ブームになり、ユダヤ教とであるなしに関わらず、売れてました。
惣菜売場にも、コーシャー・フードのコーナーがあり、僕はその前に立っていたのです。
「あなた、お名前は?」
「マツミヤといいます」
「ホントにあなた、ゲイリーに似てる」
「あなたは日本人ですか?」
「ええ。わたしはコウノといいます。愛媛の生まれですけど、20歳のときにこっちに来て、こっちで日系2世のローレンと結婚しましたのよ。でもホント、あなたゲイリーに似てる」
「ゲイリーって、息子さんの名前ですか」
「ええ。ゲイリーは昨年イラクで亡くなりました」
「そうでしたか。お気の毒に…」
気の毒ではありますが、それ以上話すこともなくなったので、女性と僕は互いに会釈をし、それぞれの買い物をつづけました。
レジのところでこの女性と再び出会いました。
僕の前に、並んでいたのです。
女性は、ハンカチで目を拭いていました。
「あのー」無視するわけにもいかず、僕は話しかけました。「元気出してくださいね」
「あなたを見てるとゲイリーのことを思い出して」と、女性は言いました。「お願いがあるんだけど、聞いてくれるかしら」
「なんでしょう」
「わたしが出ていくときに、ママ、また明日、って叫んで手を振ってほしいのよ。ゲイリーがよくやってくれたから」
しばらくして、買い物袋を抱えた女性は、僕に微笑みかけました。
「ママ、また明日!」
と、僕は大声で言って手を振りました。
女性はうれしそうに、ホールフーズ・マーケットを去って行きました。
僕が買ったのは惣菜2種類とミネラルウォーターだけでしたが、レジ係が言いました。
「129ドル(当時のレートで約1万5千円)です」
「えっ? たったこれだけで129ドル? なにかの間違いでしょ」
「間違いではありません」レジ係がおごそかに言いました。「先ほど、あなたのお母さんが、あなたが全部払うからと言ってましたよ」
<おすすめ図書>
フィット・フォー・ライフ
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/490142310X
松宮園生です。
食事中には不向きな話題を1つ。
アメリカのドラッグストアに入ると、あるグミ製品をよく見かけます。
グミです。
手のひらくらいの袋に入った、グミなんですが。
なんで題名に「食育グミ」と書いたのかというと、その商品の袋に
「子供の学習意欲を高めよう」
「生き物に対する子供の関心を高めるお菓子です」
と、食育っぽいことがエラソーに書かれているからです。
で、どんなグミかなーと思ってとりあえず買ってみました。
食育コレクターの宿命です。
袋を開けて中身を出しました。
すると、全身の毛が、逆立ちました。
何匹ものミ××が塊になって出てきたのです。
ミ××です。
畑を耕したり、草むしりをしたりすると土の中から出てくる、あのニョロけた生き物です。
土を豊かにしてくれる、農業には欠かせない、(僕以外の)人類にとって、友人です。
もうお分かりですね。
恐れ多いので、フルネームは書かずに伏字とさせていただきます。
袋から、どさっと出てきたのです。
ホラーだ。
膝が震えました。
失禁寸前の、あの追い立てられるような感覚。
冷汗をたらしながら勇気を出してよく見ると、あくまでもグミでした。
本物のミ××ではありません。
しかし、ミ××そっくりな形に作られたグミのお菓子。
色は、さまざまです。
カラフルなミ××の、袋詰め、というわけです。
強調しますが、形はかなり、リアルです。
グミと分かっていても、気持ち悪くて触れません。
袋をよく見たら、堂々と
「ミ××グミ」
と書かれていました。
「ミ××グミ? そんな商品、誰が買うっつーんだよ。あ、オレが買ったか」
と、僕はさみしく、自分にツッコミました。
余裕のセリフ、というわけではありません。
なにかしゃべらないと、間違いなく失禁すると思ったからです。
グミって、たしか食べ物だよな…。
◆◆◆
この「食育グミ」、あちこちのドラッグストアで普通に売ってます。
いまでも店頭から消えずに残っていることから察すると、どうやらそこそこ売れてるらしい。
なんてことだ…。
つーか、目の前の、机の上の、このグミの塊。
さ、触れない。
しかし、母親から「食べ物を粗末にするな」と厳しく言われて育っています。
食育的にも、食べものを粗末にするわけにはいきません。
どうすんの。
どうすんのオレ。 (←古いか)
ぷちサンプルシリーズ 世界の機内食
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/B001AGIHR6
松宮園生です。
アメリカにラザフォードという流しの料理人がいます。
流しですので、日本風にいえば
「包丁1本であちこちを渡り歩いている」
ような感じです。
そんなやつですから、いまも独身です。
ラザフォードとの出会いについては→ 「料理500ドル勝負」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/09/500.html
ラザフォードと僕はいわゆる悪友というやつで、お互い軽口をたたきあう仲です。
たとえばこんな風に。
↓
日本人には B と V の区別とか、L と R の区別とかがつかない、と言われます。
とくに L と R 。
僕も区別がつきません。
努力してるんですけど。
たぶん「脳」ではなくて「脊髄」レベルで英語を身につけないとできないのかもそれません。
(ラザ) 「なあマツミヤ。Love Me Tender っていう歌、知ってるか?」
(松宮) 「知ってるよ。こんな曲だろ? ♪(歌詞を歌う)」
(ラザ) 「ワハハハ。オマエが歌ったのは Rub Me Tender だ。やっぱりオマエはホモだったな。攻めじゃなくて受けのほうのホモだ」
(解説)
どっちも「ラブミーテンダー」と聞こえますが、
Love Me Tender: 「優しく愛して」という意味です。
Rub Me Tender: Rub は「こする」という意味になります。
オトナはもうお分かりですね。
分からないオコチャマは、ご両親以外のオトナに教えてもらってください。
なんにせよ、からかわれた僕は怒り狂い、
「ヤマトダンジをからかいやがって。L だの R だの知るか。こんど戦争するときは、てめーらアメリカ人を全員、叩き潰してやるからな」
という不穏な捨てゼリフを残して立ち去るのでした。
ところがです。
たいへんなことが判明しました。
当時の僕は査証(ビザ)というものをもらってアメリカで仕事していたんですけど、これによると、アメリカ政府は僕を軍隊に徴兵する権利を持っているんだそうです。
つまりですね、日本とアメリカが戦争した場合、僕はアメリカ軍に編入される可能性があるということで…。
「アメリカ人を叩き潰せねえじゃねーかよ!」
なので慌てて帰国してきました。
◆◆◆
さて、その生意気なラザフォードを誘って、僕はいちど「健康セミナー」というやつに出かけたことがあります。
食べるものに気をつけないと大変なことになる、という主旨のセミナーでした。
満員御礼の会場に、スーツ姿の講師は上機嫌。
ラザフォードと僕はいちばん前の席に座っていました。
「今日集まっておられる皆さんは、食べるもののことを真剣に心配されておられる。そうですね?」
と、壇上に上った講師はおごそかに、マイクに向かって切りだしました。
「皆さんがご存知のように、いま、食の安全性が危機にさらされています。
どうやって育てたか分からない牛の肉。
市販されている飲み物には発がん性物質。
野菜だって安心しては食べられません。
それに、毎日飲んでいる水に、どんな種類の細菌がはびこっているか、誰も気がついていない!」
さらに講師は続けました。
「しかし、何よりももっとも危険な食べ物があります。我々をむしばむ、危険な食べものです。何だと思いますか?」
問いかけられて しん、 とする会場。
わざと時間をおき、聴衆を見まわす講師。
すると、驚いたことにラザフォードが手をあげました。
彼はいいました。
「オレの爺さんは今年で75歳なんですけど、先生。男にとってこの世でいちばん危険な食べものは、ウェディング・ケーキだと言ってましたぜ」
おあとがよろしいようで。
<参考図書>
図解入門ビジネス 最新 食品工場の衛生と危機管理がよーくわかる本
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4798020079
図解入門ビジネス 最新食品販売の衛生と危機管理がよーくわかる本
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4798021571
「陛下、お時間でございます」
侍従長の声に、国王ヒシオ2世は憂鬱な顔をあげました。
侍従長の顔も曇っています。
侍従長の横に、総理大臣が立っていました。
総理大臣が言いました。「国家100年の計のため、軍隊を強くするため、臣民のためでございます、陛下。なにとぞ…」
「分かっておる。みなまで申すな」
「はっ」
国王が総理大臣と侍従長を従えて会食の間に入ると、そこには内務大臣、外務大臣、陸軍大臣、海軍大臣、大蔵大臣、枢密院議長など、国家の主要な面々が、直立不動の姿勢で待ち構えていました。
国王がまず着席し、大臣たちがそれに倣(なら)います。
「料理長が、陛下にメニューのご説明をしたいと申しております」侍従長が国王に耳打ちしました。
「許す。説明せよ」
侍従長の合図に従い、宮殿料理長が国王の前に進み出ました。
「申し上げます。本日のお品書きでございますが…」
料理長が説明したメニューはこうでした。
* キングダム・サラダ
* ピュージェット・サウンド風クラムチャウダー
* オマール海老のケサディーヤ ワカモレとトマトサルサで
* ロースト・プライムリブ ホースラディッシュ添え
* デザート:バニラクレームブリュレ
* コーヒー
国王は鷹揚(おうよう)にうなずき、料理長は厨房に戻りました。
ほどなく、最初の料理が運ばれてきました。
酒がふるまわれ、会食が始まりました。
◆◆◆
国王は黙ったまま食事を進めました。
口をきく臣下もいませんでした。
国王が会話を禁じたというわけではありません。
ただ、誰もが沈黙していたのです。
料理が不味かったわけではありません。
サラダは、厳格な手作り有機栽培のロメインレタスを素材に、
* 国王自身が趣味で育てたニンニク
* ウユニ塩原から取り寄せた塩
* 東インド会社がビクトリア女王に献上したのと同じコショウ
* 「南アフリカの果物王」と呼ばれるゴールドフラワー家が食べているレモンの果汁
を使ってドレッシングとしています。
クラムチャウダーは、シアトルで開かれる世界クラムチャウダーコンテストで2度優勝したプレミアム・ジェイクスのレシピを、宮殿料理長が半年かけて研究したものです。
クラム(2枚貝)は、王立海洋研究所が所有する海岸で採集されたものです。
オマール海老のケサディーヤは、シカゴにある世界でもっとも有名なメキシコ料理店のレシピを、これまた宮殿料理長が半年かけて研究したものです。
オマール海老も、クラムチャウダーのクラム同様、王立海洋研究所が所有する海域で捕獲されたものです。
新鮮なまま、捕獲して2時間後には、宮殿料理長のところに届いていました。
というわけで、どの料理も通常であれば、どんな不機嫌な人でも目尻が下がる美食のはずなのですが…。
◆◆◆
沈黙のなか、「ロースト・プライムリブ ホースラディッシュ添え」の出番がやってきました。
そのときです。
カメラマンが静かに入場してきました。
侍従長が国王に耳打ちし、硬い表情でうなずく国王。
カメラが静かに、流れるような段取りで設置されます。
設置が終わるやいなや、「ロースト・プライムリブ ホースラディッシュ添え」が運ばれてきました。
アメリカ農務省が指定する最高級のプライムビーフを用い、宮殿料理長が半年かけて開発したソースがかかっています。
ホースラディッシュは、王立農園で有機栽培されたものです。
絶妙な、ロースト肉の香りが漂います。
カメラマンは国王に向ってうやうやしく頭を下げ、それから
「5…。4…。3…」
と言いました。
放送開始までのカウントダウンです。
しかし
「2…。1…」
は声になりませんでした。
カメラマンは声に出すかわりに、2本指を立て、それから1本指とし、最後に無言(口パク)で
「お願いいたします、陛下」
と言いました。
カメラの前で「ロースト・プライムリブ ホースラディッシュ添え」を食べ始める国王ヒシオ2世。
心で泣きながら、顔では嬉しそうに食べなければなりませんでした。
国王にならい、同席の大臣たちも肉料理を食べ始めます。
「肉を食べる国王の姿」
は、カメラを通じて全国に放送されました。
この国の長い菜食主義の歴史は、この瞬間に幕を閉じたのでありました。
◆◆◆
ヒシオ2世の話はもちろんフィクションなのですが。
じつは昔、こんなことがあったそうです。
明治維新のころ。
「富国強兵」を掲げ、西洋諸国に追いつき追い越すことを目指す明治政府でしたが、大きな悩みを抱えていました。
国民の体格の問題です。
ヨーロッパの兵士はみな体が大きい。
日本の兵士は体が小さい。
これでは戦争に勝てるわけがない。
なんとかして、日本人の体格を変えなければ。
なぜ体格が違うのか。
どうしたらいいのか。
明治政府が至った結論は、
「日本人に肉を食べさせよう」
ということでした。
仏教の影響もあり、日本では歴史的に肉食はタブーとされていました。
実際には肉を食べるケースはそれなりにあったようですが、公には、肉食は「不浄である」と考えられてきました。
なので、国民に広く肉食が普及しているというわけではなかったようです。
さて、そうしたタブーを乗り越えて国民が肉を積極的に食べるようになるには、どうしたらいいのか。
明治政府は、なんと
「天皇陛下に肉を食べていただこう。そのお姿を国民に見せよう」
と考えたようです。
1872(明治5)年1月24日。
明治天皇は宮中で自ら牛肉を食べ、その姿を国民に示されました。
ヒシオ2世の話は、この歴史に触発され、それをちょっと今風に書いてみました。
「歴史のかげにグルメあり」
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4166606506