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松宮園生です。
メタボというと
「まあ何となく体型に問題のあるオジサン」
というイメージですが、実際にはどんな人をメタボというのでしょうか?
つまり、メタボの基準って、何なのでしょうか?
実をいうとこの基準、これまで国によってバラバラでした。
それが最近になって
「メタボの基準を国際的に統一しよう」
という話が盛り上がっているようです。
で、新しくできるかもしれない国際基準では、
「腹回りが何センチか」
ということはあまり重要じゃなくなるらしい。
困ったのは日本です。
日本のメタボ検診では、「腹回り85センチ(男性)」というのがシンボルみたいになっちゃってますから。
どうする、日本?
で、もし日本も国際基準に従って「腹回り85センチ(男性)」を捨てるとなったら、どうなるの?
ちょっと想像してみました。
◆◆◆
日本が「腹回り85センチ(男性)」を捨てた日 (1)
<山中伸治さん(40代 サラリーマン 既婚)のケース>
日刊ウエルネス新聞の1面に、
「腹回り85センチ、今日から廃止」
という記事がデカデカと載りました。
朝刊を広げた山中さんはその記事を食い入るように見つめます。
その目からは大粒の涙が…。
「つまり、オレのメタボ、治ったんだ」
喜びに身を震わせる山中さん。
治った、ていうのとは違うんじゃね?
そんな僕のツッコミも届かず、山中さんは晴れ晴れした気分で出社します。
「新聞、見たかい」さっそく隣の課の飯沼課長(女性)に話しかけます。
山中さんと飯沼課長は同期入社ですが、出世に遅れた山中さんはまだ課長代理です。
「新聞見たかいって、何のこと?」
「腹回りが85センチを上回っても、もうメタボとは言わないんだってさ。オレはもうメタボじゃない!」
「ふうん」飯沼課長は冷めた声で返しました。「でも山中君がビール腹で、若い子にモテないのは同じないんじゃない」
「そ、それはそうなんだけど」
狼狽して肩を落とす山中さん。
そこへ電話が鳴りました。
「山中課長代理、電話です」
山中さんは受話器を取りました。
「もしもし山中です」
「銀座アルカトラス・クリニックの佐久間です」
山中さんの顔から、サアッと血の気が引けました。
「佐久間…象子…」
「山中さん。今日は保健指導の日です。サボってはいけません。確認のため、電話しました」
「で、ですが」
「山中さん、まさか今朝の新聞を見て、もう保健指導は受けなくていいと思っているのではないでしょうね」
「違うんですか」
「確かに山中さんは『法定メタボ』ではなくなったかもしれません。しかし、法が許しても、わたくし佐久間象子は許しません」
「ひ、ひぇー」
「なお、『法定メタボ』ではなくなった場合、保健指導料の割引はなくなります。定価をいただきますから、そのつもりで」
「ね、値上がりするんですか」
「逃がしませんよ」
電話が切れました。
◆◆◆
日本が「腹回り85センチ(男性)」を捨てた日 (2)
<市川光雄さん(40代 サラリーマン 1人暮らし独身)のケース>
郵便ポストにハガキが届いていました。
ハガキにはこう書いてありました。
「市川様。新聞等でご存じと思いますが、メタボの基準に腹囲85センチは必須条件ではなくなりました。よかったですね。これで市川様も辛く堅苦しい保健指導から解放されます。好きなもの食べてください。今まで銀座アルカトラス・クリニックをありがとうございました。これからの市川様の健やかな日々をお祈り
いたします。ごきげんよう。管理栄養士ナオコ」
好きなもの食べてください、って何だよ…。
市川さんの目から、涙がはらはらとこぼれました。
ナオコと過ごした保健指導の日々が、走馬灯のようにまぶたの裏を駆けめぐります。
このまま自然消滅していいのか?
市川さんは、勇気をふりしぼって電話をかけました。
「銀座アルカトラス・クリニックでございます」
「あ、あの。市川と申しますが、ナオコ先生をお願いします」
「もうしわけごさいません。今週は非番でごさいまして」
「そ、そうですか…」
「ナオコに何か? 保健指導のご相談でしたら、今日は佐久間が担当しております」
「さ、佐久間…象子…」
市川さんの顔が恐怖に歪みます。
電話の相手は、淡々と続けます。「佐久間につなぎましょうか?」
「い、いえ、結構です。さいなら」
あわてて電話を切りました。
どうしようもない失望感をもてあます市川さん。
フラれたのとクビになったのが同時に来たような、そんな気分でした。
「ナオコ先生」
弱々しくつぶやきます。
その足元で、腹を空かせた飼い猫のタイコが
「どうでもいいけど、ご飯まだ?」
という意味でニャーと鳴きました。
松宮園生です。
僕は生来きわめて硬派なブコツモのにて、女性のことはよく分かりません。
したがって今回は男性の食生活に関する話題です。
世の男性を
* 朝食を食べるか食べないか
* ベジタリアンかそうじゃないか
この2つの指標で分類して遊んでみましょう。
ベジタリアンの反対語をご存知ですか?
「ノン・ベジタリアン」
というのが普通ですが、たまに
「プレデター」
と言ったりもします。
映画
「エイリアン vs プレデター」
のプレデターです。
本来はライオン、トラ、ヒョウ、チーターなどの
「狩をする肉食動物」
の意味ですが、転じて
「肉をもりもり食べる人」
の意味にも使われます。
さて、先ほどの2つの指標を使うと、世の男性は
* 朝食を食べるベジタリアン
* 朝食を食べるプレデター
* 朝食を食べないベジタリアン
* 朝食を食べないプレデター
の4種類に分かれますね。
順に解説しましょう。
■朝食を食べるベジタリアン
略して「チョベジ」。
なんか違う意味の死語に聞こえちゃうけど、まあいいか。
ここに属する人たちは、女性の場合はマクロビオティックなんかに激しく傾倒したりしてて、いい感じに枯れてたりします。
男性の場合、背の高いイケメンが多い。
彼らは、イケメンのくせに、レストランのサラダバーで10回くらいおかわりをするので、店からは嫌われている。
なお、イケメンでないチョベジは、身分証明書の提示を求められることがありますので、気をつけましょう。
該当する有名人:千利休(←枯れてるので。イケメンだったかどうかは謎)
おすすめ食材:水
■朝食を食べるプレデター
略して「チョレデター」。
早起きして力仕事をするワイルドでガテンな人たちは、やはりこの部類でしょう。
高校の体育の先生とか。
胸毛率も高そうです。
該当する有名人:ミッキー・ローク(←風呂嫌いらしい)
おすすめデートスポット:チベット
■朝食を食べないベジタリアン
略して「ないタリアン」。
スポーツ嫌いで運動不足。
食事だけはヘルシー志向。
それって、健康なのか不健康なのか、ビミョーに矛盾タイプです。
都会のモヤシっ子が多く、イラクやアフガニスタンに行ったらすぐ死ぬ。
(そもそも行かねーよ)
該当する有名人:ボーイ・ジョージ(←いまはすっかりメタボなオジサンです)
該当する一般人:松宮園生(←おおきなお世話です)
おすすめペット:ドラえもん
■朝食を食べないプレデター
略して「べなデター」。
東京のサラリーマンに多そうです。
「おれさあ、最近メタボ気味でさあ」
と言いながら、なぜかそれが満更でもないという、複雑怪奇な心理の持ち主が多い。
ギョーザ好きで、多少の事件があってもビクともしない。
焼売も食うぜい。
該当する有名人:マスオさんの同僚のアナゴ君(←有名人?)
おすすめタレント:パイレーツ(←懐かしい)
おすすめ動画:「スリラー」
松宮園生です。
アメリカのアイダホ州に農家の友人がいます。
ジョン・ソイビーンという名前です。
「ソイビーン」は「大豆」という意味なのですが、
ジョンが作っているのはトウモロコシです。
トウモロコシは数年前に価格が高騰しました。
バイオ燃料としての需要が高まったからです。
お陰でジョンもちょっとした小金持ちになったようです。
そんなジョン・ソイビーンの楽しみは、リノというカジノの街に遊びに行くことでした。
アメリカでカジノというと、ネバダ州にあるラスベガスが世界的に有名ですね。
リノは同じくネバダ州にあり、ラスベガスよりひと回り小さな街ですが、街全体がカジノ一色になっているのはラスベガスと同じです。
ジョン・ソイビーンに言わせると、
「カジノは銀行と一緒。負けたときは、預金したと思えばいい。また引き出せる」
だそうです。
ただし、銀行とカジノには唯一相違点があり、それは
「銀行は残高さえあればいつでも引き出せるが、カジノはそうではない」
さて、リノ行きの飛行機にジョンが乗ったときのこと…。
機内でジョンの隣に座っていたのは、映画「ジュラシック・パーク」に出てくる数学者とよく似た風貌をしている男でした。
むろん、ジョンとは初対面です。
その男、窓側に座っていたのですが、外の景色を見るのにも飽き、機内誌を読むのにも飽き、音楽を聴くのにも飽き、いささか退屈を覚えていました。
何度もあくびをしたあと、彼は隣のジョンに話しかけました。
「やあ。僕はゲイリー。サンフランシスコで高校教師をしている」
「ジョンでござる。職業は農家でござる」
2人は握手をしました。
「さっそくなんだが」高校教師のゲイリーは言いました。「あんた、ゲームは好きかい?」
「ゲームにもよるでござるが」
「そうか」とゲイリー。「こんなのはどうだい。クイズをするんだ。まず僕があんたにクイズを出す。あんたが答えられなかったら、あんたは僕に5ドル払う。で、次にあんたが僕にクイズを出す。僕が正解できなかったら、あんたは僕から5ドル受け取る」
しかし高校教師とクイズ合戦をして勝てるとは思えなかったため、ジョンは丁重にその申し出を断りました。
「そっか、じゃあ、いいや」
ゲイリーは気にしたふうもなく、会話はそこで途切れました。
彼は窓の外を眺めたり、さっき読み終えた機内誌をまたパラパラめくったりしました。
それでも退屈を紛らわすことができません。
耐えられなくなった高校教師は、再びジョンに話しかけました。
「なあジョン。こんなのはどうだい。まず僕があんたにクイズを出す。あんたが答えられなかったら、あんたは僕に5ドル払う。で、次にあんたが僕にクイズを出す。僕が正解できなかったら、あんたは僕から50ドル受け取る。つまり10倍だ。どうだい?」
今度はジョンも申し出を受けました。
「オーケー。じゃあ僕からクイズだ」高校教師は言いました。「地球と月との距離は何マイルある?」
ジョンは即座に財布を開き、5ドル札をゲイリーに手渡しました。
ゲイリーは上機嫌でそれを受けとり、自分の財布におさめました。
「じゃ、あんたの番だよ、ジョン」
ジョンは少し考えて、それから言いました。
「まっすぐだと何でもないが、斜めにすると恐ろしくカッコ良くなる農作物は、何でござろう?」
高校教師の顔から、うすら笑いが消えました。
彼は長いこと考えこんだあげく、カバンからノート型パソコンを引っ張り出してエクセルで何やら計算を始めました。
それでも答が出ないので、今度はウィキペディアを懸命に検索し始めました。
リノに近づいたため着陸態勢に入るというアナウンスがあり、高校教師はパソコンを閉じなくてはなりませんでした。
彼は飛行機が着陸するまで必死に考え続けましたが、答が出ません。
「降参だ、くそっ」ゲイリーは悔しそうに言い、財布から50ドル札を1枚取り出し、ジョンに手渡しました。
飛行機は無事にリノ空港に到着し、乗客たちはシートベルトを外して立ち上がりました。
ジョンも、受けとった50ドルを財布にしまうと、立ちあがりました。
「ちょっと待った」高校教師は言いました。「それはないだろう。あんたのクイズの答は何なんだ?」
ジョン・ソイビーンは振り返り、少しのあいだ考えました。
それから静かに財布を開き、5ドルを取り出し、高校教師に手渡しました。
松宮園生です。
「株式会社 食育」に勤務する社員が1名、昨年末から行方不明になっています。
その人の手記が発見されました。
こんなことが書かれていました…。
◆◆◆
今年もあとわずかである。
いろいろあった1年だったが、お腹まわりが増えたのは我ながら情けない。
来年こそはダイエットしよう。
たしか昨年の春から「特定検診・特定保健指導」が義務化されたと聞いている。
保健指導の対象になったら、私生活にいろいろ干渉されて面倒らしい。
だから次の健診までに、お腹まわりを縮めないといけない。
…などと呑気なことを考えていたら、自宅に空き巣が入ってしまった。
窓ガラスにきれいに穴があいている。
犯人はそこから鍵をあけて侵入したらしい。
セコムにしておけばよかったのだが、後の祭りである。
とにかく警察を呼ぶ。
ところが、待てど暮らせど警察はやってこない。
1時間も待ったろうか、ようやく警官が自転車でやってきた。
パトカーではなく、チャリンコでえっちらおっちらやってきたわけである。
それも、キキキという甲高いブレーキ音のする自転車である。
「いやー、季節がら空き巣が多くて、手が回らんのですよ。遅くなりました」と中年の警官は言った。「ではまず調書を作りたいのでご協力お願いします。何を盗られましたか?」
「これです」わたしは待っているあいだに作成したメモを、警官に手渡した。
「恐れ入ります」警官は言った。「書きうつしますので、ちょっと待ってください」
「書きうつすの? そんなことしなくても『別紙』ということで添付しとけばいいんじゃないの?」
警官は目を丸くした。「いやあ、おっしゃる通りだ。お客さん、頭がいいですなあ。ひょっとして、東大出身ですか?」
「いや、東大出身じゃなくてもそれくらいは…。ていうか、わたしはお客さんではありませんが…」
「感銘しました」警官は言い、敬礼をした。「小官は市ノ瀬と申します。以後、お見知りおきを」
「はあ。山本です」
「では山本さん。盗られたものを順に教えてください」
「は? いま、メモを渡しましたが」
「そ、そうでした。はははは。この紙でしたね。なるほど、どれどれ…。主に、携帯電話と現金20万円、ですな。あとは宝くじが20枚と、映画のDVDですか」
「そうです。他にも大きいのがあるかもしれませんが、すぐに分かったのはこれだけです」
「なるほど。で、その携帯電話と20万円と宝くじとDVDは、どこにありますか?」
「は? 盗まれたわけですから、ここにはありませんが」
「そうですか。ここにはない、と…」つぶやきながら、調書に書きこむ警官。「どこにあるんですか?」
「はぁ? 何言ってるんですか。知りませんよ。盗まれたんですから」
「あ、そうか、盗まれたんでしたな。はははは。…ではまず携帯電話ですが、どうして持ち歩かずにご自宅に置いてあったのですか?」
「今日にかぎってたまたま置き忘れていました。悪用されるのが心配です」
「それは心配ですな。どこの電話会社ですか?」
「NTTドコモです」
「なるほど」調書に書きこむ警官。
「NTTコドモではありません」わたしは彼の書き間違いを指摘した。「そんな意味不明の子どもはいません。コドモではなくドコモですよ」
「おっと失礼。コモドでした」
「違いますってば。それでは大トカゲになってしまいます。ドコモですよ。ド・コ・モ」
「おっと失敬。ド・コ・モ…と」
「しっかりしてくださいよ、おまわりさん」
「頑張ります」そう言って彼はまた敬礼した。「現金ですが、どこに置いてあったんですか?」
「あれです。『20万円がたまる貯金箱』って書いてある大きなブリキ缶がありますよね。あれです」
「ゴキブリ缶、ですか」
「違います。ブリキ缶です」
「20万円がたまるって、そんな貯金箱があるんですなあ」
「見たことありませんか? 雑貨屋とかによく置いてありますけど。500円玉専用の貯金箱なんです。500円玉で満杯になったら、総額が20万円になるんです」
「ほお。で、缶切りで開いた形跡がありますな」
「缶切りで開けて、中身だけを盗っていったみたいなんです」
「中身は何だったのですか?」
「は? 中身は500円玉ですよ。いま言ったでしょう」
「あ、そうか。はははは。500円玉が、ジャラジャラと入っていたわけですな」
「そうです」
「ジャラジャラとね。…満杯だったのですか?」
「満杯でした」
「本当ですか? そんなこと言って、じつは半分しかなかったとか」
「し、失礼な。間違いなく満杯でしたよ。もう500円玉が入らなくなったので、2つ目の貯金箱に入れ始めたくらいなんですから」
「2つ目の貯金箱があるんですか?」
「ここにあります。犯人も2つ目があるとは気がつかなかったみたいで」わたしは冷蔵庫の奥に隠してあった2つ目の貯金箱を出してみせた。「こっちもすでに半分くらい入ってます。ほら、冷えてて重いでしょう」
「確かに、冷えててずっしり重いですな。半分くらい入っているということは、10万円くらいですかな?」
「そのくらいですね」
「ふむふむ。で、最初の貯金箱のほうですが、缶切りで開けられていますな。缶のまま持っていけばいいのに、犯人のやつ、わざわざ時間をかけて開いた。なぜだか分かりますか?」
「なぜなんですか? 教えてください」
「東大出身なのに、分からないのですか?」
「分かりません。ていうか、東大出身じゃないし」
「そうですか。まあ無理もありませんな。小官にもよく分からんのです。あとで署のほうに聞いておきましょう」
わたしは昭和っぽくずっこけた。
「山本さん、とおっしゃいましたな?」警官は言った。「プライバシーをお聞きするのは心苦しいのですが、調書に書かんといけませんので、山本さんご自身についてお尋ねします」
「はい。ていうか、わたしは山本ですけど」
「はあ。分かっておりますが。それが何か?」
「調書には山下って書いてありますよ」
「ありゃりゃ、本当だ。小官としたことが」
「しっかりしてくださいよ」
「しっかりします」また敬礼をした。「えっと、では性別をお答えください」
「は? 見てお分かりのとおり、男ですけど」
「本当ですか。最近は、見た目だけで判断つかない人が増えたもんですから」
「それはそうかもしれないけど」わたしはムッとした。「正真正銘の男ですよ」
「男なら、自分が男かどうかなんてそんな細かいこと、気にせんでください」
「は? 意味不明なんですけど」
「はははは。まあとにかく。年齢とご職業を教えてもらえませんか」
「41歳です。職業は、食育をしています」
「ショクイク? なんですかそれは」
「食べるという字に、育てるという字で、食育といいます」
「こうですか?」
「逆です。それでは育食(イクショク)です。いくらなんでも、そんな間違え方はないでしょう。わざとですか」
「いえいえとんでもない」敬礼。「で、その食育という仕事は、いったいぜんたい何ですか?」
「食育の仕事というのはですね。(ここの部分が真っ黒に塗りつぶされています)」
「へえ! なるほど、よく分かりました。なんとまあ危険な仕事をなさっておりますなあ。いやあ、若いのに大したもんだ。体を大事にしてくださいよ」
警官がまた敬礼をした。
わたしは顔を赤らめた。「恐縮です」
「では署のほうに電話してまいりますので、しばらくお待ちいただけますかな?」
「分かりました」
いやー、立派なお仕事をなさっておられる、儲かりもしないのに感心感心、とつぶやきながら、警官は出ていった。
儲かりもしないのにというのは一言余計である。
が、全体的におだてられていい気分になったわたし。
だが、いつまで待っても警官は戻ってこない。
おかしいな、と思って窓の外を見ると、ちょうどそこに小型のパトカーが止まった。
現われたのは小柄だがちょいと色っぽい婦人警官である。
キャメロン・ディアスによく似ている。
わたしは興奮して玄関に飛びだした。
「山本さん?」
「ハイッ! 山本です」
「××署です。ごめんなさい、遅くなっちゃって」婦人警官が上目づかいで言った。「空き巣が続いちゃってたいへんだったんです。でも一生懸命お世話しますから、許してくださいね?」
「ゆ、許します!」思わず気をつけの姿勢をとるわたし。「ていうか、お、お世話って何ですか?」
ふくらむ期待。
しかし突然、わたしは気がついた。
「さっきの警官は誰だったんだ?」
あわてて家の中を見回す。
やられた!
10万円入りの、2つ目の貯金箱が消えていたのであった。
次の瞬間、すべての光が消えて真っ暗になった(←小泉八雲か!)
◆◆◆
手記はここで終わっています。
黒く塗りつぶされたところに何が書いてあったのか知りたいところなのですが、当の本人が行方不明になっているため、今もって謎のままです。
松宮園生です。
ある日のランチタイム。
仕事の手を休め、ひとりでファミレスで食事をしていると…。
メタボ警察の回し者、食育ロボットのアンドリューがやってきて、僕の向かい側に座りました。
「なんだよ今度は。もうメタボじゃねーかんな。見ろよ」
僕は自分の臍のあたりを指さします。
「あなたの腹囲が縮んだのは認めます。メタボ刑務所に服役してたわけですから。服役中のヘルシーな生活で、腹囲が縮んだのです」
アンドリューが涼しい顔でいいました。
涼しい顔?
自分で書いといて何だけど、どんな顔だっけ。
ていうか、アンドリューはロボットなんだから表情いつも一緒だし。
「メタボ狩りじゃないなら、何の用?」
「あなたが食べているそれです」
「これ?」
「そうです。問題があります」
「娑婆(しゃば)に出たら何を食べようと勝手だろ」
「ふつうの人はそうです。しかしあなたには前科がありますから、出所後3年間、わたしの監視下に置かれます」
「何だよそれ。聞いてねえぞ」
「当然です。言ってません。紙に書いて渡しただけですから」
「なんだそりゃ。一休さんのトンチかっつーの」
「さっそくですが」アンドリューはまたもや涼しい顔でいいました。「何を食べているのですか」
「カレーライスだよ。見りゃ分かるだろ」
「カロリーはチェックしましたか」
「したよ。メニューに書いてあった」
「何カロリーですか」
「それはだな…。メニューを見たら分かる」
テーブル上のメニューを開こうとした僕の手を、アンドリューが押しとどめます。
「カンニングはいけません。言いなさい」僕の手を掴んだまま離さないアンドリュー。「何カロリーですか」
「カンニングって、あんた…。700ちょっととかだったかなあ。正確な数字なんて覚えてねえよ。いいじゃんか。高カロリーのものを選んだつもりはないしさ。仮にカロリー高くてもだよ、ランチだぜ。寝る前にドカ食いするわけじゃないんだから」
「そんなことは問題ではありません、この前科者。あなたがカロリーの数値をちゃんと頭に入れていないことが問題なのです。では次の質問」
「次の質問?」
「塩分の量を確認しましたか?」
「そんなこと、するわけないだろ」
「ここのメニューには塩分量が書いてあります」アンドリューは僕の手を離し、自分でメニューを開きました。「ほら、見なさい、前科者」
塩分量が書いてありました。
カレーライスは、2.5g となっています。
「もうひとつ質問です」
「まだあるの?」
「当然です。あなたは前科者なのですから。…トランス脂肪酸の量を確認しましたか?」
「トランス脂肪酸?」
「さてはこれもチェックしてませんね」
「するわけないだろ。そんなもの、メニューに書いてないじゃん」
「書かれていなかったら、お店に聞きなさい。答えられない店だったら、入ってはいけません。それにしてもダメですねあなたは。カロリーもうろ覚え、塩分量
も見ていない。トランス脂肪酸のことも頭から抜けている。とても刑期が終わった人とは思えません。罰として、このカレーライスは値上げします」
「は?」
おもむろに店長を呼ぶアンドリュー。
やってきた店長に向かってアンドリューは言いました。
「わたしはメタボ警察のアンドリューです。このカレーライスはいくらですか」
「しょしょ、消費税込で、は、880円になります」
「では、『メタボ撲滅推進法』にもとづき、この人だけ今回、価格10倍の8,800円にしてください」
「ちょっと待て。え? 8,800円?」僕は思わす立ちあがりました。「そんなムチャクチャな」
さすがにこれには店長も、
「そ、そんなことしたら、こ、このお客様は、も、もうウチに来、来てくれなくなりなります」
「そうだそうだ」僕も便乗しました。「そんな店、もう来ないぞ」
アンドリューは首を横に振りました。「そうはいっても、『メタボ撲滅推進法』という法律で定められているのです。…店長さん、ちょっと2人でヒソヒソ話をしましょう。前科者のマツミヤさんはここにいなさい」
「前科者、前科者って、言うな」
アンドリューと店長が、僕の聞こえないところで立ち話をしています。
しばらくして、2人が握手をするのが見えます。
アンドリューはそのまま、立ち去っていきました。
店長が僕のテーブルに戻ってきました。
「お、お客様、お、恐れ入ります。や、やはり、こ、これは、ほ、法律だそうで、ここ、今回は、は、8,800円を、せ、請求させていただきます。ま、誠に恐れ入ります。ここ。これが8,800円の、で、伝票です」
「おいおい、待ってよ。本気か? だったらもうこんな店、2度と来ないぞ。つーか、その話し方、なんとかしてくれよ」
店長はニコニコして答えました。
「だ、大丈夫です。や、やむを得ません。いい、いまアンドリューさんから、こ、こういう説明を受けたんです。
アンドリュー: あの客、死ぬまでにこの店にあと何回来ると思いますか、店長さん?
店長: ど、どうでしょうか、じゅ、10回くらいでしょうか。
アンドリュー: じゃあその10回分のお金を今もらってしまえば、もう来なくても大丈夫ですよね。
店長: なな、なるほど、そ、それはそうです。
アンドリュー: だから8,800円なんです。しかも追加のコストがかからない。トクでしょ。
でで、ですって。
な、納得しちゃいま、ました。さ、さすがはロ、ロボット、たた、巧みな計算をするものですねえ。あ、あはははは」
あ、あはははは、じゃねえよ…。
「そそ、それから、あ、アンドリューさんから、で、伝言があります」店長は続けました。「『次がありますのでもう出ますが、夕食時に、また会いましょう』、とのこ、ことです」