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松宮園生です。
数年前のこと。
カリフォルニアのド田舎を鼻歌運転中、ドライブスルーの
サンドイッチ・ショップを発見し、急に食欲が湧いて車を
寄せました。
「ハーイ。お元気?」
「オレ元気。あんたは」
「元気よ。ご注文をお伺いします」
「(メニューを見ながら)シーフード・サンドイッチとコーヒーをお願いします」
「まず魚を選んでください」
「魚を選ぶの?」
「そうです。どの魚にしますか」
「どの魚って…。選択肢は?」
「ツナまたはハリバットです」
「じゃあツナ」
「すみません、ツナは品切れで」
「なんだよ。だったら初めから選ぶ必要ねえじゃん」
「ほんとにハリバットでいいのですか」
「だってツナはねーんだろ!」
(ハリバット: 白身魚の一種。デカイ。無理やり日本語でいうと、「オヒョウ」だそうです)
「ハリバットには天然ものと養殖ものがありますが」
「えっ、そうなの?」
「価格は同じです」
「じゃあ、天然もの」
「太平洋ものと、大西洋ものと、カリブ海ものがありますが」
「どう違うの?」
「産地が違います」
「そりゃそーだろ! 産地なんてオレ的にはどうでもいいんだけど。適当に決めて」
「そうはいきません。お客様に決めていただかないと」
「じゃあ、太平洋もの」
「すみません、太平洋ものは品切れで」
「じゃあ大西洋もの」
「それも品切れです」
「カリブ海ものしかねえじゃんか!」
「それも品切れです」
「ねーのかよ!」
「1マス戻りましょう。養殖ものならあります」
「1マス戻るって、あんた双六(すごろく)じゃねえんだから」
「養殖ものでよろしいですか?」
「それしかねーんだろ。で、養殖ものもまた細かい選択肢があったりすんの?」
「養殖ものは1種類しかありません」
「ほっ、よかった。じゃ、それで頼みます」
「味つけはどうしますか」
「味つけ?」
「タイ風味と、ケイジャン風味と、テリヤキ風味がありますが」
「ケイジャン風味がいいなあ」
「辛さを指定してください」
「辛さを指定?」
「1ヒー、2ヒー、3ヒーと3段階あります」
「そんな単位があるんかい! しかもそれ、なんか日本語っぽくねえか?」
(ケイジャン: アメリカ南部の料理の一種。スパイシーなのが特徴)
「辛さはどうしますか」
「じゃあ、2ヒーで」
「分かりました。ハリバットのケイジャン風味、辛さは2ヒーですね。野菜はどうしますか。レタスとタマネギとトマトがありますが」
「全部入れてください」
「地産地消ものと遠方もの、どうしますか」
「地産地消もので」
「レタスは遺伝子組換えです。プラス25セントで、遺伝子組換えでないものにできますが」
「遺伝子組換えでいいです。個人的にはこだわらないので」
「いいんですか? 遺伝子組換えですよ。不安じゃありませんか」
「そう言われたら怖くなるだろ!」
「不安に打ち勝って、遺伝子組換えのレタスを選択されるわけですね」
「だかろその言い方、やめろって」
「タマネギは、プラス25セントで、ワラワラ・オニオンに替えることができますけど?」
「あ、ワラワラは好きだな。ワラワラがいいです」
「ワラワラだと、地産地消じゃなくなりますけど?」
「(うるせーと思いながら)ワラワラにします」
「ワラワラ・オニオンは生のものと、焼いたものがありますが」
「へえ、焼いたものもあるんだ。じゃあ焼いてください」
「焼き方はどうしますか? レア、ミディアム、ウェルダン…」
「肉かい!」
(ワラワラ・オニオン: ワシントン州ワラワラで生産されるタマネギ。甘く、生でも食べやすい)
「で、焼き方はどうすんのよ」
「あんたがイライラすんなよ。…じゃ、レアにしてください」
「トマトは、プラス25セントでオーガニックにすることができますが」
「オーガニックで」
「皮は剥きますか。それとも皮つきにしますか」
「そんな細かいことまで聞くの? じゃあ皮つきで」
「了解しました」
「ねえ、お姉さん。こんな細かい質問いつまで続くの」
「サンドイッチに関しては終わりました」お姉さんは明るく答えます。「はい、ではここまでのご注文を整理させていただきます。シーフード・サンドイッチ。
魚はツナがなかったのでしかたなくハリバット。天然ものがなかったので養殖もの。ケイジャン風味の2ヒー。レタスは不安だけど遺伝子組換え。タマネギは地
産地消じゃないにも関わらずワラワラ・オニオンをレア焼きで。トマトはオーガニックの皮つき。これで間違いありませんか?」
「間違いないと思うよ。なんか余計な修飾語がいろいろついてるけど」
「ではコーヒーに移ります。すごく熱いのと、ほどよく熱いのと、ぬるいのがあります」
「熱さも指定するわけ?」
「指定してください」
「じゃあ、すごく熱いのをお願いします」
「すごく熱いのをご指定の場合は、『こぼれて火傷をしても訴えない』という書面にサインをいただくことになっています」
「ええ? そういう事件が昔あったのは知ってるけどさ、書面にサインなんてメンドクサイのはやめよーよ!」
「書面は規則ですから」
「じゃあ、すごく熱いのは撤回! ほどよく熱いのにする」
「分かりました。ほどよく熱いのですね。その場合、書面にサインはいりません。…次は豆を選んでいただきます。ナイジェリアの豆とジャマイカの豆がありますけど」
「どう違うの」
「ナイジェリアのほうが人気がありますけど、ジャマイカのほうがフードマイレージは小さく済みます」
「そう言われたら環境に配慮せざるを得ないよね。フードマイレージの小さいジャマイカものにします」
「環境に配慮? さっきは地産地消じゃないのにワラワラ・オニオンを選びましたね。なのに今回はジャマイカを選ぶのですか」
「いいじゃんよ。放っといてくれ」
「分かりました。ジャマイカの豆ですが、航空便で運ばれてきたものと、船便で運ばれてきたものとがありますが」
「それって違うの?」
「お客様の好みですね」
「好みって言われても。じゃあ、なんとなくだけど、航空便」
「アメリカ航空と、ノースウェスト航空と、ユナイテッド航空がありますが」
「その違い、意味あるんかい!」
長時間に渡るやりとりでヘトヘトになった僕。
サンドイッチとコーヒーを受け取ったときは食欲もだいぶ失せていました。
◆◆◆
こういう例は極端だとしても、アメリカの飲食店で注文するときに、いろいろ細かく尋ねられて
「いいからそっちで決めてくれよ!」
と叫びたくなった経験のある方、多いんじゃないかなと思います。
「適当にみつくろって」
という発想がアメリカ人にはないので、こういう状態になるわけです。
ところが、日本食がアメリカ人のあいだで市民権を得るようになった昨今、少しばかり様子が変わってきました。
寿司バーなどのメニューに普通に載っている
* OMAKASE (おまかせ)
という言葉が、英語として普及しつつあるようなのです。
* TSUNAMI (津波)
* TERIYAKI (照り焼き)
が英語化したのと同様です。
ウィキペディアの英語版で、OMAKASE と入れてみたら、ちゃんと説明が出てきました。
アメリカ人も、いちいち細かく自分で指定しなくちゃいけない注文の仕方に、ウンザリしているのかもしれませんね。
ちなみに、KAROSHI (過労死)も、日本語発ですが、英語になりつつある言葉のようです。
★★★
★★★
松宮園生です。
食育ロボコップのアンドリューが持っていた
「メタボメジャー」
ですが、これ、ホントにあります。
売ってます。
ただの巻尺ではありません。
短いのです。
メタボかどうかを判定するためだけに作られています。
* 男性の腹回りが85センチあるかどうか
* 女性の腹回り90センチあるかどうか
を測るためだけに存在しています。
ですので、この巻尺、90センチより長いものを測る必要がありません。
だから短い。
フツーに考えると、
「短い巻尺より、長い巻尺のほうがいろいろ測れて便利だよなあ」
ですよね?
わざわざ短い巻尺を商品化して、どうすんの?
…と、僕もかつては思っていたのですが、このメタボメジャー、案外売れています。
◆◆◆
さて、21世紀をわがもの顔でのっしのっしと歩き回る、おなじみ怒り肩の管理栄養士、佐久間象子。
足のサイズが38センチと言われています。
すっかりこのブログの主要キャラになってしまいました。
その佐久間象子が乗っていた新幹線が、名古屋駅に停止したまま、いつまでたっても動きませんでした。
車内放送がありました。
「車掌室からお知らせいたします。乗客の皆様。先ほど、メタボが車内に紛れこんでいるとの通報がありました。現在、運行を停止し、メタボ警察による捜索が行われております。いましばらくお待ちくださいませ。お急ぎのところ、まことに申訳ございません」
ざわつく車内。
「メタボ狩りだ…」
「メタボ狩りが始まった…」
乗客のあいだに、怯えたささやきが伝播します。
しばらくして、佐久間象子のいる6号車にメタボ警察が入ってきました。
警官の手には「メタボメジャー」が握られています。
腹回りが85センチ以上の男性、90センチ以上の女性を取り締まる、巻尺です。
警官は乗客をひととおり見回すと、目標を佐久間象子に定め、彼女の席に近づいてきました。
「な、なんですか」佐久間象子は不快感を隠さずに言いました。「わたしは管理栄養士であり、栄養教諭、フードコーディネーターでもあります」
「…」
「それだけではありません。食育必死講座1級、食育プリーチャーの資格も持っています」
「…」
「それだけではありません。食育推進士はムラサキ合格しています。加えて、炭水化物のソムリエでもあり、日本カルパッチョ協会認定カルパッチョ講師でもあります」
「…」
「そんなわたしを、メタボだと言うのですか?」
「どんな資格をいくつお持ちでも、メタボな人はいるものです」警官は落ち着き払って答えました。「念のためメタボメジャーで測定させてもらいたいのです」
「し、失礼な! わたしは管理栄養士なんですよ。人々がメタボにならないように食事指導をする立場にあるんですよ。聖なる職業を侮辱するにもほどがあります」
「疑わしい人を測定して疑いを晴らすのも我々の責務です」警官は引きませんでした。「測定を拒否されるなら、公務執行妨害になりますが」
佐久間象子はしぶしぶ、測定に合意しました。
「では失礼」
そう言って警官は、メタボメジャーを延ばしました。
「あのう」
「何でしょう」
「質問があるのですが」と、佐久間象子。
「何でしょうか」
佐久間象子は言いました。
「どうしてそのメジャーを、わたしの顔に巻いているのですか?」
★★★
★★★
松宮園生です。
(前回までのあらすじ)
食育ロボット、アンドリューがメタボセンサー(メタボ発見器)
を内蔵し、改造ロボットとなって登場、メタポリスの新兵器
としてメタボ狩りを始めます。
迫害を恐れた市民はアンドリュー・レーダー(アンドリュー探知機)を開発し、食育ロボットの魔の手を逃れようとしました。
追うアンドリュー、逃げる市民。
アンドリューの魔の手が、僕にも及んできました。
◆◆◆
白昼の赤坂見附。
迫りくるアンドリュー。
その機械の手に握られた、メタボメジャー。
周囲の人々が、どうなることかと我々を見守っています。
アンドリューとの距離が5メートルに縮みます。
ど、どうする松宮?
野生の本能とでもいうのでしょうか、僕は無意識に、力を入れて腹を引っ込めました。
ペコ。
するとどうでしょう。
アンドリューが妙な動きをしはじめました。
どうやらその、目標を見失ったようなのです。
まるで僕が見えないかのように、キョロキョロしたりうろうろしたり。
独楽(コマ)のようにくるくる回ったりします。
なんだかよく分からないけど、今だ。
僕はスタスタと、迷走するアンドリューから遠ざかりました。
◆◆◆
ふたたび、アンドリューとの距離が50メートルくらいになりました。
ふう。
アンドリューから目を離さないようにしながら、一息ついて思わず腹の力を緩める僕。
ポコ。
ところがです。
腹の力を緩めたとたん、アンドリューが ギン! といった感じで僕のほうを向きました。
気がついたようです。
小走りに、こっちに近づいてきます。
再び力をこめて腹を引っ込める。
ペコ。
アンドリューが突然、ターゲットを失っておろおろし始めます。
力を入れて腹を引っ込める。
ペコ。
→アンドリュー、迷う。
力を緩める。
ポコ。
→アンドリュー、追いかけてくる。
腹を引き締める。
ペコ。
→アンドリュー、迷う。
腹を緩める。
ポコ。
→アンドリュー、追いかけてくる。
ペコ。→アンドリュー、迷う。
ポコ。→アンドリュー、追いかけてくる。
ペコ。ポコ。
ペコポコ。
そういうことか。
要は、筋肉を緊張させて腹をしっかり引っ込めていれば、アンドリューは来ない。
僕は腹に力を入れたまま、何分も我慢しました。
そうしているうちに、アンドリューは他の獲物を見つけ、そっちへ走って行きました。
◆◆◆
助かった…。
ところで、もともと僕は何をしようとしていたかというと。
地下鉄銀座線のなかで財布を掏(す)られました。
その被害届を出しに、交番に行くところだったのです。
アンドリューを完全に撒(ま)いたのを確認すると、ようやく僕は交番に向かいました。
しかし油断大敵です。
交番の巡査も、メタポリスかもしれません。
巡査はキャメロン・ディアス似の若い女性でしたが、案の定、メタポリスのコスチュームを着ていました。
彼女にバレないよう、僕は慌てて腹部に力を入れました。
ペコ。
小さな音がしました。
それが聞こえたのか、女性巡査は疑いの目で僕の腹をジロジロと見ています。
「地下鉄のなかでスリにやられたわけですね」
僕の説明が終わると、巡査は言いました。
彼女のもの欲しげな(?)視線は、僕のへそのあたりを這っています。
思わず赤面する松宮。
「地下鉄のなかでスリにやられたわけですね」
彼女は繰り返しました。
「は、はい」
「財布を盗られたんですね」
「はい」
「財布には、いくら入っていたのですか?」
「5,000円くらいかな」
さっきからずっと腹に力を入れっぱなしなので、筋肉が笑い始めています。
「盗まれたのは財布だけ?」
「だと思うけど…。あっ。あれがない」
不意に気がつきました。
さっきアンドリューとあれほど鬼ごっこを繰り返したというのに、レーダーが反応しなかったですよね。
「ぶるぶるぶるぶる」が起こりませんでした。
おかしいな。
ポケットを探ると、買ったばかりのアレも、なくなっていました。
「新品のアンドリュー・レーダーも取られちゃいました」僕は早口で言いました。「くそー。消費税込で42,000円もしたのに」
「アンドリュー・レーダー?」
◆◆◆
女性巡査の表情が変わるのを見て、僕はしまった! と思いました。
「いやあの、そうじゃなくて、それがその」
「いま、アンドリュー・レーダーって言ったわね?」
「いやあの、そうじゃなくて、それがその」
「あなたアンドリュー・レーダーが必要な人なのね?」
「いやあの、つまりその」
キャメロン・ディアス似の女性巡査は、ゆっくりと立ちあがりました。
「あなたの腹回りを測らせてもらうわ」
まつ毛がキレイに整えられたその両眼が、僕の下腹部に吸いついています。
その下腹部ですが。
さっきから力を入れて腹を引っ込ませていました。
しかしそれも、そろそろ筋肉の頑張りが限界に近づいています。
冷汗がたれてきました。
ここで腹の力を緩めるわけにはいきません。
戦え松宮。
しかし、その応援もむなしく消え去ろうとしていました。
ゆっくりながらも慣れた手さばきでメタボメジャーを取り出す彼女。
その美しい顔が、冷酷な喜びに輝きはじめます。
そのとき。
ついに腹筋が力尽きてしまいました。
ポコ!
隣の駅まで聞こえるような「ありえへん」大きな音がして、僕の腹がもとに戻りました。
★★★
★★★
松宮園生です。
(前回のあらすじ)
食育ロボット、アンドリューがメタボセンサー(メタボ発見器)
を内蔵し、改造ロボットとなって登場。
メタポリスの新兵器としてメタボ狩りを始めます。
迫害を恐れた市民はアンドリュー・レーダー(アンドリュー探知機)
を開発し、食育ロボットの魔の手を逃れようとしました…。
◆◆◆
秋葉原でアンドリュー・レーダーを手に入れた僕。
メタルボディの、洒落たデザインです(メタボだけに…)。
レーダーにはバイブレーション機能が備わっており、アンドリューが近づくと、ぶるぶる震えて教えてくれます。
値段は大奮発の、42,000円。
消費税込みです。
高かったけど、これでひと安心。
すっかり図にのった僕は、青山通りを闊歩していました。
カナダ大使館の近くで打合せがあったのですが、天気がよいのと、時間に余裕があったので、地下鉄に乗らずに青山通りを歩いていたわけです。
そのとき。
ぶるぶるぶるぶる。
ぶるぶるぶるぶる。
反応するアンドリュー・レーダー。
さっそく警戒態勢です。
あわてて見回すと、表参道の交差点付近をアンドリューが疾走しているのが目に入りました。
誰かを追いかけているようですが、僕ではないようです。
視線をずらすと、新橋系サラリーマンが人混みをかきわけながら必死の形相で逃げているのが分かりました。
カツラなのでしょうか、風に当たった髪の毛が不自然な方向に流れています。
なんだ、自分じゃなかった。
ほっとする松宮。
◆◆◆
ほっとしたものの、じつは改造アンドリューは1体だけではないのです。
他にもいるかもしれません。
気を休める余裕はないのです。
アンドリュー・レーダーは、アンドリューの存在を知らせてくれるだけで、撃退してくれるわけじゃないし。
くわばらくわばら(←死語)。
危険だから、外を歩くのはやめよう。
目の前に地下鉄銀座線の入口があったのをよいことに、僕は急いで階段を下りました。
目印となるカナダ大使館は、地下鉄銀座線でいうと、赤坂見附駅と青山一丁目駅のあいだにあります。
どちらで降りてもよかったのですが、なんとなく赤坂見附で下車。
行き交う人の群れに押し流されるように、改札を出ます。
そこで異変に気がつきました。
ジャケットの胸のあたりがやけに軽いのです。
内ポケットに手をつっこんだ僕は、
「しまった」
と思わず口走りました。
財布がありません。
落としたのか。
スリにやられてしまったのか。
とほほ(←死語)。
ついてねえ…。
いつまでも嘆いてはいられません。
たしか地上に交番があったはずです。
僕は階段を駆け上りました。
すると、地上にアンドリューがいました。
◆◆◆
正確にいうと、アンドリューは50メートル先にいました。
50メートルというのは、彼のセンサーの「射程距離内」です。
もっと深刻な問題は、アンドリューがこっちをじっと見ていることでした。
目が合ってしまっています。
アンドリューがおもむろに歩き始めました。
まっすぐ、僕に向っています。
間違いありません、僕を狙っています。
目は点滅し、耳からは蒸気が噴出していました。
どんどん接近するアンドリュー。
いまさら逃げられない。
全身に冷気が走ります。
ど、どうしよう。
パニックになるまいと必死で自分に言い聞かせながら、アンドリューをかわす方法を考える僕。
しかし何の有効な知恵もわかないまま、時間が秒単位で消えていきます。
もはやアンドリューとの距離は10メートル。
その手に握られているメタボメジャーに、太陽光が鋭く反射して、本物の剣のように見えました。
(以下次号)
★★★
★★★
松宮園生です。
(前回のあらすじ)
2XXX年。
「メタボ警察」
が、メタボな人をつかまえ、裁判にかけ、
「メタボ刑務所」
に送り込むというキツーイ時代が始まりました…。
◆◆◆
メタボ警察。
またの名を「メタポリス」。
腹回り85センチを超えた男性が捕らえられるわけです。
むろん女性も取り締まりの対象ですが、女性の場合は腹回り90センチが基準なので、検挙者の数は男性ほどではありませんでした。
メタポリスの警官はピーポくんブランドのメタボメジャー(腹回りを測定する専用巻尺)を所持しています。
目を爛々と光らせた警官が、音をたててメタボメジャーを引き延ばしたり縮めたりしながら、獲物を探し求める姿に、人々は怯え、逃げまどいました。
しかし何といっても飽食の現代日本。
メタボの数が多すぎます。
メタポリスの警官の数も限られています。
このままでは十分な取り締まりができないと考えたメタポリスは、日本食育大学のロバート・シトピッチャン教授が開発した食育ロボット、「アンドリュー77型」に目をつけました。
アンドリューを改造して使うことにしたのです。
どのように改造したかというと、電子頭脳のなかに「メタボセンサー」を組み込んだのです。
腹回りの大きな人がアンドリューの100メートル以内に近づくと、メタボセンサーが反応。
ただちに追跡を始める、という仕組みです。
これも天才ロバート・シトピッチャン教授の発明であることは言うまでもありません。
◆◆◆
繁華街をパトロールするアンドリュー。
おおぜいの老若男女が、往来していきます。
プシュー!
そんなアンドリューの耳から突如、蒸気が噴き出しました。
両眼が交互に点滅しはじめました。
メタボセンサーが反応したのです。
近くに、メタボがいる。
「あ、あたしじゃないわよね」
「お、オレじゃねーよな」
「わ、わしじゃないとよいがのう」
通行人が、不安な表情でアンドリューの動作を見つめます。
ゆっくりと周囲を見回すアンドリュー。
その眼が、歩きながら携帯電話で談笑している中年の容疑者をとらえました。
アンドリューの存在に気がついていないようです。
アンドリューは腹部にある格納ボックスからメタボメジャーを引き出すと、それを片手に100メートル13秒くらいの実力で走りはじめます。
蜘蛛の子を散らすように逃げ去る通行人。
容疑者は何が起こったのか分からないうちに、アンドリューのメタボメジャーを巻かれてしまいます。
「89センチ。大問題です。あなたを逮捕します」
言うが早いか、アンドリューは容疑者の上着の襟をつかみ、どこかへ引きずっていきました。
◆◆◆
市民側も負けてはいられません。
メタポリスに対抗し、「アンドリュー・レーダー」が開発され、飛ぶように売れました。
アンドリューがあなたの100メートル以内に近づくと、レーダーが反応。
ブルブルと震えて(=バイブレーションで)、あなたに合図を送ります。
メタボ気味なあなたは、ただちに逃げの態勢に入るというわけです。
アンドリューが早いか、人間が早いか。
日本列島のあちこちで、ロボットと人間の追いかけっこが展開されました。
かくいう僕も秋葉原でアンドリュー・レーダーを買いました。
赤・黒・メタルの3種類あったのですが、メタルにしました。
消費税込みで42,000円でした。
安くはありませんが、仕方がありません。
「ついでに佐久間象子レーダーも欲しいんだけど」
冗談で店員さんにそう言ったら、何を思ったか、店員さんは奥の倉庫から地震計を出してきました。
さて、買ったばかりのアンドリュー・レーダーを内ポケットにおさめた僕。
これでひと安心だと思っていたのですが…。
その後に、予想外の災難が待ち受けていたのでした。
(以下次号)
★★★
★★★