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(前回までのあらすじ)
繁栄にあぐらをかき、飽食をむさぼる先進国。
彼らに鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。
一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。
この物語は、そんな世界観で展開される人間ドアラマです。
◆◆◆
日本食育大学という、食育専門の大学があります。
工学部のロバート・シトピッチャン教授は、天才科学者として世界的に有名でした。
そのシトピッチャン教授の夢のなかに、天使が現れました。
天使は言いました。
「シトピッチャン教授って、あんたかい」
「はい、そうですが」
「ああよかった。人違いかと思ってビクビクしてたんだ。最近いろいろあってね、人違いしたら神様の機嫌が悪くなるんだよね…。ところで神様からあんたに伝言があって来たんだけど」
「伝言とは?」
「あんたに食育ロボットを作れってさ」
「食育ロボット?」
「人間がメタボにならないように、監視するロボットだよ。ほい、これが設計図だ」
天使はどこからか設計図を取り出し、シトピッチャン教授に手渡しました。
「これを大量生産してさ、人間界で活躍させてくれってさ。じゃ、ちゃんと伝えたからね。急ぐからもう行くよ。じゃな」
言い残すと、天使はパッと消えてしまいました。
設計図を広げてみて、シトピッチャン教授はうーんと唸りました。
「すばらしい設計図だ…」
目を覚ますや、彼はただちに食育ロボットの開発にとりかかりました。
夢で見た設計図は、今も記憶のなかに鮮明に残っています。
こうして数年後、食育ロボットは完成しました。
完成した食育ロボットは「アンドリュー77型」というタイプでしたので、アンドリューと呼ばれています。
アンドリューは人間と同じ大きさ・形をしていますが、短い尻尾がついているのが特徴です。
そのアンドリューですが、いきなり一般向けに販売するというのも少々不安でした。
まずはモニターに使ってもらって感想を聞こうということになり、雑誌でモニターを募集したのです。
以下は、そのモニターから送られてきたレポートです。
↓↓↓
モニター氏名:川口恵太
「抽選に応募したら、当たったぞ」
ある日、父親がそんなことを言いながら、ロボットを家に連れてきました。
「こいつはな、食育ロボットだ。アンドリューという。お前の母さんの代わりになると思ってな、応募したんだ。仲良くするんだぞ。父さんはこれからまた仕事だ。泊まりがけになるから、留守番よろしくな。じゃ」
父親が去った後、ロボットのアンドリューは私にむかって「よろしく」と頭を下げました。
その日、アンドリューは私の一挙一動を黙っておとなしく観察していましたが、次の日から態度が変わりました。
どうなふうになったかといいますと…。
「いつまで寝ていますか。川口、さっさと起きてください」
朝6時。
アンドリューにたたき起されました。
びっくりしている私に、アンドリューは言いました。
「今日ただいまから早寝早起き朝ごはん開始です」
「はあ?」
「川口は早寝早起き朝ごはんです。朝ごはんの用意ができています。食べることに取り組んでください」
見ると、テーブルの上にごはん、味噌汁、納豆、海苔、刻んだネギの載った豆腐、野菜の煮物が並んでいました。
「取り組みましょう」と、アンドリュー。
「ありがたいんだけどさ」私はあくびをしながら言いました。「眠いんだよな。ギリギリまで寝かせてくれよ」
「その考えは好ましくありません。早寝早起き朝ごはんは日本の政府の重点目標です。早寝早起き朝ごはん専門の、全国組織もできているのです(※)」
「…分かったよ。せっかく作ってくれたんだったら、今日は食べるよ」
(※)「早寝早起き朝ごはん」全国協議会
http://www.hayanehayaoki.jp/modules/content3/kyougikai/kyougikai1.html
椅子に座ってさっそく食べようとすると、アンドリューの耳から突如、蒸気が噴き出ました。
プシュー!
次に、両眼が交互に点滅しはじめました。
「な、なんだ?」
「川口、大問題です。いただきますを言ってください」
「は?」
「繰り返します。いただきますを言ってください。いただきますごちそうさまは愛言葉。この標語を知っていますか。いただきますごちそうさまは愛言葉。これは、平成19年の食育推進の標語として日本政府から選ばれたものの1つです(※※)」
(※※)http://www8.cao.go.jp/syokuiku/data/slogan/slogan-h19.html
「そんなこと知るかよ」豆腐と納豆に醤油をかけながら私は言いました。「食わせろよ」
「いただきますを言わないのですね」プシュー。「言わないのであればあなたを呪います」
「なにくだらねえこと言ってんだ。勝手に呪えば」
「呪います。ちちんぷいぷい(←死語)。川口のごはんは食べられない。川口のごはんは食べられない。ちちんぷいぷい。呪いました。呪い、セット終了」
「ばーか」私はかきまぜた納豆を口に入れました。「わけわかんねえよ」
それからごはんを口に入れました。
うぎゃあ!
私は叫んでいました。
口の中が火事になったようでした。
「なんじゃこりゃあ」(←死語)
食べたものを吐き出し、さらに咳込む私。
「呪い、完了です」アンドリューが落ち着いた声で言いました。「川口のごはんは食べられない。ハラペーニョの種を大量にまぶしてあります」
「てめえ。始めからこうなることを予測してたんだろ」私は涙をボロボロ流しました。「し、仕組んでやがったな」
「いただきますごちそうさまは愛言葉」アンドリューは淡々と言いました。「今晩からは、言い忘れないことです」
◆◆◆
その夜。
テレビで映画をやるので楽しみに待っていると、アンドリューが言いました。
「川口。さっきの夕食で川口はいただきますとごちそうさまを言えましたね。称賛します。正しい行いは、すがすがしいものです」
私は顔を赤くしました。「お前を怖がってるわけじゃねえからな」
「怖がること不必要です。ところで、大問題です。早寝早起き朝ごはんのことですが、もうすぐ9時です。9時になったら早寝に取り組んでください」
「もう寝ろっての? こんな時間に? 放っといてくれ」
「その考えは好ましくありません。早寝早起き朝ごはんは日本の政府の重点目標です。早寝早起き朝ごはん専門の、全国組織もできているのです」
「そのセリフは朝、聞いたよ」
「朝聞いて、夜聞く。すばらしいことです。ベッドを整えてありますから、早寝に取り組んでください」
「あのな、見たい映画があんの。見てから寝るから、すこし黙ってろ」
プシュー!
テレビをつけようと、リモコンを手にしたとたん、アンドリューが両耳から蒸気を噴きました。
安物キャンディーのような形の両眼の点滅も、始まっています。
「呪います。ちちんぷいぷい。川口はテレビを見れない。川口はテレビを見れない。ちちんぷいぷい。呪いました。呪い、セット終了」
私は警戒しました。
また何か企んでるぞ、こいつは。
リモコンのスイッチを入れたら何か起こるのか?
何も起きませんでした。
というか、何も起きなさすぎて、テレビもつかなかったのです。
みると、リモコンの電池が抜かれていました。
「くっだらねえ。この程度か」私は呟きました。「電池を入れればいいだけじゃん」
買い置きしていた単3電池を入れ、再びスイッチを押します。
何も起きませんでした。
それもそのはずです。
よく見ると、テレビの電源が抜かれていました。
電源プラグを差し、リモコンのスイッチを入れると、今度はテレビがつきました。
ちょうど9時でした。
映画の紹介が始まったところです。
「これが呪いかよ。レベル低(ひく)。今回はこっちの勝ちだな」私はアンドリューに言いました。「映画は見させてもらう。おまえには何もできねえよ」
アンドリューが肩を落としました。
仕掛けが失敗し、うなだれているようです。
私は鼻でフンと笑いました。
それからソファに腰掛け、用意したポテトチップスに手を伸ばしました。
うぎゃあ!
あわてて冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターのボトルを取り出しました。
うぎゃあ!
ゲホゲホ!
遠ざかる意識のなかで、アンドリューの淡々とした声が響きました。
「呪い、完了しました。ポテトチップスには激辛ハバネロのペーストが塗られています。さらに、川口が飲んだのは水ではなく…」
(以下次号)
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