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2010.07.28 22:19

21世紀神様の悩み 第6話 食育ロボ発進!

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
繁栄にあぐらをかき、飽食をむさぼる先進国。
彼らに鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そんな世界観で展開される人間ドアラマです。

◆◆◆

日本食育大学という、食育専門の大学があります。
工学部のロバート・シトピッチャン教授は、天才科学者として世界的に有名でした。

そのシトピッチャン教授の夢のなかに、天使が現れました。
天使は言いました。
「シトピッチャン教授って、あんたかい」
「はい、そうですが」
「ああよかった。人違いかと思ってビクビクしてたんだ。最近いろいろあってね、人違いしたら神様の機嫌が悪くなるんだよね…。ところで神様からあんたに伝言があって来たんだけど」
「伝言とは?」
「あんたに食育ロボットを作れってさ」
「食育ロボット?」
「人間がメタボにならないように、監視するロボットだよ。ほい、これが設計図だ」
天使はどこからか設計図を取り出し、シトピッチャン教授に手渡しました。
「これを大量生産してさ、人間界で活躍させてくれってさ。じゃ、ちゃんと伝えたからね。急ぐからもう行くよ。じゃな」
言い残すと、天使はパッと消えてしまいました。

設計図を広げてみて、シトピッチャン教授はうーんと唸りました。
「すばらしい設計図だ…」
目を覚ますや、彼はただちに食育ロボットの開発にとりかかりました。
夢で見た設計図は、今も記憶のなかに鮮明に残っています。
こうして数年後、食育ロボットは完成しました。

完成した食育ロボットは「アンドリュー77型」というタイプでしたので、アンドリューと呼ばれています。
アンドリューは人間と同じ大きさ・形をしていますが、短い尻尾がついているのが特徴です。
そのアンドリューですが、いきなり一般向けに販売するというのも少々不安でした。
まずはモニターに使ってもらって感想を聞こうということになり、雑誌でモニターを募集したのです。

以下は、そのモニターから送られてきたレポートです。
↓↓↓

 

モニター氏名:川口恵太

「抽選に応募したら、当たったぞ」
ある日、父親がそんなことを言いながら、ロボットを家に連れてきました。
「こいつはな、食育ロボットだ。アンドリューという。お前の母さんの代わりになると思ってな、応募したんだ。仲良くするんだぞ。父さんはこれからまた仕事だ。泊まりがけになるから、留守番よろしくな。じゃ」
父親が去った後、ロボットのアンドリューは私にむかって「よろしく」と頭を下げました。

その日、アンドリューは私の一挙一動を黙っておとなしく観察していましたが、次の日から態度が変わりました。
どうなふうになったかといいますと…。

「いつまで寝ていますか。川口、さっさと起きてください」
朝6時。
アンドリューにたたき起されました。

びっくりしている私に、アンドリューは言いました。
「今日ただいまから早寝早起き朝ごはん開始です」
「はあ?」
「川口は早寝早起き朝ごはんです。朝ごはんの用意ができています。食べることに取り組んでください」
見ると、テーブルの上にごはん、味噌汁、納豆、海苔、刻んだネギの載った豆腐、野菜の煮物が並んでいました。

「取り組みましょう」と、アンドリュー。

「ありがたいんだけどさ」私はあくびをしながら言いました。「眠いんだよな。ギリギリまで寝かせてくれよ」
「その考えは好ましくありません。早寝早起き朝ごはんは日本の政府の重点目標です。早寝早起き朝ごはん専門の、全国組織もできているのです(※)」
「…分かったよ。せっかく作ってくれたんだったら、今日は食べるよ」

(※)「早寝早起き朝ごはん」全国協議会
http://www.hayanehayaoki.jp/modules/content3/kyougikai/kyougikai1.html

椅子に座ってさっそく食べようとすると、アンドリューの耳から突如、蒸気が噴き出ました。
プシュー!
次に、両眼が交互に点滅しはじめました。

「な、なんだ?」
「川口、大問題です。いただきますを言ってください」
「は?」
「繰り返します。いただきますを言ってください。いただきますごちそうさまは愛言葉。この標語を知っていますか。いただきますごちそうさまは愛言葉。これは、平成19年の食育推進の標語として日本政府から選ばれたものの1つです(※※)」

(※※)http://www8.cao.go.jp/syokuiku/data/slogan/slogan-h19.html

「そんなこと知るかよ」豆腐と納豆に醤油をかけながら私は言いました。「食わせろよ」
「いただきますを言わないのですね」プシュー。「言わないのであればあなたを呪います」
「なにくだらねえこと言ってんだ。勝手に呪えば」
「呪います。ちちんぷいぷい(←死語)。川口のごはんは食べられない。川口のごはんは食べられない。ちちんぷいぷい。呪いました。呪い、セット終了」

「ばーか」私はかきまぜた納豆を口に入れました。「わけわかんねえよ」
それからごはんを口に入れました。

うぎゃあ!
私は叫んでいました。
口の中が火事になったようでした。

「なんじゃこりゃあ」(←死語)
食べたものを吐き出し、さらに咳込む私。

「呪い、完了です」アンドリューが落ち着いた声で言いました。「川口のごはんは食べられない。ハラペーニョの種を大量にまぶしてあります」
「てめえ。始めからこうなることを予測してたんだろ」私は涙をボロボロ流しました。「し、仕組んでやがったな」
「いただきますごちそうさまは愛言葉」アンドリューは淡々と言いました。「今晩からは、言い忘れないことです」

◆◆◆

その夜。
テレビで映画をやるので楽しみに待っていると、アンドリューが言いました。
「川口。さっきの夕食で川口はいただきますとごちそうさまを言えましたね。称賛します。正しい行いは、すがすがしいものです」
私は顔を赤くしました。「お前を怖がってるわけじゃねえからな」
「怖がること不必要です。ところで、大問題です。早寝早起き朝ごはんのことですが、もうすぐ9時です。9時になったら早寝に取り組んでください」

「もう寝ろっての? こんな時間に? 放っといてくれ」
「その考えは好ましくありません。早寝早起き朝ごはんは日本の政府の重点目標です。早寝早起き朝ごはん専門の、全国組織もできているのです」
「そのセリフは朝、聞いたよ」
「朝聞いて、夜聞く。すばらしいことです。ベッドを整えてありますから、早寝に取り組んでください」
「あのな、見たい映画があんの。見てから寝るから、すこし黙ってろ」

プシュー!
テレビをつけようと、リモコンを手にしたとたん、アンドリューが両耳から蒸気を噴きました。
安物キャンディーのような形の両眼の点滅も、始まっています。
「呪います。ちちんぷいぷい。川口はテレビを見れない。川口はテレビを見れない。ちちんぷいぷい。呪いました。呪い、セット終了」

私は警戒しました。
また何か企んでるぞ、こいつは。
リモコンのスイッチを入れたら何か起こるのか?

何も起きませんでした。
というか、何も起きなさすぎて、テレビもつかなかったのです。
みると、リモコンの電池が抜かれていました。
「くっだらねえ。この程度か」私は呟きました。「電池を入れればいいだけじゃん」
買い置きしていた単3電池を入れ、再びスイッチを押します。
何も起きませんでした。
それもそのはずです。
よく見ると、テレビの電源が抜かれていました。

電源プラグを差し、リモコンのスイッチを入れると、今度はテレビがつきました。
ちょうど9時でした。
映画の紹介が始まったところです。
「これが呪いかよ。レベル低(ひく)。今回はこっちの勝ちだな」私はアンドリューに言いました。「映画は見させてもらう。おまえには何もできねえよ」

アンドリューが肩を落としました。
仕掛けが失敗し、うなだれているようです。
私は鼻でフンと笑いました。
それからソファに腰掛け、用意したポテトチップスに手を伸ばしました。

うぎゃあ!

あわてて冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターのボトルを取り出しました。

うぎゃあ!
ゲホゲホ!

遠ざかる意識のなかで、アンドリューの淡々とした声が響きました。
「呪い、完了しました。ポテトチップスには激辛ハバネロのペーストが塗られています。さらに、川口が飲んだのは水ではなく…」


(以下次号)

 

 

 

 

 

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2010.07.22 19:00

21世紀神様の悩み 第5話 食育時計

このシリーズの目次はこちら



前回までのあらすじ)
繁栄にあぐらをかき、飽食をむさぼる先進国。
彼らに鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

一方、人間社会のほうでも、2XXX年に
「メタボ基本法」
が可決され、メタボな人は
「メタボ刑務所」
に送られて保健指導を受けるようになりました。
「刑務所に送られてたまるか」と逃げ回るメタボな人々を、
「メタボ警察」
が執拗に追い回します。

この物語は、そうしたちょっとすごく怖い時代を懸命に生きる人々を描く、壮大なヒューマン・ドラマです。

◆◆◆

「最後の審判の日」時計(Doomsday Clock)
というのが本当にあるのをご存じでしょうか?
宇宙戦艦ヤマトじゃないけど、
「人類滅亡まで、あと××分」
というのを示す時計です。

シカゴ大学にあります。
「原子力科学者ブレティン」
という名前の科学雑誌がその時計を管理しています。

時計の針は進んだり後退したりします。
核戦争の可能性とか、地球温暖化などの環境問題とかを考慮して、
「人類滅亡まで、あと××分」
が決められています。
ちなみに、今日現在は
「人類滅亡まで、あと6分」
となっています。

本当に6分後に滅びるという意味ではありませんが、
「あと6分しかない、くらいに人類や地球のことを真剣に考えなさい」
ということを警告しているわけです。

◆◆◆

死んだばかりのある男が「メタボ地獄行き」を天使から宣告され、空港に到着しました。
これからメタボ地獄行きニュートリ航空459便に乗るのです。
指定された搭乗口にむかって、男はしょんぼりと歩いています。
「そんなに落ち込まないでよ、おじさん」見送りの天使が男の肩を軽くたたきました。「模範囚として認められたら、ウエルネス天国に行けるからさ」
「そんなこと言うたかて、わて、情けないわ」

男がなにげなく顔をあげると、コンコースの壁に無数の時計がかかっているのが目に入りました。
「時計がぎょうさんありまんなあ」男は言いました。「なんの時計でっしゃろか?」
「ああ、それはね」天使が答えました。「食育時計っていうんだ」

「食育時計?」
「神様が眉をひそめるような食事をしたら、時計の針が進むんだよ。暴飲暴食したりとか、ジャンクフードを食べたりとか、野菜を食べなかったりとか、寝る前に甘いものを食べたりとかすると、針が進む」
「そりゃまた、ごっつい時計でんなあ」

「あそこにロココ風のデザインの時計があるでしょ?」
「あれでっか」
「そう。あれはマザー・テレサの時計だよ」
「マザー・テレサでっか」
「マザー・テレサの時計はまったく針が動かなかった。彼女の食生活は完璧だったんだ」
「はあ…」

「それから、向こうに大きな振子時計があるの、分かる?」
「向こうの、あれでっか」
「あれはアンドリュー・ワイルという人の時計だよ」
「はあ」
「食育の世界では世界的に有名なお医者さんだよ」
「はあ」
「ワイル先生の時計はね、まだ2分しか針が動いていない」
「2分」
「要するに、今まで2回だけ、メタボな食事をしたことがあるってこと。あとは全部、立派な食事をしている」
「わてには真似できまへんわ」
「大丈夫。メタボ地獄に行ったらできるようになるから」
「ひー」

しばらくして、男が言いました。
「そや。わての時計は、どれでっか?」
「うん、それがね」天使は言いました。「おじさんのは、ここには、ないんだ」
「どこにありまんねん?」
「おじさんが生きてるあいだ、時計は神様のオフィスに置いてあったよ。まだ置きっぱなしだと思うけど」
「神様のオフィスでっか」
「うん。近ごろは天国も温暖化しててね。神様のオフィスで、扇風機がわりになってる」

 (以下次号)

 

 

 

 

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2010.07.14 21:12

21世紀神様の悩み 第4話 メタボ狩り



前回までのあらすじ)
繁栄にあぐらをかき、飽食をむさぼる先進国。
彼らに鉄槌を下すことにした全能の神様は、
「ウエルネス天国」
「メタボ地獄」
を作りました。
ストイックに生涯を全うしたらウエルネス天国行き。
飽食におぼれメタボのまま死んだらメタボ地獄行き。

さらに神様は、人間界にも介入します。
「メタボ撲滅結社」
なる組織を作って命令を下し、メタボな人を次々と抹殺してゆきました。
抹殺された人は、当然メタボ地獄行きです。

しかしその作戦は、初代ミス管理栄養士の阿部マリエが手違いでメタボ地獄に落ちてしまったことで、中止となりました。

この物語は、そうしたちょっとすごく怖い時代を懸命に生きる人々を描く、壮大なヒューマン・ドラマです。

◆◆◆

手違いで阿部マリエをメタボ地獄に落としてしまった「メタボ撲滅結社」。
神様にさんざん叱られ、結局は解散してしまいました。
こうした天上界のごたごたを、人間界は知るよしもありません。
とはいえ、阿部マリエ以降、「抹殺予告状」はぷっつりと絶えました。
事件は迷宮入りし、人々の記憶からも薄れていきました。

(助かった…)
多くのメタボおじさんが、胸をなでおろしたことでしょう。

しかし、世の中、そう甘くはありませんでした。
メタボ撲滅の動きが、今度は人間界で発生したのです。

2XXX年。
国会で、
「メタボ基本法」
がついに可決されました。
メタボを取り締まる法律です。
「メタボ警察」
が、メタボな人をつかまえ、裁判にかけ、
「メタボ刑務所」
に送り込むというキツーイ法律です。
メタボ刑務所では厳しい保健指導が行われ、メタボから脱却するまで出所できません。

そんなわけで、全国各地でメタボ裁判が始まりました。
メタボ警察はメタボな人をどしどし検挙します。
世間の人はそれを
「メタボ狩り」
と呼び、恐れました。

検挙された被告人は弁護士を雇って裁判にのぞむことになります。
メタボ狩り専門の弁護士は
「メタ専」
と呼ばれました。
「メタ専」弁護士は各地の裁判で引っ張りだこでした。

◆◆◆

裁判で有罪となったら、「メタボ刑務所」行きです。
メタボ刑務所に服役中の囚人は、刑務官(管理栄養士)の保健指導を受けます。
すなわち、早寝早起き、規則正しく塩分控えめに管理された食事、適度な運動、適度な睡眠、といった生活を、毎日正確に過ごすことを強制されるわけです。
深酒、睡眠不足、朝食抜きのオジサンたちには少々辛い指導です。

しかも毎朝6時に朝礼があり、囚人全員が
「脱メタ宣言」
を大声で合唱させられるのです。
こんな歌詞です。

<脱メタ宣言(食事・食育編)>
作詞・作曲: 管理栄養士 佐久間象子


早寝早起き朝ごはん
神に誓ったその日から
あなたとわたしの本能寺
忘れ敵(かな)わぬジャンクの味を
忘れてみるのもテクニック
食で養生、大往生
ピンピンコロリと来たもんだ
オーガニックに全粒粉
カルタ覚えて紙芝居
家族団らん地産地消
レッツビギン、ラララ
レッツビギン、ラララ

歌詞はまだまだ続くのですが、書いてて恥ずかしくなったのでここで止めます。

◆◆◆

「メタボ刑務所」での刑期(保健指導)を終えて出所するときは、こんなベタな場面が繰り広げられます。

服役囚 「お世話になりました。おかげさまですっかり痩せました」
刑務官(=管理栄養士) 「もう2度と、こんなとこ来ちゃだめよ」
服役囚 「へえ。これからは心を入れ替えて真面目な食生活に励みます」
刑務官 「リバウンドしないでね」
服役囚 「決していたしません」

服役囚は塀の外に出て、ベタにこう言います。
「ああ、シャバの空気はうめえなあ…」
「あなた」
振り向くと、妻が小さな女の子の手を引いてて立っています。
妻の目には涙が。
「お帰りなさい…」
「ただいま…」
見つめあう2人。
妻が娘に向かって言いました。
「あなたのお父さんよ。こんにちはって言いなさい」
しかし女の子は恥ずかしがって母親の陰に隠れてしまいました。

なんつて。
こんなん書いてて恥ずかしいのは、こっちだよ。

◆◆◆

人間界の、メタボとの戦いはこれからも続くのです。

(以下次号)





 

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2010.07.09 02:01

21世紀神様の悩み 第3話 アベ・マリエ

このシリーズの目次はこちら

前回までのあらすじ)
先進国の飽食。
恵まれない国の飢餓。
神様は
「メタボ地獄」
「ウエルネス天国」
を作って人間界に警鐘を鳴らそうとしました。

まず閻魔大王をメタボ地獄の店長に任命しましたが、これが開店以来大盛況。
神様自身が直接統治をするウエルネス天国も、最初こそ閑散としていましたが、徐々に住民が増えていきました。

一方、人間界では。
神様の指示で「メタボ撲滅結社」が暗躍し、多くのメタボ人間が行方不明になっていました。
メタボ撲滅結社はメタボ人間に予告状を送り、1年以内にメタボから脱却できなかった人を抹殺していたのです。

◆◆◆

阿部マリエという管理栄養士がいました。
「第1回美人栄養士コンテスト」で優勝し、「初代ミス管理栄養士」の地位につきました。
その後1年くらいのあいだに、
*食育指導士
*フードコーディネーター
*野菜のソムリエ
*雑穀のソムリエ
*NR(栄養情報担当者)
あたりの大手食育系資格を総なめし、「食育の女王」とも呼ばれていました。

その後、彼女は「メタボ撲滅結社」に狙われたメタボおじさんの救済活動を始めます。
何十人ものメタボおじさんが彼女のおかげで内臓脂肪を減らし、暗殺を免れました。

救われた人々は、彼女を
「アベ・マリエ、アベ・マリエ」
と呼び、感謝し、崇拝しました。
阿部マリエはあっというまに時代の寵児となり、大金持ちになりました。

◆◆◆

ところがその阿部マリエのところに、メタボ撲滅結社から予告状が来たものですから、たまりません。
世間は大騒ぎになりました。

「阿部マリエはメタボ撲滅結社とつるんで荒稼ぎしてんじゃね?」
まあ疑われても仕方がないというか、そういう疑惑を追及しているマスコミもいまして、
「今回の事件は阿部マリエが自分にかけられた疑いを晴らすための茶番劇だ」
という批判も噴出したりしました。

疑惑が本当かウソかはともかく。
阿部マリエはメタボではなかったにもかかわらず、予告状をもらってしまいました。
その後、マリエのところには毎日、メタボ撲滅結社からメールが届きました。
「あと291日」
「あと205日」
「あと134日」
「あと80日」
「あと17日」
「あと5日」
「あと4日」
「あと…」
マリエはメタボではないので、こんなカウントダウンされてもどうしていいか分かりません。
子どもがいない人のところに「子どもは預かった。返してほしくば身代金を払え」という脅迫状が来るようなものです。
マリエはおそらく誰かと間違えられて、カウントダウンにさらされてしまったのでしょう。
迷惑もいいところです。

とはいえ放置して何もしなかったら、カウントダウンが終わった時点でマリエは暗殺されてしまうかもしれません。

「マリエ様を救え」
「メタボ撲滅結社を探しだせ」
マリエファンも必死に、カウントダウンを止めさせるために、あの手この手でメタボ撲滅結社を見つけようとしました。
警察も動きました。

しかしメタボ撲滅結社を見つける試みはすべて失敗。
ついに1年のデッドラインがやって来ました。

はたして阿部マリエは人違いで抹殺されてしまうのか?
マリエを守るために厳重な警備体制が敷かれました。
大勢のファンが集まり、マリエの住居を取り囲みました。

しかしそうした努力にも関わらず、阿部マリエは夜中に忽然と消えました。
抹殺されてしまったのです。
2度と彼女が人々の前に姿を見せることはありませんでした。

◆◆◆

ひゅるるるる…。
「メタボ撲滅結社」の魔の手ににかかったマリエは、メタボ地獄に落ちました。
人違いのまま抹殺され、挙句の果てに地獄行きになるなんて、ひどい話です。
マリエは嘆き悲しみました。

ところが実際に行ってみると、メタボ地獄は、マリエにとっては意外に住みやすいところでした。
というのは、閻魔大王が彼女を優遇してくれたからです。
メタボ地獄の性格上、スレンダーなカワイコちゃん(←死語)がやって来るのはそもそもなかったわけですから、阿部マリエの来店に閻魔大王も鬼たちも大喜びだったのでした。
おっさんしかいない場末の麻雀店に、美人の常連が1人いるようなものです。

マリエも最初はメタボ地獄に落ちたことに戸惑っていましたが、閻魔大王が気さくなオニイサンだったことや、彼女に救いを求めるメタボおじさんがここにはめちゃ大勢いることを知り、メタボ地獄での生活にすぐに慣れました。

神様が異変に気づいたのは、阿部マリエが人間界から姿を消してから1ヶ月もたったころでした。
神様は人間界の新聞をどきどき読んでいたのてすが、ここしばらくは忙しくて読むのをサボっていました。
久しぶりに読んでビックリ。
阿部マリエが抹殺されているではありませんか。
神様は「メタボ撲滅結社」本部に電話をかけ、どうなっているのか問いただしました。

メタボ撲滅結社のスボークスマンも驚きました。
阿部マリエを狙う理由がなかったからです。
「か、神様」スボークスマンは早口で言いました。「な、なにかの間違いかと思います。し調べますのでおおおお待ちください」
調べた結果、メタボ撲滅結社が阿部マリエに予告状を送り抹殺したのは、パソコン入力のミスによるものだと分かりました。
やはり手違いだったのです。
手違いで、マリエはメタボ地獄に落ちてしまいました。

その報告を受け、神様はメタボ撲滅結社を解散させてしまいました。
人間社会に恐怖をまき散らしたメタボ撲滅結社は、ここに短い活動期間を終えたのでありました。
さらに神様は、マリエをメタボ地獄からウエルネス天国に移そうとしました。

ところがです。

閻魔大王が、彼女を手放そうとしませんでした。
「初代ミス管理栄養士」であり、
* 食育指導士
* フードコーディネーター
* 野菜ソムリエ
* 雑穀ソムリエ
* NR(栄養情報担当者)
の資格を持つ彼女は、メタボ地獄のアイドルになっていたのです。

(イケメンや美女はみんなウエルネス天国に行ってるじゃないか。それに比べてメタボ地獄はイケてないのばっかり。阿部マリエの1人くらい、こっちにくれたっていいじゃないか)
これが閻魔大王の思いでした。

「そんなわけですので神様」閻魔大王は電話の向こうで言いました。「いくら神様の仰せとはいえ、阿部マリエはお渡しできかねます。お許しください」
「じゃが、彼女は本来、ウエルネス天国に行くはずの人間じゃぞ」神様は辛抱づよく言いました。「本来行くべきところに行くべきじゃないかね」

いや、本来なら人間界に生きているはずですって。

閻魔大王は毅然として言いました。
「どのようにおっしゃいましても阿部マリエはお渡しできません」
「わしがこれほど言ってもか」神様は机をたたきました。「このわからず屋め。見ておれ、議会に訴えて、阿部マリエを天国に移すための行政処分をさせてやる」
「議会。行政処分…。そうでございますか。よろしいでしょう、やってみてごらんなさい」閻魔大王はニヤニヤして答えました。「議会議会とおっしゃいますが、神様、政治家の先生方の大半は、こっちにいるんですけど」


(以下次号)

 

 

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2010.07.02 16:52

21世紀神様の悩み 第2話 ねらわれたメタボ

このシリーズの目次はこちら

前回のあらすじ)
急遽、地獄をもうひとつ増やすことにした神様。
名づけて「メタボ地獄」。
親からもらった大事な体なのに、運動不足と飽食にまみれてダメにした罪。
そんな罪人が行くところです。
その代わり、親からもらった体を大事にして天寿をまっとうした人間には新しい天国が用意されました。
「ウエルネス天国」です。

◆◆◆

で、「メタボ地獄」「ウエルネス天国」が開店し、徐々に賑わいだしたころ…

人間世界では謎の失踪事件が相次いで発生していました。
しかもその失踪事件はすべて予告状つきのものでした。
こんな予告文が、どこからか郵送されてくるのです。
「葱桜俊造殿。貴殿はメタボであると判定されました。いまから1年後すなわち××年××月××日までにメタボを治しなさい。治せなかった場合、命はないものと心得よ」

その日から毎日、葱桜俊造氏のところにメールが届きます。
「メタボ撲滅結社」というところから発信されるメールでした。
メールを開くと、こう書いてある。
「あと229日」
「あと228日」
カウントダウンされていくわけです。

人々は震え上がりました。
メタボを治せなかったために、実際に失踪した(おそらくは殺害された)人が、何人もいたからです。
予告状を受け取った人はみな、あわててメタボを脱却するためのダイエットを始めました。
メタボを減らしたかった厚生労働省も、内心では大喜び。

さて、1年たって無事メタボから脱却したとしましょう。
すると、また「メタボ撲滅結社」からメールが来ます。
「葱桜俊造殿。おめでとう。貴殿のメタボは解消された。命拾いをしたな。しかし油断は禁物だ。むこう1年間でメタボがリバウンドした場合、やはり命はないものと心得よ」

人々はふたたび震え上がり、努力してリバウンドを防ぎました。
厚生労働省も大喜び。
「大きな声では言えんけど、『メタボ撲滅結社』さんのおかげで、いろいろ大助かりですわ」

◆◆◆

それにしても、犯人は誰なのか?
「メタボ撲滅結社」とは何なのか?
なぜメタボな人々の命をねらうのか?
警察も、FBIも、古畑任三郎も、首をかしげました。

天上界から、その様子を隠しカメラで見ていた神様。
「愚か者めが。犯人はワシに決まっておろうが。そんなことも人間は気がつかんようになったのか」
と、寂しそうに呟(つぶや)きました。

(以下次号)





読者の皆さんへ。
「メタボ撲滅結社」はこの物語に出てくる架空の組織ですが、
「メタボリック・シンドローム撲滅委員会」
という組織がほんとうに実在しています。
http://metabolic-syndrome.net/committee/
真面目な団体です。

それにしても、「撲滅」 という言葉はインパクトあるよね。





 

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