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2009.11.05 21:31

株式会社 食育 (人材紹介編)

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松宮園生です。

「もしもし、ハロー。これは松宮さん?」
「そうですが」
「あたしはジェフリー・ダニエルズ社の
リチャード・フォースバーグといいます」
「ジェフリー・ダニエルズ? 聞いたことがあるような、ないような…」
「はい。外資系の人材紹介会社です」

「へー、外資系ね。で、人材紹介会社が僕に何の用ですか」
「あたしたちの調べでは、松宮さんは偉そうにフリーランスなどとうそぶいておられるけれども、稼ぎが悪くていつも貧乏しているそうね。ですから、あたしの考えではあなたはそろそろサラリーマンに戻ってはどうかしら」
「し、失敬な。大きなお世話です」
「まあ落ち着いて聞いてくださいな。貧乏な松宮さんにぴったりの会社があるんです」
「興味ないですね。僕はもうサラリーマンを辞めたんです」
「そう…。食育関係の会社が、役員を募集してるんですよ。役員給与、弾むって言ってるし」
「えっ?」
「話だけでも聞いてほしかったんだけど。残念ね。ではごきげんよう」

「ちょ、ちょっと待って」
「何?」
「い、いやその。話を聞くだけなら、聞いてみてもいいかなと、思ったので…」
「そう? 感心な心がけね。さっそくと言っては急だけど、明後日の12時に、目黒に来てくださらない? サンマでもご馳走しましょう」
「は?」
「目黒はサンマが名物なのよ」

◆◆◆

「あたしがリチャード・フォースバーグです。はじめまして、松宮貧乏さん」
「はじめまして。でも貧乏は余計だよ。『松宮貧乏』というのが名前だと思われちゃうじゃん。…それにしてもあんた、日本語うまいね」
「あたし、奥さん日本人なんです」
「なるほど。だからときどき女言葉になってるのか」

「しかし意外ね」
「何がですか」
「もう少し、イケメンを想像していたものですから」
「お、大きなお世話です」

「今回ご紹介したいのは、『株式会社 食育』というところなんだけど」
「はあ」
「食育をしている会社なんですって」
「はあ。そりゃまあ、そういう会社名だったら、そうなんじゃないですか」
「その会社、日本の食育を海外に伝える事業をこれから始めるそうです。で、人材を探してるってわけ」
「なるほど。それでアメリカから帰ってきたドロンパな僕に白羽の矢が当たったわけですか」
「ドロンパ?」
「オバケのQ太郎という昔のマンガにそういうキャラがあってね」

「ま、ドロンパとやらはどうでもいいんだけど…。というわけで松宮さん。ホントはもう少しイケメンがいいんですけど、この際、松宮さんでもいいです。…面接してみません?」
「えっ、もう面接?」
「ええ。じつは『株式会社 食育』のオフィスはすぐそこにあるんです」
「そ、そうなんですか」
「あたしはここで松宮さんの帰りを待っています。今から、行ってきて頂戴」

「今から行くの? ひとりで?」
「松宮さんが来ることは伝えてあります。なにか不都合でもあるかしら?」
「あ、いや、サンマ、いつ食べるのかな、と思って…」

◆◆◆

「わが社へようこそ。あなたが松宮さんですか。わたくし、『株式会社 食育』の人事担当役員、上野と申します」
「あ、ども。松宮です」
「しかし意外ですね」
「何がですか」
「もう少し高そうな服を着ている人を想像していたものですから」
「お、大きなお世話です」

「さて松宮さん。わが社は食育をする会社でして」
「はあ」
「日本の食育は世界でもユニークなものだと聞いております。たしか松宮さんのサイトにもそう書いてありましたね(※)」
「はあ」

(※)http://www.shokuiku-pro.com/modules/tinyd1/index.php?id=1

「そのユニークな日本の食育を、世界に広める事業を始めようと考えております。松宮さんも、ない知恵をふりしぼり、微力を尽くしていただきたい」
「はあ。なんかムカつくんだけど、その言い方」
「何かおっしゃいましたか?」
「いえ、ひとり言です」

「さっそくですが、入社試験をいたします」
「入社試験?」
「そうです。わが社はスピードが命でしてね。すぐに試験を受けていただきます」
「そんなこと、聞いてないすよ。それに、誰も入社したいなんて言ってないのに、試験ですか?」
「またまた、ご冗談を。まあいいでしょう。よくある話です。ではさっそく試験です」
「いや、だから、誰も入社したいなんて言ってないっつーに」
「(無視して)おーい、金谷部長。試験を始めるぞー」

「どもども松宮さん、はじめまして。お名前はかねがね承っております。人事部の金谷です。本日はよろしくお願いします」
「はじめまして。あのー、いきなり試験というのはちょっと」
「心の準備がまだ、とか言うんですか? 松宮さんともあろう人が、もう。なにを僕の彼女みたいなセリフを言ってるんですか」
「は?」
「(赤面しながら)ささ、試験を始めましょう。しかし意外ですね」
「何がですか」
「もう少し、腹回りの小さい人を想像していたものですから」

◆◆◆

「では松宮さん。ここにいる金谷君と、わたくし上野が、これから松宮さんを試験いたします」
「はあ」
「まず第1問。日本の食料自給率はどのくらいでしたっけ?」
「なんだそんなことですか。日本の食料自給率はカロリーベースで4割、金額ベースだと7割です」

「もう1回言っていただけますか?」
「日本の食料自給率はカロリーベースで4割、金額ベースだと7割です」
「ではその言葉を、逆から言ってください」

「は?」
「ですからその文章を、後ろから言ってください」
「後ろから言うんですか?」
「そうです」
「えっと、すでりわ…とだすべ…くがんき…。言えるわけないじゃないですか」

「うーん、こんな簡単なのを逆から言えないようだと、戦力とは言えませんなあ」
「そんなの、食育と関係ないでしょう。あんたは言えるんですか?」
「ええ、言えますよ。すでりわななとだすーべくがんき、りわんよですーべーりろかはつりうきゅじうりょくしょのんほに」
「わ、言えた! なんなんだこの人」

「わが社の社員はみな、こうですよ。ほれ、金谷君、言ってごらん」
「はいっ。すでりわななとだすーべくがんき、りわんよですーべーりろかはつりうきゅじうりょくしょのんほに」
「わ、言えた! お、おかしいよ、この会社」

◆◆◆

「いよいよ最後の1問です」
「まだ2問目じゃねーかよ。もう最後なんですか」
「2問もあればじゅうぶんです。…では松宮さん。ここにカルタの読み札があります。すべて裏返しになっています。この中から1枚、引いてください」
「手品でもするんですか?」
「まあ、とにかく引いて」
「はあ」

「ではその読み札を表にして。そこに書いてある句を読んでください」
「読むんですか。えっと…、日本人いつの間にやらコメ忘れ」
「もう1回、読んでください」
「日本人いつの間にやらコメ忘れ」
「では問題です。この句はどこが作ったものでしょうか」

「は?」
「この句を作った団体を当ててください。これは利き酒ならぬ利きカルタと呼ばれているゲームです」
「そんなの分んねえよ」
「そうですか、分からないんですか。ふぅ」

「何だよ、その馬鹿にしたような溜息は」
「(無視して)金谷君。答えてみてくれ」
「はいっ。その句はxx農政局が作ったものです」
「正解。ほらね、松宮さん」

「何がほらねだよ。こんな試験やってられるか。いやいややらされて、それで不愉快にされちゃあ、たまんねえよ。もう帰る」
「この結果じゃ、しかたありませんね。金谷君、エレベーターまで送ってあげなさい」
「いらねーよ! てか、ここ1階なんだけど」

◆◆◆

「お帰りなさい、松宮さん。いかがでしたか」
「何してんすか、リチャード?」
「お約束のサンマを焼いていますが、何か?」
「駅前で? てか、どこからその七輪を持ってきたんだよ」

「で、面接はいかがでしたか」
「あの会社、おかしいすよ。人を馬鹿にしやがって」
「さてはコテンチンにやられましたね?」
「笑いごとじゃねえっつーに。てか、それを言うならコテンパンでしょ」

「笑ってはいません。あたし、松宮さんだったら、ぜったい簡単にクリアできると踏んだんですけど」
「それってどういうことだよ。あの会社、いつもあんな面接をするってことか?」
「そう。いつもああなの。なので、たまには落ちる人がいます」
「たまにはって。じゃあほとんどは合格してんのかい!」

お疲れさんでした。

 

 

 

 

 

 

 

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