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2009.10.15 00:40

カリウムの世界 上巻

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松宮園生です。

流しの料理人をしている友人のラザフォードが、
あるときこんなことを言いました。
「なあマツミヤ。お前、カリウムのキャンプって知ってるか?」
「は? カリウムのキャンプ?」
「カリウムだよ。原子番号19」
正確にいうと、ラザフォードは「カリウム」とは言わず
「ポタシアム」と発音しました。

potassium

カリウムは、英語では「ポタシアム」と言います。
(カリウムという言い方は、ラテン語だそうです)

食育の講座とかに参加すると、管理栄養士さんあたりがこんな話をします。
「野菜を食べましょう。野菜にはカリウムがたくさん。カリウムは適度な血圧を保つのに重要なミネラルです」

就農準備セミナーなんかに参加すると、農協の営農指導員さんとかがこんな話をします。
「農作物を育てるのにふつうは肥料を使います。肥料に欠かせない成分はチッソリンサンカリ。この呪文、暗記しましょう。チッソリンサンカリ。さあ、みんなで…チッソリンサンカリ。もう一度…チッソリンサンカリ」

この呪文は、農作物の生育に不可欠な3要素、
窒素
リン
カリウム
のことを表しています。

つまり、カリウムを含む肥料で野菜が育ち、その野菜を皆さんが食べてカリウムを摂取し、血圧をコントロールしているわけです。

「で、カリウムのキャンプって、何なんだよ?」
「おれはカリウムのキャンプで働いたことがあってな」ラザフォードは言いました。「地下にあるキャンプだ。炭鉱みたいなところを想像してくれたらいい。炭鉱では石炭を掘るが、カリウムのキャンプではカリウムを掘る」
「ふうん。そんな仕事もしてたんだな、あんた」
「そうじゃない。カリウムのキャンプで、料理人をしていたのさ」

◆◆◆

カリウムは鉱物資源です。金の鉱脈が地中に埋まっているように、カリウムの鉱脈も地中に埋まっています。小さな鉱脈は世界各地にあるようですが、カリウムの巨大鉱脈を持つ国は、世界に3ヶ国しかないそうです。
カナダ
ロシア
ドイツ
この3ヶ国です。
この3ヶ国が、皆さんの血圧の面倒を見ています。

先ほど書いたように、皆さんの体内のカリウムは野菜などを食べることで摂取するわけですが、野菜に与えられる肥料にカリウムが含まれています。
肥料に含まれるカリウムはどこから来るかというと、これらの鉱脈から来ています。

このカリウ鉱脈ですが、掘るのがすごく大変です。
鉱脈は地下1000メートルのところにあるのです。
そこまで掘らなければなりません。
掘ったら温泉のように沸き上がってくる、というのでもありません。
まず地下1000メートルまで掘り下げたあと、そこではじめて「カリウムの採掘」が始まるわけです。

たいへんな仕事だ。
でも人間はそれをやっちゃいました。

カナダ中部にサスカチュワン州というところがあります。
人口密度の希薄な州です。
そのサスカチュワン州の、とある、地平線に囲まれた荒野。
まわりに何もないところにポツンと、3階建てのビルディングがありました。
見かけはなんの変哲もない建物です。
そこが、地下1000メートルのカリウム鉱脈につながる入口でした。

なんの変哲もないビルディングに入ると、なんの変哲もないエレベーターがあります。
ただのエレベーターじゃないのが分かるのは、
* 乗る前にヘルメットを渡されるとき
* 目的階(=行き先)のボタンを押そうとすると、「B39」なんてとんでもない数字が表示されるとき
さすがにそのときは、ここが鉱山の入口なのだと実感するそうです。

地下深く行くために、エレベーターを何回か乗り換えるそうです。
気圧の問題もあるので、人間が潜水病にならないよう、エレベーターの下降や上昇はゆっくりと行われます。
そうして3時間もたったと思われるころ、地下1000メートルに到着します。

地下1000メートルは、本来はものすごく暑い。
摂氏60度にもなります。
なので強烈なクーラーが働いています。
そのおかげで、地上の涼しい夏くらいの暑さに抑えられています。
クーラーの稼働エネルギーはすべて地熱でまかなっています。

地下1000メートルは、舗装された坑道(トンネル)が巨大なアリの巣のように何キロもつづく世界になっています。
坑道は不必要に長いわけではありません。かつてはカリウム鉱石の採掘現場だったのが、採掘が進むにつれて奥へ奥へと延びていったものです。
それがいまでは、何キロにもなっているわけです。

◆◆◆

「行ってみてびっくりしたことに」コーヒーをすすりながら、ラザフォードは言いました。「カリウムのキャンプは、立派な町だった。2200人の住民がいる町だよ」
「地下都市ってこと?」
「地下1000メートルのところにある地下都市だ。カリウムを掘る人間と、その家族が住んでる。インフラもちゃんとしてたぜ。ケーブルテレビも見れたし、インターネットもできた。携帯電話も通じる。銀行もあればバーもある。セブンイレブンとマクドナルドがある。さすがに学校はないが、病院はある。で、おれは その町にあるレストランでシェフをやってた。普通にお金をもらって営業するレストランだ。味がよければ繁盛するし、まずくて客足が遠のけば、廃業というわけよ」

「すげえな」僕はいいました。「で、そこにはどのくらいいたの?」
「3か月ごとに2週間ほど、休暇で地上に出るんだが、そんな感じで2年くらい、いたかな」
「よく続いたねえ」
「給料がいいからな。都会のサラリーマンなみの給料がもらえて、加えてレストランの利益の半分をもらった」
「なるほど」

「でもな、お前は食育オタクらしいから教えてやるけどな」ラザフォードは意地悪そうな目になって言いました。「カリウムの世界では、オーガニックは御法度なんだぜ」

「オーガニックが御法度?」
「そのとおり。オーガニックは御法度なんだ」
ラザフォードはそう言い、立ち上がりました。
「オーガニックは御法度なんだ」

「意味わかんねえ。どういうことなんだよ?」
僕の質問には答えず、ラザフォードは言いました。「ちょっと手洗いに行ってくる。続きはそのあとだ」

(以下次号)

 

 

 



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