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松宮園生です。
この「しとちゃん」シリーズは、とある市役所につとめる
熱血食育マン、しとちゃんが主人公です。
しとちゃんは、ココリコの田中さんに少し似ています。
それはともかく、市の食育推進計画を任され、八面六臂の
活躍をする青年しとちゃん。
そんなしとちゃんの仕事ぶりを、彼のことが気になってしかたがない先輩職員(女性)の目を通して描きます。
◆◆◆
(前回までのあらすじ)
地元の活性化に火花を散らす、隣り同士の2つの市。
地元の伝統食「チメシ」がどちらのブランドになるのかで、激しく対立してしまいました。
県庁の仲裁もうまくゆかず、両市はそれぞれ、「チメシ」をテーマにイベントを開催することになりました。
敵が先攻=土曜日にイベントを開催。その名も「食育チメシ祭」。
しとちゃんの市が後攻=日曜日にイベントを開催。その名も「チメシ食育フェスタ」。
それぞれ、テーマソングを作りました。
「チメシ音頭」
「シング・チメシ・ソング」
それぞれ、マスコットキャラクターを作りました。
「チーメン君」
「チメちゃん」
その対決の週末が、ついに訪れたのでした。
前回→ 「しとちゃん PART-10」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/10/part10.html
◆◆◆
土曜の朝。
しとちゃんとわたしは、電車に乗って隣の市に向かいました。
「食育チメシ祭」を視察するためです。
午後からは明日の準備、つまり自分たちの「チメシ食育フェスタ」の準備があるので、昼過ぎには戻らなければなりません。
しとちゃんはサングラスをかけ、インフルエンザ防止用のマスクをし、スウェットパーカーのフードを深く被っています。
「敵情視察だから、変装しないといけないじゃないですか」
「へ、変装だったんだ」
「捕まっても正体がバレないように、運転免許証と職員身分証明書はちゃんとアパートに置いてきたんですよ。007みたいでしょ」
「捕まるって、誰に捕まるの」
「決まってるじゃないですか。隣の市のやつらですよ」
「は、はあ」
「敵地に入るんだから、先輩も気をつけてくださいよ」
「はあ」
しとちゃんは続けました。
「万が一、相手に見つかったら、僕には構わずに逃げてください」
「しとちゃんはどうするの」
「最後まで戦います! あいつら、うちのチメちゃんを…チメちゃんをチーメン君と無理やり結婚させようとしているんだ。何がなんでも阻止しなきゃ」
悲壮な覚悟でそう言うと、しとちゃんは目をつむり、なにかをブツブツ唱え始めました。
またです。
集中力を増すために、食育基本法の条文を暗唱しているのです。
読経かっつーの。
ほどなく、電車は隣の市に到着しました。
◆◆◆
「チメシ音頭」が流れるイベント会場。
屋台が立ち並び、チメシ以外にもいろいろなものが売られています。
「チーメン君」の着ぐるみを着た人が、チメシを配っています。
「あいつがチーメン君か。あの野郎」
しとちゃんが、サングラスの奥で「チーメン君」をにらみつけました。
その視線に気がついたか、「チーメン君」の着ぐるみがこっちにやってきて、しとちゃんとわたしにチメシを1つずつくれました。
「ハルノウミ」という銘柄の米を使い、「中村崎」の海苔で巻いたチメシです。
具は、しとちゃんが食べたチメシにはキンピラゴボウが入っていました。
わたしのチメシには、 高菜が入っていました。
「味はどう、しとちゃん?」
「悔しいけど、まあまあですね」
「普通にウマイという感じかな」
「もともとチメシは、誰が作ってもそこそこ美味しく作れるんですよね」
「そうよね、まずいチメシを作るほうが難しいかもね」
「それにしても、ヤバかったですねえ」チメシを食べ終えたしとちゃんが言いました。「あいつが近づいてきたときには、こっちの正体がバレたかと思いましたよ」
まだ時間が早いせいか、来場者の数もちらほらです。
人数が少ないことに、しとちゃんは機嫌を良くしました。「このイベント、ぜんぜん人気がないですね。こっちの勝ちだな」
しかし、11時を過ぎたころから、家族連れが大勢やってきました。
会場はごったがえし始め、着ぐるみの「チーメン君」も子どもたちに囲まれてチメシをどんどん配りました。
すぐに、チメシの在庫を切らしてしまいます。
その様子を見て、しとちゃんの機嫌も悪くなってきました。
またもや、ブツブツと食育基本法の条文を唱え始めます。
11時半になると、会場の一角で食育教室が開かれました。
農協の人と、地元の食育インストラクターみたいな女の人が、紙芝居をしています。
チーメン君とその仲間たちが、「メタボ大帝」を倒すという話のようです。
「くっだらない紙芝居だ」しとちゃんが鼻で笑いました。「こっちの勝ちだな。こっちは紙芝居じゃなくて人形劇だし、ストーリーだって全然違う」
「どんなストーリーなの」
「チメちゃんが、食品ロスを減らす呪文を使って、『自給率を下げる魔法』から国民を解放するストーリーです」
得意げに語るしとちゃん。
なんか、似たようなレベルだと思うけど…。
◆◆◆
時計の針が12時を回り、
「そろそろわたしたちも帰らなきゃね」
「そうですね。思ったほど大したことはなかったな。やっぱりチメシはこっちのものだ」
と話し合っていたとき。
突然、しとちゃんが沈黙しました。
サングラスの奥から、遠くに鋭い視線を投げています。
視線の先には、さっきの着ぐるみチーメン君がいました。
着ぐるみチーメン君は、どうやら会場を立ち去ろうとしていました。
空になったチメシの在庫を、補充しに行くみたいです。
その後姿を目で追ったまま、しとちゃんが真剣な声で言いました。
「先輩は先に帰ってください。午後には戻りますから」
「はあ?」
「あいつを尾行してきます。アジトに行くに違いありません」
アジトってあんた…。
戦隊ものじゃないんだから…。
てか、アジトを発見して、どうするの…?
と、突っ込もうとしたときには、しとちゃんの姿はありませんでした。
ピューっと立ち去ってしまったのです。
音速より早足のしとちゃん。
あとには一陣のつむじ風が残るのみでした。
(以下次号)
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