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松宮園生です。
人類を解放するため、エージェント・スミスと戦う
モーフィアスとネオ…。
今回の話は、映画「マトリックス」の設定を借用しています。
まだ「マトリックス」観てない人は、入場を御遠慮ください。
もう1つ。
今回の話は、「グルメ2.0」の続編です。
まだ「グルメ2.0」を読んでない人は、そちらを先にお読みください。
「グルメ2.0」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2009/01/20_6.html
◆◆◆
マトリックスのグルメ化に成功した、「料理系プログラマー」の真野史郎。
彼がマトリックスのプログラムを改良したおかげで、マトリックス内の食事の味がぐんとアップしました。
どこで何を食べても、旨いのです。
「メシがよければすべてよし」
という諺にもあるように、食事が良ければたいていの不満は解決する。
マトリックスの住民も、そのままマトリックスに住み続けることを選んでしまいます。
「これで、モーフィアスやネオとの戦いも有利になったでござる」
とエージェント・スミスもすっかりご機嫌。
史郎はそのご褒美として、あこがれの女性と恋愛結婚ができるように設定を変えてもらい、幸せに暮らしていました。
そんなある日。
夜も更けてきた時分に史郎の家のインターホンが鳴りました。
出てみると、長身のエージェント・スミスが立っていました。
「遅くにお邪魔するでござる。久しぶりでござるな」スミスが言いました。「新婚生活はいかがでござる」
「まあまあだね」史郎は照れながら答えました。「あんたには感謝してるよ。コーヒーでも飲んでくかい?」
「せっかくだが、御断り申す。こう見えても、世界をコントロールする仕事はなかなか忙しいものでござるゆえ」
「そりゃそうだね」
「ときに、今日は奥方は御在宅でござるかな?」
「いや、仕事で遅くなると聞いてるけど?」
「そうでござるか」
「なんだよ、なにを言いたいわけ?」
「実はでござる。さっき合コンに行ったのでござるが…」
「はあ? 合コン? あんた世界をコントロールするのに忙しいっていま言ってたじゃん。合コンにいく余裕はあるのかよ」
エージェント・スミスは顔を赤くしました。「これも仕事でござる」
「どーだかね」
「それより貴殿の奥方がその合コンに参加しておったでござる。自己紹介のときに独身だと申しておったが…」
「えっ、嘘だろ」
「嘘ではござらん。信じられぬと申すなら、いまから合コンの現場に参ろう。エコエコアザラシ、エコエコアザラシ…」
「なんだよその呪文は。それを言うならエコエコアザラクだろ。エコエコアザラシって、あんた、地球温暖化が止まって大喜びしている南極の生き物か! そりゃ、おれだって地球温暖化は止まってほしいけどさ。ていうか、エコエコアザラクだって、古くね?」
エージェントスミスはすました顔で答えました。「ツッコミが長いでござるよ」
気がつくと、史郎は合コン現場に立っていました。
◆◆◆
そこは千代田区丸の内の一角にある、イタメシ屋でした。
ほぼ満席でしたが、不思議なことに音もなくシーンとしていました。
音がなかっただけではありません。
動きがありませんでした。
時間が止まっていました。
客も、店員も、まるで蝋人形のように、動きを止めていたのです。
「こ、これは…」
史郎が目を丸くしていると、背後にいたエージェント・スミスが言いました。
「どうやら、プログラムがフリーズしているようでござる。…ああ、あそこにいるのが、貴殿の奥方ではござらんか」
スミスが指さす方向には、3人の女性と2人の男性が固まって座っているテーブルがありました。
なぜ男性が1人足りないかというと、その足りない1人というのが、エージェント・スミスだったわけです。
スミスだけは、フリーズを免れて動き回ることができたわけです。
合コン用テーブルの隅っこには、俳優の阿部寛によく似たイケメンが座っていました。
右手にビールの入ったグラスを、左手に携帯電話を持っています。
その笑顔が、さわやかなまま、文字通り凍りついていました。
阿部寛の隣には女性が座っていましたが、よく見ると史郎の妻、弥生でした。
左手に赤ワインのグラスを、右手には同じく携帯電話を持ち、動きが止まっています。
この2人、どうやら電話番号とメールアドレスをお互いに交換しようとしているようでした。
なんだか弥生の化粧が濃いような気がするのは、史郎の思い込みでしょうか。
ショックのあまり、その場にうずくまる史郎。
スミスが言いました。「貴殿をここに連れてきたのは、合コン現場を見せるためではござらん。例の『マトリックス・グルメ化計画』が成功して以来、こういうフリーズ事件が多いのでござる。要するに、バグというやつでござるな。貴殿にトラブルシューティングを頼みたいのでござるが…。おや、どうしたでござるか?」
史郎はこうつぶやくのが精いっぱいでした。「弥生が合コンだなんて…」
「気持は分からぬでもござらぬが」とスミス。史郎の肩に手を置きました。「バグを直すついでに、この合コンもなかったことにするがよいでござろう。設定を変えればよいだけのことでござる」
史郎の目から涙がこぼれます。「おれは弥生の自然な感情を大事にしたいんだ。設定を変えるなんて不自然じゃないか」
もともと設定を変えて、弥生をモノにしたのはオメーだろ。
◆◆◆
合コンをなかったことにするために、マトリックスの「グルメ・システム」のデバッグに猛然と取り組んだ史郎。
当初は、かつて自分が組んだプログラムに欠陥があるのではないかと考えていましたが、追及してみると、そうではないことを発見しました。
ウイルスが侵入していたのです。
ウイルスを作ったハッカーをつきとめた史郎とエージェント・スミスは、犯人を逮捕するために現場に急行します。
ハッカーは、文京区小石川のマンションに潜んでいました。
「1005号室。ここでござる」
スミスが呼び鈴を押しました。
「はあい。どなた?」
意外にも、女性の声でした。
しかも、年配の女性のようです。
すると、スミスが慌てたような小声で「逃げるでござる」
「え?」
「いいから、逃げるでござる」
「逃げるって?」
「説明している暇はござらん」
「だっていま逃げたら、ただのピンポンダッシュじゃないか」
「問答無用」
スミスに引きずられるようにしてその場を去った史郎。
エレベーターを待つ余裕がないため、階段を駆け下ります。
マンションの外に出るや、息を切らせている史郎にむかってスミスは言いました。
「あの声は、オラクルの声でござった」
「は?」
「オラクルに間違いござらん」
「ちょっと待って」史郎はその場に座り込みました。「オラクルっていうと、預言者のこと? たしか映画のなかでは、キアヌ・リーブスにいろいろアドバイスをしてたオバサンだよね」
「そのオバサンでござる」
「オラクルが、ハッカーの正体だってこと?」
「そのようでござるな」
「でもどうして…?」
「拙者にも分からぬ」スミスは言いました。「どうやらこの事件、一筋縄ではいかぬような気がしてきたでござるよ」
(以下次号)
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