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2009.08.17 22:31

愛しのエカテリーナ

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松宮園生です。

友人にジョン・ソイビーンという農家がいます。
アイダホ州でトウモロコシを作っています。
もとは大豆を作っていたのですが、
バイオエタノール用にトウモロコシを作ったほうが儲かる
ということで、3年前に大豆栽培をやめ、トウモロコシに
切り替えました。

しかし、トウモロコシの栽培も、本格的にやってみると
ナカナカたいへんだったようです。
なによりトウモロコシ栽培は大量の水を使うらしく、水を
確保するのに設備やらなにやら、いろいろお金がかかった
そうです。

「バイオエタノールはエコっぽいエネルギー源だと思うでござろう、松宮殿?」と、ジョンはあるとき僕に言いました。「しかしでござる。この水の消費量をみたら、貴殿も考えなおすでござろう。ま、作っている拙者が申すセリフではござらんが」

さて、アイダホ州の、彼の住んでいるあたりには牛も多く、なぜか放し飼いにされています。
規模の大きな有機酪農家が、なにか独自の理論、たとえば名づけて「放任無頓着農法」みたいなことでもやっているのかもしれません。
(そんな農法があるかどうかは知りませんが)

なので、散歩しているよく牛と道ですれ違います。
行儀のよい牛ばかりらしく、放し飼いをしていても畑作物を食べられたりすることは全然ないそうで。
村の人々はそれぞれの牛にアレキサンダーだのライディーンだのゴルゴーンだの、勇ましい名前や怖い名前を勝手につけて親しんでいました。

◆◆◆

ある旅行者がこの地域を通過している途中、クルマが動かなくなってしまいました。
なんとかしようとこの旅行者、悪戦苦闘しましたが、どこに原因があるのか分かりません。

そこへ、牛が通りかかりました。
牛はフンと鼻を鳴らし、「あらンお兄さん、いい男ね。さしでがましいようだけど…キャブレターをチェックしたほうがいいんじゃないかしら?」

旅行者はびっくり仰天。
ひいい、と甲高く叫ぶと、クルマを置いて逃げ出しました。

しばらくすると、彼は道端でビールを飲んでいるジョン・ソイビーンに出会いました。
旅行者はどもりながら、いま起きた出来事をあたふたと説明しました。

するとジョンはニヤニヤしながら「嘘でござる。そんなはずはござらん」
「ほほほ、本当なんです! たしかに牛が、キャブレターをチェックしろと言ったんです」
「どの牛でござる? 今時分に散歩しておるのはチムールか、それともエカテリーナか」
「名前言われたって分かるわけないじゃないですか、僕はここの人間じゃないんだから」
「斑(ぶち)は黒だったでござるか、茶色だったでござるか?」
「そんなこと、覚えていませんよ」
「それはそうでござるな。ちょっと待つでござる」
ジョンは携帯電話を取り出し、誰かに電話をかけました。

「…チムールはそちらにいるでござるか? 左様か、かたじけない」
そういって彼は電話を切ると、旅行者に向き直って
「貴殿が出会ったのはチムールにあらず。エカテリーナでござる」
と言いました。

「だから何なんですか? エカテリーナでもなんでもいいです!」旅行者は両手を広げてわめきました。「いいですか。牛がですよ、キャブレターをチェックしろと僕に言ったんですよ」
「そんなはずはござらぬ。貴殿もしつこい御仁でござるな」
「本当ですったら!」

その真剣な眼差しを見て、ジョンは表情を変えました。「本当でござるか?」
「本当です」
「嘘だったら腹を切るか?」
「切ります」
「そこまで申すなら…」ジョンは腕組みをして言いました。「しかしでござる。エカテリーナは機械が苦手でござる。クルマのことはいつ勉強したのでござろうか?」

 

 

 

 

 

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