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2009.07.03 10:30

ミスターシュガー

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松宮園生です。

ご存じのように、カリフォルニアには日本語を話す人が
たくさんいます。
日本食のレストランもゴマンとあります(※)。
「ロサンゼルスにある日本食レストラン向けに、日本の食材を供給する専門会社」
というのもありまして、なかなか繁盛しております。

  (※)全米にある日本料理店の数は約1万店(2007年現在)なので、「ゴマン」は言いすぎか…。

僕の好きな店の1つに
「ミスターシュガー」
というところがありました。
こじんまりとした店です。

シュガー(砂糖)というのは単純なシャレで、店主の名前が「佐藤さん」だからそういう名前になっています。
佐藤さん → ミスターサトウ → ミスター砂糖 → ミスターシュガー
ちなみにこの佐藤さんには、20歳年下の美人の奥さんがいます。
名前通り、甘い生活を送っているのでしょうか。

「ミスターシュガー」は日本風洋食屋でした。
要するに
カレーライス
ハヤシライス
エビフライ定食
カニクリームコロッケ定食
チキンライス
ビーフシチュー
あたりがメニューに載っているような店です。

「ミスターシュガー」が開店した当初は、日本人客ばかりでした。
エビフライだの、カニクリームコロッケだのという、これら「洋食」というやつは、「洋食」と呼ばれる、じつは日本の料理です。
長崎の「トルコライス」みたいなものにいたっては、郷土料理とさえ言えるくらいです。
これらは日本人のために日本人が開発した料理です。
(洋食が一般化したのは大正時代と言われています)
なので、アメリカに住んでる日本人にとっては、故国日本を思わせる懐かしい料理なわけです。

一方、アメリカ人には馴染みのない料理でした。
アメリカにはエビフライもカニクリームコロッケもありません。
なので、「ミスターシュガー」が開店したころ、
「お、また日本料理屋がオープンしたのか」
と思ったアメリカ人が店に入ってみると、イメージしていた日本食とは全然違うものが出てくる。
かといって、アメリカで慣れている料理が出てくるわけでもない。
なんだかよく分からない、不思議な料理が出てくる。
たいそう戸惑ったようです。
というわけで、初めの頃はなかなか客が増えなかったのでした。

そんな「ミスターシュガー」だったので、いわゆる日本食ブームの恩恵を受けることはあまりなかったようです。
それでも真面目に頑張った佐藤さん。
最近はそこそこ人気が出てきたらしく、ときどきは混むこともあったりします。
僕はもっぱらランチタイムによく行きました。

そんなある日のこと。

白人の若者が1人、ヒョコッと店をのぞきこんで言いました。
「おじさん、ランチタイムは何時まで?」
キッチンにいた佐藤さんは答えました。「2時までやってるよ」
「ああそう。じゃ、また来るよ」
そう言って若者は去っていきました。

壁時計に目をやると、まだ12時前でした。
偵察役だったのかな。しばらくしたら仲間を連れて戻ってくるつもりかな。
佐藤さんはそう思ったようですが、その日は結局、若者は戻ってきませんでした。

数日たったころ、同じ若者がまた店に顔を出しました。
「混んでるねえ」彼は言いました。
事実、この日の「ミスターシュガー」はごった返していました。
「今日も2時までやるの?」
若者は周囲の喧噪のなか、佐藤さんに聞こえるように大声で言いました。
佐藤さんも大声で答えました。
「今日は3時まで頑張るかな。悪いがいまは見てのとおり満席だ。2時くらいには空いてくるから、その頃おいでよ」
「分かった。そうする」
言い残して若者は去っていきました。

でも彼は戻ってきませんでした。

さらにその翌週。
ランチタイムでしたが12時前とはいえ客はちらほらでした。
そこに例の若者が現れました。
「空いてるね」彼は言いました。「こんなでも2時までやるの?」
佐藤さんはムッとした表情で
「2時までやるさ。空いてっけど、たまにはこんな日もあるよ」
と言い返します。
若者はあわてました。
「気を悪くしたらごめんなさい。そんなつもりはまったくないんだ。ただ、今日は何時まで開店してるのか知りたくて」
「いつもどおり2時までやるさ。質問ばかりしてないで、食べてってくれよ」
佐藤さんはそう言いましたが、若者の姿はすでにもうありませんでした。

ミスターシュガーの常連客で、日本人の筒井君という留学生が、たまたまそこにいました。
「佐藤さん。何あれ?」筒井君が聞きました。
佐藤さんは首を横に振りながら、「あいつさ、顔だけ出して、閉店時間だけ質問して、食べずに帰ってくんだよ。これで3度目」
「ふうん。変なやつ」
「顔を出してから何をしているんだろうな」佐藤さんは不思議に思いました。「そうだ筒井君、悪いけどあいつの後、つけてみてくれない? いまあんたが食べ終わったオムライス、お代は払わなくていいからさ」

タダメシにつられた筒井君。
さっそく若者のあとをつけました。
しばらくして筒井君はニヤニヤしながら帰ってきました。

佐藤さんは尋ねました。「あいつの行き先、分かったかい?」

「分かったよ」筒井君はあいかわらずニヤニヤしながら答えました。「パイン通り992番地って、ひょっとして佐藤さんの家?」

 

 

 

 

 

<参考書籍>

「アメリカ日本食ウォーズ―寿司、豆腐、枝豆、日本酒…いまアメリカでは日本食が大ブーム!」
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4751105523

アメリカ日本食ウォーズ―寿司、豆腐、枝豆、日本酒…いまアメリカでは日本食が大ブーム!

 

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