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松宮園生です。
食育基本法という法律があります。
2005年にできました。
ふつう法律というと、「決まり事」が書かれていて、
それに背くと懲役とか罰金とかの「罰」が待っているわけですが、
この食育基本法にはそういったことが書かれていません。
なので、だれに何をさせようとしている法律なのかが、ちょっと分かりにくい。
なんとも不思議な法律です。
食育基本法にはいくつもの条文がありますが、
「ひとつくらいは法律らしく『決まり事』と『違反したときの罰則』を作ろう」
と考えた国会議員の働きかけで、2009年になって「決まり事」と「罰則」ができた。
…と想像してください。
以下は想像の世界です。
◆◆◆
で、食育基本法にこういう条文が加わりました。
食育基本法 第xx条
すべての成人は毎日、健康な朝ごはんを食べなければならない。
違反した者は10万円以下の罰金または30日以内の懲役とする。
さて、この法律を実施し、違反者を取り締まるためには、
「健康な朝ごはんとは何か」
を誰かがきちんと定義しないといけません。
でないと、たとえば立ったまま栄養ドリンクを飲んで「朝ごはん終了」だと思っている人は違反しているのか違反していないのか? が判断できませんね。
じゃあだれが定義するか。
それについて農林水産省と厚生労働省とが話し合った結果、
「朝ごはん管理本部(Breakfast Administration Department 略して BAD)」
という組織が国内の有識者を集めて誕生しました。
この BAD が朝ごはんの定義を決めることになりました。
何度も会議を繰り返した末、BAD が定めた朝ごはんの定義はこういうものでした。
* 健康な朝ごはんの「健康」とは、日本・韓国・中国・ギリシャ・インド・スペインのうちどれかの国の伝統的な朝食スタイルに合致すると BAD が認めたものとする。
* 健康な朝ごはんの「朝」とは、午前4時から午前10時30分までとする。
* 健康な朝ごはんの「ごはん」とは、テーブルに向って椅子に座った姿勢で、40kcal/min(分速40キロカロリー)以上のスピードで連続5分以上、合計で480カロリー以上の食物を、経口で摂取する行動のこととする。
複雑怪奇でなんだか分かりにくい文章ですが、まあとにかく、この3つの文章を足し合わせ、「健康な朝ごはん」の定義は最終的にはこうなりました。
「午前4時から午前10時30分のあいだに、日本・韓国・中国・ギリシャ・インド・スペインのうちどれかの国の伝統的な朝食スタイルに合致すると BAD が認めた食物を、40kcal/min(分速40キロカロリー)以上のスピードで連続5分以上、合計で480カロリー以上、経口で摂取する行動のこと」
◆◆◆
定義づけができたのはいいのですが、次は、人々がこの法律を守っているかどうかをどうやってチェックするか、という問題が浮上します。
飲食店で朝ごはんを食べる場合、
1) 朝ごはんを店内で食べた人に、店側が「朝ごはん認定証」を発行する。
2) この認定証を BAD に提出すると、「合格」。
3) 提出できなかった人は違反者
みたいな感じにすればいいわけです。
しかし、そのうち客と店とが結託して架空の認定証を出すようになると、このやり方も張り子の虎になってしまいますね。
家庭で朝ごはんを食べる場合はもっと難しい。
家族が家族に「朝ごはん認定証」を出しても、BAD としては、本当に食べたかどうか、素直に信じられないからです。
この問題について BAD は徹夜の会議を繰り返し、このように決めました。
前の日の夜中12時までに、
「翌朝の朝ごはんを何時にどこで食べるか」
を地元の役所に申告する。
その申告を受け、役所側は監視ロボット(子犬型)を朝ごはんの現場に送る。
で、本当に食べているかどうかを確認する。
なお、申告しなかった(=申告漏れ)場合は追徴金。
朝ごはんを食べる場所ですが、自宅で食べる人、飲食店で食べる人、オフィスで食べる人、など、さまざまです。
したがって、子犬の姿をした監視ロボットはそのさまざまな場所に出向き、尻尾を振りながら朝ごはんのチェックをするわけです。
監視ロボットの電子頭脳には、
「午前4時から午前10時30分のあいだに、日本・韓国・中国・ギリシャ・インド・スペインのうちどれかの国の伝統的な朝食スタイルに合致すると BAD が認めた食物を、40kcal/min(分速40キロカロリー)以上のスピードで連続5分以上、合計で480カロリー以上、経口で摂取する行動のこと」
がちゃんとインプットされています。
なお、監視ロボットの数には限りがあるので、全員の監視をするわけにはいきません。
なので、監視ロボットはランダムに派遣されることになりました。
つまり監視ロボットは来たり来なかったりする。
来るか来ないかは予測ができないため、たいがいの人は申告したとおりに真面目に朝ごはんを食べるようになりました。
◆◆◆
実をいうと、朝ごはんを食べるべきなのか、食べないほうがいいのか、どっちが健康に良いのか、専門家のあいだでも意見が分かれています。
以前、
「朝ごはん派」
「アンチ朝ごはん派」
が出版している本の数を調べてみたら、ほぼ同数でした。
このアンチ朝ごはん派の人々が、食育基本法の「朝ごはん条文」に反対して
「アンチ朝ごはん党(Party Against Asagohan 略して PAA)」
を結成しました。
PAAには夜更かしの人が多かったのですが、それと比例してアーティストなんかも多く加わっています。
そのアーティストたちが作ったシングル曲
「朝は出すだけ」
がミリオンセラーとなり、PAA は財政的に潤いました。
そのお金を元手に、形勢逆転を図ります。
PAA は、次の総選挙で過半数を取り、食育基本法を廃案にすることをマニフェストに掲げました。
過半数を取れなかった場合は、アンチ朝ごはん派だけを集めて独立国家を建てることも検討していると噂されており、社会は不穏な空気に包まれています。
◆◆◆
それはともかく、このようにして、国民皆兵ならぬ「国民皆朝ごはん」の時代が幕を開けたのでした。
<まとめ>
この法律ができて、損したところ
* ○○製薬(カ○○○メイトが朝ごはんとして認められず、売上激減)
* 飲食店(朝ごはんを食べる人は増えたが、夜遅くまで酒を飲む人が減り、トータルでは売上が落ちた)
* 電力会社(夜更かしする人が減った)
* コンビニ(深夜の客が減った)
儲かったところ
* わり箸メーカー
* ロボットメーカー
* 管理栄養士(レシピ作成の依頼が増えた)
* 時計メーカー(目覚まし時計がバカ売れ)
* 精神科医(患者が増えた)
<関連図書>
「ティファニーで朝食を」
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