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松宮園生です。
アメリカ西海岸に住んでいたころの話ですが、
シアトルからクルマで30分くらいのところに
フェデラルウェイという町があります。
そこのショッピングモールにある日本食屋「ハニコ」で昼食をとりました。
ラルフという、運送会社の社長と一緒でした。
ハニコはかつてはハナコという名前でしたが、みんなハニコと呼ぶのでハニコに改名したそうです。
ハニコはわりと気に入りの店でした。
松宮はラーメンとかお好み焼きとかもけっこう好物でして。
ハニコはその辺のメニューがなかなか旨かったのです。
お好み焼きはガイジンに説明しやすい料理です。
「ジャパニーズ・ピザ」
と言えばいいので。
それに比べたら「西京焼き」とか「かぶら寿司」とか「ゴリの佃煮」とかは、説明がめちゃ大変です。
(説明する羽目におちいったことはないけど)
さて、ラルフは日本食屋にはあまり詳しくない人間でした。
「何を食べればいいんだ? おすすめは?」
と聞かれたので、
「あんたはジャパニーズ・ピザを食え。僕はラーメンを食う」
こういうのは、迷える子羊のために、決めつけてあげることも重要です。
案の定というか、ピザ好きのラルフは迷うことなくジャパニーズ・ピザを注文しました。
僕は醤油とんこつラーメンを注文しました。
醤油とんこつラーメンが運ばれてきました。
「なんだそれは」とラルフが聞いてきました。
僕は割り箸を割りながら「ヌードルだ」といいました。
するとラルフは、
「そんなことは分かっている。なんのヌードルか知りたい」
困りました。
醤油とんこつなんて英語で説明できません。
「ピッグ(豚)ボーン(骨)スープ・アンド・ソイソース(醤油)ラーメン・ヌードル」
なんて知ってる単語をテキトーに並べました。
ラルフは神妙にうなずいていましたが、分かったのか分かってないのか。
次に、アツアツのお好み焼きが運ばれてきました。
ところが、ラルフは眉をしかめて食べようとしません。
「どしたの?」
と聞くと、彼はなにか質問しました。
質問されているのは分かったのですが、英語が理解できなかったので、短気なヤマトダンジ松宮もメンドくさくなり、
「イエス。イエス。ノープロブレム」
とかなんとか、テキトーに返事しました。
長々と説明してたら、ラーメンのびちゃうし。
するとラルフの顔色が変わりました。青くなったのです。
ラーメンをすすりながら横目で見ると、ラルフ社長、なにやら祈りながら恐る恐るお好み焼きを食べています。
いや、食べるというよりは、隅の方を少しずつかじっている感じです。
ちょっと涙目にもなっていました。
結局ラルフちゃん、お好み焼きをおおかた食べ残してしまいました。
会計を終えてチップも払い、ハニコを出た後、駐車場にとめてあるクルマまで歩きながら、僕はラルフに聞きました。
「ジャパニーズ・ピザだけど、美味しくなかった?」
「いや味はよかったのだが」ラルフは言いました。「でも××××を食べるのは、ちょっとオレには難しい」
××××の部分がよく聞き取れなかったので、僕は紙とボールペンを取り出して言いました。
「あんたがいま何ていったのか分からないので、ここに書いてよ」
「いいとも」
ラルフが書いたのは、
「バグ(昆虫)の羽」
という言葉でした。
◆◆◆
あちゃー(←死語)。
今度は僕の顔色が変わりました。
(自分で分かるのかよ)
アツアツのお好み焼きに振りかけられたカツオブシが、熱のせいで変形して動き回っているのが、彼には昆虫の羽が動いているように見えたらしい。
で、
「これは何か? 昆虫の羽か?」
とラルフは僕に質問し、僕ってば、
「イエス。イエス。ノープロブレム」
といい加減に答えてしまったわけです。
困ったことになりました。
このまま訂正せずに放っておくと、「日本人はピザに昆虫の羽をかけて食べる」という大誤解がラルフに定着してしまいます。
かといって訂正すると、あのときに「イエス。イエス。ノープロブレム」と答えて彼の食欲を奪ってしまった松宮は、極悪人になってしまいます。
ど、どうしよう…。
立ち尽くす松宮。
遠くにそびえたつリーニア山(※)が、僕を笑っているように見えました。
(※)シアトルのあるワシントン州でもっとも高い休火山。
富士山とよく似た美しい形をしているので、在米日本人にも愛されています。
標高は富士山より500メートルほど高い。
<おすすめサイト>
「アメリカ食通信」
http://www.myfood.jp/w_myfood/us_foodnews/