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2009.02.09 21:00

史上最強の栄養教諭 後編

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松宮園生です。 

 

(前回のあらすじ)
児童を威圧する恐怖の栄養教諭、佐久間象子。
このままでは、多くの児童がPTSDになってしまいます。
ですが、なぜか校長先生は、その強烈ぶりを見て見ぬ
ふりをしていました…。

  (前回)「史上最強の栄養教諭 前編」
  http://www.shokuiku-pro.com/production/2009/02/post_180.html

◆◆◆

風の冷たい真冬の夕刻。
とある小ぎれいな一軒家。
「TERANISHI(寺西)」と横文字で書かれた表札を、薄着に半袖の佐久間象子は腕組みをして睨(にら)んでいます。

「この家ですか」
佐久間象子が吠えるようにつぶやくと、
「はい、そうです、先生」
付き添ってきた小柄なオジサンが、おどおどした表情で答えました。
このオジサン、「美味しんぼ」に出てくる東西新聞社の文化部の副部長(名前、忘れた)に少し似ています。

佐久間象子がアゴで指示を出すと、その冴えない風貌のオジサンが、寺西家の呼び鈴を鳴らしました。
「どなた」
眠たげな声がインターフォンから聞こえました。

オジサンが言いました。
「あ、あのう。此花小学校の2年2組の担任をやっとります、神林ですが」
「またですか」
「またですかって、そろそろお子さんの給食費を払っていただきませんと、たいへん困るのですが」

インターフォンを通じてため息が聞こえました。
「しつこいわねえ。義務教育なんだから、給食費だってタダにしなきゃおかしいじゃん。何度おなじこと言わせるのよ」
「し、しかしですね、お母さん」
「しかしもなにもないわよ。じゃね。文句があるなら総理大臣に言って」
「ちょ、ちょっと寺西さん」

2年2組の担任、神林先生は、佐久間象子のほうに向きなおり、頭をかきました。
「いつもこうなんです、ここんち」

◆◆◆

「分かりました。神林先生は下がっていてください」
佐久間象子は低い声でいい、腕組みをしたまま一歩進み出ると、大きく息を吸い込みました。
空が心なしか、暗くなりました。
つむじ風がおき、油断していた神林先生は転びそうになりました。

数秒後、寺西家がガタガタ揺れだしました。
窓にヒビが入り、家の中で家具がひっくり返る音がしました。
続いて、なかから女性が飛び出してきました。
さっきの寺西さん(寺西君という小学生のお母さん)です。

佐久間象子が全身の力を緩めると、ガタガタいうのが止まりました。
寺西さんは呆然とした表情で、きょろきょろしています。「い、いまのは…?」
「地震です、寺西さん」佐久間象子が冷淡な表情で答えました。
「あ、あなたは誰?」
「神林先生と一緒に、学校給食費の集金に回っています」

その言葉に、寺西さんは顔をしかめました。
「うちにはお金なんてありません」
言い捨てると、家の中に入ってしまいました。

佐久間象子はふたたび、腕組みのまま、息を吸い込みます。
空の色が変わり、つむじ風がおき、またもや揺れだす寺西家。
皿の割れる音がします。
ほどなく、寺西さんが飛び出してきました。
寺西さんは目の前に立ちふさがる佐久間象子と神林先生にむかい、ヒステリックに叫びます。
「な、なんなのよ、あんたたち」

「地震です」
「わざとやってるでしょ」
「わざと?」佐久間象子は無表情に「あなたは、わたしがわざと地震を起こしたといいたいのですか」
「う」言葉に詰まる寺西さん。
「わたしは、ふつうに呼吸しているだけですよ」

その言葉に嘘はありませんでした。
佐久間象子は、ふつうに呼吸をしているだけだったのです。
ま、ケンシロウ風にいうと、「闘気をまとった」ことになるみたいですけど。

不満そうにぶつぶつ言いながら、静かになった家に戻る寺西さん。
すると、またもや佐久間象子の人工地震が…。

これを4度繰り返した時点で、寺西さんは給食費を払うことに同意しました。
当初、警察に電話するなどと息巻いていた寺西さんだったのですが、佐久間象子は敷地の外で呼吸をしていただけなので、なんの罪にもならなかったのです。

◆◆◆

校長先生が佐久間象子を雇っている理由、読者のみなさんはもうお分かりですね?
佐久間象子は、昼間は泣く子も黙る栄養教諭。
放課後は、給食費未納のモンスター・ペアレンツから、給食費を取り立てる仕事もしていたのです。
凄腕の、取り立て屋なのでした。

ま、校長先生に言わせると、これも栄養教諭のもともとの業務だそうですが、ホントかどうかは分かりません。

帰り道。
道行く人々のコートの裾が、北風にあおられています。
半袖の佐久間象子は、何事もないかのように、のっしのっしと歩いています。

その姿を小走りに追いながら、
「いやあ、佐久間先生、ありがとうございました」
なんども頭を下げる神林先生。
その眼に宿っているかすかな怯えの色に、佐久間象子は気づいていました。
気づいていましたが、知らぬふりをしました。

強い栄養教諭は、つねに孤独なのです。(←深い?)

 

 

 

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