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松宮園生です。
いまでこそ食(食育)に関する仕事をしていますが、かつては違う世界で
仕事をしていました。
それが、食の世界に転向したのは、8年前のことです。
転向したてのころ。
中途採用で食品の貿易会社に就職しました。
仮にテケテケ商事と呼ぶことにしましょう。
このテケテケ商事で、僕は3年働きました。
テケテケ商事はリスクの高い相場商品をたんと扱っていたわりには、地味な社風の会社でした。
あまり会話がないのです。
オッサンたちは昭和っぽい腕章をして黙々と仕事してたし、女性社員はOLというより女子社員という感じでした。
商事会社のくせに人の出入りも少ない。
転職早々の僕が配属になった部署の室長さんは、僕より3ヶ月前に有名な大手商社から転職してきた人だそうですが、なんだか商社マン出身とは思えない地味な人でした。
そんなテケテケ商事に初めて出社した日。
地味な室長さんに
「キミの机は僕の隣です」
と言われてそこに座った僕。
デスクトップ・コンピューターが設置されています。
新品ではありませんでした。
最近まで誰かほかの社員が使っていた形跡があります。
コンピューターを立ち上げようとすると、室長さんが言いました。
「あらかじめ言っときますが、ウチの会社のパソコンはインターネット通じません。よろしく」
貿易会社なのに、パソコンがインターネットから切り離されている。
マジすか?
地味にもほどがあります。
まあ初日ですから、キレるわけにもいきません。
聞こえないようにため息をつき、コンピューターのスイッチを入れる。
しばらくすると、なぜか分かりませんが表計算ソフトの「エクセル」がとつぜん開きました。
そこにはただひとこと
「メキマンが来る」
と書かれていました。
メキマンが来る。
「メキマンって、なんですか?」
僕は地味な室長さんに聞きました。
地味な室長さんは「メキマンが来る」を数秒間みつめていましたが、
「分かりません。わたしもこの会社に来て日が浅いので」
と残念そうにいい、張子の虎のように首をふりながら男子トイレに行ってしまいました。
メキマンが来る。
誰が来るんだろう?
「マン」ってついてるから、ヒーローみたいのが来るのか?
純真な僕は悩みました。
次の朝も、出社してコンピューターを立ち上げると、昨日とおなじくエクセルが勝手に開いて
「メキマンが来る」
の7文字が出現。
妙だったのは、社内の誰に聞いても教えてくれなかったことです。
というか、誰も答えられませんでした。
メキマンが来る。
このコンピューター、以前は誰が使っていたんだろう?
その人物なら知っているはずだ。
というわけで、地味な室長さんにその質問をぶつけてみる。
地味な室長さんは自分のあごを数秒間なでていましたが、
「誰が使っていたんでしょうねえ。さあ分かりません。わたしも日が浅いし、わたしが来たときはすでにこのパソコンはここにありましたよ」
と残念そうにいい、張子の虎のように首をふりながら男子トイレに行ってしまいました。
メキマンが来る。
コンピューターを立上げる → エクセルが勝手に開く → メキマンが来る
これが僕の日課となりました。
メキマンの意味がわからないまま、ついに3年が過ぎました。
テケテケ商事を退職する日、僕は社内のおもだった人たちに挨拶まわりをしながら、メキマンの意味を聞いてまわりました。
やっぱり誰も知りませんでした。
とうとう謎はとけないまま、僕のテケテケ商事での3年間は終わったのであります。
◆◆◆
メキマンの謎は、いまでも解けていません。
ただ、ひょっとしたらメキマンというのは
「メキシコ産マンゴー」
という意味なんじゃないか、と今では思うようになりました。
「メキマンが来る」
というのは、
「メキシコ産のマンゴーが日本に輸入される。その荷物がもうすぐ届く」
という意味なのかもしれません。
貿易会社ですから、ありそうな話です。
確かめてみようと思い、地味な室長さんに久しぶりにメールしてみました。
室長さん、地味で無難なところが評価されたのか、取締役に出世していました。
彼からは、こんなメールが返ってきました。
「あなたまだメキマンのことを調べているんですか。…さあ、わたしにはよく分かりませんねえ」
張り子の虎のように首を振りながら、さびしげに男子トイレに向かう彼の姿が、目に浮かびました。
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