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2月もよろしく、松宮園生です。
駄目ビジネスマンを相手に2流、3流の商品を
売りつけるのを生業にしている人物がいます。
その人物の名は、「アゴヒゲ」。
フリーランスのセールスマンです。
僕も「駄目ビジネスマン」の1人と見なされているらしく、
アゴヒゲによくつきまとわれて困っています。
前回「食育セールスマン奮闘記 その1」はこちら
http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/08/1_29.html
今回は、そんなアゴヒゲとの情けない出会いを書きます。
◆◆◆
あれは、脱サラして小さな事務所を構えたころのことです。
アゴヒゲにスーツ姿のオジサンが僕の事務所にやってきました。
オジサンは言いました。「松宮さんというのは、あんたかい」
「そうだけど?」
「アゴヒゲという者だけどね。ちょっといいかな。あんた、脱サラして独立したのに仕事がなくてヒーヒー言ってるそうじゃないか。情けないのお。じつはオレもそうなんだ。そこでどうだろう、情けない駄目ビジネスマンどうしで組まないか。一緒に傷をなめあおう」
「し、し、失礼な。こう見えても仕事が山積みなんだぞ。あまりに忙しくてデートもできないくらいなんだから」
「それはあんたに相手も金もないからだろ」アゴヒゲはニヤニヤしています。「さっきから電話だって鳴らないじゃないか」
「そ、それはだ、…さ、サイレントモードにしてるからだってば」
すると、電話が鳴りました。
「あはは。何がサイレントモードだ」
「な、なにを。で、電話が鳴らないと言って笑ったのはそっちだろ。電話が鳴ったんだから、僕の勝ちだぞ」
なにが勝ちなんだか。
しかし久しぶりに鳴った電話は母親からで、
「レンコンのきんぴらがうまくできたからお前にも送る」
という平和な内容でした。
横で聞いていたアゴヒゲがニヤニヤしながら言います。
「なんだあんた、ママに仕送りしてもらってるんかい」
「ちちち、ちがわい(←死語)」
「まあいいさ。いろんな親子がいるからな。でもあんた、母親のことをマミーと呼ぶのはやめといたほうがいい」
「呼んでないっつーに!」
アゴヒゲは憐れむような目をして言いました。
「オレはあんたを助けたいんだ。あんたはオレの若いころにそっくりなんでねえ」
「お、大きなお世話だい」
しかしアゴヒゲは聞こえないフリをして
「そうかそうか。喜んでくれてオレも嬉しいよ。ではお近づきの印だ」
そう言って、彼は本を一冊、取り出しました。
「食育バンザイ」
そんな題名の本でした。
表紙の写真のなかでは、たすきをかけたオバチャンたちが、たわわに実った田んぼのまわりに集まってバンザイをしています。
「定価3000円だが、著者割引で2500円にしてやる。よかったなあ、あんた。サインもしといたよ」
アゴヒゲが本のカバーをめくると、なんだか安っぽい字で
「松宮園生くんへ。アゴヒゲより」
と書いてありました。
「いらねえよ、そんな本。もう帰ってくれ」
「お前もか」アゴヒゲは帰ろうともせず、ため息をつきました。「この本、ぜんぜん売れなくてなあ。役に立たない内容らしいんだ」
役に立たないのに、売ろうとしてんの?
「ま、この本はタダで進呈しておこう」アゴヒゲは言いました。「その代わり、50冊まとめて仕入れてくれ。転売したら、儲かるぞ」
「いや、結構」
「そう言わずに、騙されたと思って買っときなよ。これから長いおつきあいが始まるんだからさあ。…あ、そうだ。あんたのためのコンサルティングもしてやるよ。コンサルタント料金も格安にしておこう。月20万円でいいよ。よかったなあ、あんた」
「はあ?」
「契約書も用意しておいたんだ。ほーら見ろ、あんたの筆跡を真似てサインもしておいた」
「それ、犯罪じゃないかよ! もういいから、帰ってくれ」
僕は契約書をひったくり、破り捨てました。
「冷たいねえ。ケチだねえ」
不満そうに立ちあがりながら、アゴヒゲは言いました。
「でもあんた、それでオレから逃げることができたと思うなよ。あんたのマミーの作ったきんぴらが届いたころに、また来る。じゃな」
だからマミーじゃない、っつーに。
アゴヒゲが去り、僕が呆然としていると、またドアが開きました。
アゴヒゲでした。
「ひとつ聞くのを忘れていた」アゴヒゲは言いました。「このへんにさ、カモっつーか、あんたみたいな食育好きの駄目ビジネスマン、ほかにいない?」
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