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2009.01.10 07:54

グルメ2.0

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冴えわたる想像力、松宮園生です。


人類を解放するため、エージェント・スミスと戦う
モーフィアスとネオ…。
今回の話は、映画「マトリックス」の設定を借用しています。
まだ「マトリックス」観てない人は、入場を御遠慮ください。

◆◆◆

プロローグ。

優秀なプログラマー真野史郎(31歳)は料理が趣味。

プログラミングの仕事は、じつにストレスが溜まります。
ストレスが溜まった夜。
史郎は台所に立ち、目をギラギラさせて包丁を握ります。
夜中に、ニタニタ笑いながら包丁を研ぎます。
「燃えろお」と言いながら、ガスコンロに火をつけます。

怖い。

しかし料理の腕はナカナカなのでした。

◆◆◆

夜は怖い真野史郎も、昼間は真面目なプログラマー。

そんな真野史郎が会社でコンピューターとにらめっこをしていると。
「真野さん、お客さんがいらっしゃってるわよ」
先輩社員の声。
「えっ、お客さん? 誰かな?」
真野史郎が受付に出てみると、サングラスをかけた細身で背の高い男が立っていました。

「お初にお目にかかる」男は言いました。「突然の訪問、お許しいただきたい。拙者はエージェント・スミス」
「はあ」
「驚くなかれ。こう見えても、じつは、ガイジンである」
「いや、ガイジンにしか見えないって」

「ガイジンなのに、日本語ペラペラである」
「はあ」
「関西弁も達人であるが、セガール先輩に遠慮して、普段は言わないことにしている」
「はあ」
「ダジャレも得意であるが、スペクター先輩に遠慮して、普段は言わないことにしている」
「はあ。その部分は賛成だな」

「本日の用向きであるが」と、エージェント・スミス。「コンピューターと料理の両方に長けた日本人を探していた。ようやく貴殿を見つけたので、迎えにまいった」
「は?」

「この世界はマトリックスと呼ばれ、じつは現実ではない。バーチャルの世界なのである」
「マトリックスなら観たことあるよ。キアヌ・リーブスが出ている映画だろ」
「キアヌ・リーブス? ああ、救世主を気取っているアンダーソン君のことであるな。映画を観たことがあるなら話は早い。じつはあれは実話である」
「は? てか、アンタいまダジャレ言ったんじゃね?」

史郎のツッコミを無視して、スミスは続けます。「あれは実話である。この世界そのものが、マトリックスになっている。アンダーソン君もちゃんと実在する」
「は?」
「マトリックスを観たのだったら、これ以上の説明は不要であろう。さっそくであるが貴殿に頼みがある。いささか来てもらいたい。ちちんぷいぷい」

スミスが呪文を唱えると、周囲の風景が一瞬にして消えました。

◆◆◆

気がつくと、真野史郎は取調室っぽい殺風景な部屋のなかで、椅子に座っていました。
テーブルをはさみ、エージェント・スミスと向かい合っています。
その部屋にはドアがありませんでした。
窓もなく、明かりもない部屋なのですが、なぜか暗くありませんでした。

エージェント・スミスは言いました。
「じつは、マトリックスのオーナーが、マトリックスをもっとグルメな世界にしたいと言い出した。サービス向上の精神である」
「はあ」
「で、貴殿に料理レシピを考えていただきたい。いままでより何倍も美味い料理を作ってほしい。それをマトリックスにインストールするのだ」
「はあ。…でもそれだったら、料理研究家とか、シェフとか連れてくればいいんじゃねーの」

「そうしたいのはやまやまであるが…。だが考えてみてもらいたい。マトリックスはコンピューターのなかの世界である。すべては 1 と 0 とで構成されている。料理レシピも、マトリックスのなかではプログラムの1つなのだ」
「はあ」
「つまり、料理を作ってほしいのではない。料理レシピをプログラムしていただきたいのである。この仕事は、プログラミングもできて料理もできる、バイな人間に頼むしかないのでな」
「バイってあんた…。まあいいや、なるほど、それで料理研究家じゃなくてオレなわけかい。でも、さっきあんた、日本人を探しているって言ったよな。なんで日本人なわけ?」

「説明するわね」
後ろから声がしたので真野史郎が振り向いてみると、もう1人のエージェント・スミスが、そこに立っていました。
最初のスミスと同じ顔、同じサングラス、同じスーツですが、このスミス2号のほうは、内股で、なんとなく、ナヨナヨしています。

(なんだよ、バイなのはスミスのほうじゃねーか)
真野史郎はそう思いましたが、黙っていました。

スミス2号は言いました。
「マ○○○○ドのハンバーガーをプログラムするとねぇ、だいたい1万桁(けた)のコードになるの。トルコ料理のレシピをプログラムすると、平均して300万桁のコードが必要になるわ。メキシコ料理は400万桁。イタリア料理は900万桁。中華料理は1200万桁。フランス料理になると2000万桁が普通ね」
「はあ」
「おおざっぱにいうとぉ、素材とか料理レシピが高度になればなるほどぉ、コードの桁数(けたすう)が増えるのよ」
「はあ。てか、いま、なにげにダジャレ言わなかった?」

史郎のツッコミを無視するスミス2号。「そこで日本料理なんだけどぉ。日本料理は、桁数がダントツなの。平均して8000万桁のコードが必要になるってわけ」
「8000万!」
「そうなのよぉ。それをこないだオーナーに報告したんだけどさぁ、そしたらどうよ、『マトリックス内のすべての料理を8000万桁以上のコードで書き換えろ』なんて命令してきたじゃない? だから、その作業を、あなたにやってもらえたらいいなぁ、なあんて、そう思うわけね」

「そういうわけである」座っているスミス1号が口を開きました。「さっそくマトリックスをグルメ化するプログラミングにとりかかっていただきたい。この計画は、『マトリックスのグルメ化プロジェクト』と命名する」
「そのままじゃねえか」
史郎のツッコミを無視するスミス1号。「では始めてくれ。すぐにだ。ちちんぷいぷい」

とたんに、それまで殺風景だった部屋が、コンピューター室に変わりました。

「えっ、いまから始めるの?」
焦る真野史郎。

「左様」重々しくうなずくスミス1号。「ところで貴殿に支払う報酬であるが…。拙者、さきほど貴殿の脳をスキャンしたところ、田口弥生という女性のデータが山のように出てきた。28歳だそうであるな」
史郎の顔が赤くなりました。「ち、ちょっとアンタ」
「その田口弥生が、貴殿と結婚したくなるように、マトリックスの設定を変えておくことにする。では頑張ってくれたまえ。期待いたしておるぞ」

「青春ねぇ」スミス2号が、後ろでつぶやきました。

◆◆◆

エピローグ。

数ヶ月後に、プロジェクトが終了。
真野史郎は仕事をなしとげ、あこがれの田口弥生と結婚しました。

職業病というか、この仕事を通じて史郎は
「コード化された数字を読むだけで料理が分かる」
ようになってしまいました。
以後、史郎の作るレシピ・ノートは、こんなふうに書かれるようになりました。

1100001010011010100101111011011… 

プロジェクトのおかげで、マトリックスのグルメレベルは、ぐんとアップしました。
人々の、マトリックスに対する満足度が上がったのです。

「これじゃ、住民はマトリックスから出たがらないだろうなあ…」
モーフィアスやネオ(アンダーソン君)は、溜息をつき、マトリックスから人類を解放するのをしばらく延期しましたとさ。
この勝負、エージェント・スミスのアイデア勝ち。

 

 

 

<おススメの1冊>

「人間は脳で食べている」
http://astore.amazon.co.jp/shokuikuprodu-22/detail/4480062734

人間は脳で食べている (ちくま新書)

 

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