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2008.12.10 12:30

いただきますラプソディ 第4巻

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こんなときこそ上を向いて歩く、松宮園生です。

(前回までのあらすじ)
猫も杓子も、食べた料理の写真をブログにアップするのが
大流行。
そんなことに縁のないはずのオヤヂたちまで、あの店で
パチリ、この店でパチリとやり始めた。

その流行に乗じて、「フードカウンセラー清美」という人物が、ブログを使ったメタボ食事指導を始める。
清美の人気は急上昇していった。

  (前回)「いただきますラプソディ 第3巻」
  http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/12/3_30.html

◆◆◆

久しぶりに、佐久間象子の登場である。

メタボ指導で日本征服をもくろむ「佐久間象子研究所」。
そのアジトは、日本食育大学のキャンパスの地下にあるという噂だが、まだ真相は明らかにされていない。
所長の佐久間象子は、
「剛腕の管理栄養士」
という異名をとっている。

「剛腕の管理栄養士」。
これは、管理栄養士の国家試験に合格したあと、さらに所定の「栄養武術(ニュートリ・アーツ)」の試験に合格した者が、与えられる称号である。
いまのところ、人間でその称号を持っているのは佐久間象子だけである。

佐久間象子は管理栄養士というだけではない。
自己紹介のとき、象子は必ずこういうセリフを吐く。
「わたくしは管理栄養士であると同時に、栄養教諭の免許をもっており、フードコーディネーターの資格も持っています」

「はあ。すごいですね」
と、あなたは感心するかもしれない。
だが、象子の自己紹介はまだ終わらないのだ。
「それだけではありません」象子は続ける。「わたくしは食育必死講座1級でもありますし、食育プリーチャーの資格も取っています」

「はあ。なんかよく分かりませんけど、すごいですね」
あなたは辛抱強く感心したフリをするかもしれない。
だが、聞いてもいないのに象子の自己紹介はまだ続くのだ。
「それだけではありません。食育推進士試験はムラサキ合格しています」
「ムラサキ合格」
「ムラサキ合格が最上位です。次がキイロ合格。その次がアオ合格です」

「はあ」
「それだけではありません。炭水化物のソムリエでもあり、日本カルパッチョ協会認定カルパッチョ講師の免状も持っているのです」
「はあ」
「そんなわたくしですが、何か?」
「は?」
「ですから、そんなわたくしですが、何か?」

何か? と言われても返答のしようがないのだが、返答できないと、佐久間象子に背骨をへし折られてしまうという噂がある。
気をつけたいものだ。

◆◆◆

「佐久間象子研究所」の地下アジト。
所長の佐久間象子が、パソコンを見ながら頭から湯気をたてて怒っていた。
「な、なんですかこれは」

部下の戦闘員がおどおどしながら答えた。
「はあ。フードカウンセラー清美という人のブログでございます」
「何者なのですか。管理栄養士の資格は持っているんでしょうね」
「い、いえ、そういう資格は持っていないようなのですが」
「資格も持っていないのに、フードカウンセラーなどと名乗っているのですか?」
「は、はい」
「で、ブログの世界で勝手にメタボ指導をしているのですか?」
「そのようでございます」
「で、美人なのですか」
「まあまあだという噂でございます」

佐久間象子が握っていたパソコンのマウスが、ぐしゃっと音をたてて潰れた。
あわてて新しいマウスを用意する戦闘員。

象子は低い声で言った。
「その女、潰しておしまい。このマウスのようにね」
「ら、ラジャー」
直立不動の姿勢になり、佐久間象子に敬礼をする戦闘員たち。

「それにしても気がつかなかった」佐久間象子はパソコンの画面に向かってつぶやいた。「こういうやり方で、メタボ指導ができるとはねえ」

結局、感心してるんかい。

◆◆◆

「佐久間象子研究所」によるサイバー攻撃が始まった。

ひとつは、メール攻撃。
「フードカウンセラー清美とやら。あなたは何の能力があってフードカウンセラーをやってるのですか? 意味が分かりません」
「ただちに罰当たりなメタボ指導をやめ、両手をあげて出てきなさい」
という主旨のメールを、大量にフードカウンセラー清美に送りつける。

ひとつは、コメント攻撃。
清美のブログ「フードカウンセラー清美のオトナ食」に、大量の誹謗中傷コメントを入れる。
たとえばこんなコメントだ。
「素人がちょっと可愛いからって、食事指導なんかするものではありません。足元をすくわれますよ」
「『フードカウンセラー清美のオトナ食』って、なんですかその題名。そのセンス、ぼちぼちダサくありませんか? 3年くらいたってその題名をごらんあそばせ。恥ずかしくて脳が酸化するのではありませんか」

こうした大量のメールとコメントで、清美のブログが炎上した。

さらに、重点目標を対象にした戦略コメント爆撃。
つまり、清美がコメントを入れたオヤヂたちのブログに対し、「佐久間象子研究所」から攻撃的なコメントが入るわけである。
「高田馬場プチトマトさん。わたくしは佐久間象子です。食事指導なら玄人のわたくしに任せなさい。フードカウンセラー清美は素人です。わたくしは管理栄養士であると同時に、栄養教諭の免許をもっており、フードコーディネーターの資格も持っています。それだけではありません。わたくしは食育必死講座1級でもありますし、食育プリーチャーの資格も取っています。それだけではありません。食育推進士試験はムラサキ合格しています。ムラサキ合格が最上位です。次がキイロ合格。その次がアオ合格です。それだけではありません。炭水化物のソムリエでもあり、日本カルパッチョ協会認定カルパッチョ講師の免状も持っているのです。そんなわたくしですが、何か?」
「エーデルワイス俊三さん。フードカウンセラー清美のブログで褒められたからって、あなたの食生活はじゅうぶんではありません。食事指導なら玄人のわたくしに任せなさい。ビシビシ鍛え直してあげます」
こんなコメントが自分のブログに入ってきたら、怖いだろうな。

フードカウンセラー清美はブログ上で反論をした。
「佐久間象子さん。あなたのやりかたは北風と太陽でいうと北風です。北風でコートを脱ぐ人なんかいないんじゃないでしょうか」
「皆さん。佐久間象子さんから来たコメントは無視してくださいねー。たしかに清美は栄養士じゃないですけどぉ、正しい知識は持ってますよ。それに、メタボ・パパさんたちが清美のコメントを楽しみにしてくれてるのが、なにより素敵でしょ。これからもよろしくね」

メタボ・パパさん、だとぉ?
素敵、だとぉ?
この言葉を目にした佐久間象子の、怒りで真っ赤になった顔が目に浮かぶようである。
象子が頭から出した湯気で、アジト周辺の湿度が10パーセント上昇した。
サイバー攻撃はますます激化した。

清美の危機を救え、とばかりにオヤヂたちが清美のブログに応援コメントを書き込んだりしたのだが…。
それが火に油をそそぐことになり、佐久間象子は生意気なオヤヂどものブログを本腰入れて攻撃しはじめた。

数日後、フードカウンセラー清美はブログを閉じた。
「短いあいだでしたが、お世話になりました。軽くイタリアにでも行って、チーズやオリーブオイルやハチミツの勉強でもしながら、1年ほど遊んでこようと思います」
というビミョーに憎たらしい捨て台詞を残して…。

◆◆◆

勝ったぞ。

フードカウンセラー清美を「業界」から追い出した佐久間象子。
食ブログがオヤヂたちのあいだで流行していることを知った今、
「清美もいなくなって、いよいよ自分の時代が来た」
と思ったことだろう。

無理もなかった。
メタボ男性の食事指導をしたくてしたくて仕方のない佐久間象子だったが、どいつもこいつも象子を見ると逃げ回り、路地裏に隠れてしまう(←猫か)。
こいつら、どうしてくれようと、地団駄を踏んでいたのだ。

しかし状況は変わった。
食ブログを書くオヤヂどもを、標的にすればいいのである。
パソコンを立ち上げてインターネットにつなげば、そこに何万人という獲物がひしめいている…。

勇躍する佐久間象子。
さっそく、
「エレファンター栄養士のハッピー地獄」
という、言語感覚が破壊されたような名前のブログを立ち上げた。
同時に、フードカウンセラー清美がやったのと同じように、世の「食ブログ」にコメントを入れ始めた。

ところがである。

恐れをなしたオヤヂたちが、あわてて次々とブログを閉じた。
「佐久間象子が現れ、清美を追放し、自分が食事指導をはじめたぞ」
この情報は、またたく間にブロガーたちに伝わっていたのだ。
逃げ遅れた一部のブロガーが、佐久間象子につかまって強烈な食事指導を受けることになったのだが、大多数は無事に逃げのびた。

こうして、オヤヂたちが「食ブログ(料理ブログ)」に夢中になる、という流行は、突然、終焉した。

犠牲者をもとめてネットをさまよう佐久間象子。
しばらくは
「死んだ(=更新されなくなった)ブログにしつこくコメントを書く」
というハイエナのようなことをしていたが、それも虚しくなり、ほどなく諦めたようである。

オヤヂもいなくなり、佐久間象子も去り、ブログ社会に平和が訪れた。


夏草や 兵(つわもの)どもが 夢の跡  ー芭蕉ー

(このシリーズ、完)

 

 

 

 

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食育プロデュース委員会

 

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