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料理はからきしダメなくせに、食器洗いは天才、松宮園生です。
(前回のあらすじ)
猫も杓子も、食べた料理の写真をブログにアップするのが大流行。
そんなことに縁のないはずの人々まで、あの店でパチリ、
この店でパチリとやり始めた。
家電量販店の店頭には、料理ブログ専用デジカメの特別コーナー
までできる始末…。
前回「いただきますラプソディ 第1巻」はこちら。
http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/11/post_172.html
◆◆◆
どどばしカメラの店頭に並ぶ、料理ブログ専用デジカメ。
今って、こんなものが売れているのか…。
こんな日本に誰がした。
てか、こんなに流行っているのに気がつかなかった僕も僕である。
で、この料理ブログ専用デジカメだが。
普通のデジカメより汎用性がない気がするのだが、汎用性のないものがわざわざ作られている。
世のなか面白いことに、汎用性がないほうが売れることがあるのだ。
たとえば、「メタボメジャー」。
これは腹回りを測定するためのメジャー(巻尺)なのだが、長さが90センチしかない。
腹回りが90センチを超えるとメタボの可能性がある、というところから、どっかの会社が考案したメジャーである。
普通のメジャーは3メートルくらいあると思うのだが、それをわざわざ90センチに切ってある。
90センチまでしか、測れないのである。
つまり、普通のメジャーに比べてメタボメジャーは短いわけだ。
しかし、メタボメジャーは短いところが気に入られ、だいぶ売れたようである。
詳しくはこちら。
http://blog.goo.ne.jp/healthpro/e/55469615b6207a9e09cea4986616eeab
話を戻そう。
「料理ブログ専用デジカメ」の特別コーナーの前で呆然とする僕。
そこへ、女性の店員が話しかけてきた。
30代なかばの、ちょっとだけ色っぽい女性である。
その彼女が、いきなりこんなことを言った。
「あなた、もしかして松宮さんでしょ」
「は? なんで分かったの?」
「分かるわよ。タマネギが眼鏡かけて歩いているような人なんて、他にいないじゃない」
いや、たしかに僕のシンボルマークはこんなだけど…。
でも実物はぜんぜん違うと思うのだが…。
うっかりしていると、彼女は僕に腕をからめてきた。
「嬉しいわあ。いいとこに来てくれたのね。おねがい、デジカメ買って。松宮さんには安くしちゃう! だから、いいでしょ」
「なんでだよ」
「いいじゃない。減るもんじゃなし」
「減るよ! 間違いなくお金が減るって」
「またそんなこと言って。松宮さんみたいな人がデジカメ持ってなくてどうすんの。じゃあ、あたしが選んだげる」
「いや結構です」
僕の言葉は無視された。
「これなんか良くない? デザインもシンプルだし。これね、ほら、まず写真撮るじゃん? 次にここ押すとね、自動的にネットにつながって、この場でブログが更新されるの。アメブロでも、ライブドアでも、楽天ブログでも、エキサイトでも、グーでもオッケー。やってみるから、見てて」
「いや、いいから」
彼女は僕の腕をぎゅっとつかんだ。「よく見ててね」
彼女は僕に向かってシャッターを切り、それからどこかのボタンを押した。
デジカメから、聞いたことのあるメロディが流れてきた。
「♪ 四角い黄色の闇の手線 ♪…」
どどばしカメラのテーマソングである。
「これでアップ完了」ウインクする彼女。「カンタンでしょ。こっち側に携帯電話と同じテンキーがついてるから、文章も打てるというわけよ。たとえば…」
「ち、ちょっと待て」僕はあわてて遮った。「いま僕を写したよな」
「写したわよ。それがなにか?」
「で、ネットにつないだんだろ」
「つないだわよ。それがどうかした?」
「どこのサイトにアップしたんだよ」
「アップ?」きょとんとする彼女。
「いや、だから、いま僕の写真を撮ったろ」
「撮ったわよ」
「で、どこかのボタンを押したら、どどばしカメラの音楽が流れたよな」
「音楽?」
「音楽はどうでもいいんだよ。問題は、それで僕の写真がどこかのブログにアップされたんじゃねえの?」
「あ」
「あ、じゃねえよ。どこにアップされたんだよ」
「どこがいいの?」
「どこもいくねーよ! アップされたんなら、消してくれ」
「どこにアップされたかって聞かれてもねえ」のんびりした口調の彼女。「初期設定やったの、あたしじゃないもん…」
「そんなことはどーでもいいよ。どこにアップされたか調べて、消してくれ!」
「初期設定やったの、あの桑井さんだし…」
「あのって言われても知らねえよ!」
◆◆◆
10分後。
デジカメ売場をほうほうの態(てい)で脱出した僕。
ひどい目に遭った。
いつのまにか知らないブログに顔がアップされてたら、怖い。
それにしても。
この流行、いつまで続くのだろうか。
その日の午後、またもや目撃してしまった。
髪型に寝ぐせのついてるオヂサンが、場末(ばすえ)の地味なファミレスで、競馬新聞を読んでいる。
そこに、ジャンクな感じの生姜焼き定食が運ばれてくる。
オヂサンはデジカメを取り出し、生姜焼き定食を撮影したのだ。
「ありゃりゃ、競馬新聞の切れ端と灰皿が一緒に写ってしまったぞい。…まあ、いっか」
そんなひとり言が聞こえてきそうである。
このオヂサンの写した生姜焼き定食の画像は、
「幸せオヤジのほんのり★昼さがり …スローな風に揺られて…」
というブログにアップされる。
どっかのブログランキングで、89位だ。
…。
そんなことが、あちらこちらでホントに起きているとは。
想像しただけで、頭が痛くなってくる。
このあいだまで、上品なおねえさんたちの、きれいな趣味だったのに。
なんでこんなに裾野が広がってしまったんだ?
ところが。
そのあと、事態は急変するのである。
いったい何が起きたのか?
つづきは、次回にて。
(第3巻につづく)
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