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胸ポケットに希望を忍ばせて歩く男、松宮園生です。
この「しとちゃん」シリーズは、とある市役所につとめる
熱血食育マン、しとちゃんが主人公です。
しとちゃんは、ココリコの田中さんに少し似ています。
それはともかく、市の食育推進計画を任され、
獅子奮迅の青年しとちゃん。
そんなしとちゃんの活躍を、女心いっぱいの先輩職員の
目を通して描きます。
◆◆◆
(前回までのあらすじ)
県庁が仲裁しようとしたにも関わらず、チメシをめぐる両市の対立は収まりませんでした。
関係者が集まった会議は決裂。
しとちゃんに至っては、椅子を蹴って「あかんべえ」をする始末です。
前回→ 「しとちゃん PART-9」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/09/part9.html
◆◆◆
椅子を蹴って「あかんべえ」だなんて。
こんな過激なコじゃなかったんだけどな…。
わたしは何となく、ほんの少しですけど、しとちゃんが遠くなったような気がしました。
でも負けません。
それにしても、オオゴトになっちゃいました。
お互いに競うのは良いことなんでしょうけど、心配なのは県庁。
だって、しとちゃんの放った「あかんべえ」で、県庁の面子は丸つぶれになったんですもの。
仲裁に入った人に、恥をかかせるのはあまりいいことじゃないですよね。
「県庁には謝ったほうがいいんじゃないの」
と、わたしは言いました。
しとちゃんも少しは反省していたみたいで、
「うん。イベントが終わったら謝りに行こうかなと思います」
「早いうちに行くほうがよくない?」
「いいえ」しとちゃんは首を振りました。「イベントを成功させることが先です。これは食育という名の戦争ですから」
言い切るしとちゃん。
せ、戦争だったの?
◆◆◆
さて、戦争というからには、ここで両軍の陣容を整理してみましょう。
<しとちゃんの市>
地理的位置:川の西側
イベント名:「チメシ食育フェスタ」
開催日:日曜
チメシの特徴:
* 米はアキアズマ
* 海苔は北野伊
歌:「シング・チメシ・ソング」(J-POP系)
キャラクター:チメちゃん(女の子)
<隣の市>
地理的位置:川の東側
イベント名:「食育チメシ祭」
開催日:土曜
チメシの特徴:
* 米はハルノウミ
* 海苔は中村崎
歌:「チメシ音頭」(和風)
キャラクター:チーメン君(男の子)
◆◆◆
これを表にまとめてしとちゃんに見せると、彼はとても喜びました。
「すごいすごい。とっても分かりやすいよ。ありがとう!」
興奮しています。
そんなにすごいものでもないんだけど…。
しとちゃんはわたしが作った表を、A3サイズに拡大コピーしました。
机の上に広げ、四隅をガムテープで固定します。
そこに、書き込みをしたり、ピンを刺したり、付箋を貼ったりするのです。
「こうすると、戦況がよく見えるんだ」
鼻の穴をふくらませて説明するしとちゃん。
戦況って、あんた…。
すっかり、司令官気取りじゃん。
しかし1時間もたたないうちに、しとちゃんはコーヒーをそこにこぼしてしまいました。
◆◆◆
この戦争、あっというまにマスコミの知るところとなりました。
新聞が面白がって書きたてます。
「チメシを巡って火花を散らす2つの市。どっちが元祖でどっちが本家なのか?」
「土曜 vs 日曜」
「これはハルノウミとアキアズマ、米のブランド同士の代理戦争だ」
「北野伊と中村崎、海苔メーカーの戦いにも注目!」
「歌の人気はシング・チメシ・ソングが優勢?」
「チメちゃんとチーメン君、恋人宣言か?」
わたしは溜息をつきました。
「好き勝手に、書いちゃってるわねえ。でもこれで、大いに盛り上がるわね。それに、歌はこっちのほうが優勢だって。良かったわねえ、しとちゃん」
しとちゃんは返事をしませんでした。
見ると、目に涙を浮かべています。
「どうしたの」
「いえ、なんでもありません」
言いながら、俯(うつむ)いて何やらブツブツ唱えるしとちゃん。
また始まりました。
心を落ち着けるために、食育基本法の条文を暗唱しているのです。
まるで読経です。
読経が終わると、しとちゃんは新聞紙のそのページをくしゃくしゃに丸め、屑かごに放り込みました。
なんだかあまり、機嫌がよくありません。
「どうしたの。しとちゃん、ちょっとヘンよ」
「僕は許していない」
「許していない? 何を?」
「恋人宣言なんか許していない!」吐き捨てるしとちゃん。「あんな男にチメちゃんをやれるか!」
花嫁の父親か、あんたは。
◆◆◆
そんなかんなで、運命の週末がやってきたのでした。
(つづく)