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太陽と空気と水に愛される、松宮園生です。
この「しとちゃん」シリーズは、とある市役所につとめる熱血食育漢、
しとちゃんが主人公です。
しとちゃんは、ココリコの田中さんに少し似ています。
それはともかく、市の食育推進計画を任され、七転び八起きの青年しとちゃん。
そんなしとちゃんの活躍を、彼に赤い糸を感じる先輩職員の目を通して描きます。
◆◆◆
(前回までのあらすじ)
チメシを使って街おこしキャンペーンを始める隣の市に対し、
「こっちの食文化を盗んだ」
と怒り心頭のしとちゃん。
隣の市に対抗するために、しとちゃんが立ちあがります。
前回→ 「しとちゃん その8」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/09/part8.html
◆◆◆
反撃に燃えるしとちゃん。
隣の市に対抗し、こっち(=しとちゃん)も「チメシのイベント」を開くことにしました。
問題は、食育に冷ややかな市長が認めてくれるかですが…。
しとちゃんが市長室に飛び込んでみると。
「またアポ無しで来やがって」
と、はじめはカンカンだったようです。
ところがしとちゃんの説明を聞くなり、
「何。お隣がひとの文化を盗んだだと? 許せん。よしわかった。しとちゃん、徹底的にやれ」
なんと市長のお墨付きが出たのでした。
どうやら、市長どうし、仲が悪いというか、ライバルのようです。
◆◆◆
「チメシ食育プロジェクト」
が立ち上がり、しとちゃんがリーダーに就任。
リーダーとなったしとちゃんは、市内の食育系市民団体から実行メンバーを募りました。
そう言うと聞こえは良いのですが、市の職員でしとちゃんを手伝おうという人がいなかったので、市民団体に声をかけたのです。
なんにせよ意気揚々のしとちゃん。
まず、隣の市よりも美味しいチメシを作ることを考えます。
チメシは握り飯の一種です。
米と、具と、海苔が勝負。
食育系市民団体から派遣されたメンバーの、腕の見せどころです。
米は、県産のアキアズマを使うことにしました。
隣の市がハルノウミを使っているという情報が入ったからです。
アキアズマ 対 ハルノウミ。
相撲か。
アキアズマ出荷組合は大喜び。
アキアズマのキャラクター、「アズマ君」の着ぐるみをイベントに貸し出してくれることになりました。
具は、メンバーのあいだで様々な意見が出て収拾がつかなかったので、あまりこだわらないことにしました。
隣の市もこだわっていないようでしたので。
海苔は、敵が中村崎の海苔を使っているので、こちらは北野伊の海苔を使うことにしました。
このニュースを聞き、喜んだ北野伊から大量の海苔が送られてきました。
◆◆◆
次に取り組んだのは、チメシの歌を作ることでした。
国語と音楽の先生(地元の中学校)に作詞作曲を依頼しました。
チメシ3ヶ月分がギャラ代わりです。
こうして出来上がった曲は
「シング・チメシ・ソング」
と名づけられました。
ポップ系です。
隣の市が和風に
「チメシ音頭」
を作ったので、こっちは洋風にしたのです。
「シング・チメシ・ソング」
は、歯の浮くような英語フレーズが随所に散りばめられた、ものすごく恥ずかしい歌詞なのですが、曲をつけると不思議に恥ずかしさは和らぎます。
CDを発行することになり、市の少年少女合宿団がレコーディングに取り組みました。
◆◆◆
歌ができたら、次はチメシのキャラクター作りです。
お隣さんは、「チーメン君」という男の子キャラを作っているようです。
「だったら、こっちは女の子だ」
息まくしとちゃん。
制作を地元の美大生にでも頼もうとしたのですが、しとちゃん自身が子どものころ図画工作が得意だったらしく、自分でやると言い出します。
その日、しとちゃんはキャラクターを作るために徹夜しました。
わたしは夜食とコーヒーを用意しました。
翌朝、できたキャラクターが、
「チメちゃん」。
グロテスクなわけでもなく、爽やかなデザインでした。
が、その代わり、どこにでもあるような姿に仕上がっています。
徹夜して、これかい。
「平凡じゃない?」
わたしが指摘すると、しとちゃんは首をかしげて
「そうかなあ」
と言いました。
自分では満足しているみたいです。
◆◆◆
こうした準備を、しとちゃんは2週間でやってしまいました。
「なかなか、やるねえ」
課長が、初めてしとちゃんを褒めました。
しとちゃんが猛スピードで取り組んだのにはわけがあります。
隣の市の「食育チメシ祭」に、同じタイミングでイベントをぶつけようとしたのです。
実際には準備がじゅうぶんには間に合わず、ズバリ同じ日にぶつけることはできませんでした。
隣の市の「食育チメシ祭」は土曜日に。
しとちゃんの「チメシ食育フェスタ」は日曜に行われることになります。
ところで、しとちゃんは準備をできるだけ秘密に進めようとしていました。
しかし、情報というのは漏れていきます。
スパイが、しとちゃんの動きを察知し、ある日、電話で牽制をかけてきました。
「忠告しておくが、チメシ・フェスタは諦めたほうがいい。さもないと、上にチクるぞ」
そんな電話でした。
しとちゃんは、その忠告を無視しました。
で、スパイは上(県庁)にチクリます。
「隣どうしの市がチメシを巡って骨肉の争いを始めそうだ」
という情報をききつけた県庁。
しとちゃんは課長と一緒に呼び出されてしまいます。
「大丈夫ですよ。では行ってきます」
不安げに見送るわたしに向って、しとちゃんはウィンクをしました。
あまりにスピードの速いウィンクだったので、わたし以外の人には、それがウィンクだったとは分からなかったようです。
◆◆◆
その夜。
市役所職員御用達のバー「ゴマーシオ」でレモンハートのソーダ割りを飲みながらしとちゃんを待っていると。
しとちゃんが意気揚々と入ってきました。
背があまりに高いせいで、天井のミラーボールに頭をぶつけながら、わたしのテーブルにやってきたしとちゃん。
オカマのマスターに
「僕も同じものを」
と注文します。
しとちゃんはお酒には詳しくないので、いつも「僕も同じものを」なんですけどね。
ちなみに、なぜこんな店にミラーボールがあるのか、よく分かりませんけど。
「県庁、どうだったの」
「チメシを諦めろと言われました。隣りどうして同じネタで勝負してもしょうがないだろ、ということみたいです」
「それで何て返事したの」
「チメシはこっちが本家なんだから、諦めるべきなのはあっちです、と答えました」
「それでどうなったの」
「隣の市のやつが来てまして、『先にチメシに唾(つば)をつけたのはこっちなんだから、あんたが遠慮すべきだ』と言われましたよ」
「それで?」
「椅子を蹴って、あかんべえ(←死語)をして帰ってきました」
「威勢がいいのねえ。でもお願いだから、県庁とは喧嘩しないでね」
そんなわけで、ついに、両市で
「血で血を洗うイベント合戦」
が始まったのでした。
(つづく)