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人生ときどきハラハラ、松宮園生です。
この「しとちゃん」シリーズは、とある市役所につとめる
熱血食育青年、しとちゃんが主人公です。
しとちゃんは、ココリコの田中さんに少し似ています。
それはともかく、市の食育推進計画を任され、
孤軍奮闘するしとちゃん。
そんなしとちゃんの活躍を、彼に赤い糸を感じる先輩職員の目を通して描きます。
◆◆◆
何百年も前の戦乱のころ。
戦いに敗れた武士が、逃げて逃げてある村にたどり着いた。
村人は腹を空かせた落武者に握り飯を与えた。
その握り飯があまりに旨かったので、落武者は元気百倍。
再び戦場に戻り連戦連勝。
ついに一国の主となる。
主、つまり殿様は、自分に力をくれた握り飯を
「勝ち飯」
と名付ける。
それが時代を経て「か」の音が外れ、今では
「チメシ」
と呼ばれている。
◆◆◆
「なにそれ。悪いけど、そんなに面白い話じゃないような気がするんだけど」わたしは小声で言いました。「それに、チメシなんて聞いたことないし」
「うーん、やっぱりそうですか」うなだれるしとちゃん。「もう少し探してみます」
しとちゃんにつきあって、わたしは図書館に来ています。
食べものに関してこの地域の昔話を調べ、食育に生かそうというのです。
でもなかなかピッタリの昔話が見つかりません。
昼間を図書館で過ごし、市役所に戻ると、
「無断外出はするなと言ったろう。ちゃんと仕事しろ」
課長の叱責が飛びました。
◆◆◆
ところが、数日後。
デスクで新聞を広げていたしとちゃんが、
「ああああ」
と情けない声をあげました。
「どうしたの」
「やられたー」
新聞には、こう書いてありました。
「第4回、市民食育祭。今年のテーマはチメシ」
本文には、チメシについての説明が詳しく書かれていました。
xx市は、隣の市です。
川向う(東側)にあります。
その隣の市が、チメシのイベントをやろうとしているのでした。
「ちきしょー。チメシはこっちのネタだぞ。人のネタを取るなんて、許せない」
しとちゃんはウウウウと唸りながら(犬か)、受話器を取ると、隣の市に電話をかけました。
◆◆◆
隣の市に文句を言おうとしたしとちゃんでしたが、電話は案の定たらい回しにされ、挙句の果てに軽くあしらわれてしまいます。
怒りの収まらないしとちゃん、椅子にかけてあった上着をむんずとつかむやいなや、勢いよく立ち上がり、
「直談判してきます」
ピューっと立ち去ってしまいました。
「おいこら、しとちゃん。勝手に外出しちゃいかんと言っとるだろうが。おい、聞こえてんのか」
課長が追いかけるように叫びます。
しかし、音速より早足のしとちゃんには、その声は届きません。
◆◆◆
その夜。
市役所職員御用達のバー「ゴマーシオ」でモスコミュール(←懐かしい)を飲んで待っていると、しとちゃんが入ってきました。
頭から湯気が上がっています。
しとちゃんは背が妙に高いので、湯気はバーの天井に届き、そこで雲のようになりました。
「おかえり、しとちゃん」
「あの人たち、許せない」
「直談判どうだったの」
「じつは…」
しとちゃんの話によると。
しとちゃんが隣の市に乗り込んだところ、市役所職員のほかに、地元の大学教授が待ち構えていたそうです。
その教授が主張するには、
殿様がチメシを食べた村は**川の東側にあるのじゃ。
**川の東側は、つまりわが市(xx市)の領土であるぞ。
そういうわけだから、チメシはこっち側(xx市)のものじゃ。
しとちゃんとやら、納得したら、さっさと帰れ。
「それで、すごすごと帰ってきたの?」
「まさか」しとちゃんは珍しくムッとした表情をしました。「証拠を見せろと迫りましたよ。そしたらその教授、なんだか古ぼけた巻物を出してきて、証拠はこれだ、ここに書いてある、そう言うんです」
「で、そう書いてあったの?」
「さあ。昔の文献ですから、草書っていうんすか、にょろにょろした文字ばかりで読めませんし」
「それでどうしたの?」
「チメシは譲らない、とタンカを切って帰ってきました」
しとちゃんがビールのグラスをあまりに強く握ったので、ひびの入る「ピシ!」という音がわたしにも聞こえました。
◆◆◆
翌日、しとちゃんとわたしは午前中を図書館で過ごしました。
チメシの所有権が隣の市ではなくこっちにあることを、証明する本を探すためです。
市の郷土史家が書いた本が見つかりました。
ひもといてみると、チメシについて書かれている箇所が見つかりました。
そこでは、
「殿様がチメシを食べた村は**川の西にある」
となっています。
しとちゃんが安堵の溜息をつきます。
「やっぱりそうだ。チメシはこっちの食文化だ。隣の市は関係ない」
「そうよね」
「勇気がわきました」にっこり笑うしとちゃん。
「がんばって」
わたしは彼の頭を優しく撫でました。
市役所に戻ると、
「しとちゃん、君ね。無断外出はするなと何度言ったらわかるんだね」
課長にガミガミ叱られました。
課長の小言がようやく終わり、席に戻るしとちゃん。
彼はわたしに向って親指を立てました。「負けませんよ。いまから攻勢に出ます」
「攻勢?」
「はい。チメシは、絶対こっちのものです」
食育戦士しとちゃんの、逆襲が始まるのでした。
(以下次号)