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松宮園生です。
(前回のあらすじ)
「食育クリニック赤坂事務所」には、日々の食育活動に
いそしむ人たちが癒しを求めて集まってきます。
その1人、親子食育料理教室を営む木場サカコさん。
情熱と赤字との板挟みで、なんとなく苦しい思いをして
いるようです。
ドクターとの会話が続きます。
(前回→http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/09/1_30.html)
◆◆◆
「では木場さん。もう一度お尋ねしますね。木場さんが疲れてきている原因は何だと思いますか」
「えっと…。やっぱり、赤字だからだと思います。赤字は嫌です」
「親子の絆が強まり、子どもたちに食の大切さが伝われば、それでいいんじゃなかったんですか?」
「先生、ごめんなさい。訂正します。親子の絆を強めて、子どもたちに食の大切さを伝えたいのは確かです。でも、だからってそれで赤字になってもいいとは思いません」
「なるほど。ではお聞きします。赤字を黒字にできたら、疲れも取れますか?」
「だと思います」
「なるほど。だったら、さっさと赤字を黒字にしたらよいのではありませんか?」
「それはそうですけど…。どうしたらいいんですか?」
「赤字になっている理由は何だと思います?」
「安いからだと思います」
「何が」
「え?」
「何が安いんですか」
「私の親子食育料理教室の、月謝が安いんです」
「なるほど。月謝はいくらなんですか」
「2000円にしています」
「なるほど。なんで2000円にしたんですか」
「だって、月謝が高いと誰も来ないじゃないですか」
「2000円だったら、来ると思ったわけですね?」
「そうです」
「実際、参加者はたくさん来ましたか?」
「(嬉しそうに)はい。大勢の親子づれが来てくれてます」
「人気だということですね」
「自分で言うのもなんですけど、人気があります」
「よかったですねえ。じゃあ、月謝を2000円に設定して良かったじゃないですか」
「はい。良かったと思います。1人でも多くの方に、少しでも安い月謝で、食育の場を提供してあげたいんです」
「なるほど。だったらなぜタダにしないんですか?」
「え?」
「どうして、無料にしてあげないんですか?」
「おっしゃる意味が分かりませんけど…」
「1人でも多くの方に、少しでも安い月謝で、って今おっしゃいましたね」
「たしかに言いました」
「そうおっしゃったのは、嘘ですか」
「とんでもない。本当の気持ちです」
「だったら、2000円なんて中途半端なお金をもらうのはやめて、いっそのことタダにしてあげたほうがいいんじゃないですか?」
◆◆◆
「ですけど、そんなことしたら、もっと赤字になっちゃいます」
「赤字は嫌ですか」
「嫌です」
「安い月謝にしてあげたいけど、赤字は嫌だと」
「ええ、そうです」
「現在の2000円というのは、ちょうどよい価格ですか?」
「2000円は安いと思います。コストもけっこうかかるんですよ」
「コストもけっこうかかると」
「はい」
「どのくらいかかるんですか」
「かなりかかりますね。食材もいいものを厳選して仕入れてますし…」
「月謝の2000円に対して、1人あたりのコストはいくらくらいですか」
「はい?」
「ですから、コストは具体的にいくらかかってるんですか」
「そ、それは…。人数によっても違いますし、その都度、食材も違いますから」
「1500円くらいですか?」
「1500円くらいかかるときもあります」
「2000円くらいですか?」
「もっとかかるときもあります」
「なるほど…」
「とにかくコストはかかるんです。月謝2000円だと、やっていけません」
「なるほど。では値上げしますか?」
「え?」
「2000円だと安いんですよね。コストもかかるし。だったら値上げするのが普通じゃないかと思いますが」
「でも値上げしたら誰も来なくなります」
「どうしてそう思うんですか?」
「だってそうじゃないですか」
「誰かがそう言ったんですか? 値上げしたら誰も来ないと?」
「そんなわけじゃないですけど…」
「値上げするのは嫌ですか?」
「そうですね…、やっぱり値上げしたいです」
「どっちなんですか。値上げしたいのか、したくないのか」
「値上げしたいです」
「分かりました。ではいくらくらいに値上げしましょうか」
「そうですね…、えっと…」
「1万円くらい?」
「そうですね。そのくらいにしたいです」
「確認ですけど、少しでも安い月謝にしてあげたい、と先ほどおっしゃったのは、嘘ですか?」
「あの気持は本物です」
「じゃあ、値上げせずに2000円のまま、頑張ればいいのでは?」
「でも2000円だったら赤字になるし…」
「1万円だったら、黒字になりますか」
「なります」
「じゃあ、1万円にしますか?」
「そうします」
「もっと高くしますか」
「いえ、1万円くらいでいいと思います」
「では、さっそく値上げしますか」
「すぐには無理だと思います」
「そうですか?」
「はい。いま値上げしたら、誰も来なくなります」
「では、いつ値上げしますか?」
「そうですね…。来年度になったら値上げしようと思います」
「来年の4月ということですか?」
「はい」
「いま値上げしたら誰も来ないけど、来年の4月だったら大丈夫ということですか」
「いえ。そのときでも、値上げしたら誰も来ないと思います」
「じゃあどうして来年の4月にするんですか?」
「そ、それは…」
(つづく)