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松宮園生です。
数年前から、スーパーマーケットの売場に
農家さんの写真が飾られたりするようになりましたね。
「このスイカ、わたしが心をこめて作りました」
みたいなコメントも入ってたりして。
「生産者の顔が見える」
というフレーズが盛んに使われています。
こういうのが変な方向にエスカレートしたらどうなるか、
おふざけでちょっと想像してみました。
◆◆◆
「いらっしゃいませ。お探しものは何でしょうか」
「ナスを買いたいんだけど。浅漬けにしたいんで。浅漬けにして、ビールに合わせるんだ」
「浅漬け用のナスですね。それでしたら、水ナスがいいでしょう」
「じゃ、水ナスをください」
「誰が作ったか分からない水ナスと、作った人が分かっている水ナスがあります。どちらにしますか」
「えっ? そんなふうにあらためて言われたら、作った人が分かっている水ナスのほうがいいよなあ、やっぱり」
「誰が作ったか分からない水ナスのほうは10円お安くなってます」
「うっ。それだと悩むなあ。…でもいいや。作った人が分かっている水ナスのほうにします」
「誰が作ったか分からないからといって、安全性や味に問題があるわけではありませんが」
「そう言われたらなあ。じゃあ10円安いほうにするかなあ」
「いいんですか、誰が作ったか分からないんですよ」
「どっちを売りたいんだよ、あんたは」
「それはお客様がお決めになることです。両方とも当店の商品でございますので」
「そうかい。じゃあ元通り、作った人が分かっている水ナスにするよ」
「ありがとうございます。川上忍さんの作った水ナスと、中條武夫さんの作った水ナスとがありますが、どちらにしましょう」
「どう違うんですか」
「川上さんは若いころ番長で今は恋愛体質、中條さんはナルシストでアニメ好きです」
「は?」
「いや、ですから、川上さんは若いころ番長で今は恋愛体質、中條さんはナルシストでアニメ好きです」
「それは分かるし、恋愛体質なのもアニメ好きなのも本人の勝手だから止めはしないけどさ」
「あ、ほかに下畑良美さんの作った水ナスがあります。下畑さんは最近結婚しました。なかなか盛大な披露宴だったそうです」
「は?」
「ですから、下畑さんは最近結婚しました。なかなか盛大な披露宴だったそうです」
「それはいいけどさ、川上さんの水ナスと中條さんの水ナスと下畑さんの水ナスはどう違うの」
「品種は同じです。作り方も同じです」
「それじゃ選べねぇよ」
「写真で比べてみますか」
「なんだ、写真あんの。見ようじゃんか」
「これです」
「どれもおんなじじゃん!」
「ま、同じ品種、同じ作り方ですしねえ」
「だったら写真みせんじゃねえ!」
「それは失礼しました。現物もありますが、見ますか」
「現物あんの? 早く言えよ」
「これです」
「どれもおんなじじゃん!」
「ま、同じ品種、同じ作り方ですしねえ」
「てめーだけ何でそんなに落ち着いてんだよ!」
つーか、あんたも水ナスでそんなに興奮するなって。
「お客様。たしかに見た目はおんなじですが、実質はまったく違います。いいですか、川上さんは若いころ番長で今は恋愛体質、中條さんはナルシストでアニメ好き。下畑さんは最近結婚して披露宴は盛大でした」
「それってナスの違いじゃなくて、作った人の違いだろ」
「もちろんそうです。それが何か?」
「水ナスじたいはどう違うわけ」
「お客様。当店では生産者の情報をお客様に提供して、商品を選んでいただいているんです。べつの写真がありますが、見ますか」
「はあ? じゃあ見せてよ」
「これです」
「川上さんと中条さんと下畑さんの顔写真じゃねーかよ!」
「会ったこともないのに、川上さんと中条さんと下畑さんの顔写真だと、よく分かりましたね」
「話の流れから、ふつうそう思うだろ!」
「ああ、そうですか」
「ああ、そうですか、じゃねーよ。しかもよく見ると真ん中のこいつ、スーツ姿なのに鼻血だしたまま写ってるし!」
「たぶん血圧の高い人なんでしょうね。で、結局どの水ナスになさいますか? そろそろ選んでください」
「もうどーでもいいよ。じゃあこの、鼻血のおっさんが作った水ナスを買うから」
「外山さんはナス農家じゃないですけど…」
「違う人かい! じゃあ何の写真なんだよ、これ!」
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