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2008.08.15 12:10

アゴヒゲ その6

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松宮園生です。

(前回までのあらすじ)
「アゴヒゲを退治してほしい」という依頼をうけた松宮。
すっかりゴルゴ13気分で松宮が考えた計画は、学園都市
筑波に棲む有名な「食のクイズ魔」とアゴヒゲとを対決させ、
どうせアゴヒゲは負けるのだから、それによってアゴヒゲの
プライドを失墜させようというものでした。
その「食のクイズ魔」とは、
食品魔術研究所のサマンサタバサ所長です。
運命の対決の火ぶたが、切って落とされました。

前回→ http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/05/5_9.html

◆◆◆

最初の質問をクリアしたご褒美に、お茶が運ばれてきました。

食品魔術研究所のサマンサタバサ所長は、ソファにふんぞり返ったまま鷹揚に言いました。
「で、わしに用件というのは何かな」
「食に関する研究会を開いているのですが」アゴヒゲが答えました。「先生の薫陶を受けたいと思って参りました」
「どんな研究会だ」
「メタボリック・シンドロームを防ぐ食品を、科学的に開発しようという研究会です」

「ふーん、言葉だけは立派だな。では茶をすすっているあんたに聞くが、メタボリック・シンドロームとは何だ」
言うやいなや、サマンサタバサ所長は、僕を指さしました。
「さあ答えなさい。メタボリック・シンドロームとは?」
僕はゲホゲホと咽(むせ)ながら「そ、それはですね…。腹回りが85センチと90センチで、血圧が…。血糖値が…」
「何たるざまだ。しどろもどろではないか!」怒りだすサマンサタバサ所長。「それにだ、そもそもあんたが語っているのは、メタボリック・シンドロームかどうかを判定する基準にすぎん。わしの質問はそんなことを聞いておるのではない」

サマンサタバサ所長は卓上の内線電話を手にしました。
「あーもしもし。わしだが。来客の片方がクイズに失敗した。こやつの茶を下げてしまってくれ」
飲みかけだった僕のお茶は、無情にも取り上げられてしまいました。
おまけに、来客なのに「こやつ」扱いです。

サマンサタバサ所長は今度はアゴヒゲに向かって言いました。「同じ質問をあんたにも問うぞ。メタボリック・シンドロームとは何だ。答えなさい」
アゴヒゲは答えました。
「内臓脂肪が蓄積されることにより、さまざまな病気が引き起こされやすくなった状態のことです」
「うむ。でかした。その通りだ。あんたは本物のようだな」
「恐れ入ります」
アゴヒゲは得意げに頭を下げました。

サマンサタバサ所長は卓上の内線電話を手にしました。
「あーもしもし。わしだが。来客のもう片方がクイズに正解した。お茶菓子を持ってきてくれるか」
アゴヒゲのところにだけ、香りのよいミルフィーユが運ばれてきました。

「こーりゃうまそうですなあ。おーほほほ」
素っ頓狂な(←死語)笑い声をたて、ミルフィーユにかぶりつくアゴヒゲ。
「悪いなあ松宮。オレだけ食べて。欲しいか? うらやましいか? だがお前には、やらんぞ」
「べつにいらねえよ」
僕は吐き捨てるように返しました。

参ったな。
アゴヒゲがクイズに勝つと、ちょっと困ったことになります。
アゴヒゲの株が上がり、退治できなくなるからです。
当初「ま、どうせアゴヒゲはクイズに負ける」とタカをくくっていた僕でしたが、アゴヒゲの意外な健闘に、焦ってきました。

そこへ、「次の質問だ」と、サマンサタバサ所長。
「ぼ、僕ですか?」
「交互に質問しておるのだから、次はあんただろ。他に誰がいる」
「はあ」
「日本の歴史上、最初のメタボ男性は誰だ?」
「あ、それ聞いたことがあります。ふ、藤原道長だったかな…」
「正解、と言いたいところだが、50点だ。藤原道長より前の時代については、メタボはいたかもしれないが確かな文献がないんだよ。文献がある、という条件なら、藤原道長は正解になる。そういう正確な答え方をしないと、科学とは言えん」
「はあ」

サマンサタバサ所長は卓上の内線電話を手にしました。
「あーもしもし。わしだが。さっきクイズに失敗した来客が今度は正解した。50点なんだが、オマケしておこう。茶を持ってきてくれるか」
お茶がやってきました。

「どんどんいくぞ。次の質問だ」
所長はサディスティックな喜びに目を輝かせながら、アゴヒゲに向きなおりました。
「世界3大ヌードルとは?」

◆◆◆

つづく小1時間のあいだに、アゴヒゲは4つのミルフィーユを平らげ、僕のお茶は運ばれたり取り下げられたりしました。
飽きもせずミルフィーユをほおばるアゴヒゲを、僕は肘で突きました。
「あのさ、食い意地が張ってるのはいいけどさ、あんたなんで自分がここにいるのか、分かってるよね?」
「ミルフィーユは、やらんぞ」
「いらねーよ! そうじゃなくて」
「分かってるさ。この所長を口説いて、あの研究会の顧問になってもらうんだろう」
「そーだよ。あんたの仕事は、それだからね。分かってるなら、さっさと進めて」

「所長」アゴヒゲがおずおずと言いました。「クイズはまだ続くのでしょうか?」
「ん?」
「そろそろ本題に入りたいなあ、なんて」

サマンサタバサ所長は、しかし夢を見ているような顔をしています。
アゴヒゲの言うことが飲み込めないようでした。
「心配せんでも大丈夫だ。クイズはまだいくらでもあるぞ」
「いえ、そういう意味ではなく」
所長は聞いていませんでした。「次はあんたのほうだったな。日本以外に、自給率の低い先進国を2つ、挙げてみなさい」
「い、いや所長。われわれはクイズを楽しむために来たんじゃないんです」
「愚か者めが!」

所長のどなり声に、アゴヒゲも僕も、カメのように首をひっこめました。
「心配せんでもいいと言っておろう。クイズはまだいくらでもある。お茶菓子だってまだまだあるのだ」
「はあ」
「逃がしはせんぞ」所長はニヤリと笑いました。「こんな機会はめったにないからな」

◆◆◆

その後どうなったかというと。

腹痛で顔面蒼白になったアゴヒゲが救急車で運ばれたのは、数時間後のことでした。
6個のミルフィーユ、5個のモンブラン、スイカを3切れ、野沢菜のおやきを2個、かき氷を3杯食べ、お茶を7杯、コーヒーを4杯飲んだあげくのことです。

つーか、出されたもの全部、食ったんかい。

そのまま彼は入院。
サマンサタバサ所長に「新世紀エバンゲリ食品研究会」の顧問になってもらうという話は、雲散霧消してしまいました。
図らずも、僕のアゴヒゲ退治作戦は違う意味で成功したわけです。

僕自身は、どうなったかというと。
不正解が連続してしまい、怒ったサマンサタバサ所長に建物からさっさと追い出されてしまいました。
それはそれで、トホホでございました。

(このシリーズ、終わり)

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