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松宮園生です。
食育ロボット「アンドリュー」の生みの親、
ロバート・シトピッチャン教授の講演会に
行ったときのことです。
講演会のテーマは
「食卓の関ヶ原。メタボ予防が勝つか、
自給率アップが勝つか」
でした。
ようするに、
同じ食育といっても、「健康のための食事」と
「自給率を高める食事(地産地消型)」とは
必ずしも内容が一致しない。
バナナは体にいいから食べなさいと言われても、たいがい輸入品だよ。
大豆だってそうだ。
あなたはどっちを優先するのか。
それによってこの国の行先は変わってくる。
…という内容のようでした。
◆◆◆
居眠りしているうちに講演会は終わってしまいましたが、その後、ある人に声をかけられました。
ヒールの高い靴をはいた女性がつかつかとやってきて、
「ひょっとして、松宮先生ではありませんか?」
と、鼻にかかったような声で言ったのです。
差し出された名刺には、
「株式会社3E(スリーイー) 代表取締役 田口弥生」
と書いてありました。
「田口さん、とおっしゃる?」
「はい。わたし、松宮先生のファンなんです」
「へ?」
「このあと、お暇があるようでしたら…」
上目遣いの彼女。
大変残念なことに、その日の仕事はこれで終わりではありませんでした。
「そうなんですか」女性は悲しそうに言いました。「いちど先生のオフィスにお伺いしてもいいですか? 相談に載っていただけると嬉しいな」
「は、はい」
「良かった」
彼女はなんと僕の手を両手で握りしめました。
ボキボキボキ!
あまりの痛さに、僕はギャーッと悲鳴をあげました。
「あらごめんなさい。大丈夫ですか? ついうっかりしちゃって」握る力を緩める彼女。「わたし、男性より力があるんです。気をつけるようにしているんですけど」
「あははは。だ、大丈夫です」
目に涙を浮かべながら返事をする松宮。
「いつオフィスにお邪魔したらいいかしら…。じゃあ、あとでメールしますね」
手を離し名残惜しそうに去ってゆく彼女を、松宮は呆然と見送るのでした。
◆◆◆
翌日。
「あとでメールしますね」
と彼女は言ったけど、どうせ社交辞令かもしれないな。
メールなんて来ないだろう。
期待したらバカを見る。
と思いつつ、でも気になるので、もらった名刺を眺めてみたりして。
(仕事しろよ)
田口弥生の名刺の裏には、こんなことが書いてありました。
「3E(スリーイー)とは、
* Eat(食)
* Easy(簡単)
* Escape(逃げる)
を表しています」
は?
食い逃げの会社か?
首をかしげていると、なんとメールが来ました。
「松宮先生。3E(スリーイー)の田口弥生です。覚えててくださるといいけど…。明日の夕方、お時間いただけませんか?」
返事を書きました。
「分かりました。17時にお越しください」
↑
文面こそ落ち着いていますが、心臓はバクバクです。
◆◆◆
次の日。
オフィスのドアノブが、音をたてて壊れました。
見ると、田口弥生がちぎれたドアノブを手に、ばつが悪そうに立っていました。
「そっと回したつもりなんですけど、取れちゃって」
「き、気にしないでください。ははははは」僕は軽く受け流しました。「そろそろ買い換えようと思ってたんです」
「それに、早く着いちゃってごめんなさい」と、彼女。「待ちきれなくて」
時計を見ると、時刻は16時50分でした。
ヒールの高い靴。
スカートの丈が心なしか短く見えるのは、僕の勘違いでしょうか。
彼女の足から目を反らすようにして、僕は椅子とコーヒーを勧めました。
「素敵なオフィスですのね」
「そ、そうすか」
「1人でお仕事されてるんですか?」
「いちおう。ホントは仕事を大きくして社員を雇いたいんですけどね。商売下手なもんで、なかなか」
「ご謙遜ね。秘書が欲しくなったら、声をかけてくださると嬉しいな」
ドキン。
「えっ。田口さんが秘書をしてくれるんですか」
「弥生って呼んでくださいな。わたしが秘書じゃ、ダメですか?」
ドキドキドキドキ。
「だ、ダメなわけないです。大歓迎です」僕は目のやり場に困りました。「で、ご相談があるとかおっしゃってませんでしたか?」
「ええ。相談というのは、姉のことなんです」
「お姉さん」
「松宮さん、心臓疾患はお持ちですか?」
「は? そういうのはありませんが…」
「ならよかった」田口弥生は言いました。「実は、あの。わたしの姉は、佐久間象子といいまして…」
(以下、次号)
追伸:初めて読まれた方へ。
このコラムの常連キャラ、佐久間象子については、「登場人物紹介」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/03/post_127.html
を参照してください。