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松宮園生です。
あなたが食べたものは、いつ、どこで、誰が作ったものでしょうか。
分かって食べていますか。
あなたが食べたものは、どこからどうやって運ばれ、
途中でどんなふうに加工されたのでしょうか。
分かって食べていますか。
そんな疑問をもったあなたのための
「トレーサビリティ調査局」
ひとよんで
「トレサビ探偵」。
食べものをトレース(追跡)し、あなたの口に入るまでの経路を
調査いたします。
費用は無料です。
ぜひご用命ください。
…そういうメールが送られてきました。
仕事柄、ちょっと興味があったので連絡してみることにしました。
◆◆◆
やって来たトレサビ探偵は、どっかの町役場で長年事務員をやってそうな、枯れ系おねえさんでした。
「すみません遅くなりまして」探偵は言いました。「夏休みに入ってから調査の依頼が殺到しまして。探偵の数が10人に満たないものですから、対応に追われてるんです」
「依頼が殺到って、どゆこと」
「無料なものですから、子どもからの調査依頼がすごいんです。夏休みの宿題に利用されてるようなんです。自由研究とか…」
「なるほどね。商売繁盛、いいじゃないですか」
「でも、お金をいただくわけじゃないですから」
「ああそうか。ねえ、どうして無料なの」
「このサービスは税金でまかなわれてるんです。トレサビ探偵は公務員なんです」
「なるほど、そっか。まあ考えてみれば、有料だったら利用者いなさそうだもんね。無料の公共サービスじゃないと、成り立たないよね」
「さっそくですが、何をトレースしますか。ご依頼をお聞かせください」
「そうだなあ」よく考えずに面白半分で連絡しただけだったので、何を調べてもらうか決めてませんでした。「じゃあ、これ。さっき買ってきた惣菜のサラダなんだけど、産地とか加工業者とか、調べてくれない? 食材が複数混ざってるけど、大丈夫?」
「大丈夫です」
「ていうか、全部食べちゃったから現物がないんだけど…」
「容器とラベルとがあれば調査できます。念のため、買ったときのレシートありません?」
「ちょっと待って」僕は財布をまさぐりました。「あった。これです」
「お預かりします」探偵は椅子から立ち上がりました。「調査結果が出ましたら、お知らせしますね。では失礼します」
◆◆◆
「もしもし、松宮さんですか。トレサビ探偵の沢野井です。何度かお電話したのですが、やっとつながりました」
「ああどうも。ごめんね、バタバタしてて電話なかなか出られなくてさー。で、何かわかりましたか」
「はい。詳しいことは書面でレポートをお送りします。ただ、どうしてもお伝えしておきたいことがありまして、電話を差し上げたんです」
「何かあったんですか」
「松宮さんが召し上がったサラダには、ほんの少しですが、珍しいハーブが混入していたことが分かりました」
「珍しいハーブ」
「はい。ズズといいまして。アフリカで呪術に使われる植物です」
「は? 意味が分からないんだけど」
「事実です。言葉どおり受け取ってください。松宮さんが召し上がったサラダには、ズズが含まれていました。呪術師が人を殺すために用いたズズが、誤って日本向けの輸出品に混入したようなのです。どうしてそんなことになったかも調べていますので、レポートに書いておきます。決して松宮さんを狙って混入されたものではありませんが、とにかく混入されていました」
「なんか面白そうだね」
「面白いかどうかは私の話が終わってから判断してください。ズズは毒草です。呪術師が人を呪い殺すのに使うくらいですから」
「ど、毒草…」
「強力な毒を持っています。解毒剤は存在していません」
「ま、まじ? でも僕があのサラダを食べたのは先週だよ。今だに何ともなくて、ピンピンしてんだけど」
「ズズの毒には潜伏期間があるんです」
「潜伏期間…」
「呪術師がズズに呪いをかけて潜伏期間を決めています。数時間という短い潜伏期間にするか、数年という長い潜伏期間にするか、呪術師が決めるんです」
「…」
「で、続きがあるんですけど、松宮さん」
「はあ」
「悪いニュースと、最悪のニュースがあるんですけど、どっちから聞きますか」
「えーっ、どっちも悪いんだ…。まいったな。じゃあ悪いニュースから頼みます」
「悪いニュースというのは、松宮さんが食べたズズの潜伏期間が判明したんです。アフリカの呪術師協会に確認しました。呪術師協会のスポークスマンから、松宮さんの食べたズズの潜伏期間はあと3日だと言われました」
「あと3日!」さーっと血の気が失せました。「で、最悪のニュースって何なの」
「はい。私はそのことを早くお伝えしなきゃと、3日前から松宮さんを探しておりました」
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