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松宮園生です。
(前回までのあらすじ)
食育ロボット、アンドリューがメタボセンサー(メタボ発見器)
を内蔵し、改造ロボットとなって登場、メタポリスの新兵器
としてメタボ狩りを始めます。
迫害を恐れた市民はアンドリュー・レーダー(アンドリュー探知機)
を開発し、食育ロボットの魔の手を逃れようとしました。
追うアンドリュー、逃げる市民。
アンドリューの魔の手が、僕にも及んできました。
◆◆◆
白昼の赤坂見附。
迫りくるアンドリュー。
その機械の手に握られた、メタボメジャー。
周囲の人々が、どうなることかと我々を見守っています。
アンドリューとの距離が5メートルに縮みます。
ど、どうする松宮?
野生の本能とでもいうのでしょうか、僕は無意識に、力を入れて腹を引っ込めました。
ペコ。
するとどうでしょう。
アンドリューが妙な動きをしはじめました。
どうやらその、目標を見失ったようなのです。
まるで僕が見えないかのように、キョロキョロしたりうろうろしたり。
独楽(コマ)のようにくるくる回ったりします。
なんだかよく分からないけど、今だ。
僕はスタスタと、迷走するアンドリューから遠ざかりました。
◆◆◆
ふたたび、アンドリューとの距離が50メートルくらいになりました。
ふう。
アンドリューから目を離さないようにしながら、一息ついて思わず腹の力を緩める僕。
ポコ。
ところがです。
腹の力を緩めたとたん、アンドリューが ギン! といった感じで僕のほうを向きました。
気がついたようです。
小走りに、こっちに近づいてきます。
再び力をこめて腹を引っ込める。
ペコ。
アンドリューが突然、ターゲットを失っておろおろし始めます。
力を入れて腹を引っ込める。
ペコ。
→アンドリュー、迷う。
力を緩める。
ポコ。
→アンドリュー、追いかけてくる。
腹を引き締める。
ペコ。
→アンドリュー、迷う。
腹を緩める。
ポコ。
→アンドリュー、追いかけてくる。
ペコ。→アンドリュー、迷う。
ポコ。→アンドリュー、追いかけてくる。
ペコ。ポコ。
ペコポコ。
そういうことか。
要は、筋肉を緊張させて腹をしっかり引っ込めていれば、アンドリューは来ない。
僕は腹に力を入れたまま、何分も我慢しました。
そうしているうちに、アンドリューは他の獲物を見つけ、そっちへ走って行きました。
◆◆◆
助かった…。
ところで、もともと僕は何をしようとしていたかというと。
地下鉄銀座線のなかで財布を掏(す)られました。
その被害届を出しに、交番に行くところだったのです。
アンドリューを完全に撒(ま)いたのを確認すると、ようやく僕は交番に向かいました。
しかし油断大敵です。
交番の巡査も、メタポリスかもしれません。
巡査はキャメロン・ディアス似の若い女性でしたが、案の定、メタポリスのコスチュームを着ていました。
彼女にバレないよう、僕は慌てて腹部に力を入れました。
ペコ。
小さな音がしました。
それが聞こえたのか、女性巡査は疑いの目で僕の腹をジロジロと見ています。
「地下鉄のなかでスリにやられたわけですね」
僕の説明が終わると、巡査は言いました。
彼女のもの欲しげな(?)視線は、僕のへそのあたりを這っています。
思わず赤面する松宮。
「地下鉄のなかでスリにやられたわけですね」
彼女は繰り返しました。
「は、はい」
「財布を盗られたんですね」
「はい」
「財布には、いくら入っていたのですか?」
「5,000円くらいかな」
さっきからずっと腹に力を入れっぱなしなので、筋肉が笑い始めています。
「盗まれたのは財布だけ?」
「だと思うけど…。あっ。あれがない」
不意に気がつきました。
さっきアンドリューとあれほど鬼ごっこを繰り返したというのに、レーダーが反応しなかったですよね。
「ぶるぶるぶるぶる」が起こりませんでした。
おかしいな。
ポケットを探ると、買ったばかりのアレも、なくなっていました。
「新品のアンドリュー・レーダーも取られちゃいました」僕は早口で言いました。「くそー。消費税込で42,000円もしたのに」
「アンドリュー・レーダー?」
◆◆◆
女性巡査の表情が変わるのを見て、僕はしまった! と思いました。
「いやあの、そうじゃなくて、それがその」
「いま、アンドリュー・レーダーって言ったわね?」
「いやあの、そうじゃなくて、それがその」
「あなたアンドリュー・レーダーが必要な人なのね?」
「いやあの、つまりその」
キャメロン・ディアス似の女性巡査は、ゆっくりと立ちあがりました。
「あなたの腹回りを測らせてもらうわ」
まつ毛がキレイに整えられたその両眼が、僕の下腹部に吸いついています。
その下腹部ですが。
さっきから力を入れて腹を引っ込ませていました。
しかしそれも、そろそろ筋肉の頑張りが限界に近づいています。
冷汗がたれてきました。
ここで腹の力を緩めるわけにはいきません。
戦え松宮。
しかし、その応援もむなしく消え去ろうとしていました。
ゆっくりながらも慣れた手さばきでメタボメジャーを取り出す彼女。
その美しい顔が、冷酷な喜びに輝きはじめます。
そのとき。
ついに腹筋が力尽きてしまいました。
ポコ!
隣の駅まで聞こえるような「ありえへん」大きな音がして、僕の腹がもとに戻りました。
(このシリーズ、完)
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