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2008.05.28 12:43

しとちゃん PART-5

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松宮園生です。

前回までのあらすじ)
念願の食育推進担当になった市役所職員のしとちゃん。
さっそく食育推進会議を開き、食育にやかましい有識者を
集めます。
しかし集まった有識者たちの実際やかましいことといったら、
予想を超えるものでした。
しかも主張することがバラバラで、整理がつきません。
加えて、「食育の推進」にあまりというかまったく協力的ではない市長…。
今回で5話目になる「しとちゃん」シリーズ。
しとちゃんに思いを寄せる優しい先輩職員の目を通して、しとちゃんの苦闘を描きます。

◆◆◆

と、書いたものの。
このシリーズ、久しぶりですので、少々解説しましょう。

3年前に食育基本法という、ちょっと分かりにくい法律ができました。
どう分かりにくいかというと…。
ふつう法律を破ると罰則がありますよね、罰金とか懲役とか。
食育基本法にはそれがないのです。
なぜかというと、食育基本法はおもに「国」や「自治体」を対象にした法律であって、一般国民を相手にしたものではないからです。

というわけで、この法律ができたからと言って、われわれ国民には何の義務も生じません。
義務が生じるのは国と自治体です。
国と自治体は、食育基本法の定めにもとづき、「食育推進計画」というものを作り、それを実行しなければならないのです。

まず国が、食育推進計画を作りました。
国といっても漠然としていますが、具体的には内閣府と、関係する各省庁(文部科学省・厚生労働省・農林水産省)がそれぞれ作りました。
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/04/1_1.html
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/04/2_1.html
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/04/3.html
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/05/4_1.html
で、すでにこのプロセスは終了しています。

次に、都道府県が食育推進計画を作りました。
国(各省庁)が作った計画に気を遣いながら、できるだけ矛盾がないように作ったようです。
このプロセスもほぼすでに終了しています。
http://www8.cao.go.jp/syokuiku/work/index.html

次に、市町村が食育推進計画を作る番です。
自分たちが所属する都道府県の計画に気を遣いながら、なるべく矛盾しないように頑張るわけです。
現在はこのプロセスが行われています。
今日までに計画を作り終わった市町村もありますし、策定中の市町村もありますし、そもそもまだ何にも手をつけていない市町村もあります。
http://www.shokuiku-pro.com/modules/newbb/viewtopic.php?topic_id=1265&forum=17&post_id=1588#forumpost1588

食育基本法には、
「食育推進計画を作るステップ」
も書いてあります。
そこに書かれたステップにもとづいて、作らなければなりません。
どういうステップかというと。
  1) まず、有識者を集めて「食育推進会議」というものを作る
  2) その「食育推進会議」が、食育推進計画を練る
というステップです。

そんな事情により、市役所につとめるしとちゃんは、市内の有識者を集めて食育推進会議を作り、食育推進計画をまとめようとして
「あーでもない」
「こーでもない」
とやっているわけであります。

◆◆◆

もうひとつ、久しぶりですので解説します。

「しとちゃん」は本名ではありません。
ニックネームです。
なぜ「しとちゃん」と呼ばれているのかは謎に包まれています。

一説によると、しとちゃんは「新世紀エヴァンゲリオン」のマニアだそうで。
彼のニックネームは、宇宙から次々飛来する未知の巨大生物に由来するそうです。

「使徒ちゃん」
ということですね。
あくまで一説ですが。

解説はここまでとしましょう。
ここから先は、「しとちゃんに思いを寄せる優しい先輩職員」に、バトンタッチします。

◆◆◆

近頃のコンビニには、男性用のウェット・ティッシュが売ってたりします。
職場で徹夜してしまったしとちゃんの顔を、わたしはそのウェットティッシュで拭きました。
「さっぱりした?」
「さっぱりしました」
「じゃあ、歯を磨いてきたら? はい、歯ブラシと歯磨き粉」
歯ブラシと歯磨き粉を受けとり、微笑するしとちゃん。
テーブルの上に散らばった書類のひとつを指さし、「これ、見てくれますか? 歯を磨いてくるあいだ、読んどいてください」

指さされた書類には、しとちゃんが考えた食育推進計画が手書きで書かれていました。

* 子ども向け農業体験を実施する
* 大人向け農業体験を実施する(市役所職員は全員参加)
* 親子農業体験を実施する

* 子ども向け料理教室を実施する
* 大人向け料理教室を実施する(市役所職員は全員参加)
* 親子料理教室を実施する

* メタボ教室を実施する(市役所職員は全員参加)

* 郷土の食文化を見直す教室を実施する(大人向け)
* 郷土の食文化を見直す教室を実施する(子ども向け)

* 市内の学校給食の食料自給率を高める
* 市内の学校給食で、献立表に栄養表示をすることを義務化する

* 市役所の食堂の食料自給率を高める
* 市役所の食堂で、献立表に栄養表示をすることを義務化する

* 地元野菜のキャンペーンをする
* 地元雑穀のキャンペーンをする
* 地元産魚介類のキャンペーンをする
* 牛乳のキャンペーンをする
* お茶のキャンペーンをする

* 朝ごはんのキャンペーンをする
* 早寝早起きのキャンペーンをする

* 市の食育キャッチフレーズを作り、市役所の屋上から垂れ幕を下げる
* 市の食育マスコット・キャラクターを作り、お披露目パーティーをする
* 市の食育ダンスを考案し、市役所職員は全員踊れるようにする
* 市の食育ソングを作り、CDを配布する
* 市の地産地消食育カルタを作り、市内の小学校で遊ぶ
* 市の食育紙芝居を作り、鑑賞会を開く

* 子育て支援をする
* 市民の健康増進のためのプランを作る
* 市内の農業を推進するためのプランを作る

「どうですか?」
洗面所から戻ってきたしとちゃんが言いました。
わたしはしとちゃんに「砂糖入り、ミルクなし」のコーヒーを渡しました。
それがしとちゃんの好みなのです。

「よく分からないけど、なんか、すごく『あれも』『これも』って感じね」
「そうですね。都道府県とか、よその市町村なんかも大抵、こんな感じなんで…」
「それに、1つ1つは、そんなに目新しくないというか…。よその自治体とあまり変わらないんじゃない? ごめんねしとちゃん。言い過ぎたかしら」
「いや、いいんです。ぜんぜん大丈夫。僕もそうだなあって思ってるし。会議で言われたことをまとめたら、必然的にこうなっちゃって」
「あらそうなの。じゃあこれでいいのかな」

「でもね、しとちゃん」わたしは続けました。「本来これって、食育推進会議のメンバーの人たちが作る書類なんじゃないの」
「うん、そうなんです」
「しとちゃんは食育推進会議のメンバーじゃないわよね」
「そうなんです。世話役ではあるけど」
「酷(ひど)い人たちね、みんな意見をいうだけで、まとめる作業はしとちゃんに押しつけて…」
「うん」しとちゃんは爽やかに微笑みました。「でも僕は世話役だし。やりますよ」
「まとめる仕事は食育推進会議の議長さんがするべきなんじゃない。しとちゃんじゃなくて」
「でも、僕もこの仕事、きらいじゃないから」
「そうかもしれないけど、毎晩、徹夜なんて、体こわしちゃう」
わたしは涙ぐみました。

しとちゃんはそれには答えず、コーヒーをぐいっと飲みほし、書類を抱えました。
「とりあえず市長に見せてきます。こんどこそ褒めてもらうんだ。行ってきまっす!」
言うが早いか、彼の姿はエレベーターの中に消えてしまいました。
びゅん! といった感じです。
数秒遅れて、一陣の突風がわたしの髪をまきあげ、卓上の書類を吹き飛ばしていきました。

(以下次号)

 

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http://www.shokuiku-pro.com/modules/tinyd0/index.php?id=15

 

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