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松宮園生です。
(前回までのあらすじ)
紛糾する食育推進会議。
冷たい市長。
食育に燃える市役所職員しとちゃんは、この逆境に
打ち勝つことができるのか?
心配そうに見守る女性職員のメールを通じて、しとちゃんの奮闘を描きます。
◆◆◆
市長に怒鳴られて意気消沈。
すごすごと帰ってきて、うなだれるしとちゃん。
わたしはしとちゃんの涙をハンカチで拭いました。
「市長は気分屋で有名なんだから、いちいち真に受けてちゃ、だめよ」
「うん…」
しとちゃんはうなずくと、なにかぶつぶつ唱えはじめます。
食育基本法の条文を、唱えているのでした。
読経かい。
「よっし!」唱え終わると、しとちゃんは大声をあげました。「負けずに頑張るぞー」
となりの課の吉井さん(通称、よっしぃさん)が、勘違いして振り返りました。
◆◆◆
気をとりなおしたしとちゃんは、食育推進計画の原案作りにとりかかります。
先日の食育推進会議は確かに混乱しました。
何もかもリセットしたいくらいです。
とはいえ、選んでしまったあの39人の主張を無視するわけにはいきません。
しとちゃんはまず、39人の主張を書き並べてみることにしました。
* 食育指導士の主張→「食育の大切さを伝えるのが食育です」
* 食育インストラクターの主張→「そうだそうだ」
* 健康・食育マスターの主張→「予防医学の基礎は食から」
* 野菜ソムリエの主張→「野菜を食べましょう」
* 雑穀マイスターの主張→「野菜より雑穀を食べましょう」
* ソバリエの主張→「うまい蕎麦はこうやって作るのだ」
* 茶ムリエの主張→「日本人はお茶を飲め」
* お米マイスターの主張→「コシヒカリばっかりありがたがるな」
* フードコーディネーターの主張→「楽しくオシャレに食を演出」
* フードアナリストの主張→「食の勉強が足りませんよ、あなたたち」
* オーガニック・コンシェルジュの主張→「有機ってオシャレでしょ」
* 管理栄養士、佐久間象子の主張→「わたしの言うことを聞け」
* 栄養教諭の主張→「小学校はもっとあたしたちを採用しなさいよ」
* 保育士の主張→「自分も食育の勉強をしなくちゃダメかしら」
* 医師の主張→「食もいいけど薬もね」
* 保健師の主張→「保健指導でこっちは手一杯。食育はお任せします」
* 教育委員会の委員の主張→「文部省が食育、食育ってうるさくてね」
* 食品メーカーの部長の主張→「食育やったら、ウチの商品、売れるの?」
* JAの課長の主張→「なんたって自給率でしょ」
* 漁業組合の役員の主張→「サバの話はどうなったんだ」
* 大手スーパーマーケットの社員の主張→「忙しくて忙しくて、それどころじゃないです」
* 自然食品店の店長の主張→「この深層水は、ガンにも効くって評判なんですよ」
* 料理人の主張→「なにが食育だ。そんなことで騒いで料理人がやれっかよ」
* 料理研究家の主張→「五感を磨く教室を開きたいんです」
* グルメ評論家の主張→「それ、いいね」
* 米農家の主張→「農水省は何を考えているんだ。日本の政治はおかしい」
* 野菜農家の主張→「農業は土づくりです」
* 農業コンサルタントの主張→「契約栽培するなら契約守れよ」
* 市民農園をやってる人の主張→「草むしり、誰かやってくんない?」
* 飲食店チェーンの役員の主張→「ヒットする食育メニューをください」
* 婦人団体のリーダーの主張→「家庭の味を守るのが女性のつとめよ」
* 地産地消団体の役員の主張→「地元のキャベツが世界一うまいんだよ」
* 商店街の組合世話人の主張→「こんな会議やって町おこしになるんですかい?」
* 八百屋の主張→「ウチは八百屋だ。文句あるか」
* 魚屋の主張→「DHAとDHCって、どう違うんだっけ?」
* 肉屋の主張→「食育も大事だけどさ、肉も食わねぇと枯れちまうぜ」
* フード・ジャーナリストの主張→「食育って言葉、じつは気に入らないんだよね」
* 郷土食研究家の主張→「こないだ本を出したので読んでください」
* 児童心理学者の主張→「なんだか自分、場違いな気がするんですけど…」
書き並べて呆然とするしとちゃん。
「これ、どうやってまとめるの?」
心配になったわたしが背後から声をかけると、しとちゃんは首を横にゆっくりと振りました。
「これだけじゃないんです」彼は虚ろな目で言いました。「県の食育推進計画に書いてあることと、食い違いがないようにしないといけないし…」
◆◆◆
しとちゃんは市役所で徹夜したようでした。
というのは、早朝わたしが出勤したとき、しとちゃんは会議用のテーブルに書類を広げ、その上にうつ伏せになって眠っていたからです。
「うーん、うーん」
と寝言を言っています。
よだれの跡がありました。
夕べわたしが差し入れた手作りのお弁当は、きれいに食べてくれたようです。
わたしはしとちゃんを起こさないように、空の弁当箱をそっと片付けました。
(以下次号)