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2008.04.29 10:20

鳥獣ギガ その3

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前回までのあらすじ)
さっぱり意味の分からない日本語を、たくみに操る、
中国人の崔(さい)さん。
安徽省というところで、農業でひと儲けしているようです。
数か月前、その崔さんが、
「中国のアヒル農法が日本のアイガモ農法より優れて
いるから、日本の農家は中国のアヒルを買え」
みたいなことを言いたくて僕に電話をしてきました。
(だから題名も、「鳥獣ギガ」にしたんだけど)

しかし、それきりぷっつり、崔さんからの音沙汰はありませんでした。

◆◆◆

暖かい春の日差し。

ノックの音がしました。
ドアを開けると、そこに小柄で、しかめっ面の、頬のこけた青年が、僕を見上げていました。

「ニーハオ」
青年は、しかめっ面のまま笑顔をみせるという離れ業をやってのけました。

「こんにちは」と応える松宮。
「わたしサイですか?」
「は? サイじゃなくて人間に見えるけど…」
「それは異常です」青年は言いました。「わたしサイですか?」
「だからあんたはサイじゃなくて人間…」そこではっと気がつきました。「ひょっとして、崔さん?」
「理解千万ですね」
そう言って、青年はしかめっ面のまま声をたてて笑いました。

崔さん、日本まで、わざわざやって来るとは…。

青年はうなずきました。「わたし崔さん。松宮は不渡り長くて珍しいから」
「は? 不渡りなんか出してないよ、オレ」
「不渡り不渡りでないです。長いですが、意味の考えするときです」

「全然わかんねえ…。崔さん頼むから通訳つれてきてくれよ」
「ふふふん」眉をひそめて怒ったように笑う崔さん。「通訳無駄です」

ふふふん、通訳無駄です。

偶然なんだろうけど、初めて日本語として意味の通じる内容でした。
しかしそれが
「通訳無駄です」
だなんて…。

つーか、崔さん、そこ、笑うとこじゃないから。

◆◆◆

崔さんをソファに座らせ、僕は言いました。
「日本にようこそ。あまり嬉しくないけど…。で、用事は何なの」
「よくぞお出ましください」と、崔さん。「今日こそはネタ狙いなのである」
「ネタ狙い?」
「ネタ狙いには大物小物ですか? 大物小物がモンさん幅世界なのである」
「モンさん?」
「農薬モンさんなのですが、しかし遺伝子モンさんかもしれない」
「ち、ちょっと待て」

僕は薬箱を探しました。
頭痛薬が欲しかったのです。

しかし頭痛薬見つからず。
ていうか、薬箱自体がそう言えばなかったんだけど。
買った覚えないし。

苦労するそんな松宮を知ってか知らずか、崔さんは続けます。
「ネタ狙い松宮コーチ、絶対日本宝物なのです。なので分からない。コーチ絶対松宮いませんから」
「コーチ? それって、何かを教えろという意味?」
「まいった、まいった! 今さら的中率、思ったとおりまいった!」
会心のしかめっ面で、しきりにうなずく崔さん。
意思疎通したのが、よほど嬉しかったらしい。

「で、何を教えろと?」
「絶対日本ネタ狙い当選確実です。お金ばらまく大変」

また理解不能になってきた…。

ですが、僕の脳裏に突然、ひらめくものがありました。
ひょっとして彼が言いたいのは、「ネタ」じゃなくて「種(タネ)」なんじゃないか…?
「モンさん」というのは、「門さん」とか「文さん」とかいう人の呼び方じゃなくて、「モンサント」という会社のことなんじゃないか…?

(モンサントについては→ 「食の世界のスーパーパワー その2」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/04/2_5.html

◆◆◆

崔さんは「種(タネ)」の話をしたいんじゃないか?
つまり、農業の言葉でいういと、「種苗」というやつ。
そういう仮定で話してみると、なんだか少し、見えてくる感じがしました。

ほとんど暗号解読のような、崔さんとの会話。
エニグマか?
しかし人間、頑張れば何とかなるもの。
僕は何日も何日も何日もかけ、憑かれたように崔さんの言っていることを理解しようとしました。
風呂も入らずヒゲは伸び放題でしたが、ようやく崔さんが何を望んでいるのかがひも解けてきました…。

解説します。

崔さんはこう見えても商売には長けているようです。
彼の会社が作る農作物は、何割かがヨーロッパに輸出されています。

昨年のある日。
安徽省にやってきた、ヨーロッパの農産物商社(すなわち崔さんにとってはお客さん)の人たちが、会食の席でこんなことを言いました。
「爆発する人口を支えるための大規模農業もいいけど、なんかちょっとね」
「生産効率を追求するあまり、同じ遺伝子の農産物ばかり作ってしまうのが欠点よね」
「一般人はそれでもいいのよ(笑)、でもあたしたち金持ちは、大量生産の同じ農作物ばかり食べたくないわよねえ」
「それに、同じ遺伝子の農作物ばかりつくると、作物が病気になったらいっぺんに全滅よ」
「土地だって、連作続きで枯れてしまうし」
「いろんな遺伝子の農作物があったほうが、いいって言うじゃん」
「農作物の、多様性というやつよね。よく国際会議とかで出てくる言葉」
「でもどうすればいいの。アメリカも中国も、同じ農作物ばかり作って輸出するようになってるわよ。そのほうが儲かるから」
「儲かっているのは今のうちよ。そのうち社会は、多様性のある農作物を求めるようになるんじゃないかな」
「じゃあどうするの」
「日本ね」
「日本?」
「日本よ。あそこの農作物は、まだ多様性を保っている。固定種も多いって聞くわよ」
「なるほど。あの国は大規模農業してないしね」
「つっても、あの国だってご多聞にもれず、F1種が増えてるっていうじゃん?」

(F1種については→ 「食の世界のスーパーパワー その7」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/04/7_3.html

「増えてるったって、他の国に比べたらたかが知れてる」
「そうよね」
「ということは…。日本の種苗会社を買収したら、あたしたち金持ちはもっと金持ちになるわね。キャー」
「そうよ。そういうことよ。日本の種苗会社を買収しましょうよ」
「あの国、小さい種苗会社がいっぱいあるようだし」
「じゃあ、買いやすいわね。ラッキー」

その会話を黙って聞いていた崔さん。
しかめっ面をしたその心のなかで、パチパチと算盤(そろばん)を弾いていたのでした。
でどうやら、自分自身で日本の種苗会社を物色するために、日本に来たらしい。

つーか、崔さんの破壊的な日本語から、これだけ複雑な内容を聞きだしたオレって、凄くね?
ま、かかった時間も凄いけど。

◆◆◆

「あんたのしたいことは分かった」松宮は言いました。「で、オレに何をしろと?」
「困難ネタ狙い、場所上々攻撃なかなか調べがよくありません」答える崔さん。

僕は数秒考えて、言いました。
「日本の種苗会社がどこにあるのか、調査に協力しろって意味?」
「まいった、まいった! 今さら的中率、思ったとおりまいった!」
「調査してやってもいいけど、オレ、けっこう忙しいんだけど」
「なにひとつ明快なまま、稼ぐ安徽省でしばらくお金ばらまく誕生使命、持つ者です」

僕は数秒考えて、言いました。
「報酬、出るって意味だね?」
「まいった、まいった! 今さら的中率、思ったとおりまいった!」
機嫌よくしかめっ面をする崔さん。

すこし、「崔語」を理解するコツが分かってきました。

よし、仕事をゲットしたぞ。
問題は、僕自身が種苗会社にあんまり詳しくないということです。
ちゃんと調べなければなりません。

どうやって調べようか…。

そうだ、まずは葉竹乃木夫先生に相談しよう。
葉竹乃木夫先生は、僕の農業の師匠です。

(葉竹乃木夫先生については→ 「バウムクーヘン宣言 その2」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/05/2_10.html

葉竹先生に会おう。
僕はヒゲ放題を剃り、風呂を爆裂して、久しぶりに外出しました。
雪が降っています。

葉竹乃木夫先生の到着ノックのオフィス、コンコン叩くと…。
顔が開き、懐かしい葉竹ドアが見えました。
「おう、松宮か。帰国したって聞いてたが、挨拶もなく失礼なやつだな。まあ、寒いから中に入れや」

「こんにちは。葉竹は不渡り長くて珍しいから先生ですね」
「は? 不渡りなんか出してないぞワシは」
「いや、す、すいません。不渡り不渡りでないです。長いですが、考えするときです。日本語かけて時間不愉快なものですから」
「は? 何をいっとるんだお前? 意味が分からんぞ」

あわわわ。
僕の壊れ語の日本がヤバかけてる!
考えた訂正をつつきながら日本語は、必ず不可解な落とし方の結果でした。

不渡り葉竹なのに、焦燥。
怒りが先生、松宮絶縁体バラナラなのでした…。

(以下次号?)

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