松宮園生です。
いよいよ始まったメタボ検診(=特定検診)。
「メタボ」
「メタボ予備軍」
と判定されたら、あなたを待ち受けるのはメタボ指導
(=特定保健指導)です。
メタボ指導はどのように行うのかというと。
あなたとメタボ専門家とで、1回あたり20分くらいの面談を繰り返します。
面談を通じて、あなたはプチ洗脳されます。
プチ洗脳されて生活習慣が改善、腹回りも縮んでゆくのです。
テーブルのむこうには、あなたの腹回りを縮めたい専門家。
対するは、今までどおりグータラしたいしラーメンも食べたいサラリーマンのあなた。
「専門家と向かいあっての20分洗脳バトル」
が展開されるわけです。
◆◆◆
萌え系の管理栄養士、ナオコ。
彼女は
「月刊メタボマガジン」
の読者モデルをしてます。
「ポスト阿部マリエ」
という呼び声も高く、メタボ男性のあいだで人気が上がってきています。
(阿部マリエについては→「21世紀神様の悩み その4」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/09/214.html)
銀座の「アルカトラス・クリニック」は、ナオコが保健指導を担当しているということでちょっと有名になりました。
大勢のメタボ男性が、ナオコの保健指導を受けたくて押し寄せました。
ある朝、そのクリニックの前をたまたま通りかかった松宮。
クリニックのなかから出てきた男性が、焦点の定まらない目で、幽霊のように歩いています。
なんと、赤信号を渡ろうとしています。
「危ないですよ」松宮は男性を引き止めました。「どうしたんですか」
男性はのろのろと顔をあげました。
「何でもありません。すみません」
頭を下げ、ふらふらと違う方向に歩き去る男性。
クリニックのなかからまた1人、男性が出てきました。
青ざめています。
よく見ると、知ってる人でした。
「山西さんじゃないですか」
山西さんは、世界をまたにかける中年商社マンです。
山西さんは振り返りました。
「その声は松宮さん」
その声は、って、あんた座頭市か。
「どうしたんですか。顔色が良くないけど」
「それがですなあ…」口ごもる山西さん。「じつは…。ご多聞にもれずメタボ宣告されましてなあ。保健指導を受けに来たっつうわけですよ。お恥ずかしい。頑張って減量したんですけどねえ。検診に間に合いませんでした」
ボクサーかよ。
「それで、わざわざ銀座まで保健指導を受けに来たというわけですか、山西さん」
すると、青かった山西さんの顔が、さっと紅潮しました。
「こないだ初めてメタボマガジンを買いましてな。ご多聞にもれずナオコ萌えになりました。いい年してこれですよ。ははは」
「僕はナオコには会ったことがないんです。彼女の保健指導、受けたわけですね? どんな人でした?」
「実はそれがね。松宮さん、ナオコに会えると思っていたのに、違う栄養管理士さんが出てきまして」
「山西さん。栄養管理士ではなくて、管理栄養士です。これ間違えると、彼女たち。ヘソ曲げますよ」
「あ、うっかりしてました。そうですね、気をつけないと」
管理栄養士さんを彼女にしたい人、気をつけてください。
「で、ナオコに保健指導してもらうつもりだったのに、違う人が出てきたわけですね、山西さん」
「そうなんです。誰だと思います?」
「誰だったんですか」
「佐久間象子ですよ」
うわ…。
「それで顔色が良くなかったんですね、山西さん」
「私自身はタフなほうでして、イラクやアフガニスタンで仕事をしたこともありますから、たいていのことは平気なんです。なので、まあ、何とかやり過ごしましたけどね。でも、普通の人にはアレはきついですね」
「ご気の毒です」
「ナオコに会うつもりでいたのに佐久間象子が出てくる。期待が大きい分、落胆も大きいですよ」
「ご愁傷様です」
「会社でも自宅でも『メタボ、メタボ』と苛められ、逃げ場を求める男性にとって、この落差はちょっとデカイですなあ」
保健指導は、「逃げ場」じゃないんだけど。
(佐久間象子流、保健指導の真髄に触れたい方は→「朝ごはんラプソディー」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/12/post_100.html)
そこへ、背後から声がかかりました。
「あのう」
振り向くと、さっき赤信号をわたりそうになった男性でした。
ショックから立ち直ったようです。
男性は言いました。「これって詐欺ですよね。ナオコで人を釣っておいて、佐久間象子を出すなんて」
「まったくそうだ。けしからん」と、山西さんが言いました。
「どうやらナオコと佐久間象子は、半々くらいで保健指導を担当してるようなんです。日によって違っているらしいんで、ナオコのスケジュールをクリニックに問い合わせてみたんですけど、教えてもらえませんでした」
「教えてくれんとは、けしからん話ですなあ」
男性は携帯電話を取り出し、メールを打ち始めました。
「仲間に知らせておかないと」男性は言いました。「朝いちばんに保健指導を受けた人が、みんなにナオコだったか佐久間象子だったかを知らせることになってるんです」
「そういうグループがあるんですか」と、山西さん。「私も仲間に入れてください」
「じゃあこれを」
男性が山西さんに手渡したのは、入会申込書でした。
「佐久間象子を避け、ナオコに巡り合うために、みんなで情報交換をする会です。あなたも入りますか」
僕は首を振りました。「いえ、僕はけっこうです」
いそいそと申込書を書き始めた山西さん。
その姿をみながら、
「この人たち、たぶん一生、メタボだろうな…」
不敬なことを考える松宮なのでありました。
どうなることやら…。