松宮園生です。
(前回までのあらすじ)
トモという名の、生意気でビーガン(※)な
女の子から苦悩のメールが来ました。
大好きだった彼氏が自分と同じビーガンだ
と思っていたのに、じつはバリバリの現役
プレデター(※※)だと判明したのです。
彼女はどうするのか?
プレデター彼氏を選ぶのか?
それともビーガンを貫くのか?
(※) ビーガン
卵や牛乳なども排除する、完全菜食のベジタリアン。
参考:「ベジタリアン・ババア」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2007/05/post_21.html
(※※) プレデター
本来はライオン、トラ、ヒョウ、チーターなどの「狩をする肉食動物」の意味ですが、転じて「肉をもりもり食べる人」の意味にも使われます。
参考:「クーカ食われるか」
http://www.shokuiku-pro.com/production/2008/02/post_121.html
では、生意気なメールの続きを読んでみましょう。
◆◆◆
助手席のトモと運転席のマーク。
沈黙する2人を乗せたクルマが、パサデナの街に入ります。
世界のなかで2人の空間だけ、酸素が特別に薄くなったような気がしました。
信号待ちでクルマが止まりました。
トモは言いました。
「ビーガンだというのは嘘だったの? 今までビーガンのフリをしてたのね…」
弱々しくつぶやくトモ。
運転席のマークの様子をうかがうと、彼は前を向いたままです。
トモと目をあわそうとしません。
「あなたは本当は何者なの。正体を見せて」
それでも黙っています。
「何とか言って」
信号が青になり、クルマは走りだします。
ようやくマークが口を開きました。「ふっふっふ明智君(←誰が明智だよ)。バレてはしょうがないね、ハニー。そうさ。ボクは肉を食うし、ハンティングにだって行くのさ。驚いた?」
「ずっと嘘をついていたのね」
「まあそう言うなって、ハニー。キミを好きになってから、ボクもベジタリアンになろうと思って努力したんだ。これも恋のなせるわざ。でもたまには、肉を食べたっていいじゃん。分かるだろ」
「ぜんぜん分かんない」
本当に分かりませんでした。
家に着きました。
そこで2人は、テーブルを挟んで話し合いました。
話し合いの結果、こんなことが明らかになったんです。
↓
<食生活>
* ビーフ: マークはトモに隠れてステーキをレアで食べていた。トモは食べない。
* ポーク: マークはトモに隠れて生姜焼きを食べていた。トモは食べない。
* チキン: マークはトモに隠れて照り焼きを食べていた。トモは食べない。
* 魚: マークはトモに隠れてムニエルを食べていた。トモは食べない。
* 卵: マークはトモに隠れてスペイン風オムレツをケチャップたっぷりで食べていた。トモは食べない。
* 牛乳: マークはトモに隠れて成分無調整牛乳をごくごく飲んでいた。トモは飲まない。
<ポリシー>
* 捕鯨: トモは反対。マークは反対するフリをして実際は無関心で、竜田揚げをウマイという。
* 森林伐採: トモは反対。和食を食べるときはマイ箸を使う。マークは反対するフリをして実際は無関心で、いつも割り箸。
* 地球温暖化: トモはアメリカが温暖化防止に協力的でないのを怒っている。マークは怒るフリをして実際は無関心で、温暖化を心配するフリをして実際はオナラを連発している。
* ブッシュ大統領: トモはキライ。トモは民主党。マークは民主党ファンのフリをして実際は共和党に投票した。民主党のことは何も知らず、クリントンと和菓子の区別がつかない。
(それって、ひょ、ひょっとして、栗きんとんのこと?)
◆◆◆
「人っていろいろ違うけど、あたしたちもこんなに違うのね」
しみじみ言うトモ。
「違うったってさ、たかが食べものの話じゃん」
とマーク。
その言い方に少しカチンときました。「食べものが違ったら何もかも違うのよ」
「キミは人を食べもので差別するわけかい」
「差別じゃないけど…。うん、でも、そうね。ごめんね。やっぱり差別かもね。食べものもそうだし、食べ方でも人は違うのよ」
「で、ボクがたまに肉を食うことが分かって、差別するというんだね」
トモは首を横に振りました。「分からない。混乱しちゃって」
「こんなことで、ボクたち別れたりしないよな」とマーク。
トモはもう1度、首を横に振りました。「分からない。すごく混乱してるの」
マークの顔に焦りの色。
「キミはボクとの恋愛よりも、ベジタリアンであるほうを優先するのか」
「ベジタリアンなんて言わないで。あたしはビーガンよ。ただのベジタリアンじゃないの」
「またそれか。いいじゃん、どっちでも」
「いくない。全然いくない」トモは立ち上がりました。「ごめんね。出かけてくる。しばらく、ひとりになって考えたいの」
「待てよ」彼はトモの手を掴みました。「帰ってくるよな」
トモはかぶりを振りました。「分からない…」
突然、彼はトモの手を引っ張りました。
ソファーに押し倒そうとしたのです。
「やめて!」
ソファーに倒れかかりながら叫ぶトモ。
「キミのことが好きなんだよ」迫るマーク。
「やめてったら」体をよじって逃れようとするトモ。
主人公危機一髪!
無我夢中でマークを蹴ったら、急に軽くなりました。
見ると、マークの体は向こうの壁まで飛んでいったみたいで、彼はそこで気絶していました。
星が回っているのが見えました。
トモ、凄ー。
彼、3メートルは飛んでるよね。
火事場の馬鹿力ってやつかしら。
まだ体が震えていましたが、そんなことを考える余裕はあったみたいです。
トモったら、お茶目なんだからぁ。
このことでマークに対する気持ちは完全に冷めました。
気絶している彼をそのままに、トモは大急ぎで軽く荷物をまとめると、その場からすたこら逃亡したのでした。
◆◆◆
というわけで松宮さん。
松宮さんの気持ちを知っていながら長いこと待たせて悪かったけど、トモは彼氏と別れるつもりです。
心の傷ももうすぐ癒えるかな。
そろそろ、食事くらいならいいかも。
どこにエスコートしてくれるのかしら?
でも、気が変わったらドタキャンするかもしれません。
そのときはオードリーなトモを許してちょんまげ。
ね?
◆◆◆
メールはここで終わっています。
「松宮さんの気持ちを知っていながら長いこと待たせて悪かったけど」
↑
はぁ?
なんだそりゃ?
おれの気持ち?
待たせる?
おれたち、いつ知り合いになったの?
(このシリーズ、おしまい)