松宮園生です。
地下鉄の吊革広告をみてびっくり仰天。
「月刊ヤング食育 4月号」
の吊革広告だったのですが、こんなことが
書いてあったのです。
「食料自給率39パーセントのどこが悪い。
このままでいいじゃん。
…これが日本人のセリフか? 日食大、
松宮教授の吐く暴言を許すな!」
急いで地下鉄を降り、「ヤング食育」の竹芝記者に電話をしました。
20回鳴らしても出ません。
30回鳴らしても出ません。
やむなく編集部に電話をかけました。
「ヤング食育です」
「日本食育大学の松宮といいます。竹芝さんをお願いしたいんですが」
「竹芝は外出してます」女性の素っ気ない声でした。「伝言、ありますか?」
「竹芝さんの書いた記事に問題があるんですがね。編集長と話をさせてください」
「少々お待ちください」
「電話変わりました。編集長の桜田といいます」
「日本食育大学の松宮といいます」
「竹芝の書いた記事にご不満とか?」
「そうです。電車の吊革広告をみて驚きました。なんですか、あれは」
「おっしゃる意味が分かりませんが…」
「ウチの大学のことを『日食大』と呼ぶとは何です! 天文学じゃないんだから。皆既日食かっつーの」
おいおい、文句を言うポイントはそこかい。
「…じゃなくて」あわてて訂正。「僕は教授じゃなくて准教授です」
おいおい、違うだろ。
「…じゃなくて」あわてて言い直す。「僕は暴言なんか吐いていませんよ。自給率39パーセントが良いだなんて一言も言ってない」
「しかしですね」編集長は電話の向こうでのんびりと答えます。「竹芝だって嘘を書く男ではありません」
「じゃあ僕が嘘つきだとでも? とんでもない。訂正してください。謝罪記事を出してください。竹芝さんはどこですか」
「どこっつってもねえ。彼の携帯電話の番号、お持ちですか?」
「持ってます。さっきかけたけど、返事がない」
「それじゃ返事が出るまでかけてください。わたしは民事不介入をモットーにしてるんでね。こういう問題は当人同士で話し合ってもらわないと」
「民事不介入って、警察じゃないんだから」
「とにかくそういうことです。竹芝と話をしてください。では、わたしは忙しいので、これで」
◆◆◆
編集長との電話が切れたとたん、携帯が鳴りました。
「非通知」です。
恐る恐る出ると、低い男の声で
「自給率はこのままでいいだと? 非国民め。お前のようなやつがいるから日本はいつまでたっても変わらないのだ」
プツ。
だからそんな暴言、吐いてないっつーに。
アパートに帰ると、ドアのところに貼紙がしてありました。
真っ赤な字で、こう書かれています。
「おまえは日本の農業の敵だ。さっさとアメリカに帰れ」
竹芝記者に電話をかけましたが、やはり出ません。
携帯に差出人不明のメールが来ました。
「貴様のような者が、偉そうに食育なんぞ語るな」
テレビをつけると、ニュース番組で評論家が松宮の悪口を言っていました。
「松宮園生ねえ。どこの馬の骨学者か知りませんけど、身の程知らずのセリフを吐くものですわねえ」
相変わらず、竹芝記者には連絡がつきません。
ガチャン!
窓ガラスが割れ、石が飛び込んできました。
拳よりも大きなその石には、
「このままで済むと思うな江戸の春」
と、俳句かよ、と思うような言葉がこれも真っ赤な字で書いてありました。
こ、殺される…。
ここにいたらヤバイ。
パニックにとらわれた松宮、とるものもとりあえずアパートを飛び出しました。
しかしタクシーに乗ろうとすると、巻き込まれるのを恐れた運転手から乗車拒否をされる。
しかたなく近くのホテルまで歩いて行き、チェックインしようとすると、武器をもった人々がフロントのあたりに集まっている。
本能的に危険を感じた松宮、そのホテルに泊まるのをやめました。
竹芝記者の電話は、夜になっても沈黙しています。
◆◆◆
どこに行っても石を投げられる松宮。
「無実だ」
叫んでも叫んでも、日頃のおこないが悪いせいで、誰も信じてくれません。友達に電話しても誰もでないし。
「ああどうしよう」松宮はつぶやきました。「もう合コンには行けないんだ」
問題はそこじゃねーだろ。
とぼとぼと夜道をさまよう松宮。
町では「自給率警察(別名、チーム39)」が松宮容疑者の捜索を始めたようです。
「もうダメだ…」
絶望のあまり座りこんだ松宮は、ポケットから、なぜそんなものを常備しているのか不明ですが、和紙と筆を取り出しました。
どうやら辞世の句をしたためるみたいです。
「春来たる猫も杓子も自給率」
しかし松宮は首をひねりました。
われながらひでえ句だ。
こんな句では死ねません。
竹芝記者、聞こえますか?
なんとかしてくれー。