松宮園生です。
こんな求人広告がありました。
<株式会社 食育>
気のいい仲間と楽しく食育しませんか。
勤務地:東京
仕事内容:食育
給与:応相談
賞与:あり
昇給:あり
で、応募してみたらあっさりと採用されました。
◆◆◆
「今日から戦力に加わる松宮君だ。松宮君、簡単に自己紹介を」
「松宮です。趣味は市民農園。彼女いません。よろしくお願いします!」
「パチパチパチパチ(拍手の音)」
「松宮君のデスクはそこだ。期待しているよ、頑張ってくれたまえ」
「はい、頑張ります」
「課長」
「なんだね」
「で、僕は何をすればよろしいのですか」
「食育だよ」
「はあ?」
「わが社は食育をする会社だからね」
「それは分かってますけど…」
「じゃあ早速、食育をしたまえ。そうだな、今日は代々木公園あたりで食育をしてくれるかな。庶務課で必要な資材を出してもらいなさい」
「はあ…」
◆◆◆
「あのう。庶務課はこちらですか」
「そうですよ」
「営業1課の松宮です。今日から社員になりました。さっそく代々木公園あたりで食育をしてこいと言われまして」
「じゃあ、この書類を書いてくれる? 代々木公園だなんて、寒いのに大変ね」
「あのー。『使用目的』の欄には何を書けば…」
「何でもいいのよ。ま、『食育』か『営業』って書く人が多いかな」
「じゃあ、『食育』って書いときます」
「じゃ、これ持ってって」
「これは?」
「道具カバンよ。行ってらっしゃい」
「カバンのなかには何が入っいるんですか?」
「食育の道具に決まってるじゃない」
「へ?」
「でも今は開けちゃだめ。酸化しちゃうから。現場で開けるのよ」
「酸化するんですか?」
「酸化しないのもあるけど、新人さんには酸化するほうを持ってもらうことになっているの。ほら、ぼさっとしてないで、さっさと行きなさい」
◆◆◆
「松宮君。ちょっと」
「なんでしょう、課長」
「きみねえ。食育の道具を酸化させたそうじゃないか」
「はあ、すみません」
「困るんだよ。道具は貴重品なんだからね。今度やったら給料下げるよ。これだから大学出のボンボンは困る」
「あのー」
「何だね」
「酸化しちゃったんで分からなかったんですが、あれは何だったんですか?」
「食育の道具だよ」
「いや、ですから具体的には何だったんでしょうか?」
「何を寝ぼけたことを言ってるんだ。食育の道具といったら、他になにがあるんだ。そんなことより、今日はちゃんと食育してきてくれよ」
「食育をしてこいと言われてもですね、課長、具体的に何をしたらいいんですか?」
「あのね。きみはトイレにいったら何をする?」
「それは…用を足します」
「そうだろう。それと同じだよ。食育をするといったら、食育をする以外にないだろう。さ、僕も忙しいんだ。さっさと行ってきてくれ」
◆◆◆
「松宮君。ちょっと」
「なんでしょう、課長」
「代々木公園できみが子どもたちを集めて紙芝居をしていたというのは本当かね」
「ええ、そうですが」
「何か勘違いをしていないか?」
「は?」
「そんなことをして、会社の売上は上がるのかね?」
「上がりませんが…。しかし食育をしてこいと言われたものですから…」
「あのねえ。これだから大学出のボンボンは困る。いいかね、われわれはボランティアをしているんじゃないんだ。稼いでナンボだろう」
「はあ」
「今日はちゃんと業績をたててくれよ。給料泥棒と言われたくなかったらな。さあ、行った行った」
◆◆◆
「松宮君。ちょっと」
「はあ」
「会議室で2人で話をしよう」
「はあ」
「この1ヶ月間、きみの仕事ぶりを見させてもらったがね。きみはあまり食育に向いておらんのじゃないかと思うのだが」
「はあ」
「営業成績もきみが最低だ。こんな社員は初めてだよ」
「しかし、単に食育をしてこいと言われましてもですね…」
「言い訳なんか聞きたくないんだ。きみのおかげで僕も社長からこっぴどく叱られたよ」
「いや、そう言われましても…」
「きみは食育には向いておらんよ。ほかにもっと、きみが活躍できる職場があると思うんだよね」
「く、クビということですか?」
「まあ、そういうことかな。残念だが、われわれも稼げない社員を飼っておくほどの余裕はないんでね」
◆◆◆
クビになってトボトボと歩く帰り道。
書店に立ち寄って転職情報誌を立ち読みしたら、こんな募集が載っていました。
<株式会社 身土不二>
あなたの力で、日本人の心、「身土不二」を推進しましょう!
勤務地:東京
仕事内容:身土不二
給与:応相談
賞与:あり
昇給:あり