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松宮園生です。
アイダホでトウモロコシを栽培している浮気農家、
ジョン・ソイビーン。
先日、久しぶりに会いました。
彼のほうから、わざわざ来てくれたのです。
妙な侍(さむらい)言葉も健在でした。
「浮気農家」
なんて肩書き(?)を持っているジョン・ソイビーンですが、聞くと、最近は浮気をしていないそうです。
その理由は…。
以前帰国したときに、彼を一緒に日本に連れていったことがあります。
そのときに出会った日本女性(複数)の美しさが忘れられず、
「日本人と恋に落ちたい」
と、となんだか虫のいいことを考えている模様でした。
それでわざわざ来たのかよ…。
「不意に小遣いが入ったのでござる」下心いっぱいのジョン・ソイビーンは言いました。「また日本に行きたいと存ずる。いまから連れてってくれぬか」
「ひとりで勝手に行けば」
「つれないことを申すでない。いいではないか。お主の旅費も出してしんぜよう。ただしエコノミー席でお願いたてまつる」
「えっ。旅費出るの? マジ?」
「武士に二言はござらん」
「あんたは武士ちゃうやろ!」
「お主こそ、なぜ関西弁でござるか!」
ツッコミ合戦はともかく、不意に小遣いが入ったとはうらやましい話です。
しかも、僕の旅費を出せるほど余裕のある金額だなんて。
その「小遣い」を彼が手に入れたいきさつはこうでした。
◆◆◆
知らなかったのですが、ジョン・ソイビーンは牛も飼っていたそうです。
その牛の1頭が行方不明になり、彼はバーリントン・ノーザンという鉄道会社を訴えました。
ご存知のとおりアメリカは訴訟大国です。
ジョン・ソイビーンの出した訴状によれば、ワイオ(ワイオミングの略。行方不明になった牛の名前)はある日、線路のちかくで草を食(は)んでいました。
そのとき、バーリントン・ノーザンの貨物列車が走ってきました。
貨物列車って、時々やたらに長くありません?
車両が何台も何台も続きます。
待てど暮らせど最後尾が来ない。
まさにそういう列車が通り過ぎたそうです。
やっと貨物列車が走り去ったあと、牛のワイオがいなくなっていました。
どうしても見つかりません。
というわけでジョン・ソイビーンは、鉄道会社を相手取って訴訟を起こしました。
「ウチのワイオをおたくの貨物列車がはねたに違いない。弁償しろ」
という訴訟です。
◆◆◆
鉄道会社バーリントン・ノーザンのほうは、
「参ったな。しかし有名弁護士を雇うほどの裁判じゃないし、安い弁護士でいいか」
と思ったのか、まだ若く売り出し中の弁護士を雇いました。
弁護士のほうは、これから実績を作りたいので張り切っています。
あるとき彼は、裁判の休憩中にジョン・ソイビーンに司法取引をもちかけてきました。
司法取引というのは、判決が出る前に、原告と被告が歩み寄ってお互い交渉することです。
たとえば、被告が罪を認める代わりに、原告は要求を軽くするとか。
お金をやりとりして和解し、訴えを取り下げるとか。
アメリカでは司法取引がすごく盛んです。
若い弁護士はありったけの弁舌をふるい、ジョン・ソイビーンと交渉しました。
その結果、
* ジョン・ソイビーンは請求する金額を半分に値下げする。
* バーリントン・ノーザン社はそのお金をすぐに払う
* ジョン・ソイビーンは訴えを取り下げる
ということで片がつきました。
弁護士はその場で、バーリントン・ノーザン社から預かった小切手をジョン・ソイビーンに手渡しました。
ジョン・ソイビーンは訴えを取り下げる書類にサインし、弁護士に渡しました。
◆◆◆
若い弁護士のほうですが、自分の司法取引が首尾よくいったことがよほど嬉しかったのでしょう、よせばいいのに自慢しはじめました。
「ソイビーンさん、今回はね、僕の大勝利なんです。えへへへへ」彼は言いました。「あなたは本来、この裁判に勝てたんですよ。請求金額を値下げしなくてもよかったんです。でも僕の作戦にあなたは引っかかった」
ジョン・ソイビーンは眉をしかめました。「なぬ。そうでござるか」
「あなたに言いませんでしたけどね、実はあの日、貨物列車の運転士が居眠りをしてたことが分かったんです。これでは裁判に勝てるはずがない。だから僕は司法取引に切り替えたんです。あなたはまんまと引っかかり、司法取引が成立したってわけですよ!」
はしゃぐ弁護士。
「やられたでござる。さすが新進気鋭の弁護士殿でござるな」ジョン・ソイビーンはおもむろに答えました。「じつは、今朝になってワイオが帰ってきたでござる。いままでどこにいたのやら分からぬが…。そういうわけゆえ、これからどうしようか、貴殿に相談しようと思っておったところでござった」
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