松宮園生です。
(前回までのあらすじ)
畑の隣にレストランを作ってさ、自分の畑でとれた
作物をそこで美味しく料理して出せたらいいよね。
そんな夢を持つ若い農家はけっこう大勢いる
んじゃないかな。
ただしそうするためには農家にレシピを考える
力がほしい。
料理技術じゃなくてレシピ開発力だ。
料理技術じゃない。ダイコンのかつらむきは下手でもいい。
しかしレシピ開発力はほしい。
自分の畑でとれたダイコンをどうやったら一番美味しく食べられるのか、を考える能力は必要だ。
「レシピ開発力」を身につけるにはどうしたらいいか、そういう講座を作りたいよね。
…農業コンサルタントの葉竹乃木夫さんからそんなことを言われ、レシピ開発力ゼロの松宮園生が素人調査を始めました。
そうはいっても。
◆◆◆
独立する前の僕は、テケテケ商事という食品の貿易会社に勤めていました。
(テケテケ商事の社内の地味な雰囲気を知りたい方はこちら→「食品業界のヒーロー?」2007年4月26日)
そのテケテケ商事の後輩社員にこんなヤツがいました。
↓↓↓
「松宮さん、ちょっと相談が」
「おう、なんでえ」
「おれ、農業やりたいんスけど」
「おう、いいじゃねえか。やりねえ、やりねえ」
「いや、そういう意味じゃなくて。会社で農業をやらせてほしいんス」
「会社でか」
「個人で商売するんじゃなくて、会社でビジネスとしてやりたいんス」
「商売じゃのうて、ビジネスとしてやりてえとな。ふうむ。こいつ、大きく出おったな」
「貿易会社が農業するのはヘンですか」
「うんにゃ。んなこたあ、ねえだろ。貿易会社つっても、食に関係してるわけだしなあ」
「ああよかった、そう言っていただいて」
「それにしても、おめえ、バブル崩壊したあとの不景気で世の中が縮こまっているとき(※)によお、新しいことに挑戦したいっつうその心意気、じつに感心感心。しかもそれが農業っつうんだから、感無量だねえ」
「松宮さん、泣いてるんスか」
「ばーろー。泣くもんけえ。タマネギが目にしみたのよ」
「タマネギ? どこにあるんスか」
「るせえ。やかましいわ。…それよりおめえ、農業してえっつう話は分かったがよう、会社でやりてえなら、新しくそういう部署を作らにゃなるめえよ。いまはそんな部署は社内にねえしなあ」
「ですよねえ。どうしたらいいですか」
「そりゃおめえ、こうすんだよ。まずは事業計画つうものをこしらえるだろ。次にそれをな、役員会議でプレゼンするわけよ」
「役員会議」
「そのときに、新しい部署を作ってもらうように働きかけるのよ」
「なるほど」
「それで社長がウンと言ったら、すかさず新しい部署のリーダーにあめえが立候補しやがれ。そしたら、そのチームはおめえのもんだい」
「分かりました。じゃあさっそく事業計画を作らなきゃ」
「そうよ。やりねえ、やりねえ。だが真剣に作れよ。生半可な計画書じゃ役員会議にさえ出せねえぞ」
「じゃあ、よろしくお願いします。待ってますから」
「よっしゃ分かった。…じゃなくて、ナヌ?(←死語) 待ってますって、どういうこった」
「いやその。おれには事業計画なんて作れませんし。ここはひとつ、松宮さんに作っていただこうと…」
「ばーろー。なに言ってやんでえ。おめえのビジネスなんだからおめえが自分で作りやがれ」
「とほほ、やはりそうですか」
「たりめーだろ。作りかたは教えてやっからよ」
「あ、ありがとうございます」
「ときに腹が減ったな。まだ12時にゃあなっていねえが、ちょっくら早飯どうだい? 店(飲食店)がOLで混まねえうちによう」
「おれはいいっス。サプリと、売れ残ったニュートリション・バーを食べますんで」
「ナヌ? 大事な昼メシなのにそんなんでいいのか? ま、会社の売れ残り商品を食べるっつうのは、テケテケ商事ならではのことではあるが」
「おれ、いままで隠してたんですけど…」
「なんでえ」
「あんまし食べるものに興味ないんすよ。昼メシが楽しみ、とかいうのも全然なくて。スミマセン」
「食べるものに興味ないんか」
「農業にはすっごく興味あるんすけどね。それ系のボランティア活動なんかにも参加してるんですが」
「農業には興味あるが、食べものには興味ねえ、とな?」
「体を維持するのに食べなきゃいけないんで、仕方なく食べます。だからサプリとニュートリション・バーでじゅうぶんなんですよ」
「ふーん」
「美味しいものを食べたい、という欲望とかは持ってないんです」
「ふーん」
「面白くないやつでしょ、スミマセン。これカミングアウトすると、怒る人がいたりするんで、なるべく言わないようにしてるんですが…」
「ま、テケテケ商事は食の会社だからなあ。社員からそういうセリフが出るのは残念ではある」
「スミマセン。でもそれが本音なんです。だから今の部署の仕事にも興味湧かなくて。農業の部署がほしいというのもそれが理由のひとつなんですが」
「ふーん。てことは、料理にも興味はねえってことかい」
「料理にも興味ないっス」
「味覚障害か?」
「そんなわけでもないんスけど…。味は分かるんス。味のいいものを食べたら、そのときはウマイと思いますし、まずいものを食べたら、まずいと感じます」
「ふーん」
「でもいつもウマイものを食べたいとは思わないし、自分で作りたいとも思わないス」
「ふーん」
「でも松宮さん、おれみたいな人間、けっこういますよ」
「ふーん、そうかい」
会話はそこで途切れました。
何となく白けたというか。
(※)この会話は、今から8年ほど前に交わされたものです。
◆◆◆
この後輩社員との会話は今でも記憶に残っています。
農業をやりたいと言いながら、食そのものには興味が薄い。
自然とのふれあいとか、ゆっくり流れる時間とか、汗を流してもの作りをすることとか、そういう方面に憧れたりするけど、食そのものには関心が薄い。
こういうタイプって、多いのかな、少ないのかな…?
農家さん向けにレシピ開発力養成講座とか開いても、受けに来るのかな…?
不安が募る松宮なのでありました。