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後半です。
お手数でも、必ず前半(12月15日アップ)をお読みに
なってから、続きをお読みくださいまし!
◆◆◆
人々の不満がついに爆発します。
イル16世が30歳のとき(=ピエールも30歳)、政治犯を
閉じ込めていたシャルル牢獄を市民が襲撃しました。
革命の始まりです。
政治犯を解放した市民軍は、今度は王都プリウスに
進軍します。
大勢の国民が武器をもって合流し、プリウス郊外で
政府軍と激突。
プリウス市民も革命軍に参加し、政府軍はこっぱみじんに
打ち破られます。
革命軍は宮廷を占拠。
イル16世もマリー・パトリシアも捕えられてしまいました。
捕えられたとき、イル16世は中国から伝わった餃子の64個目を食べていたとされ、マリー・パトリシアは若い貴族を裸にして手錠をかけようとしていたと言われています。
しかしこれは、あくまでうわさです。
ピエールの屋敷にも革命軍がやってきました。
ピエールは抵抗せずに降伏。
革命軍は彼を、彼自身の屋敷の地下牢に閉じ込めました。
そこへ、捕えられたイル16世も移送されてやってきました。
2人は向かい合った牢屋に幽閉されました。
移送されてきたときのイル16世は、狂乱状態だったといいます。
食べていた餃子はとりあげられ、そのあと何も食べない(食べさせてもらえない)まま、移送されてきたのでした。
ピエールの知る限り、眠っているときを除いて、イル16世が10分以上「なにも口にしていない」状態だったことはありせんでした。
そんな国王が、革命軍につかまり、ピエールの屋敷に移送されるまでのあいだ、なにも食べものを与えられなかったということです。
それが、狂乱状態の原因でした。
ピエールの自伝によると、
「食物を与えられなかった陛下の目は、アヘン中毒者の禁断症状そのものだった。陛下は宇宙全体を呪いの言葉で埋め尽くすかのような叫び声をあげ、あまりの異常さに革命兵士のなかには嘔吐する者までいた」
そうです。
地下牢に入ってからも、国王の狂乱状態は続きました。
食事は1日に2度、粗末なものを与えられるだけです。
それでも食べているあいだはおとなしくなるのですが、食べ終わると「腹が減った」「腹が減った」と暴れはじめます。
しかし国王に忠実なピエールは、万一のときの備えをしていました。
王のための美味な保存食を、あらかじめ屋敷の地下に蓄えてあったのです。
自分自身が囚人であるために、その保存食を国王に渡すのが難しかったのですが、あるときチャンスが到来しました。
彼らを監禁している革命兵士のなかに、容姿端麗なピエールに恋をする男がいました(ピエールも男です。念のため)。
ピエールはその兵士をたらしこむことに成功しました。
兵士に命じて、保存食がイル16世のところに運ばれるようにこっそり仕組んだのです。
王は与えられた食べものをがつがつと口にほうりこみます。
その動きは飢餓の子どもそのものでしたが、王の体型じたいは飢餓の逆で、とんでもなくメタボでありました。
◆◆◆
国王の裁判が行われました。
狂乱するのを避けるため、国王には特例で食事が与えられ、彼は食べながら裁判を受けました。
死刑の判決がでました。
死刑の判決が出たというのに、国王はなんの反応もしませんでした。
ひたすら食べ続け、いまここで何が起きているのかをまるで理解していないようでした。
マリア・パトリシアも死刑の判決を受けました。
彼女はイル16世の処刑の前日に、ギロチンの露と消えました。
彼女は巨大な刃が落ちてくる直前まで、
「なんで自分がこんな目に遭わなければならないのか」
と怒鳴りつづけたそうです。
翌日はいよいよ、イル16世の死刑執行の日でした。
その日の早朝。
牢番の長(おさ)がやってきて言いました。
「イル16世陛下。陛下の処刑は1時間後に行われます。最後のときを安らかなお気持ちでお過ごしなさいますよう」
食事が支給されました。
最後の食事というわけです。
食べはじめたイル16世を尻目に、牢番の長(おさ)は部下の牢番たちともども、静かに立ち去りました。
向かい合った牢屋にいるピエールは、泣きながら国王に声をかけました。
この25年間のお礼と、自分も遠からずあの世に参ります、あの世でまたお会いしましょう、ということを言いたかったのですが、うまく話すことができませんでした。
嗚咽がでるばかりでした。
すると、それまで「最後の食事」をしていたイル16世の動きが、はたと止まりました。
彼の眼が宙をあらぬようにみつめ、顔がゆがみはじめます。
やがて、口がヘビのように大きく開かれ、数秒後、あの
「ずずずず、ずずずず」
という音がピエールの耳に届いたのでした。
23年前の、あの音…。
ピエールはその場にへたりこみました。
「ずずずず、ずずずず」
は続きます。
ほどなく、イル16世の口から黒いぶよぶよした塊が、ゆっくりと吐きだされてきました。
「ずずずず、ずずずず」
吐きだされた黒い「何か」が地面でとぐろを巻いています。
いつまでもいつまでも吐きだされてきます。
その量は、イル16世の体の大きさを超えていました。
なんと、その塊には「目のようなもの」がありました。
「目のようなもの」は、格子のすきまからピエールをまっすぐ見据えます。
凍りつくピエール。
やがてその黒い塊は、
「ずずずず、ずずずず」
という音を相変わらずたてながら格子をすりぬけて牢屋を出てきました。
こっちに来る!
ピエールはそう思いましたが、体を動かすことができません。
しかし黒い塊は方向を変え、
「ずずずず、ずずずず」
と地下のさらに深い闇へと消えていきました。
しばらくして、牢番が数人やってきました。
「時間です、陛下。刑場にお連れせねばなりません」
それまで口をぽかんと開けていたイル16世が、目をまるくして突然こんなことを言いました。
「ど、どうして僕はここにいるの? ここはどこ? 母上はどこ?」
その声や話し方は、30男のものではありませんでした。
子どもの言葉遣いです。
「なんでこんな暗い所にいるの? そなたたちは誰? ピエールはどこ? かくれんぼはどうなったの? ピエールは?」
「陛下! かくれんぼは終わりました。ピエールはここでございます」
ピエールは叫びました。
しかしイル16世はピエールを見て言いました。
「おまえはピエールじゃない。おまえは大人じゃないか。ピエールはどこ? ピエール! いたたたた。痛い、痛い!」
突然、腹部に手をあててうずくまります。
彼は、涙をポロポロこぼしながら、か細い声で、痛い、痛い、ピエール助けてと訴え続けます。
牢番の長(おさ)が決然と言いました。
「陛下、覚悟をお決めください。仮病を使おうとも、もはや逃れるすべはございませんぞ」
部下の牢番たちが、腹痛で動けないイル16世の肥満した体を牢から引きずり出し、ピエールの前から連れ去っていきました。
国王のすすり泣く声が、いつまでも残りました。
ピエールが親友イル16世の姿を見たのは、それが最後でした。
◆◆◆
ピエールはその後、裁判を受けましたが、死刑をまぬがれ、国のはずれにある小さな家に監禁されました。
政治に関わっていなかったことが、彼の命を救ったようです。
監禁された家で、彼は33歳のときに病死しました。
彼の死因については、とくに怪しい点はなかったとされています。
ピエールの自伝の原本は、プリウス博物館に展示されています。
自伝の最後に「得体のしれない黒い塊」のイラストが描かれており、このイラストが見えるように展示されています。
博物館員の説明によると、ピエール本人が描いたのではなく、腕のよい画家に描かせたものだそうです。
リアルな不気味さとあまりの迫力に、気分を悪くする人も少なくないとのこと。
You Tube にそのイラストが出ているといううわさも聞きましたが、まだ見つかっていません。
(「ビッグイーター」 完)