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2007.12.07 22:08

陰謀料理連盟ネオ その4

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松宮園生です。

前回までのあらすじ)
いまは行方不明になっている太刀槌タツオがまだ行方不明でなかったころ、
彼と僕は陰謀の都ロンドンにインド料理を食べるための出張をしました。
最初に入った店は「レッドフォート」という、ロンドンでも人気の名店でした。
食事を堪能した太刀槌タツオと僕。
シェフを呼んで料理を絶賛すると、シェフもニコニコ。
そこまでは良かったのですが、僕のひとことで雰囲気が一変しました…。

そのひとこととは
「ロンドン市内で、ほかのお勧めインド料理店を教えてくれ」
でした。
大男のシェフの顔がみるみる鬼のようになりました。

◆◆◆

しかしここで引き下がるわけにはいきません。
ビビりながらも、僕はつたない英語で言いました。
「はるばる日本からインド料理を食べるために来た。ロンドンに来たついでにインド料理を食べているんじゃないです。インド料理が目的なので、だから他の店にも行きたい」
するとシェフはポケットから紙切れを取り出し、ムスッとしたまま何かを書きつけました。
「これでいいか日本人」
差し出された紙には、店の名前と所在地が走り書きされていました。
全部で3店ありました。

太刀槌タツオと僕は礼を言い、レッドフォートを去ったのでした。

一件落着。
ではありません。
ロンドン到着初日というのに、じつは泊まるところがありませんでした。
(そのいきさつは前回を参照のこと)

「さて、どうしようか」と、太刀槌タツオ。
「んなこと僕に聞かないでくれよ」
「ホテルを予約しよう」
「どのホテルにする?」
「ガイドブック、持ってる?」
「持ってない」
「おれも持ってない。ガイドブックを買おう。本屋に行こう」
「本屋はどこ?」
「本屋がどこにあるかを知るためには、ガイドブックが必要だ。あるか?」
「ないってば。だから買いに行くんだろ」
「そうだった」太刀槌タツオは苦笑いしながら「さっきの店に戻って、近くに本屋がないか聞こう」
「そうしよう」
「じゃあ松宮、聞いてきてくれない」
「なんでまた僕が」
「そりゃお前、あの怖いシェフを丸め込んだ腕があるじゃないか。それにおれは今ちょっと腹が痛くてね。辛さにやられた。イテテテテ」
「ダメだよ嘘ついても。さっきはあんたのせいでこっちが貧乏くじを引いたんだから、今回はあんただ」
「ならジャンケンで決めよう」
「じゃあ3回勝負で」
「それって、先に3勝したら勝ちってことか?」
「違うよ、先に2勝したら勝ちだ」
「それじゃあすぐに決まってしまうじゃんか。5回勝負にしよう」
「3回でいいじゃん」
「5回だよ」
「3回で十分だろ」
「じゃ、3回にするか5回にするか、ジャンケンで決めよう」
「いいとも。3回勝負でいいよね?」
「何を言う。5回勝負にじゃないとダメだ」
「またかよ。だったらそれ自体、ジャンケンで決めよう」
「望むところだ」
「じゃあ3回勝負にするか、5回勝負にするかを、3回勝負で」
「それって、先に3勝したら勝ちってことか?」

…こんなバカな2人は放っておいて、話を進めましょう。

◆◆◆

結局、2人は本屋にたどりつき、ガイドブックを買ってホテルに手当たり次第に電話をし、「ベッド & ブレックファスト」と呼ばれる種類のアットホームなホテルに泊まることができました。

翌日。
さすがに朝食時から営業しているインド料理店はありませんでした(少なくとも当時は)ので、朝食はホテルで済ませました。
適当に市内観光をした後、2軒めの店「セッポイノーラン」にはランチタイムに行きました。

「セッポイノーラン」の前でタクシーをおりた太刀槌タツオと僕。
呆然と建物を見上げ、どちらからともなくつぶやきます。
「これって宮殿じゃないの」
「本物にしては小さいが…。夕べのシェフ、わざと値段の高そうな店を選んだんじゃねえの」
「入る?」
「そだな。まあとにかく入ろう」

外見は仰々しい宮殿のようでしたが、中はちゃんと飲食店仕様になっていました。
天井がたいへん高く、そのせいで高級感はバッチリです。

メニューは2センチもの厚さがありました。ほっとしたことに1品1品の値段は昨日の店とあまり変わらないレベルでした。
問題はその品数の多さです。
1ページに4つ、メニューが紹介されていましたが、
アピタイザー(前菜):6ページ
チキン:12ページ
マトン(羊):10ページ
魚介類:8ページ
野菜:10ページ
全部で46ページ。
ということは184のメニューがあるということです。
(加えてデザートが別途あるわけですが)

「中華料理屋かここは。どれを選べっちゅうねん」
太刀槌タツオが言いました。

自分で選べないなら、人に決めてもらうしかありません。
ウェイターを呼んでオススメを聞きました。
「全部です」
ウェイターが言いました。

こういう答え方するウェイター、日本にもいるよね。
全部、食えるわけ、あるかい!

「仕方ない。松宮、任せたからお前決めてくれ」
「なんでだよ」
「そう言うと思った。自分が食べるものを自分で決められないのは、ガキの証拠だ」
「自分だってそうじゃん」
「ちげえねえ(←深川か)。例によってジャンケンで決めよう」
「じゃあ3回勝負で」
「5回勝負だよ」
「3回勝負で十分だろ」
「じゃ、3回勝負にするか5回勝負にするか、ジャンケンで決めよう」
「いいとも。3回勝負にするか5回勝負にするかのジャンケンは、3回勝負でいいよね?」
「それって、先に3勝したら勝ちってことか?」

…こんなバカな2人は放っておいて、話を進めましょう。

◆◆◆

いろいろ食べました。
「なんつうか」太刀槌タツオが言いました。「辛いだけで味がなくね?」
「あまりいい食材を使ってないんじゃない」
「ありうる」太刀槌タツオはスパイシーオニオン(生タマネギのスライスにカレーの味付けがしてあるもの)を食べながら辛さに涙を浮かべています。「店構えがゴージャスで金がかかってそうなのに値段が高くないということはだ、食材費を削っているな。あの野郎(昨日のレッドフォートのシェフのこと)やりやがったな」

本当に食材費を削っているかどうかは分かりませんが、そういう疑いを持つと食欲もビミョーに減退します。
一応、注文したものは全部食べました。
しかしそこはかとなく納得しきれない気持ちを抱えたまま、食事を終えたのは事実です。
というわけで、
「レッドフォート」

「セッポイノーラン」
との対戦は
寄り切りで「レッドフォート」の勝ち。
昼間の「対戦」は終了。

その後ふたたび市内観光をし、日が傾いたころに夜の「対戦」に向かったのでありました。

◆◆◆

後日談ですが、日本に帰って何ヵ月かたったころ、太刀槌タツオから電話がありました。

「なあ松宮。狂牛病って知ってるか」

まだ狂牛病が騒がれはじめて間もないころでした。

「イギリスの?」
「イギリスの。さっきテレビで特集してた」
「それで?」なにやら胸騒ぎがしてきました。「僕らはイギリスに行った。牛肉のカレーも食べた。それが良くないとでも…」
「いや、食べてる部位をよほど間違えなければ大丈夫らしいんだ。ただ、あそこでアレを食ったよな」思い出しました。
あそこというのはセッポイノーランのことで、アレというのは羊の脳のことです。
メニューに載ってない面白いカレーはないのか、と店に聞いたところ、「羊の脳のカレー」を試してみるかと言われ、チャレンジしたのです。

「脳は危ない部位だとテレビで言ってた」
「だってアレは牛じゃなくて羊じゃん」
「それがな」太刀槌タツオは厳かに言いました。「羊には口蹄疫とかスクレイピーとかいう病気があって」
「おいおい」
「羊の脳もヤバイかも」

僕はその場にへたりこみました。

太刀槌タツオは暗い声で言いました。
「狂牛病の潜伏期間は6年から12年だってさ」

(以下次号)

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