松宮園生です。
食育ロボットというのが開発された
そうです。
こんなメールが来たので紹介します。
◆◆◆
松宮先生、はじめまして。
川口恵太といいます。
先生の大学で開発された食育ロボット
ですが、トイザらスで売られていた
のを離婚した父親がみつけまして、
買ってきました。
(松宮註:大学というのは日本食育大学
のことです。でもそんなロボットが開発
されたなんて初耳でした。少なくとも僕は関わっていません)
「アンドリュー77型」というタイプでしたので、アンドリューと呼ぶことにしています。
アンドリューは人間と同じ大きさ・形をしていますが、短い尻尾がついているのが特徴です。
最初の日、アンドリューは私の日常生活を黙って観察していましたが、次の日から態度が変わりました。
どうなふうになったかといいますと…。
「いつまで寝ていますか。川口、さっさと起きてください」
朝6時。
アンドリューにたたき起されました。
びっくりしている私に、アンドリューは言いました。
「今日ただいまから早寝早起き朝ごはん開始です」
「はあ?」
「川口は早寝早起き朝ごはんです。朝ごはんの用意ができています。食べることに取り組んでください」
見ると、テーブルの上にごはん、味噌汁、納豆、海苔、刻んだネギの載った豆腐、野菜の煮物が並んでいました。
「取り組みましょう」と、アンドリュー。
「ありがたいんだけどさ」私はあくびをしながら言いました。「眠いんだよな。ギリギリまで寝かせてくれよ」
「その考えは好ましくありません。早寝早起き朝ごはんは日本の政府の重点目標です。早寝早起き朝ごはん専門の、全国組織もできているのです」
「…分かったよ。せっかく作ってくれたんだったら、今日は食べるよ」
たしかにいくぶん空腹感はありました。
そのせいでしょうか、朝食のよい匂いに気がつきました。
プシュー!
椅子に座ってさっそく食べようとすると、アンドリューの耳から突如、蒸気が噴き出ました。
次に、両眼が交互に点滅しはじめました。
「な、なんだ?」
「川口、大問題です。いただきますを言ってください」
「は?」
「繰り返します。いただきますを言ってください。いただきますごちそうさまは愛言葉。この標語を知っていますか。いただきますごちそうさまは愛言葉。これは、平成19年の食育推進の標語として日本政府から選ばれたものの1つです」
「そんなこと知るかよ」豆腐と納豆に醤油をかけながら私は言いました。「食わせろよ」
「いただきますを言わないのですね」プシュー。「言わないのであればあなたを呪います」
「なにくだらねえこと言ってんだ。勝手に呪えば」
「呪います。ちちんぷいぷい(←死語)。川口のごはんは食べられない。川口のごはんは食べられない。ちちんぷいぷい。呪いました。呪い、セット終了」
「ばーか」私はかきまぜた納豆を口に入れました。「わけわかんねえよ」
それからごはんを口に入れました。
うぎゃあ!
私は叫んでいました。
口の中が火事になったようでした。
「なんじゃこりゃあ」(←死語)
食べたものを吐き出し、さらに咳込む私。
「呪い、完了です」アンドリューが落ち着いた声で言いました。「川口のごはんは食べられない。ハラペーニョの種を大量にまぶしてあります」
「てめえ。始めからこうなることを予測してたんだろ」私は涙をボロボロ流しました。「し、仕組んでやがったな」
「いただきますごちそうさまは愛言葉」アンドリューは淡々と言いました。「今晩からは、言い忘れないことです」
◆◆◆
その夜。
テレビで映画をやるので楽しみに待っていると、アンドリューが言いました。
「川口。さっきの夕食で川口はいただきますとごちそうさまを言えましたね。称賛します。正しい行いは、すがすがしいものです」
私は顔を赤くしました。「お前を怖がってるわけじゃねえからな」
「怖がること不必要です。ところで、大問題です。早寝早起き朝ごはんのことですが、もうすぐ9時です。9時になったら早寝に取り組んでください」
「もう寝ろっての? こんな時間に? 放っといてくれ」
「その考えは好ましくありません。早寝早起き朝ごはんは日本の政府の重点目標です。早寝早起き朝ごはん専門の、全国組織もできているのです」
「そのセリフは朝、聞いたよ」
「朝聞いて、夜聞く。すばらしいことです。ベッドを整えてありますから、早寝に取り組んでください」
「あのな、見たい映画があんの。見てから寝るから、すこし黙ってろ」
プシュー!
テレビをつけようと、リモコンを手にしたとたん、アンドリューが両耳から蒸気を噴きました。
安物キャンディーのような形の両眼の点滅も、始まっています。
「呪います。ちちんぷいぷい。川口はテレビを見れない。川口はテレビを見れない。ちちんぷいぷい。呪いました。呪い、セット終了」
私は警戒しました。
また何か企んでるぞ、こいつは。
リモコンのスイッチを入れたら何か起こるのか?
何も起きませんでした。
というか、何も起きなさすぎて、テレビもつかなかったのです。
みると、リモコンの電池が抜かれていました。
「くっだらねえ。この程度か」私は呟きました。「電池を入れればいいだけじゃん」
買い置きしていた単3電池を入れ、再びスイッチを押します。
何も起きませんでした。
それもそのはずです。
よく見ると、テレビの電源が抜かれていました。
電源プラグを差し、リモコンのスイッチを入れると、今度はテレビがつきました。
ちょうど9時でした。
映画の紹介が始まったところです。
「これが呪いかよ。レベル低(ひく)。今回はこっちの勝ちだな」私はアンドリューに言いました。「映画は見させてもらう。おまえには何もできねえよ」
アンドリューが肩を落としました。
仕掛けが失敗し、うなだれているようです。
私は鼻でフンと笑いました。
それからソファに腰掛け、用意したポテトチップスに手を伸ばしました。
うぎゃあ!
あわてて冷蔵庫を開け、ミネラルウォーターのボトルを取り出しました。
うぎゃあ!
ゲホゲホ!
遠ざかる意識のなかで、アンドリューの淡々とした声が響きました。
「呪い、完了しました。ポテトチップスには激辛ハバネロのペーストが塗られています。さらに、川口が飲んだのは水ではなく…」
(以下次号)