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松宮園生です。
(前編のあらすじ)
アメリカでは、「ヘルシーカンパニー」になるために、
多くの会社が「ワークサイト・ヘルス・プロモーション」に
取り組んでいます。
そのための専門家は「ヘルカンさん」と呼ばれています。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションというのは、
* 会社が
* 社員のために
* お金を使って
* 健康増進プログラムを実行する
ことです。
◆◆◆
前回も書きましたが、
「職場は仕事をするところだろーが。健康になる場所じゃねえ。健康増進活動やりたかったら、放課後か週末にだな、各自で好きなだけやればいいじゃん。会社はそんなこと、面倒見ねえよ。幼稚園じゃねえんだから。そんな金あったら、給料よこせ」
という個人優先の考え方もあります。
僕の友人で、強烈にこの考えを主張している男がいました(友人です。ぼ、僕ではありません)。
この男(友人です)は、勤めていた会社に「残業手当」とか「結婚手当」とか「出産手当」とかが制度としてあったのですが、それが我慢ならなかったようです。
「残業手当? アホぬかせ。昼間だらだら仕事してるだけやんか!」
「結婚手当? 結婚と仕事に何の関係があんねん。仕事に燃えすぎて、出会いに恵まれんで結婚できんかった人はどうすんねん。結婚手当出すなら、『独身見舞金』も出せや」
「出産手当? なんやそれ。そんなん、本人たちが×××に××しただけの話やん。仕事と関係あらへん」
「手当なんかいらん。仕事したぶんの給料よこせ。なにが手当や。いい加減にさらし!」
酔うと必ずわめくのです。
↓
そんなある日のこと。
その日もこの男(僕じゃないってば)は場末の居酒屋でくだをまき、あいも変わらず手当がどうの、結婚がどうのとブツクサブツクサほざいていました。
せっかく旨い酒を飲みにきた他の客が、ドン引きしています。
見るに見かねた居酒屋のおばちゃんが、松…じゃなかった、この男の肩をパチンと叩いていいました。
「なに言うてんねん、あんた。要するに自分がモテなくて結婚できなくて手当がもらえそうにないから、文句言うとるだけやんか。モテないのは自分のせいちゃうの」
松…じゃなかった、この男(友人です!)は黙りこんでしまいました。
話を戻します。
会社が社員のためにお金を使い、社員がヘルシーになれる仕事環境を作ってあげることをワークサイト・ヘルス・プロモーションと言いうわけですが、1991年にロバート・ローゼン博士が
「ヘルシーカンパニー」
という本を出したのも影響し、アメリカの会社ではこのワークサイト・ヘルス・プロモーションが盛んに行われています。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションの専門家もアメリカには大勢います。
詳しくは前回を参照してください。
ただし。
いくら社員に健康になってほしいからと言って、大事なお金をやみくもに使うわけにはいきません。
社員の健康増進のために、いくら使うのか。
どのように使うのか(何を買うのか)。
難しい問題です。
とくにアメリカは昔から株主が強い国でありまして。
会社運営(経営)の下手くそな社長さんは、株主からクビにされたり、訴訟されたりします。
ですので、会社の社長さんは、株主のご機嫌を損ねないように必死で頑張るのです。
ワークサイト・ヘルス・プロモーションで社員の健康増進に会社が協力するのも大事なのですが、株主が納得することも重視されています。
で、あるとき株主総会でワークサイト・ヘルス・プロモーションがやり玉にあがったとしましょう。
こういう質疑応答がなされます。
株主「社長さん。わが社はワークサイト・ヘルス・プロモーションにお金をいくら使ってるんですか?」
社長「株主様。わが社は50万ドル(だいたい5000万円)使っております」
株主「50万ドルも! なぜそんなに使うのですか?」
社長「いやその、社員が喜ぶからと思ってなんとなく…」
株主「具体的には、何に使ったのですか?」
社長「ええと、社員食堂を改善して、社内にスポーツジムを作りました」
株主「なぜ、社員食堂を改善したのですか?」
社長「いやその、社員が喜ぶかと思ってなんとなく…」
株主「なぜスポーツジムを作ったのですか?」
社長「いやその、社員に運動不足の解消になるかと思ってなんとなく…」
株主「社長さん。われわれ株主は、50万ドル使ったことを責めているのではありません。会社のために有効に使っていただければよいのです。有効ならもっと使ってもよろしい」
社長「はあ」
株主「で、ワークサイト・ヘルス・プロモーションに使った50万ドルは、会社のために有効でしたか?」
社長「いやあの、たぶん有効だったとは思うんですが、よく分かりません…」
株主「ふーん。『たぶん』とか『なんとなく』というセリフが多いですね。50万ドルものお金を、あなたは『なんとなく』使うのですか?」
社長「いやあの、その、はらほれひれはれ(←死語)」
株主「ビジネスに50万ドル使うとき、あなたは『なんとなく』使いますか?」
社長「いえ、あの、それは真剣に検討して使いますが…」
株主「ワークサイト・ヘルス・プロモーションをスタートするとき、事前に真剣に検討しましたか?」
社長「いやあの、ええ、まあ、そのつもりですが…」
株主「じゃあ教えてください。どういう検討のしかたをしたんですか?」
社長「そ、それはその…」
株主「検討してませんね。で、50万ドル使ってみて、どうなんですか。来年はもっと使うつもりですか。それとも来年は減らすつもりですか?」
社長「いやその、よく分かりません。部下に聞かないと…」
株主「あなたは社長でしょ。株主の大切なお金を預かり、給料をもらって会社運営をしているわけですよね。あなたは会社のお金を『よく分からずに』『なんとなく』使っているのですか?」
社長「ご、ごめんなさーい」
株主「社長。あなたを解任します」
↑
と、こういうことも起きるわけです。
つまり、ワークサイト・ヘルス・プロモーションを実行する会社の社長さんは、厳しい株主の前で、
* なぜこの金額を使ったのか
* なぜこの使い方をしたのか
* その結果、どのように会社のためになったのか
* 来年は予算を増額すべきなのか減額すべきなのか
を、理路整然と、納得がいくように分かりやすく説明しなくてはならないのです。
さて、社長さんはバカではありませんので、株主からこういう質問が出るだろうことはたいがい予想しています。
あらかじめ回答を用意しておこうと考えます。
そこで、上に書いたのと同じ質問を、ワークサイト・ヘルス・プロモーションを管轄している部長さんにぶつけるわけです。
社長「おい部長。なんでわが社はワークサイト・ヘルス・プロモーションに50万ドルを使う必要があったのか、説明しろ」
部長「それがその、なんとなくそのくらい使わないといけない気がしまして…」
社長「なんとなく、だと? ばかもん。それでも部長か。で、どうなんだ。来年はもっと使うべきなのか、減らすべきなのか」
部長「それは…。社長に決めていただこうと思ってたんですが…」
社長「ばかもん。ワシに判断できるわけがないだろ。50万ドル使って、会社の業績は変わったのか」
部長「いやその、業績につなげるようなことは考えていませんでしたので…」
社長「それじゃあ、株主総会でワシは吊るしあげを食らうぞ。部長。おまえはクヒだ」
↑
と、こういうことにもなるわけです。
さて、こうなることを恐れた部長さんは、社長室に呼ばれる前に、あらかじめ部下の社員に同じ質問をぶつけます。
部長「おい松宮君。なんでわが社はワークサイト・ヘルス・プロモーションに50万ドル使うことにしたんだっけ?」
社員「えっと、社員食堂の専門会社と、スポーツジムの会社に見積もりをもらって、それを足し算したら50万ドルでした」
部長「えっ。じゃあ、相手の会社の言いなりか?」
社員「ええまあ、そうです。だって高いのか安いのか分からなかったんですもん」
部長「ううむ。で、どうなんだ。50万ドル使ってみて、社内は何か変わったか?」
社員「さあ、どうでしょうか。調べてみますか?」
部長「至急、調べてくれ」
社員「調べ方はどうしたらいいですか? てゆーか、何を調べますか? 部長。教えてください」
部長「そんなもの、オレも知らん。何か考えろ。で、来年はいくらの予算を申請したらいいんだ?」
社員「そんなの、平社員の僕に分かるわけないじゃないですか。部長が決めてくださいよ」
部長「なんでもかんでもオレにかぶせるな。自分で考えろ」
社員「そんなの、分かりませーん!」
部長「松宮、おまえは左遷だ」
社員「いいんですか、部長。僕を左遷したら、この仕事の続きは誰がやるんですか。部長が自分でやるんですか」
部長「(ハンカチの端をくわえて)きーっ!」
↑
中間管理職の悲哀でした。
日本でも社員の健康増進のためにいろいろな工夫をする会社はありますが、
* なぜこの金額を使ったのか
* なぜこの使い方をしたのか
* その結果、どのように会社のためになったのか
* 来年は予算を増額すべきなのか減額すべきなのか
こうしたことをキチンと説明できる状態で実行している会社は、はたしていくつあるでしょうか?
大事なお金を使うわけですから、
「よく分からないけど、なんとなく社員のためになりそうだから、いいじゃん」
では、ダメなのです。
アメリカのワークサイト・ヘルス・プロモーション業界は、早くからこの問題に直面していました。
「どういうふうに、いくら使ったら、どのように会社のためになるのか」
というテーマの実験や研究が、数多く行われました。
この実験や研究については、次号でお話します。
(以下次号)
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