松宮園生です。
(前回までのあらすじ)
畑の隣にレストランを作ってさ、
自分の畑でとれた作物をそこで
美味しく料理して出せたらいいよね。
そんな夢を持つ若い農家は
けっこう大勢いるんじゃないかな。
ただしそうするためには農家に
レシピを考える力がほしい。
料理技術じゃなくてレシピ開発力だ。
料理技術じゃない。ダイコンのかつらむきは下手でもいい。
しかしレシピ開発力はほしい。自分の畑でとれたダイコンをどうやったら一番美味しく食べられるのか、を考える能力は必要だ。
「レシピ開発力」を身につけるにはどうしたらいいか、そういう講座を作りたいよね。
…農業コンサルタントの葉竹乃木夫さんからそんなことを言われ、レシピ開発力ゼロの松宮園生が調査を始めます。
まずは淡路島を訪問。
舎弟のタピ岡秋彦とともに「レシピの女王」に突撃インタビューしたが、女王は天才すぎてレシピ開発のコツを聞きだすことはできませんでした。
◆◆◆
失意のまま淡路島をあとにした松宮園生。
駅にむかうタクシーのなかで、レシピの女王がなんとラジオに出演していました。
それもどうやら、リスナーからの質問に答えるレギュラー番組のようです。
リリリリリ。
「レシピの女王でございます」
「もしもし」
「はい。ではお名前をどうぞ」
「星明子と申します」
「星さんですね。どのようなご相談でしょうか」
「わたくし、幼い頃に母親をなくしまして、いまは父親と弟とわたくしの3人で暮らしております。父親は昔気質の人間でして、気に入らないことがありますと、ちゃぶ台をひっくり返すんです」
「なかなかたいへんなお父様ですねえ。お父様のお名前は」
「一徹といいます」
「星一徹さん」
「はい。で、弟の名前は飛雄馬といいます」
「星飛雄馬さん」
「はい。父は弟をプロ野球選手にしたいらしくて、妙なギブスをこしらえて弟に身につけさせているんですけど、そんなものを作る暇があったら働いてもっと稼いでほしいと思います」
「なるほど。お気持ち、分かります。お父様は仕事をされていないんですか?」
「弟を鍛えるのに夢中で、日雇いの仕事をする以外は、働きに出ないんです」
「それは困りましたねえ」
「話がそれちゃってごめんなさい。相談といいますのは、ちゃぶ台をひっくり返す父のことでございます」
「はい」
「だいたい週に2回、ひっくり返すんです」
「週に、2回?」
「ええ。統計をとって数えてみましたら、そうでした」
「統計をとったんですか?」
「ええ」
「なるほど」
「うちは貧乏なものですから、食料を無駄にしたくはありません」
「そうですよね、分かります」
「でも、父親がちゃぶ台をひっくり返すのを止めさせることも難しいんです」
「それはどうしてですか?」
「生まれながらの、気質だと思います」
「分かります」
「かといって、どうせひっくり返されるからといって、はじめから手抜き料理をするわけにはいきません」
「それはどうしてですか」
「父は機嫌のいいときはちゃんと、食べてくれますし」
「そうですよね」
「弟は食べ盛りなものですから、プロ野球選手になってもらうんだったら、お腹いっぱい食べてもらわないと」
「なるほど、そうですよね」
「女王様」
「はいはい?」
「父がちゃぶ台をひっくり返したあとの掃除もたいへんなんです」
「ごもっともですね」
「そんなわたくしですが、家族のためにどのような食事を作ったらいいでしょうか?」
「分かりました星さん。ではアドバイスを差し上げましょう。まず、ポイントを整理します。1。星飛雄馬さんは食べ盛り。手抜き料理を出すわけにはいかない。2。星一徹さんは週に2回、ちゃぶ台をひっくり返す。犠牲になる食料がもったいない。掃除の手間を軽くしたいし、できればひっくり返された料理をリサイクルしたい。ここまではいいですか」
「ええ。間違いありません」
「お父様がちゃぶ台をひっくり返すのはいつなのか、予測できますか?」
「それができたらいいんですけど…。娘のわたくしにもまったく読めないんです。前は、満月の夜が危ないんじゃないかとか、隣の家が夫婦喧嘩した翌日が危ないんじゃないかなんて思ってたんですが、そういう規則性もないみたいで」
「実にお気の毒です。でも気を落としてはいけません。これからもしっかりした料理を作っていただいて、早く弟さんにプロ野球選手になってもらって、契約金と年俸で楽をさせてもらいましょう」
「はい、頑張ります」
「では、どんな料理をお作りになるのがよろしいか、申し上げますね。メモの用意はいいですか?」
「はい」
「まず、あまり贅沢な料理もできないとのことですので、旬のお魚か鶏胸肉を主菜にしてください。ちゃぶ台をひっくり返されたときにも拾って洗ってもう一度お皿に乗せたいしね」
「はい」
「それから、お掃除を楽にするには『汁と油を減らす』ことが重要です」
「はい」
「魚を選ぶときは、煮魚より焼魚、さらには秋刀魚のように身の柔らかいお魚より鮭のように身の硬いお魚を選びましょう」
「硬い魚ですね」
「そうです。お値段のことを考えると、物価の優等生の卵も使いたいですね。ただし茶碗蒸しはさけ、卵焼きにしましょう」
「茶碗蒸しはさけ、卵焼きですね」
「そうね。鶏肉を使うなら、エネルギーを確保するためにチキンカツにでもしましょう。もしひっくり返されてしまったら…急いでタマネギをいため、チキンカツとあわせて、カツ丼にリメイクします」
「ああそうか。チキンカツはかつ丼にリメイクできるんですね」
「そうですよ。それから、副菜は小さく切らないのがポイントです。ざっくり大きく切って、拾いやすいようにしましょう」
「わかりました」
「千切りキャベツとかキュウリの酢の物とか…は、ダメです。ひっくり返されたあとが大変。まあ、千切りキャベツなら洗えば使えるかしら。後で拾うことを考えたら、味つけしていない生野菜をそのまま出すのがいいわね。咀嚼のことも考えて、大きめに切った根菜類の煮物なんかもいいですね」
「はい」
「人参、ごぼう、蓮根、大根などとガンモドキをたきあわせ、汁はほとんどよそいません…ひっくり返されてもいいようにね。最後に別に茹でておいたほうれん草か小松菜をトッピングすれば、栄養価もそろいますね」
「はい」
「中華料理は油が多いから、作らないほうがいいわね。ひっくり返されてたら大災害」
「はい」
「わたしからのアドバイスはそんなところです。どうかしら」
「ありがとうございます。これでやっとヘソクリ(←死語)ができる! 女王様のおかげです」
「ヘソクリ?」
「そうなんです。父がちゃぶ台をひっくり返すせいで、ぜんぜんお金がたまらなくて」
「それはそうですね。で、お金をためて、なにか買うんですか?」
「はい。父がひっくり返せないような、ルクルーゼ製の重たいちゃぶ台を買おうと思いまして」