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松宮園生です。
「チッソリンサンカリ」
農業をこれから始めたい人が
真っ先に覚える呪文のひとつです。
農作物の成長に必要な
窒素
リン(リン酸)
カリウム
のことを指します。
ちなみにカリウムはわれわれ人間にも非常に重要なミネラルです。
われわれ人間は野菜などからカリウムを摂取します。
つまり肥料に含まれるカリウムが野菜の成育を促し、その野菜を食べることでわれわれ人間はカリウムを取り入れている。
つーわけで。
さて、このカリウムは、地下資源です。
カナダ
ロシア
ドイツ
にしかありません。
カリウムは地下1000メートルの深さに眠っており、そこから掘り出されたカリウムが、
肥料になり→野菜の栄養成分になり→人間の体に入る
こうなるわけです。
カナダのサスカチュワン州は、世界最大のカリウム産地です。
地下深くには巨大なカリウム鉱脈があり、それを掘り出すための巨大な施設があります。
その施設はあまりに大きいので、さながらひとつの地下都市のようになっています。
地下1000メートルの深さにある都市です。
道がありクルマが走っている。
病院や警察署がある。
商店街がある。
レストランもいくつもあり、それぞれけっこう美味い。
流しの料理人ラザフォードは、数年前この地下都市の暗闇レストランでオーナーシェフをしていました。
この話については以下を参照ください。
「カリウム・ユニバース 上巻」
「カリウム・ユニバース 中巻」
「カリウム・ユニバース 下巻」
◆◆◆
ある日こんなメールが送られてきました。
「ソノウ・マツミヤ殿。ラザフォード様よりフラックス・シードを1トン、お届けします。来週、ご在宅の日時をお知らせください。なお、ローストしたものをご要望の場合はお知らせください。ただし1ポンドあたり1ドル申し受けます。カーギル&アストリア株式会社」
は?
フラックス・シード1トン分?
なんのこと?
ラザフォードに電話すると、彼は笑って言いました。
「おまえ、日本に帰ってたんだってな。何度電話しても出ないからどうしてるのかと思ったよ」
「そんなことより、なんだよフラックス・シード1トンだなんて」
「じつはだ、去年からフラックス・シードの先物相場に手を出しててな。このところ世界中で資源だの食糧だのが不足してるだろ。フラックス・シードもご多聞にもれず値上がりしててな。まだまだ値上がりしそうなので、売らずにそのままにしておいた」
「そいつはおめでとう。さぞ儲かったろ」
「まあ聞け。売らずに放っておいたらな、なんと先物買いの期日が来てしまった。ははは。笑えるだろ。突然、オレのところにフラックス・シードが200トンも送られてきた。トラック20台だ。仰天したよ」
これには僕も軽く吹いてしまいました。
「あわてて売った」ラザフォードは続けました。「先物相場だから、去年の値段で買って、最近の値段で売ったわけだから、おかげさんでまあけっこう儲かったよ。気分がいいから、こんど美味いものでも作ってやるよ」
「で、僕のところに来る1トンというのは?」
「儲かった記念に、おすそわけしようと思ってな。1トンだけ売らずに、おまえに送ることにした」
「気前がいいね」
「そのまま転売したかったらするといい。ビジネスクラスで日本に出張するくらいの金にはなるぞ。その代り、例の借金はチャラにしてくれ」
「そう言うと思ったよ。いいだろう。じゃあこれでチャラな。あんた律儀だね。見直したよ」
最近いいことがあまりなかったせいか、ラザフォードの心配りには涙が出ました。
じつはラザフォードは僕に借金をしていました。
去年、彼が僕のクルマを運転することがあったのですが、工事現場で動き回る大型のペイローダーにそのクルマが踏みつぶされ、大破してしまったのです。
運転していたラザフォードは無事でした。
クルマは大破したので保険金で新しいクルマを買ったのですが、保険会社がケチだったため、買えるクルマのグレードも下がってしまいました。
この「保険金が足りなかった分」を、彼は「借金」と表現していたわけです。
(クルマが大破した話は、別の機会に書きます)
さて僕はさっそくカーギル&アストリア社に電話して、1トンのフラックス・シードを転売することにしました。
利益の半分はラザフォードに返そうと思います。
長く生きてると(?)、いいこともあるものです。
◆◆◆
その後、こんどはラザフォードから電話がありました。
「なあマツミヤ。オレがカナダのサスカチュワン州というところで地下にもぐっていた話はしたよな?」
「覚えてるよ。カリウム鉱山の地下都市にいたんだろ」
「ぜんぜん知らなかったんだが、そのサスカチュワン州ってのはな、世界最大のフラックス・シードの生産地らしい。おまえ知ってたか?」
「いんや。知らねえ」
「鉱山で知り合ったやつがな、カリウム掘りで稼いだのを元手にフラックス・シードの栽培を始めたんだが、日本に輸出したいそうなんだ。おまえ、手伝ってくれよ」
「やだね」僕は即座に言いました。「他を当たってくれ」
「そうか、やってくれるのか。ありがとう! 持つべきものは友達だ」
「おいおい、僕はやらないと言ってるのに」
「いくら嬉しいからって、そんなに興奮するなよ。おまえが喜ぶと思ってな、フラックス・シードのサンプル品を送るように手配してある。楽しみに待っててくれ」
「ちょ、ちょっと待って…」
「それとな、サンプル品は転売禁止だ。転売したらな、アラスカでおまえがしでかしたあの恥ずかしい話を、メキマンにばらすぞ」
言い返す間もなく電話が切れました。
そこへ、呼び鈴が鳴りました。
誰かが来たようです。
恐る恐るドアを開けると、運送業者のオネエサンがにこにこして立っていました。
「ミスター・マツミヤ?」
「そうだけど」
「お荷物です。ラザフォード様から、フラックス・シード1トンです」
また1トンかよ!
オネエサンは細身でしたが、25キログラムのフラックス・シード入り袋を軽々と担ぎ、僕のアパートに運び入れました。
全部で40袋です。
25キログラム かける 40袋 イコール、1トン。
というわけでいま、僕のアパートはフラックス・シードの袋で足の踏み場もない状態になっています。
誰か、買って。
(フラックス・シードの説明については、次号にて)