(前回のあらすじ)
ターザン栄養学の権威チイタッタ先生は、庭に成っている大玉
(おおだま)の有機グレープフルーツを可愛い弟子の松宮に
1個2ドルで食べさせようと、松宮を呼びつけました。
そのたくらみが分かっていながら、フロリダまで来てしまった松宮。
そこで彼が出会ったのは、海賊のなりをした謎の人物キャプテン・パスト。
噂では150歳と言われています。
そのキャプテン・パストに、松宮園生はとあるバーで出くわしました…。
◆◆◆
皆さんの好きな果物のランキングはどんな感じですか?
僕はですね、順番は気分で入れかわりますけど、トップ2は、
グレープフルーツ
日本の梨
で、3位はいつもマンゴーです。
そのグレープフルーツですが、ご存じのとおり日本で食べるグレープフルーツのほとんどは輸入です。
たいがい、フロリダ(アメリカ)か、カリフォルニア(アメリカ)か、南アフリカからやってきます。
(フロリダのインディアンリバーというところが有名な産地です)
なかでもフロリダは、グレープフルーツやレモンなど柑橘類は世界一だという自負があるため、カリフォルニアや南アフリカを敵視しています。
さて、日本に来るグレープフルーツは今でこそ赤(ルビー)と白は半々くらいですが、かつては白ばかりでした。
グレープフルーツの産地では、赤と白はだいたい半分ずつ生産されていたようです。
つーことは、日本人が白ばかり食べていたとすると、赤が余りますよね?
じつは、アメリカ人は赤ばかり食べていました。
白は日本人が、赤はアメリカ人が食べていたので、バランスがとれていたわけです。
ところがここ数年、日本人は赤も好んで食べるようになりました。
アメリカ人は相変わらず赤を食べています。
どうなるでしょうか。
赤が足りなくなり、白が余りますよね。
ここ数年は、そういう状況が続いていると聞いています。
◆◆◆
キャプテン・パストを発見したバーに戻りましょう。
基本ひきこもり、引っ込み思案の松宮です。
押しにも弱いです。
自己主張が強く解放的なアメリカに馴染めないのも無理はありません。
そんな松宮ですが、このときばかりは何かにとりつかれたのか、ふらふらとキャプテン・パストのテーブルに歩み寄ったのでした。
キャプテン・パストはひとりでサミュエル・アダムズを飲んでいました。
薄暗いバーの照明でしたが、彼が片腕の男であることはすぐに分かりました。
右手が、カギツメ(「?」の形)になっていたのです。
(そんなベタな)
皆さんそう思うでしょう?
僕もそう思います。
しかしベタなのはそれだけではありませんでした。
キャプテン・パストの左足は義足でした。
足の形をした義足ではありません。
先の尖ったやつです。
ああ、お約束ですね。
眼帯にカギツメに義足。
ディズニーランドに「カリブの海賊」というアトラクションがありますが、あの音楽をご記憶の方は歌いながら読んでください。
「座ってもいいですか」僕は言いました。
「座れ」と、キャプテン・パストは答えました。「見かけない顔だな」
「シアトルから来ました。あんたと同じ飛行機でフロリダに着たんですけど」
「おおそうか。わしは滅多に西海岸には行かんのだが、今回はキノルト族の祭に招待されて行ってきたのだよ」
「キノルト族?」
「インディアンの部族のひとつだ。おぬし、シアトルの住人ならアバディーンという町をご存知か」
「オリンピック半島にある町ですよね。行ったことはありませんが…」
「そのへんにいるインディアンだよ。南北戦争のころにな、彼らが戦争に巻き込まれないようにわしがいろいろ手を打ってやったのだが、それを今でも感謝してくれてな、毎年、祭に招待してくれるのだよ」
「南北戦争って、1850年くらいの頃ですよね?」
「うむ。時のたつのはあっという間だ。…それよりおぬし、何か聞きたいことがあったのでなないかな? ワシのことは船長と呼ぶがよい」
「それでは船長。その左足のことをきいていいですか?」
「いいとも」
「どうして義足になったんですか?」
「それはだな」キャプテンは気を悪くしたふうもなく、言いました。「まだ女王陛下に仕えておったころのワシは船乗りでな、あるときインド洋で喧嘩をしてなあ。相手を海に放り投げたはいいが、ワシもバランスを崩して落ちた。たまたま足に傷があって血が出ておったようだが、そこをサメに食われた。1855年のことだ」
「そうでしたか…。そのカギツメはどうしてですか?」
「セポイの乱というのがインドであってなあ」
「あ、それ知ってます。学校で習いました」
「ふん。学校で何を習ったのか知らんがな」キャプテンは言いました。「ひどい混乱だった。ワシの腕を切りおったのは同胞のイギリス人だったよ。やつは盗賊だった。火事場泥棒というやつだ。戦争をいいことにワシの船に乗り込んできおって、ワシの財産を奪おうとした。ワシはやつの胸を刺したが、やつはワシの腕を持っていきやがった」
「そうでしたか…。キャプテンの目は、どうして眼帯なんですか?」
「グレープフルーツのせいだよ」
「グレープフルーツ?」
キャプテンはサミュエル・アダムズをおかわりし、バーテンダーにチップを渡しました。
「初めてグレープフルーツを食べたときの話だ」キャプテンは言いました。「当時のグレープフルーツは今よりずっと硬くてな。ずっと酸が強かった。硬いグレープフルーツを切れの悪いナイフで切ろうとしたのが失敗だった。力任せに切ろうとしたら、ナイフがいきなり入って、果汁が飛び出して目に入ってしまった。いやあ、痛かったのなんの」
「果汁が目に入って失明したんですか? 痛かったとは思いますが、そんなことで失明するなんて」
「そんなことでは失明せんよ。問題はだな、若いの」キャプテンはしみじみと言いました。「問題は、その日が、ワシの右手がカギツメになった初日だったってことだ」