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松宮園生です。
(前回のあらすじ)
畑の隣にレストランを作ってさ、自分の畑でとれた作物を
そこで美味しく料理して出せたらいいよね。
そんな夢を持つ若い農家はけっこう大勢いるんじゃないかな。
ただしそうするためには農家にレシピを考える力がほしい。
料理技術じゃなくてレシピ開発力だ。
料理技術じゃない。ダイコンのかつらむきは下手でもいい。
しかしレシピ開発力はほしい。自分の畑でとれたダイコンをどうやったら一番美味しく食べられるのか、を考える能力は必要だ。
「レシピ開発力」を身につけるにはどうしたらいいか、そういう講座を作りたいよね。
…農業コンサルタントの葉竹乃木夫さんからそんなことを言われ、レシピ開発力ゼロの松宮園生が調査を始めたのでした。
◆◆◆
まずは瀬戸内海の淡路島に出かけました。
僕には小判大介という舎弟がいまして、テケテケ村でイチゴを作っています。
じつは舎弟はもう1人いまして、タピ岡秋彦といい、淡路島でタマネギをせっせと作っています。
このタピ岡君の話では、彼の近所に「レシピ女王」が出没するらしい。
「捕まえて話を聞きましょう」タピ岡君は目を輝かせて言いました。「ああ、腕が鳴るなあ」
なぜ腕が鳴るのかはよく分かりません。
久しぶりに松宮師匠と会えたのが嬉しかったのか。
僕が持ってきたお土産(女優○○○○の等身大フィギュア。ただし風船仕様。特殊な使い途があるという噂だが、未確認)が嬉しかったのか。
いずれにせよ、タピ岡君と僕は「レシピ女王」を捕まえる罠を作りました。
「痛くない罠にしような」と僕は言いました。「こう見えても生き物には優しいんだよ」
「同感です。じゃあこうしましょう。北海道の友達がメロンを送ってきたんです。これを餌にして、メロンをつかんだ瞬間に上からカゴが落ちてくる」
「そんなベタで原始的な罠にひっかかるか?」
「まあやってみましょう」
翌朝、驚いたことに「レシピ女王」が罠にかかっていました。
30歳前後くらいの女性でした。
「だましたんね」メロンを抱えたレシピ女王は毒づきました。「わたしをどうするつもりやの?」
僕はカゴをどけながら言いました。「すみません。じつは教えてほしいことがあったので」
「教えてあげてもええけど…。このメロンはもらえるんやろね」
すると、タピ岡君が頬を赤らめながら
「もちろんです。差し上げます」
なぜか必死の口調で答えました。
レシピ女王はふだんは神戸に住み、神戸市内の飲食店にレシピを提供する仕事をしていました。
料理の本もたくさん出版しています。
ときどき淡路島にあらわれ、農家をまわっては食材の勉強をしているそうです。
以下、レシピ女王とのインタビューです。
松宮「なんでレシピ女王って言われてるんですか?」
女王「なんでやろねえ。寝ても覚めてもレシピのこと考えているからかなあ」
松宮「毎日レシピ書いてるんですか?」
女王「毎日作っとるよ」
松宮「今までいくつ作ったんですか?」
女王「そんなん数えたことないけど…」
松宮「毎日3個書いたら年間1000個ですね」
女王「その計算やったら、10年近くやってるから1万個くらいかな」
タピ「すげえ」
女王「そやけどね、書くだけじゃダメなんよ。人の書いたレシピも読まんと」
松宮「どのくらい読みました?」
女王「書いた数と同じくらいやろか」
松宮「1万個くらい」
女王「1万個くらいやね。出版されてるレシピ本は全部読んどんのよ」
松宮「全部ですか?」
女王「全部」
松宮「それだけ読んだら、レシピの良し悪しとかって、分かりますか?」
女王「それはすぐ分かるなあ」
松宮「たとえばどんなレシピが悪いんですか?」
女王「書かれたとおりに作ってもそのとおりにならへんレシピは、悪いレシピやんね」
松宮「そんなレシピ、あるんですか?」
女王「いっぱいあるよ。火を入れるタイミングが変やとか、作る順番がおかしいとか」
松宮「いちいち作って確認するんですか?」
女王「作らんでも、読めば分かります」
松宮「なるほど。良いレシピってどんな感じですか?」
女王「そうやねえ…。説明するの難しいけど…」
松宮「2つのレシピを比較して、どっちがいいとか言えます?」
女王「そうやねえ。いえる場合といえない場合があるかなあ。プロの作家の小説どうし比べてもどっちがいいとか言えへんでしょ。でもプロとアマチュアの書いたのを比べたら違うって思うやん。そんな感じ」
松宮「僕なんかどのレシピ見てもおんなじに見えちゃいますが」
女王「それは駄目やんね。目を養わんとね」
松宮「目ですか」
女王「とにかくたくさんレシピ考えて、人のレシピたくさん見て、それでだんだん目が肥えてくるんよ」
◆◆◆
レシピ女王は「レシピの目利き」のような人でしたが、感覚とか経験とかを重視する人でしたので、「よいレシピを作るコツ」みたいなものは何度聞いても分かりませんでした。
というわけで、インタビューは終わり。
レシピ女王はメロンを抱えて去っていきました。
その去り際、タピ岡君が真っ赤な顔をしてレシピ女王に携帯の番号とメールアドレスを教えろと迫っていましたが、成功したのかどうかは不明です。
(以下次号)