松宮園生です。
ふだんはマサチューセッツ州のボストンにいる
ターザン栄養学の大御所、ドクター・チイタッタ。
(チイタッタ先生については以下を参照)
「ターザン栄養学 その1」
「ターザン栄養学 その2」
「ターザン栄養学 その3」
「メタボ最北端 番外編」
「食の世界のスーパーパワー その3」
「農業コンチネンタル その3 風雲編」
「ナチュロパシー」
そのチイタッタ先生からから久しぶりに電話をもらいました。
「フロリダに別荘を買った。最近は激しいハリケーンが多いんでな、安く買えたよ。羨ましいだろう。そのかわり保険料がバカ高くてな、差し引きゼロだ。意味ねえっつーの。わっはっは」
「はあ」
「フロリダはいいぞ。松宮はグレープフルーツ好きだったよな。うちの庭に大きいのが成っているから1個1ドルで食べていいぞ。有機だ」
「はあ」
「広い家だから、泊まる部屋はある。1泊99ドルにしといてやる。朝食つきだ。ただし作るのはおまえだ」
「はあ?」
「察しの悪いやつだな。遊びに来いといっとるんだ。自腹でだぞ。遊びに来い。食事代を払うやつが足りんのでな」
「いやです」
電話を切りました。
するとメールが来ました。
「××を入手したんだが。そうか、来れないとは残念だ。チイタッタ・MD」
(MDというのはメディカル・ドクターの略。ただのドクターではないぞよ、メディカル・ドクターであるぞよ、というのを強調する場合に使います)
えっ、××を入手?
僕はあわてて電話をかけようとしましたが、フロリダの番号を聞いてませんでした。
やむなくメール。
「チイタッタ先生。先ほどは失礼しました。電話が切れてしまいましたねえ。なぜだろう、あはははは。フロリダ、いいですねえ。グレープフルーツ(有機)いいですねえ。照りつける太陽、ビキニのおねえさんたちとおしゃれなゲイの方々。キーウエスト。マイアミ・バイス(死語)にドン・ジョンソン。さっそくお邪魔します」
すると返事。
「現金とクレジットカードは忘れるな。とくに宿泊代は現金オンリーだ。迎えにはいかないので、自分でレンタカーしなさい。こちらの住所はかくかくしかじか(←死語)。ちなみに、グレープフルーツは世間で値上がりしとるらしいから、2ドルにしとく」
◆◆◆
そんなわけでフロリダにむかった松宮です。
フロリダはカリブ海に面しており、カリブ海独特のノーテンキな香りがそこらじゅうに漂っています。
フロリダ行きの飛行機で、妙な乗客を見かけました。
遠くの座席に座っているのでよく見えなかったのですが、ナポレオンみたいな帽子をかぶり、宇宙戦艦ヤマトの沖田艦長のような制服を着ており、背が僕より低く、黒い眼帯をしていました。
なんか昔の海賊みたいです。
マイアミの空港に着陸したらもっと近くで見てやろうと思いましたが、人ごみのせいで思うように動けず、とうとう見失ってしまいました。
その話をチイタッタ先生にしたところ、
「それはキャプテン・パストだろう」
「誰ですか、それ?」
「古くからフロリダに住んでる人でな、ちょっとした有名人だよ。本名は知らんが、みなキャプテン・パストと呼んでいる」
「過去(パスト)ですか?」
「そう、そのパストだ。なぜそう呼ぶかというと、昔のことをやたらよく知っているらしい。本人が言うには、若いころはビクトリア女王に仕えていたそうだ」
「ビクトリア女王って、19世紀のイギリスの女王ですよね?」
「そのビクトリア女王だ。もしそれが本当だったら、いまごろ150歳くらいだぞ」
「そんなバカな。先生は医者なのに、そんなことを信じるんですか?」
「問題はそこだ」チイタッタ先生は人差し指を立てて言いました。「おれの言うとおりの生活をすれば、人間は150歳まで生きることができる。おれが勧めるものを食べ、おれの言うとおりに運動し、おれが処方したサプリメントを飲み、たっぷり眠ることだ」
「じゃあ、キャプテン・パストは先生のクライアント(患者というと叱られるので、クライアントと呼んでいます)ですか?」
「問題はそこだ」チイタッタ先生は溜息をつきました。「おれはここ(フロリダ)では開業しておらん。他に主治医がいるのかもしれん」
「でも先生」僕は言いました。「150歳には見えなかったですよ、その人。ホントは50歳くらいで、ビクトリア女王なんて嘘っぱちで、100年ほどサバを読んでいるんじゃないですか?」
「150歳に見えないことは確かだ。しかしおれの言うとおりの生活をすれば、人間は150歳になっても50歳の見かけでいることはできる。なにしろおれは、アンチエイジングの権威だからな」
アンチエイジングの権威だなんて、まあよくも自分でヌケヌケと。
でもまあ、ある意味それは当っていました。
アメリカにはアンチエイジングの有名な学会が2つあるのですが、チイタッタ先生はそのうち片方(ただし人数の少ない方)の会長を務めたことがあるのです。
ちなみにチイタッタ先生の流儀は「メガビタミン」と呼ばれ、
* 食事をきちんと取る
* その後、日本人がびっくりするほどの大量のサプリメントを飲む
というスタイルを信条としています。
「で、どっちなんですか。チイタッタ先生は、キャプテン・パストが150歳だと思ってるんですか?」
「よく分からん。やたら昔のことに詳しいから、ホントにその頃から生きていたんじゃないかと思うほどだよ」
「とっつかまえて検査とかしたらどうですか?」
「なんでだ? そんなことをしても、カネにはならんぞ」
「不老長寿の秘密が探れるかもしれないじゃないですか。うまくいけば、ノーベル賞ですよセンセ」
「その逆もあるぞ。本人がただ大ボラを吹いているだけで実は見かけどおり50歳だとしたら、骨折り損だね」
「まあ、それはそうですけど…」
「おれはいいよ、ノーベル賞なんて。取りたかったら、おまえ取れ」
そういってチイタッタ先生は寝室に引っ込んでしまいました。
と思ったらひょいと顔を見せ、
「明日の朝食だが…もう分かっていると思うが、おれはおまえと違って上級ベジタリアンだから、そのつもりで」
(上級ベジタリアンて何? と思った方はここをクリック)
「は? 僕が作るんですか?」
「ほかに誰が作るんだ。せっかく日本人が来たんだ、ミソ・スープと、ヒヤヤッコも作ってくれ」
と言ってまた引っ込んでしまいました。
よい子はおねんねの時間でした。
よい子はおねんねなのですが、僕は眠れませんでした。
べつにキャプテン・パストが気になったわけではなくて、時差のせいです。
僕が住んでいるシアトルと、フロリダとでは時差が3時間ありまして。
フロリダで午後10時というと、シアトルではまだ午後7時なのです。
ですので、まだぜんぜん、眠くないわけで。
酒でも飲みにいくか。
フロリダの空気がそうさせたのでしょうか、基本ひきこもりの僕でしたが、なぜか外出したい気分になりました。
近くにマリオット・コートヤードというチェーンホテルがあり、そこのバーがよさげな雰囲気だったので入ってみました。
すると、そこに海賊姿のキャプテン・パストがいました。
(以下次号)