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チーフの松宮園生です。
カリフォルニアには日本語を話す人がたくさんいます。
日本食のレストランもゴマンとあります。
「ロサンゼルスにある日本食レストラン向けに、日本の食材を供給する会社」
というのもありまして、なかなか繁盛しております。
マツオもカリフォルニアに滞在してうろうろしているうちに、いくつかお気に入りのレストランができました。
そのなかのひとつが
「ミスターシュガー」
という名前の小さな店です。
シュガー(砂糖)というのは単純なシャレで、店主の名前が佐藤さんだからそういう名前になっています。
「ミスターシュガー」は日本風洋食屋でした。
要するに
カレーライス
ハヤシライス
オムレツ
エビフライ定食
カニクリームコロッケ定食
チキンライス
ビーフシチュー
あたりがメニューに載っているような店です。
開店当初は日本人客ばかりでした。
皆さんにも賛成していただけると思いますが、これらは「洋食」と呼ばれる、じつは和食ですよね。
しかしアメリカ人が抱く日本食のイメージとはかけ離れていたために、初めの頃はなかなか客が増えなかったのです。
その「ミスターシュガー」も最近はそこそこ人気が出てきたらしく、ときどきは混むこともあったりします。
マツオはもっぱらランチタイムによく行きました。
そんなある日のこと。
白人の若者が1人、ヒョコッと店をのぞきこんで言いました。
「おじさん、ランチタイムは何時まで?」
キッチンにいた佐藤さんは答えました。「2時までやってるよ」
「ああそう。じゃ、また来るよ」
そう言って若者は去っていきました。
佐藤さんが壁時計に目をやると、まだ12時前でした。
偵察役だったのかな。しばらくしたら仲間を連れて戻ってくるつもりかな。
そう思いましたが、その日は結局、若者は戻ってきませんでした。
数日たったころ、同じ若者がまた店に顔を出しました。
「混んでるねえ」彼は言いました。
事実、この日の「ミスターシュガー」はごった返していました。
「今日も2時までやるの?」
若者は佐藤さんに聞こえるように大声で言いました。
佐藤さんも大声で答えました。
「今日は3時まで頑張るかな。悪いがいまは見てのとおり満席だ。2時くらいには空いてくるから、その頃おいでよ」
「分かった。そうする」
言い残して若者は去っていきました。
でも彼は戻ってきませんでした。
さらにその翌週。
ランチタイムでしたが12時前とはいえ客はちらほらでした。
そこに例の若者が現れました。
「空いてるね」彼は言いました。「こんなでも2時までやるの?」
佐藤さんはムッとした表情で
「2時までやるさ。空いてっけど、たまにはこんな日もあるよ」
と言い返します。
若者はあわてました。
「気を悪くしたらごめんなさい。そんなつもりはまったくないんだ。ただ、今日は何時まで開店してるのか知りたくて」
「いつもどおり2時までやるさ。質問ばかりしてないで、食べてってくれよ」
佐藤さんはそう言いましたが、若者の姿はすでにもうありませんでした。
たまたまマツオがその場にいたのです。
「佐藤さん。何あれ?」マツオが聞きました。
「あいつさ、顔だけ出して、食べずに帰ってくんだよ。これで3度目」
「ふうん。変なやつ」
「顔を出してから何をしているんだろうな」佐藤さんは不思議に思いました。「マツオさん、悪いけどあいつの後、つけてみてくれない? いまあんたが食べ終わったテケテケ丼、お代は払わなくていいからさ」
タダメシに惹かれたマツオ。
さっそく若者のあとをつけました。
しばらくしてマツオは笑いながら帰ってきました。
佐藤さんは尋ねました。「あいつの行き先、分かったかい?」
「分かったよ」マツオはニヤニヤしながら言いました。「パイン通り992番地って、あんたの家だよね」